紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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※自己解釈あります。


春雪異変・始

朝はしんしんと。夜は轟轟と。降り止まぬ雪と冷気の応酬ももう直ぐ終わろうかと言う…ちょうどその頃。特段と今年の冬は長く感じていたところだ。

 

「寒ぅい!!」

 

レミリアとフランは2人して、暖炉の近くから離れない。吸血鬼は寒暖に対応できない。余のように魔法に長けた吸血鬼ならばある程度は対策できるが、フランやレミリアは何も出来ないため、このような猛雪の日は暖を求める。我々、吸血鬼の最強の影ではそのような顕著な弱点が存在する。全く、難儀なものである。

 

「ご主人様。」

 

一瞬にして買い出しに出掛けていた咲夜が現れる。マフラーと黒タイツ、いつものメイド服の上には革のダウンコートを羽織っていた。それでも頬を赤らめるほどには寒そうである。

 

「ご苦労。」

 

「もう春先であるにも関わらず、この寒さは異常ですわ。春キャベツも売っておらず、申し訳ありません…。」

 

「汝のせいではない。」

 

咲夜の近い距離を除けばだが。

確かにこの場は異常である。時間感覚に疎い我々でもおかしいと思う程の長い冬。人間が騒ぎ始めて初めて気づくが、確かにおかしい。しかし、それも幻想郷だからで片付いてしまいかねない。

 

「様子を見ようとも思っていたが…。」

 

…妙な匂いの変遷を感じる。何者かの妖力…というよりは霊力に近い匂いがする。一ヶ所に集まるそれに合点がいった。憶測だが…。

 

「咲夜。霊夢に伝えろ。これは異変だ。」

 

「…異変ですか。」

 

その言葉を告げた瞬間、咲夜の顔が真面目なものへと変わる。

 

「憶測ではないが、妙な気配を感じる。今回ばかりは余が動くよりも汝に任せたい。」

 

「…御意。この咲夜、命に変えてもその任を務めてみせます。」

 

そう言って咲夜は視界から消えた。段々と消えるタイミングがわかってきたのはひとえに自身の努力か。あるいは咲夜の血のせいか。と、そんなことはどうでもいい。今は“奴”に話を聞く必要があるようだな。

 

「話が聞きたい。どうせ、居るのだろう?ダダ漏れだ。」

 

室内の4つの濃い匂い。レミリア、フラン、そして余。それに該当しない匂いは天井あたりから漂ってくる。そんな言い方をすればまるで悪臭なのではと勘繰ってしまうだろうが、そんなものではない。生きた年数に比例して匂いは特濃へと変わる。人を食らえば刺激臭に、喰らわねば少々甘めの匂いに。今回は後者だ。

 

そして、それは早合点ではない。空間は存在を指し示すように裂け、そこからぬるっと女の身体が現れる。八雲紫…幻想郷の全てを見通すその女は怪しげに笑うと此方に目線を向けた。

 

「あら。よくお気づきになられましたわね?主人様?」

 

とある一件よりこの女は余を主人と呼ぶ。それはもはや、此方をいじっているのか、或いは脳を掻き回され、認識がバグってしまっているのか。それはわからぬが、決して主従の関係ではない。利用し、利用されの関係である。同じく幻想郷創生に手を貸した者として、たっぷりと利用できる。

 

「くだらん。ダダ漏れの臭気に反応するなと言う方が難しいだろう。それに今宵の一件、大体の検討がつく余に釘を刺しに来るのは当たり前だ。」

 

「ええ。釘を刺しに来たわけじゃありませんけど。貴方が向かうと些かややこしいことになりそうで。」

 

「…今回の一件、白玉楼…だな?」

 

その言葉を発した途端、八雲紫の雰囲気が変わった。微笑みは変わらぬが、決して柔和とは言えぬ。目の温度が急激に下がり、この部屋の室温が振り切れていく。

 

「…だとしたら?」

 

「なに。少なくとも今は余が出て元を断とうなどと言う考えではない。だが、妹たちが苦しんでいる。攻める大義名分はあると思うが?」

 

