「…躱わすか。」
「何を見てた。この何百年。」
あれは大ぶりの弾幕だった。躱せぬわけがない。背後を持った余に向かってくるのは尻尾による横薙ぎ。体を霧にして避けるが、その尻尾は木々を薙ぎ倒していく。
そうすれば回転した身体の正面を捉える。
「ふんっ!!」
余が放つのは固めた左拳。一度に3発の殴打を八雲藍は手を交差し、受け止める。
「しつこい女は嫌われるぞ?八雲藍ッ!!」
「黙れッ!!私は貴様を止めてみせるッ!!紫様の為、幻想郷のためッ!!」
その言葉と同時に奴の膝が跳ね上がる。狙いは顎だ。此方も手を交差し、受け止めるが、それによって視界がわずかコンマ1秒、切れる。即座に追撃の札が飛んでくる。
霧と化した身体を円形に穿ち抜く札。人の形を保たず、そのまま我が体は霧散。八雲藍は完全に見失う。
「…何処だ…。」
「霧雨魔理沙。手を出すなよ。」
「ッ!?」
声が響いたのは八雲藍の頭上。だが、彼女はすでに失態を起こしている。もう術中なのだ。空を埋め尽くした魔法陣がそれを知らせた。轟音と共に空が煌めく。
「『
「くっ!!」
その刹那、紫の雷がランダムに降り注いだ。地面は焦げ、木々は炭化していく。耳を突き刺すが如くの稲光。乱射するそれは八雲藍を飲み込む。
「…ほう?結界か。」
八雲藍を守るように展開される半球上の結界。周囲を穿ち抜きボロボロの地面に円状に綺麗に残る地面。そこに八雲藍は此方をその慧眼で睨みながら立っていた。
「だが…これで終わったと思うな?」
「ッ!?」
瞬間、八雲藍の脇腹を何かがはする。と同時、血が滲み、八雲藍は地面に膝をついた。
「ぐぅっ…!!」
その八雲藍へと歩み寄る。
「動けんだろう。先ほどの紫電を指先に集め、指弾のように弾いた。見えぬ雷撃とでもいっておこうか。身体中に痺れが駆け巡っているはずだ。」
「…き…貴様は…!!幻想郷を…壊してもいいのかッ!!」
…その言葉に笑みがなくなる。八雲紫は余が白玉楼に行くことを拒んだ。それは幻想郷の脅威を呼び覚ますと。未曾有の大災害…己が欲望と幻想郷の来るかもわからない未来を天秤にかける…。憎悪に満ちた八雲藍の睨みと血まみれの声は…確かに響いた。響いたような気がした。
「…ならば、幻想郷の未来も脅威との戦いも両方総取りだろう?望むのは。」
「…なんだと!?」
「白玉楼に行って幻想郷が無事かはわからない。それは逆も然りだ。…ならば、未曾有の事態にならんように余が強くなれば良いだけのこと。余が巻き起こす災いならば…その芽を摘み取ればいい。」
八雲藍はなおも歯をギリギリと鳴らせ、こちらを睨む。拳を握り込み、此方への形勢逆転を狙っている。
「…余はヒーローではない。だからこそ、どんな天秤であろうと余の都合のいい方を取る。気に食わぬならねじ伏せてみろ。余がその上を行く。」
「ふざけるなァァァァッ!!」
血を吐きながら亡者の如き叫びと共に八雲藍の足が跳ね上がる。頭上から振り落とすかかと落としの一撃。それを余は地面を蹴って避ける。地面に入った亀裂を見るに…かなりの一撃だ。
「ふ…フフフッ…良いぞ…!!余に命令を聞かせたくば、このルディウスの首、取って見せろッ!!」
「ウォォォォッ!!」
大地が揺れるほどの震脚。と同時、八雲藍の拳が余の鳩尾目掛けて、突き上げられる。腕をクロスしてガード…と同時に身体が僅かに吹き飛ぶ。あえて…霧とはならぬ。
「式神『仙狐思念』ッ!!」
発現と同時、幾何学的な弾幕がこちらに迫り来る。だが、此方を狙っているだけの単純明快な弾幕。避けろと言われているような…弾幕だ。
「『
左手に炎がまとわりつく。弾幕と弾幕の間を縫って、余はぶつかりに行く。炎の拳…それを八雲藍へとぶつけに行くのだ。だが、八雲藍は弾幕を隠れ蓑にして避けている。…これではただの追いかけっこだ。
「ハァッ!!」
前へとその炎をぶん投げる。と同時、炎は電光石火…雷の如く、八雲藍へと向かっていく。
「まだ…間に合うッ!!」
八雲藍は炎に向かい、結界を纏う。だが、遅すぎる。
「ガッ!?」
炎はすでに八雲藍の身体を通り過ぎていた。燃える感覚と痺れる感覚。二つの力が合わさった炎に…八雲藍の身体がついに地面に膝をついた。と、思った。
「…なるほど。やるな。」
その行動に思わず口角が上がる。初めて八雲藍の執念に脱帽した。その身体は…たくさんの札が集まった式神だったのだ。…さて、視界を切った奴は何処から現れる。余に意識外はない。どこまで逃げてもこの特別な嗅覚がついている。血の匂いも殺気の匂いも慣れた…ならば。
「ここダァァァッ!!」
「…そう来るよなぁ。」
八雲藍が選ぶのは真正面。視線が切れた瞬間、目の前から光速の札が飛んでくる。弱点などない。八雲藍のとんでもない執念…ずっと勘違いしていた。嗅覚は騙せる。しとどに流れる血を…たっぷり吸った札で嗅覚を騙していたのだ。
