紅魔ノ兄   作:紳爾零士

76 / 88
後半:妖夢視点


春雪異変・肆

迫り来る縦薙の銀閃。受け止めた玄天が火花を散らす。馬力はないが、少女の速さは目を見張るものがある。そのまま刃を滑らし、背後へと少女を映らせれば、続いては袈裟。

 

背後から落ちるそれを玄天を背後に回す事で受け止める。と即座に距離を離す魂魄妖夢。刀を構え直し、足を半歩引く。脱兎の如く、地面を蹴ってからのロケットスタート。馬鹿の一つ覚えのように刃を縦薙に落とす。

 

「浅はか。」

 

甲高い金属音が…ならなかった。

目の前から刃が消え、即座に右頬に僅かな灼熱感が走る。あの土壇場で突きに切り替えたとは。魂魄妖夢の腹部を蹴り抜かんと足を振るう。少女を飛ばすも…全くの手応えがない。自ら後ろへと飛んだのだ。

 

「西行寺幽々子への最後の砦…見掛け倒しではない…か。」

 

「…!!」

 

少女の目の色が変わる。はっきり言おう。荒削りだが、この少女は中々に優秀だ。師が優秀なのか、はたまた自己研鑽の賜物か。かつて見たエセ剣士など歯牙にも掛けないほどである。だが、一度プレッシャーをかけてやれば…その優秀な剣士も額から汗玉を流す。

 

半足引き、再び此方へと向かってくる。次に見せたのはマグレなれども、余の頬を切り裂いた突き。それは余の心臓目掛けて飛んでくる。

 

「もう見えている。」

 

火花を散らすことはない。迎撃すらせず、その突きは余の身体を貫いた。だが…鮮血が滴ることは決してない。霧と化し、朧となった我が身を貫くそれは無情にも空を切るのみだ。

 

「ッ!?」

 

そうなれば優秀な一撃も無情な隙となる。乗り切った奴の腕を掴み、そのまま背後へと放り投げる。ドタンッという鈍い音が耳につく。

 

「くっ…!!」

 

「剣の腕は半人前だが優秀。磨けばよく光る。…そして、その精神。あそこまでの殺意を見てなお…立ち上がる。悪くない。」

 

地面から立ち上がる剣士を見届ける。立ち上がるなり此方をギロリと睨む魂魄妖夢。

 

「…情けのおつもりで?」

 

「なに。こんなものでトドメを刺すほど余の腹は満たされておらぬ。血湧き肉躍る抗争…それこそが今の余を滾らせる…。汝は踏み台に過ぎないのだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…そうですか。」

 

醜悪な笑み。見開かれた紅色の目には私の姿が映る。…目の前にいるのは邪悪そのもの。漆黒の羽根が開かれる。お爺ちゃんの手記に乗っていた姿にそっくりだ。風によって彼の真紫の髪が揺れる。

 

思わず刀を握る指に力が入る。顔はピクリとも動いてないけれど…怖い。幽々子様の言っていたとてつもない死の香りを纏う怪物。…切り捨てなければならない。

 

「私は…負けられないッ!!」

 

地面を蹴ってそのまま前へと出る。私が負ければ幽々子様のところへ行ってしまう。それは何があってもされてはならない。この者と西行妖を会わせては行けない。

 

「ハァァァッ!!」

 

柄にもなく大振りな袈裟切り。しかし、それは彼の持つ刀によって跳ね上げられる。そのままお腹に衝撃が走る。

 

「カハッ…!?」

 

踏み込み無しの掌底。服の一部ごと持ってかれ、身体は地面に転がる。口の中に鉄錆に似た臭いが混じっている。お腹が痛い…。まるで弾けたような感覚。

 

「…少し期待外れだったか。急に大振りになったから驚いた。」

 

「…だった…ら…もっと…驚いた顔…したら…どうなのよ…ゴフッ…。」

 

ゆらゆらと立ち上がる。お腹…寒いし、痛い。でも、これが私の覚悟だから。刀を握る手に血が滲まんばかりの力を込める。

 

「また…力んでいるか。」

 

…件の仇は鼻で笑い、呆れたように息を吐いた。私は落ち着くように息を吐く。そのままただ刀を構えて、足を半足引く。

 

「…参るッ!!」

 

再び地面を蹴り、信じたのは…横薙ぎ。全ての力を乗せてそのまま振り抜く。楼観剣を信じて…真剣に切り裂く!!

