紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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マヨイガ

「さて。」

 

この数日、色々あって忘れていた。幻想郷の賢者、八雲紫の存在を。彼れらの住んでいるマヨイガへはスキマのような物を通れば向かえるはずである。

 

「ふぅ。」

 

深緑の森林…鬱蒼としげるものの、ただ暑さもなく季節がら少し涼しげだ。朝方は鳥の囀り、夜は虫の鳴き声が響き渡る。人間は風流だと言うが、耳が過敏な分、耳障りだと思ってしまうのはいかんせん、直したいところである。

 

そして、その森の中にある一軒家。特異な術式のせいでただ歩くだけでは向かうことはできない。八雲紫に招待されるか、或いは余のように術式を阻害するか。自由とはいえ、あまり出入りすると八雲藍が鬼の形相でこちらを撃退してくる。アレには初対面から嫌悪されている故、少々面倒だ。

 

玄関の前に行けば、引き戸が開かれる。…その刹那。

 

「…。」

 

首を横に捻る。後ろへ飛ぶのは鉄扇。頬を薄く切るが、1秒も足らずして頬は完治する。扉の影に鉄扇の主が立っていた。

 

「ようこそ。マヨイガへ。」

 

僅かに言葉の節々に棘を感じる。入り口を覆わんばかりの九尾の狐は此方を温度のない眼差しで見定める。

 

「随分な出迎えだな。この場合は…“ただいま”と言った方がいいか?」

 

「…息の根、止めますよ。主人様。」

 

「躾のなってない女狐だ。」

 

…その言葉は嘘ではない。八雲藍は聡明だ。更には強者でもある。その気になれば死闘を演じることも可能だろう。しかし、その魂からは以前のような殺気は弱まったと考えられる。以前まで居たおかげで少しは懐柔したか、或いは演技か。

 

「八雲紫に用があってな。無論、手土産も用意している。」

 

稲荷寿司と日本酒。それをかざすと少し彼女の目がうつろう。好物をちらつかされれば誰だって喉がなり、目が惹かれる。卑怯という勿れ。これも戦術だ。

 

「……どうぞ。」

 

重々しくそう言うと八雲藍はその場から立ち去った。中は意外と庶民的である。大量の猫がいる以外は普通の民家のように感じる。

 

居間に案内されるが、そこも普通だ。どこからやってきたのか炬燵に絨毯、和箪笥などなど。とても幻想郷の賢者のような肩書を持つ妖怪が住まう場所とは思えない。…見た目で判断するなと言ういい例か。

 

「お茶を用意しますゆえ、そこでお寛ぎください。紫様は自室にいます。そちらに向かわれるならご自由に。」

 

…と、言っているが実際は八雲紫に相手にしてもらえと言っているも同義だ。そうとなれば簡単だ。八雲紫の部屋まで行き、その障子扉…もとい、襖を開ける。

 

「んみゃ…むにゃあ…。」

 

そこにはほぼ半裸…下着姿で惰眠を貪る阿呆の姿があった。これが賢者とは世も末だ。しかし、余がきたことにも我関せずとは。手に魔力を纏う。するとバリバリという音と共に青紫の電撃がまとわりつく。

 

「…ふんっ!!」

 

「んぎゃぁあぁああッ!?」

 

轟音と痺れ。それによって絶叫が室内を掌握する。耳が痛い。本当に声だけは大きい女だ。

 

「し、痺れるぅ…あ、主人様ぁ…もっと起こし方…考えてくださいまひ…がふっ…。」

 

「さっさと服を着て。居間に来い。」

 

そう言い放つと八雲紫の部屋を後にする。

 

後ろからギャアギャア喚いているが関係ない。女の裸など取るに足らぬものだ。主に咲夜のせいだが。

 

「汝の主人、あれは阿呆だな。」

 

茶菓子と湯呑みを持った八雲藍にそう言う。八雲藍は少しこちらをギロリと睨むと悟られぬようにか、机の上に湯呑みを並べていく。

 

「紫様をあのようにしたのは貴方様でしょう?此方に非はありません。」

 

「なんとも投げやりな。」

 

湯気立つ湯呑みに唇をつける。喉を通る熱気と舌に乗る渋みが癖になる。紅茶も好きだが、緑茶も悪くない。

 

「女は着付けに時間がかかると思ったが。」

 

「私はすぐ支度できるのよ。全く…。貴方のせいで髪がギシギシだわ。」

 

恨み節を語りつつ、八雲紫が室内に入ってくる。髪が…なんて言っていたが、別に変わらぬ。余の対面に座り、湯呑みの中の茶を啜る八雲紫。

 

「さて、何用かしら。」

 

先ほどの醜態を取り戻すように。八雲紫は賢者としてのメッキを塗りたくる。殺気はないが、静かな威厳を感じる。

 

「堕落しきっていると思ってな。釘を刺しに来た。」

 

「…貴方は私の父親か何かかしら。」

 

「お節介は兄の性分だ。」

 

ジトーとした目で此方を見られる。これが賢者というのも烏滸がましいほどのだらしなさで。部屋は散らかりっぱなし。虫も湧く始末。本当に一度矯正した方がいい。

 

「貴方は私の兄じゃないでしょうに。」

 

