紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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ただ強者たれ

開幕の火蓋は八雲紫のレーザー砲により切って落とされる。

 

「…ふんっ!!」

 

直線的な攻撃は避けやすい。霧になり、姿を眩ませ、狙うは背後。

 

八雲紫の背後に立ち、上から頭上へ踵を振り落とす。しかし、彼女も地面に亀裂を作って逃げる。

 

…あの亀裂を攻略せねば、余に勝ち筋はほぼ無い。

 

「…またしても飛び道具か。」

 

考え事をしている刹那、目の前を光弾が埋め尽くす。

 

魔法とも違うそれがどういう原理なのかは知らんが、警戒することが多いな。

 

地面の着弾と同時に、霧になって避ける。

 

「紫さまッ!!」

 

「わかってるわ。…霧になってまた消えたのね。」

 

…何度も見せれば気取られるか。

 

だが、出るのは…頭上だ。

 

「消えろ。」

 

「チッ!!」

 

腕から落ちるは雷。

魔力の練られたそれが、窪地を埋め尽くすように地面へ落ちる。虚をついた…とも思ったが、半球系に避ける落雷がそれを考えることを許さない。つまりはそうか。結界だな。

 

落雷の着弾の隙に簡易的な結界を張って自らを守ったのだ。威力は低いが、全て掻き消されるとは。

 

…これでは此方の魔力が先に尽きる。一度やめるか。

 

「…む。」

 

落雷がやめば、上空へと飛ぶ光弾。

 

身体を後ろに倒して避けるも、下手をすれば鼻が無くなっていただろう。

 

…待て。あの女が意味もない牽制をするか?

 

「…不味いな。」

 

直感は当たる。

 

背中側から光が見える。恐らくはレーザー。避けるには少し動作が遅いか。…ならば。

 

空中で寝返りを打ち、レーザーの方を向く。もう目と鼻の先だ。

 

「…はっ!!」

 

放つのは先ほどの炎。右の人差し指と中指に集約し、下へと振り落とす。火球は空中で成長し、レーザーを迎え撃つ。その隙に地面へと降り、八雲紫との距離を詰める。

 

八雲紫は何度目か、その亀裂へと姿を眩ませ、余の背後へと出た。

 

「これで終わりよ。じゃあね。」

 

そう言った直後、余の周りを亀裂が覆う。光すらも入らない。まさに亀裂のドームと言って良い。…霧になって消える隙間もない。万事休す…というやつである。

 

案の定か、その亀裂からは均等にかつ、眩いばかりのレーザーが飛び出そうとしていた。…まさにオーバーキル。消し炭になるだろう。…だが、だからこそ、興味が湧いた。

 

「…こうか。」

 

迫り来るレーザー砲。しかし、それは余に至ることはない。見様見真似の不細工だが、壊れることはない。

 

「…ふ。」

 

レーザー砲がやがて止み、亀裂がなくなる。…結界とは便利なものだ。

 

「…え?」

 

「消し炭になったかと思ったか?」

 

虚をつくとはまさにこれ。空いた口が塞がらないとはまさにこの状況だ。

 

しかし、この次元で1秒でもそんな隙を作ってはならない。

 

地面を蹴って八雲紫のガラ空きの腹へと拳が捩じ込まれるのだから。

 

「ゴフッ…!!」

 

「…さっきのお返しだ。」

 

八雲紫はそのまま地面へと落ちていく。完全に入った。主人の窮地に狐女が吠える。恐らくは加減しただろう。先ほどの炎のような異常が起こらなければ。

 

「…ん?」

 

降りようかと思った瞬間、感じるのは違和感。上空で磔にされたような感覚だ。チラリと見れば、なるほど。四肢をあの亀裂に飲ませ、空中に磔にしたか。

 

「…なんでパワーよ…こふっ…。だけど、もう終わり…。このままスキマを閉じて腕と足を切り落としても…動けないところに弾幕を打ち込みまくっても…いい。私の勝ちよ。」

 

「…なるほど。」

 

ゆらゆらと飛び上がったかと思えば、勝利宣言か。ニヤリと笑っているものの、口からは血が流れ、髪はボロボロだった。

 

