紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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だいぶ遅れて明けましておめでとうと言わせてください…。
いやぁ、話を考えることとリアルが忙しく遅れてしまいました。リハビリ程度なので温かい目で読んでくださいな。では。


宴会・春雪

博麗神社は桜満開。

桃色の花弁が春の暖かな風に乗り、青空に色を生やす。此度は宴会。冬の雪解けにはちょうど良い機会である。

 

「ご主人様。」

 

咲夜があれよあれよと食事を運ぶ。

手には日本酒。米特有の甘さが喉を通るものの、いつものワインの方が好みである。

 

「良かったな。」

 

「何がです?」

 

余の声に横に座る咲夜がキョトンとした目を向ける。背の違い故に彼女の目線は上を向く。

 

「魂魄妖夢…それに、八雲藍のおかげで汝一人でこの大宴会を切り盛りせずに良くなった。」

 

人も妖も増えている。霊夢の人柄か、成り行きか。霧の異変の時よりも人は格段に増えている。この少女一人ではかなりの重荷になるのではないかと…いや、咲夜だからそんなことはないだろうが。

 

「でも、ご主人様に食して頂く私の料理が減ってしまいますわ。」

 

嬉しいことだろうに、本人は何故か不服そうだ。…いつも誰の料理を食べているのだろうか。少し疑念の困った目を向けるものの、風船のように膨らんだその顔はさらにムッとする。

 

「安心せよ。汝のものか、そうでないかなど簡単にわかる。それにいつも汝の料理を食ろうているのだ。今ここにある料理よりも数段多いだろう。」

 

「…その日その日の愛情が違うんですぅ。」

 

「不貞腐れるな。餓鬼が。…腹に入れば皆同じだ。」

 

盃を片手に重い腰を上げる。

 

「少し挨拶をしてくる。」

 

今宵は咲夜と共に来た。レミリア達は少し遅くなる…とだけ聞いている。

 

「いってらっしゃいませ。」

 

咲夜は名残惜しそう…でもなく、機械的に頭を下げてそう言った。向かう先はいくつか…まぁ、最初は決まっている。博麗神社の賽銭箱近く。中へと続く木の階段には紅白の巫女が座っていた。

 

「息災か。霊夢。」

 

「お兄ちゃん。」

 

氷のように無表情だった顔が少し柔らかくなる。階段には酒瓶が一つ置いてあった。一人で開けたのか…。

 

「少し顔が赤いな。」

 

「このぐらいじゃ酔わないわよぉ。」

 

…呂律も乱れている。勿論、多少いつもより…だ。このぐらいなら二日酔いだのなんだのに頭を悩ませるほどではないが。飲むペースは考えねばな。

 

「…ねえ。なんで最初っから動かなかったの?」

 

…と、急に霊夢が聞いてくる。

 

「何を急に…。」

 

「この前の異変よ。…お兄ちゃんほどの物好きが危険に飛び込まずにじっとしてるなんて信じられなかった。魔理沙が火をつけに行かなきゃ…。」

 

盃の中に花弁が浮く。霊夢の言葉は正しく普段の仮面を外した姿なのだろう。

 

「余が行かずとも汝が居ただろう。心配は無用だった。…それにあの化け物は余と同じだ。」

 

「おな…じ?」

 

「奴は春と共に、死の匂いを吸収している。人を愚者を殺しすぎたもの。それが桜の姿をした化け物。…根の張った下には無数の死が埋まっているのだろう。それが西行妖だ。余が行けば、それに水を与えるようなもの。紫はそれを危惧したに過ぎん。」

 

同類項にまとめるほど、自身を過大評価してはおらん。あれは生き過ぎた化け物である。

 

「もう子どもではない。余に頼るのは本当に勝てぬ相手の時だけにしろ。…まぁ、汝の勝てぬ相手などこの世には見当たらんかと思うがな。」

 

「…ん。」

 

酒に口を添えると霊夢は余の肩に頭を預けてきた。

 

「…なんの真似だ。」

 

ギロリと霊夢を睨む。我ながら不貞腐れたような声が出たものだが、霊夢はお構い無しであった。

 

「…少しはゆっくりしましょ。あんなのと戦ったんだから。」

 

無難に言えば暑苦しい。

春の陽気のせいでさらに…だ。

 

「妹が兄に甘えるくらい普通でしょ?」

 

そう言って霊夢はにっこりと微笑んだ。その顔を見て自然と頭に手がいく。もう子どもではない。…いや、子どもなのかもしれない。博麗霊夢はどこから来たのか。博麗の巫女はどこから来たのか。その出自は八雲紫と博麗神社の祭神のみぞ知る。この子が孤児(みなしご)であれ、余の妹分であることには変わりえぬ。

 

「…汝はめざといな。」

 

「それ、どういう意味よ。」

 

