「何から何まで…ありがとうございます。」
緑髪の妖精…後に彼女は大妖精と名乗ったが、その大妖精が余に話しかける。頭を下げるその様子と姿勢の良さからそこそこ育ちはいいと考えられる。妖精に所作を教えるのは誰の仕事なのだろうか。少し気になりはする。
「…治療と飯を与えただけで別に変わったことはしていない。」
「そうよ。どうってことないわ。」
…そう言うのはこちらを睨む常闇の妖怪。明らかな敵意を此方に示している。誰の目から見ても明確だ。…敵の居城では悪手である。
「…貴様…ッ!!」
「…やめろ。咲夜。」
現に咲夜は既に銀のナイフを握っている。了承すればそのまま戦争となる。咲夜だけならまだしも、フランも怒り心頭といった状況だ。フランが暴れれば手がつけられない。
「なぁに?主人を馬鹿にされて、攻撃もできないの?腑抜けばっかりね。」
その様子を見て常闇の妖怪はほくそ笑む。火に油を注ぐその行為に、フランは我慢しきれない。頸動脈を貫かんと手を閉じ、爪をルーミアの首筋へ突く。
「…やめろ。」
…だが、それを静止させる。
フランはキッとこちらをも睨むが、また後ろへと下がっていった。
「余は貴様と戦り合いたいだけだ。本気の貴様と。…その体に秘められた力に興味がある。」
「…そこまでして何故私と戦おうとするの。」
ルーミアはナイフのような目でこちらを突き刺す。何度も聞かれると…多少不愉快だな。
「闇の本質。その力は余にもない特異なる力だ。ならば、その代わりを見つけ、捻出するのみ。余は自身が強くなる為なら手段は惜しまぬ。勉学もその影響だ。学び無くして豊かにはならん。」
「つらつらと御託ばっかり並べちゃって。…頭下げたらいいじゃない。貴女の力が見たいので本気出してくださいって。」
ようやくルーミアの顔に笑みが映る。ただし、可愛げなどそこにはない。胆力だけは褒められる。ここは彼女にとっては敵の居城にして首根っこ。刃を立てれば死に晒せるが、立てられるかは時の運だ。
「…中々に良い性格をしている。だが、そう言って出せるものなのか。その髪飾りからは嫌な気を感じる。それだろう?汝を縛り付けているのは。」
金の髪を束ねる真っ赤なリボン。そこから感じるのは陰陽術、霊術の類か何か。封印の類だ。強い力を押さえつけているのだろう…その分の跳ねっ返りがあるだろうが。
「そのリボンを断ち切れば良いのなら話は別だが。」
「…絶対にダメ。私は約束したんだ。…だから。ダメ。」
「…約束か。」
くだらん。知性のある生き物というものは約束というしがらみに絡められ、結局は損をする。ルーミアという存在が怖いからそんな約束を取り付けたのだ。…しかし、なんとも人間らしい。少なくとも約束を大事にするのは妖怪らしくはない。そこに妖怪か人間かなどと関係はないが。
「一瞬だ。それなら誰も文句は言うまい。」
自身の口角が上がる。その言葉を聞いてか、顔を見てから。ルーミアの顔が汚物を見るかのような酷いものへと変わった。
「探究心のために幻想郷を犠牲にするなんて…酷いわね。」
「大言壮語だ。汝がどれほど強かろうが、余の居るこの紅魔館を穿つことはできぬ。」
「…そう。でもできない。このリボンには私は触れられないもの。」
…なるほど。簡単に取れれば強固な器から猛獣を放つことになる。博麗の巫女がそんな稚拙な仕事をするとは思えない。博麗の巫女ではなくても、他の人間であっても稚拙なことはしないはずだ。
重い腰を上げ、そのリボンに触れる。バチっと電撃の走ったような頭が手を襲う。白煙が僅かに立ち上るが、手には傷ひとつついていない。
「緻密な結界だが…余には意味がない。」
「…え?」
ルーミアの顔が驚愕に歪む。己が力に口角が自然と上がる。バリバリと音を立てて、そのリボンが破れていく。崩壊といった方が近い。地面に落ちた布切れは白灰と化す。と共にルーミアの体を闇が覆う。凄まじい力の波。紅魔館のロビーが強風に包まれる。
咲夜や大妖精は目を背けているが、我々吸血鬼は目を背けない。
「…久々ね。この感じ。」
闇とは実に妙だ。そこが見えずかき集めてもかき集めてもあるは虚無。目の前にいるのは風見幽香、八雲紫、星熊勇儀…どれをとっても遜色ないほどの妖力の塊。荒削りだが、確かにそこ知れぬ。
「…待っていたぞ。」
喉をついて出る嬉々とした声。闇が晴れた時、そこにいたのは…金色の髪をゆらめかせた女。しかし、その目は本質を捉えている。こちらを全て見透かすような目。
「名は。」
「ルーミア。」
常闇の妖怪…ルーミアは怪しげに笑う。どこが弱小妖怪か。余程に博麗の巫女の封が優秀だったことが窺える。空間に右の人差し指と中指をそわせ、ゆっくりと下に下ろす。その裂け目に手を突っ込むと出てくるのは黒色の鞘を持った日本刀『玄天』である。