「貴方には聞きたいことがあるの。…“能力”って知ってるかしら。」

 

「…知らん。なんだ。それは。」

 

「そう。…じゃあ、そのまま死になさい。」

 

…能力とやらは知らないが、このままやられるのは癪だ。なにせ、まだ妹らに土産話を持って行ってやらねばならぬ。

 

「…このままやられるのは癪に触るな。」

 

「なに…を…!?」

 

…右足と左足、そして、両腕に力を入れる。

足は引き抜くように、両腕は亀裂を裂き、引きちぎるように動かす。…出来ない話ではない。

 

「ウォォォォォァァァッ!!」

 

「…嘘でしょ。…まさか、いえ、そんな…スキマをまるで()()()()()()()()()!?」

 

…八雲紫の驚きツラに反応したいところだが…手足の確認が先だ。回復はするが、無ければ無い間、少々不便だからな。あと、久方ぶりに大声を出した。

 

「…くっ!?回避をッ!!」

 

「…考える隙は与えん。」

 

…次の瞬間、八雲紫の首に手をかける。

攻守逆転。へし折ることも握り潰すことも締め殺すことも可能。…だが、この女にはいくつか聞くことがある。利用価値というものだ。

 

「紫さまッ!?…貴様ァァァッ!!」

 

「…まぁ、そう来るよな。」

 

迫り来るは冷静さを欠いた狐女。流石の忠誠心。

…だが、右の掌底で吹き飛ばす。いわゆる玉砕というものである。ただ向かってきただけの女はそのまま後ろへと飛んでいった。

 

「藍ッ!?」

 

「…余も殺されかけている。手段は選ばんぞ。」

 

「ぐぅ…。」

 

凶暴性と相反するかのようにえらく細い首だ。

苦悶の表情を浮かべてもなお、此方を睨みつける強かさは流石、大妖と言うべきか。

 

「能力とはなんだ。…余は能力とやらを持っているのか?」

 

「…い、いいえ…。貴方は…何も持ってない…。んぐっ…意識して…出せてないもの…。」

 

「矛盾しているぞ。」

 

…何処までが嘘で何処までが真実なのか。

能力とやらを余は持っているが、使用には至っていないのか。しかし、この状態で減らず口を叩くとは。

 

「まぁ良い。…では、ここは何処だ。」

 

「…げんそうっ…きょう…っ。」

 

「“ゲンソウキョウ”?」

 

そんな名前の国なのか。

…或いは、この結界内がそう言われているだけなのかもしれない。…どちらでもどうでも良いわけだが。

 

「…ゲンソウキョウとはなんだ。」

 

「…忘れられし者っ…楽園…。」

 

ゆっくりと力を入れれば、八雲紫の顔が青ざめていく。女の首を絞めながら興奮するような癖はないが、話せる程度の余力は残しておかねばならんからな。

 

「紫さまッ!!紫さまァッ!!」

 

「…忘れられし者の楽園…か。」

 

…これ以上は聞けそうもないか。

忘れられし者…これが何を意味するのかは実際、見当もつかない。取り敢えず、下ろしてやるか。

 

此方は殺されかけたから撃退しただけのこと。次に襲撃されても負けやせん。服は汚れるだろうが、そこに捨て置いておこう。

 

「紫さまッ!!」

 

「ゴフッ…ゲフッ…どういう…つもり…?」

 

…流石は妖怪。

少しではあるが、力は入れたはずだ。首が捩じ切れてないだけ、繋がっているだけ感謝してほしいものだが。

 

「旅には案内係が必要だからな。敗者は勝者に従え。」

 

「…傲慢ね…。」

 

「安心しろ。ここを破壊する意味も理由もない。余はただ妹らに良い土産話を持っていきたいだけだからな。」

 

狐女が信じられるかとギャーギャー喚いている。

…真実を喋っているのだがな。

 

「…わかったわ。…貴方が本当に真実を話しているのか…見る必要が…あるから…。」

 

そう言うと八雲紫は意識を手放した。




紫が軟弱なんじゃない。兄様が強すぎるだけなのです。
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