「幻想郷の賢者に据えたのは汝だ。もっとしっかりしろ。」

 

あまり強い言葉をこの女に使うと疲れる。元の性格が元だから、飄々と避けてくるのだ。いい意味でも悪い意味でも胡散臭い。尻尾を見せないのが賢者としての八雲紫なのだろう。

 

「そう言えば…常闇の妖怪の封印を解いたそうね。あまりの勝手はやめて欲しいのだけれど?」

 

「まさか、汝に小言を言われるとは。」

 

「ルーミアはね。この世の闇。闇は広がりはするけれど収まらない。つまり、彼女は青天井なのよ。だから、強い。当時の博麗の巫女も苦戦する程度にはね。でも勝った。そして、2度と悪さをしないように封印した。その封印を貴方は解いた。その意味を理解しているのかしら。」

 

…先ほどまで和気藹々としていた室内は冷気とは違う冷たさを浴びる。八雲紫の目が冷たく光っていた。別に何の感情も抱かない。

 

「問題ない。もし幻想郷に仇なすならば、余が消す。」

 

「あら、興味で解いてそのままにしておいたってオチだと思ったけれど。」

 

「責任は転嫁しない主義だ。それに…意外に気に入っているのだ。少なくとも下界よりも興味は尽きぬ。毎日が新鮮なのだ。…興味が尽きぬうちは守ってやる。」

 

その言葉を聞いた途端、八雲紫の顔が驚愕に…そして、微笑みへと変わる。冬が通り過ぎ、春になったかのような暖かさ。室内がそんな優しい暖かさに包まれた…そんな感じがした。

 

「なんだかんだ、貴方は信頼できるわ。わかりやすいもの。」

 

「…くだらん妄言を垂れ散らかすな。幻想郷は強者が多い。その全てが踏み台であり、我が糧となる。」

 

「だから気に入っている…と?何処まで言っても戦闘狂なのね。」

 

旧知の友と語らうように八雲紫はくすくすと笑う。なにも笑う場所ではないだろうに。

 

「何が悪い。戦闘こそが我が真価を試される。敗北は学び。死ねばその程度だった…ということだ。」

 

ただ…最近はどうしても。死んでもいいなどと考えられなくなってきた節がある。強くなったゆえか、それとも…。だが、結局は強ければいいだけの話。弱ければ死に、強ければ生きるならばこの身を傷つけても至高の域に入るが両得。くだらんことは頭の片隅にでも捨てておこう。

 

「強くならざるを得ない。弱ければ全てを失うだけだ。いつの時代も余は捕食者である。」

 

「傲慢ね。…けれど、そうね。霊夢が悲しむわ。貴方が死ぬと。」

 

「そうか。」

 

そういえば霊夢の顔も最近は見ていないな。あれも放っておけば何をするかわからん。そろそろ見に行ってやらねばなるまい。ため息と共に少し冷めてしまった湯呑みの中身を飲み干す。随分と語らっていたような気がする。なんだかんだ、古巣は落ち着く。少しの間だったが。

 

「…さて、そろそろお暇するか。」

 

「あら。もう行くの?」

 

「…あまり遠出をすると咲夜がうるさいものでな。人間風情が、余に指図するとは全く持って理解できん。」

 

「そうは言ってるけれど顔が少し緩んでいるわよ?」

 

「………黙れ。」

 

くだらん。ケラケラと笑う八雲紫にも少し腹が立つ。だが、殺したいとは思わない。嫌な感じはしない。知らず知らずのうちに口元が緩むほど甘くなってしまっていたか。精進が足りない。

 

「…さらばだ。」

 

「ええ。またね。」

 

後ろからそう言って微笑む八雲紫を他所にマヨイガから出ていく。若干の違和感を覚えたが、ここでそれを語るのは蛇足だろう。どうせ、呼べばすぐ飛んでくる。今度は久々に白玉楼にでも顔を出すかな。いつになるかはわからぬが。




次回、異変編。
取り敢えず、お兄様のプロフィールというかなんというか。軽い設定書いときます。

ルディウス・スカーレット
性別:男
普段から真っ黒なスーツに身を包んでおり、真っ赤なネクタイを巻いている。瞳は兄妹で共通の紅。髪は赤みがかった紫。肩甲骨あたりから生える大きな蝙蝠の羽が特徴的で普段は畳んでいる。
性格は傲慢で非情。良くも悪くも妖怪らしく戦闘狂で交戦的ではあり、如何に弱者でも誠意を見せれば相手をしてやるといった性格をしている。また、好奇心旺盛で興味があれば人間を育てるなど何にだって手を出す。探究心が非常に高く、学ばぬことは戦いを捨てることとしている。妹達のことを愛しており、家族にはとても愛情深い。幻想郷の賢者の一人として八雲紫と共に幻想郷の基礎を作り上げた。
異名は『厄災』
能力は『喰らう』程度の能力
相手の妖力を喰らって回復したり、自分と相手の間の壁を喰らい飾り、攻撃が届かないようにしたりなど戦闘面でも扱うほか、触れられないものに触れたり、空間を削り取る効果を使い、スキマを使ったりなどしている。

こんなところで。
他は時間があれば。では。

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