ルーミアもそれを知ってか知らずか、自身の纏う闇を大剣へと変化させる。変幻自在の闇。彼女にとっては周囲に纏うそれすら、自身の四肢のように最も容易く操れる。…さて、どう攻略するかと胸をときめかせる…その瞬間であった。余の背後からゆっくりと誰かが余の目の前へと歩いていく。
「ここは私にやらせて。お兄様。」
「…くくっ。兄の楽しみを取るというか。レミリア。」
そこに居たのは正しく紅魔の女王…レミリア・スカーレットである。手にはグングニルを持ち、その翼を目一杯広がる。その成長は嬉しいかな、楽しみを取られ悲しいかな、複雑な感情だ。
「コイツは私の尊敬する兄を侮辱し、罵倒した。万死に値するわ。…その腑を突き、背中から貫通させて…殺す。」
冷淡にそう言い放つとグングニルを振り回し、その先端をルーミアへと向ける。…実はハラワタが煮えくり返っていたか。
「…そう。なら。これでどう?」
…そう言って先に仕掛けたのはルーミアだった。
突如、視界が闇に包まれる。余も見えぬほど濃い闇。しかし、匂いはレミリアの背後へと移っている。文字通りの闇討ちだ。
「…見えている。」
「くっ!?」
…ルーミアの苦悶の声が聞こえた。直後、闇が晴れるとルーミアが壁に背を打ちつけ、倒れていた。それだけであり、傷ひとつついていないのはさすがと言うべきである。
察するにレミリアのグングニルによる横一閃がルーミアを捕えるも、ガードした…というところだろうか。
地面を蹴り、距離を詰めるレミリア。ルーミアの首筋にグングニルを打ち込もうとする。
ルーミアはそれを転んで避けると再び闇を展開する。
次の瞬間、凄まじい音と共に鳴る筈のない金切り音が辺りに響き始める。差し詰め、ルーミアはレミリアとの距離を詰め、凄まじい剣戟を披露していることだろうが…。
「くだらん。」
「っ!?」
ビチャリという水音が聞こえる。闇が晴れるとともに目の前に広がるのは額から血を流し、地面に倒れるルーミアと勝ち誇った顔で見下ろすレミリアの姿だった。
「言っただろう。私には全て見えている。貴様の汚い手も全てな。」
「…お兄さんの真似事かしら。いいわ。生意気な小娘。ここで兄ごと…殺して…「そこまで。」…ッ!?」
これ以上やっては余の楽しみがなくなってしまう。腹の飢え、喉の渇きはまだまだ潤わぬ。レミリアが一矢報いていたが、これはルーミアの封印されていた反動だと考えられる。だからこそ、この争いは止めねばならぬ。…間に現れた余にレミリアはすぐさま矛を収め、膝をつき此方に頭を下げた。
「なに?妹が私に殺されるのを黙って見てられなくなったわけ?」
「…今の汝では余の妹には勝てぬ。時期尚早と判断したまで。」
そう言うとルーミアは苦虫を噛み潰したような顔を示す。現に力の出せなさをこの女はその身で感じたのだろう。故の葛藤。レミリアの能力とも相性は実に悪い。視界が見えずとも数秒先の相手の動きが見えれば話は変わるのだから。
「もはや、そのリボンに飾り以上の価値はない。」
「…。」
「故に貴様の力、少し吸わせてもらおう。そうすればその体を維持することはできず、またあの幼き姿に戻る。…さぁ、どうする?」
…ルーミアはこちらを睨みつける。訳あってか否か、この女は姿を偽り、妖精達の元へと繰り出している。無論、姿は変わるが自力は変わらない。封印時よりもデメリットは少ないはずだ。最も、余にこの女の力が宿るリスクもあるが。
「…仕方ないわね。あの姿、意外と気に入ってるの。貴方に少しあげるのは癪だけど…どうでも良いわ。」
「了解した。ならば。」
右手をかざし、奴の妖力を切り取り、喰らう。さすれば、そこに残るのは幼き女児である。目覚めた氷精と共に奴は帰って行った。確かめるように右手を握る。
「…さて。」
この能力とは何百年との付き合いとなる。一から十まで全て知りたいと思うのは必然だろう。
「咲夜。」
「は。」
余の言葉に咲夜が横につき、膝をつく。胸に手を当て、目を閉じる咲夜。
「…今日はレミリアの祝いだ。食事はたんと弾め。」
そう言うと咲夜はにっこりと微笑んだ。レミリアは少し照れくさそうにしている。あれほどまでの実力なら修行もそろそろ本腰を入れていいだろう。
EXルーミアが話題だ!!よし乗ろうと作ったお話。もう波に乗り切れなかったよ…
ちょっと八雲家やってから異変行きます。多分ね。
恋愛展開は
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いる
-
いらない
-
して欲しい