次はむすっとした顔で。百面相のようなその顔がやけにキラキラとして見えた。このキラキラに妖怪も人間も神さえも惚れていく。それが博麗の巫女であり、博麗霊夢なのだ。

 

「汝は変わってくれるな。」

 

「え?」

 

立ち上がる余に小首を傾げる霊夢。

…そう、人間は変わる。裏切る。かつて人間と交流を持とうとした我が父がそうであったように。再び危害が加わるとデマが出れば、それを信じ、化け物と罵る。

 

「…いや、なんでもあるまい。また。」

 

「え?あ、うん。」

 

挨拶回りは欠かさない。霊夢に時間を使うのは今度で良いだろう。…さて、此度の元凶の元へと行くか。

 

「お、ルディウスじゃねえか。」

 

足を動かすと偉く陽気な声が聞こえてくる。後ろを向けば、そこには白黒の魔法使いともう一人…小さな人形を周りに侍らせた女が立っていた。普通…ではあるまい。えらく匂いが強い。体臭ではなく、魔力だ。

 

「…汝も居たのか。」

 

「そりゃ、居るだろ。宴会だぜ?」

 

そう言って小娘は歯を見せて年相応に笑う。霊夢の方が大人びて見えるのは此奴が居るからだとも思える。

 

「その隣は。」

 

余がそう言うと霧雨魔理沙はキョトンとした顔でこちらを見る。…その顔で見たいのはこちらである。

 

「は、初めまして…。アリス・マーガトロイド…です。」

 

…金髪の少女はそう言った。何故か、萎縮してしまっているが、高圧的に見えたのだろうか。

 

「アリス。そんなに怖がることないぜ?こいつ、こう見えてただのシスコンだからっ!!」

 

「…殺すぞ。」

 

…代わりに霧雨魔理沙の方は大分と余裕綽々といった様子だ。代わりに睨みつけてやったが。アリス・マーガトロイドの方を見ると…何やら奇妙な糸が見えた。薄く細い…極細の糸である。

 

「魔力で編んだ糸か。」

 

「わ、わかります?」

 

「…敬語など不要だ。そこな不躾女にもその礼儀を教えてやって欲しいがな。」

 

抗議の目を向ける霧雨魔理沙。アリス・マーガトロイドは少しこっくりと頷くとすぐに口調を変えた。もはや、敬語云々などどうでもいい話である。

 

「霧雨魔理沙。」

 

「なんだよ?」

 

「これから元凶の元へと行く。…ついてくるか。」

 

そう言うと霧雨魔理沙はニヤリと笑った。肯定の合図だ。成り行きでアリス・マーガトロイドもその後ろからひょこひょこと着いてくる。

 

向かったのはより一番満開の桜の下。そこには見覚えのある水色の着物を着た麗人が座っていた。その隣に立つ白髪の剣士は此方に頭を下げる。

 

「えらく大事を起こしてくれたな。亡霊姫。」

 

その言葉に扇子が閉じる。

 

「あら。悪口?」

 

「呆れているのだ。汝の好奇心に狂わされた。…そのケジメは取れるんだろうな。」

 

ゆっくりと腰を下ろす。女は柔和な笑みを浮かべていた。このふわふわとした感覚は随分と苦手だ。白玉楼の住人は皆、余とは相性が悪いようだ。誠にくだらん。…生憎とこの女に付き合うほど暇では無い。余の興味は…。

 

「で。…それがあの男の忘形見か。」

 

隣の半人半霊の剣士に向けられた。唖然とする剣士を見て亡霊姫はゆっくりと盃を煽る。

 

「あれは面白い余興だったわ。彼は今回のことを予見していたのかもね?」

 

「…汝は反省という言葉を知った方が良さそうだ。」

 

「あのぅ?」

 

…当の本人は蚊帳の外。

魂魄妖夢は不思議そうに此方を見つめる。

 

「妖夢、座りなさい。きっと話してくれるわ。ねぇ?」

 

それを察した亡霊姫…もとい、西行寺幽々子はたおやかな笑みで此方を見る。この女はいつ何時でもその顔から笑みを無くさない。

 

「記憶に留めたくも無い苦い記憶だ。忘れたくても忘れられん。」

 

「お酒の肴にちょうどいいわ。」

 

「全く。」

 

目に入るのは興味津々と言わんばかりに目を輝かせる魂魄妖夢と霧雨魔理沙であった。仕方がないと盃に酒を入れ、喉を潤す。

 

「馬鹿馬鹿しい話だ。…昔、白玉楼では、余と着いてきた阿呆どもが弾幕や能力について鍛錬を行っていた。殺さない戦い…というものの為に。だが、そこに奴は現れた。」

 

「やつ?」

 

霧雨魔理沙は小首を傾げ、アリス・マーガトロイドと目を合わせる。

 

「老父の姿をしたアレは鬼だった。武人であった。…そして、元来稀に見るただの化け物であった。…それの話を…特別だ。してやる。」

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