 

「妖怪の鍛えたこの楼観剣に切れぬものなどあんまりなぁぁぁいッ!!」

 

「ほう?」

 

吸血鬼は私のその一撃を刀を縦に下ろして受け止めようとした。…しかし…。

 

「ハァァァッ!!」

 

「…!!」

 

横薙ぎの一撃は吸血鬼の胸を切り裂いた。…手応えありだ。私は倒れそうな体を足の力だけで受け止める。何故か知らないけれど…体に力が入らない。

 

「…う…ぐっ…やっ…た?」

 

「…素晴らしいッ!!」

 

…その期待は簡単に打ち滅ぼされた。妥当だ。こんな斬撃でやられるなら幽々子様があんなに言うわけがない。嬉々とした声が目の前から聞こえてくる。死んでいた目も何故かキラキラ輝いて…。

 

「素晴らしいぞッ!!白玉楼の剣士。先程の期待外れといった言葉…撤回しよう。存外、楽しめたッ!!」

 

「う…そ…そう…ですか…。」

 

「…しかし、もう終わりか。」

 

吸血鬼の目が急激に温度を失う。暗殺者の目、そのものだ。そのまま刃を私の首に突きつける吸血鬼。

 

「…余の前に立ったのだ。このぐらいは理解してよう。」

 

「…ええ…。」

 

手記にはこう書いてあった。『この男は弾幕勝負を好まない。一貫して男はなんでもありの喧嘩を好む。殺し合いを挑まれたら最後である』と。私はこの男を満足させられる喧嘩相手にはならなかった。だからこそ、ここで死ぬのだ。

 

「…一つだけ…。貴方は…なぜ…喧嘩を…好むのですか…。」

 

だからこそ、気になった。死にゆくものの最後の言葉とは思えないだろう。男は羽根を畳み、刃を首元から遠ざける。

 

「そんなことは知らん。」

 

答えはこれだった。何もないような顔で私を見定めるようにそう言い放った。

 

「食べるのは生きる為、眠るのも生きる為。何のためだと聞くのすら今更馬鹿馬鹿しい。余はただこの喉の乾きと飢えを満たすために戦いを望む。己の途方も無いほど長い生。その生の中で余は戦いに享受し、強さを求め…妹らとまだ見ぬ明日を生きる。生きている限りは余は挑戦者。対価はこの命。学ぶことを諦めたものに明日はない。だからこそ、戦うのだ。」

 

「…そう…ですか…。」

 

「ではな。貴様の成長を楽しみにしている。まだ殺すに値しない。」

 

吸血鬼がその場から出ようとしたその瞬間だった。大地に激震が走る。吸血鬼が口角を上げてニヤリと笑った。

 

「…西行妖。目を覚ましたか。」

 

「…え!?」

 

…その言葉を聞いて背筋がだんだん冷たくなるのを感じる。西行妖のある場所には幽々子様が居るはず…。立ち上がって走りたいのに身体が言うことを聞かない。

 

「…幽々子様…幽々子様…!!」

 

ただ名前を呼び、足を動かそうとする。だが、意識とは別に足はぴくりとも動かない。傷だらけではない。ただ動かす体力はない…ような気がして仕方ない。なんでこうなったかはわからない。頭がぐしゃぐしゃだ。

 

「動いて…!!動いてよぉっ…!!」

 

叩かれる足は真っ赤に腫れてくる。痛みなんて知ったものか…早く幽々子様の所へ行かなくちゃ…いけないのに!!

 

「…全く。本当に手のかかる。」

 

「うぇっ?」

 

悲惨さはりんごのように赤く腫れた右足が教えてくれる。動けない足なら切り落とそうか。なんで考えていた時だった。私の体が持ち上がる。…いや、あの吸血鬼が抱き上げたのだ。

 

「連れて行ってやる。」

 

「…なんで…。」

 

「…汝はまだまだ成長する。死んでは困る。だから、連れて行く。これほどまでに単純な理論があるか。」

 

…そう言って吸血鬼は私を抱き抱えて、そのまま走って行った。主人の居る場所に。




相手から見るお兄様
・なんか知らんけど体力が減っていく。
・傷つけてもすぐ回復する
・そもそも霧になって避けてくる
・攻撃が当たらないし、攻撃の規模が化け物じみてる
とかいう絶対に相手したくない人。勿論、弱点もあるしそのうち書きたい。

妖夢戦書いてて妖忌との話も書いといたら良かったなぁって。勿体無い。そのうち書きます。いずれは。では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。