同量の血、力の量ならいい。それならば分身でも擬態でもなんでもそれをすれば匂いは同じ。騙すことはできる。
「鍛錬が足らん。」
身体を霧として、その札を避ける。その直後、八雲藍の懐へと入っていた。
「ぐぅっ!?まだ負けないッ!!」
「貴様ならわかるだろう。余は簡単には止まらぬよ。」
八雲藍の拳は余の顔面を捉えたものの…霧となったせいか、かすりもしない。そのまま余は奴の顎を撃ち抜いた。
「は…がぁ…!!」
脳が揺れ、八雲藍の目からも鼻からも血が流れ出る。そのまま八雲藍は膝から崩れ落ちた。
「余の前に立って五体満足で生かしておいてやるのだ。感謝しておけ。」
「まだ…だ…。負け…てない。ゆか…りさまに…おんを…かえすんだ…。」
…声が全然出ていない。八雲藍はゆらゆらと立ちながら此方へ拳を撃ち抜く。…が、撃ち抜くと言っても殴打ではない。例えるなら赤子の張り手。余の胸を打つが、痛みすらない。普通ならこのまま蹴り上げて顎を砕いてやるだけだ。…しかし、八雲藍はそのまま余に前のめりで倒れてきた。彼女の持つ柔らかな何かが余の胸で潰れる。
「…た…のむ…。行かないで…くれ…。」
しゃがれた声。八雲藍の身体を地面に寝かす。この女にもはや立ち上がる力すらないかもしれない。それは…些か、この女を軽視しすぎたか。
「元々、余は自身が享楽を求め、その末に享楽を与えるという理由でこの幻想郷を守っている。この幻想郷の運命か…それとも余の悦楽か。天秤はどちらに傾くかの話。ならば、その天秤ごと余は喰らう。もしも、などという酔狂などありはせん。…幻想郷は余が守ってやる。」
目を閉じかける八雲藍にそう言い聞かせる。八雲藍は安心…いや、もう何も言う気力がなくなったのだろう。それほどまでに先ほどの一撃は効きすぎた。だからこそ、そのまま意識を失ったのだ。
「…行くぞ。霧雨魔理沙。」
「あぁ。わぁったよ。」
気だるげに箒に乗る霧雨魔理沙。そのまま共に曇天へと飛び出る。上空は余でも少し肌寒い。
「空にあるのか!?元凶が!!」
「…少なくとも門はある。」
微かな結界の綻び。そこに吸い込まれる春の匂いは黒幕への道筋を示していた。空の大穴…そこへと飛んでいく。
「…ちょっと。何してんのよ。お兄ちゃん。」
「ご主人様!?なぜ…!?」
…その背中から聞き慣れた声が聞こえる。後ろを振り向けば口を押さえて驚くメイドと呆れた様子の巫女の姿があった。
「…そこが黒幕の居城だ。春を取り戻しに参るぞ。」
「何仕切ってるのよ。…全くもう。」
呆れた様子で先に飛んでいく博麗霊夢。追いかけるように我らは穴の中へと入っていく。…そして、この目に現れたのは。
「…懐かしいな。」
桜が咲き誇り、石灯籠に青白い灯りが灯る…石畳の通路。その中心に剣を持つ少女の姿があった。
「…お待ちしていました。招かれざるお客様達。」
刀剣を引き抜くと少女はこちらを向く。
「…ルディウス・スカーレット様。話は幽々子様から聞いております。別名…厄災。貴方をここから通すなと。」
特有の気配に満ちた少女の姿は昔会った老剣士に何処となく似ている。あの話は…まだ咲夜にもレミリア達にも話してなかった話だが…それはまた今度と行こう。
「…此処は余が引き受けよう。この用心棒は余が引き受ける。」
玄天を呼び出し、その鞘を引き抜く。鉄の鞘は地面に転がり、カランコロンと音を立てた。
「行かせるわけには行きません。皆、ここで私が切り伏せます。」
「…小娘。汝の思っているほどここに居る鼠は歯応えがある。それに…目の前にいるのはこの余である。」
その言葉と共に余を除く3人が走り出す。空中を飛び、剣士の上を通る。剣士はその3人を迎撃するように剣を振るう。真空波のような斬撃が3人に飛ばそうとする。
「ッ!?」
しかし、その矛先は前へと飛んだ。カァンという音と共に火花が散る。辺りには横一閃に切り裂かれた小石が…少女の足元に散らばっていた。
「石の…礫…。」
「掃除が行き届いてないな。砂利が散らかっている。」
歯を見せて笑い、おちょくるように言う。その言葉は少女には少し聞いたようで不貞腐れたような表情を浮かべる。
「…お心遣い痛み入ります。ですが、貴方だけでもここで止めます。」
刀を正眼に構え、少女はこちらを睨む。そこそこいい剣士だ。…これは存外、楽しめそうだ。
「魂魄妖夢…参るッ!!」
そう言って少女は地面を蹴り、こちらへと走ってきた。
戦闘描写がちょっと安っぽい。もっと派手に書きたい感あるけど…無論、シロートなのでどうしようね。
あと、返信は出来てませんがみなさんからの感想、アドバイス等いつも励みになってます。これからも宜しくお願いします。では。