あえて挑発する。八雲紫とは長く苦楽を共にした。余の行動原理を理解しているはずだ。そして、共に脅威である。

 

「…異変は博麗の巫女に終わらせさせる必要がある。貴方が出る幕ではないわ。」

 

「今は出る気はないと断言したはずだが。今後の話だ。博麗の巫女がこれは異変ではないと割り切り、解決を怠った場合は…。余は気は長い方ではない。」

 

「だとしても、白玉楼への貴方の踏入は断固として許さないわ。貴方によってアレが目覚めてしまう可能性が高まる。そうなれば…そうなれば幽々子は…。」

 

…気になる言葉が聞こえた。

 

「アレ…だと?」

 

その言葉を聞いてか、八雲紫は口元を押さえてハッとした表情をしていた。

 

「…やはり、あそこには何かあったのだな。」

 

「何もないわよ。貴方が意識するようなことは何も。」

 

「素直に言わねば踏み込むぞ。白玉楼へ。」

 

これを愚かと宣う勿れ。八雲紫も恐れる何かがそこにいるだと。目覚めれば余の興味をそそるもの。そして、咲夜と霊夢に危機を陥れるもの。

 

「…貴方もわかっていたでしょう?あそこに何があるか。あそこには…桜がある。ずっと眠っていた西行妖が。」

 

…あの八雲紫がわずかながら怯えている。確かに感情の機微はあれど、ここまで曝け出すのは初めてではないだろうか。

 

「何がトリガーになって起きるかわからないわ。今彼女がやろうとしていることは満開にすること。満開になれば再び西行妖は目覚め、幻想郷に長い冬が訪れる。死という長い冬が。」

 

「ならば人間如きか弱い生き物に何ができるものか。」

 

「霊夢達には封印を解かせないために退治してもらう。でもね。貴方みたいな濃厚な死の香りを持つものが白玉楼に踏み入れれば何が起こるかわからないの。貴方は文字通り、幻想郷のジョーカー。私にも未知数なのよ。だから、お願い。今回だけは手を出さないで…。」

 

悲痛な顔でそう言う八雲紫。くだらぬ妄言だといつもなら吐き捨てていただろう。しかし、これは八雲紫の空想に過ぎない。余が踏み入れることで西行妖が目覚めるだと。柄にもなく胸がざわつく。八雲紫を怯えさせるほどの怪物…封印するしかなかったほどの化け物。それが幻想郷にまだ居たとは。

 

「…だが、昔にも足を踏み入れたが、何も起こらなかったろう?」

 

「今と状況が違う…。あの子は長く集めすぎた。霊夢たちも時間の問題よ。」

 

「…そこまで深刻か。」

 

実際のところ、何者かが春という概念を奪い、それを蓄えている。そこを抑えれば良いと考えていた。しかし、事態は思ったよりも深刻なようで。危険な所へ従者を采配した己の浅はかさに心底反吐が出る。余の役に立ってから死ね…そう言った己が咲夜を死地に送ってどうする。

 

「…余が行かねば良いのだな。」

 

「…そう。」

 

「了解した。今回、余は動かぬ。」

 

その言葉を聞いて、八雲紫は胸を撫で下ろした。本当は目の前に餌を垂らされた飢えた狼のように食らいつきたい。だが、咲夜…引いてはレミリアやフランの命がかかっている。もう、私情で動く立場ではないのだ。

 

「…一つだけ聞いて良い?貴方、何故、戦闘を破棄したの?正直、貴方のことだから止められないかと…。」

 

「…くだらん。ただ、この幻想郷が住みやすいだけのことだ。」

 

そう言ってその場を後にする。心底、イライラする。お預けを食らった子どものように胸がざわつく。こんな時に弱者を痛ぶる蛮行は弱者のする愚行。一度、頭を冷やす為、音楽でも聴きに行こうか。




兄上の優先順位は妹たち、家族、そして戦闘。とはいえ、戦闘は兄上の生きがい。今回の異変もそうなのです。

あと、ここまで東方系の小説書いたけど未プレイなのですよ。なので基本はいろんな小説や自分で調べて書いてます。西行妖についてもよくわかってません。申し訳ない。書いといた方がよろしいかな。では。

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