紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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激昂

「…。」

 

我が城、紅魔館の聳え立つ霧の湖には何の因果か、妖精たちが群がっているようにも見える。群生地とは何かしらの意味を持って生まれる。例としてあげれば、人間は同意見のものを理解し、好み、反対意見のものを排他する…それと同じく、妖精はか弱くいたずらにしかその脳を使わぬため、群れねば弱く…そして、簡単に消え去ってしまう生き物だ。妖精たちにとって群れることは生きること。

 

「…その中に汝ほどのものがいるとは今でも驚いている。」

 

「…。」

 

ルーミアはただこちらをキッと睨むだけ。

…血の匂いというのはいくら洗っても消えぬもの。たとえ、心の底から懺悔したとして、妖怪にも人間にも生き方は否定できぬ。この女は幼い形をしているが、それは虚像。血の匂いは吸血鬼でなければ吐き気がするほど濃いだろう。まさしくそれは…強者のもの。

 

「…こんなところか。」

 

溢れ出る妖力はその濃さをただ放出するだけ。じきにこの女もその闇の制御の仕方を理解し、身につけるだろう。

 

「なにしてんだ?さっきから。」

 

「なんでもないよ〜?」

 

同伴者、霧雨魔理沙にルーミアは屈託のない笑みを返す。まさしく、体相応…年相応の。なんとも…笑いが込み上げてくる。その演技をこの女は幾度となく繰り返しているのだ。

 

「…なによ。」

 

「なんでも。」

 

睨まれ憎まれ口を叩かれる。

余にそんなことをしてくるのはこの女と…後は文ぐらいか。生きるということはまさしく面倒だろう。どこの世界にも強者に尻尾を振り、弱者は虐げられる。それを…余の口から言うのは流石に。

 

「して、何をしにきた。まさか、あの異変の今日で…余と手を合わせるとでも言うのか?」

 

「あ?そのまさかだよ。ルディウス。」

 

…尋ねてきた理由はおおよそ見当がついていた。歯を見せて笑う人間にふっと息を吐く。横を見れば先ほどの闇の人食い妖怪がほくそ笑むように笑う。ミニ八卦炉がこちらを向く。

 

「いきなりとは…中々に茨の道を選ぶようだ。」

 

「お前、好きだろ?喧嘩。…なら、私が相手してやるよ。」

 

「…。」

 

その言葉は奇しくも平和ボケした己の脳を大きく揺さぶる。なんとも魅力的な提案だ。空気が歪む。翼を広げ、ゆっくりと天へ浮かぶ。霧雨魔理沙から汗が吹き出す。

 

「遊びだぞ。…殺し合いじゃない。」

 

「…残念だ。汝と余では遊びにもならない。」

 

嘲るように笑うと霧雨魔理沙が一瞬、ムッと口を紡ぐ。直後、何の前触れもなく、虹色の弾幕が飛んでくる。

 

ある意味で正確だ。空中を飛び、それを外す。

 

「小細工なんて性に合わんだろう?お互いな。」

 

左手にまとわりつく炎。

それは空中で霧散し、いくつかの火球を形成する。

 

霧雨魔理沙は感がいい。すぐにその様子を確認するなり、飛んでくるであろう攻撃に対して魔力の壁を張る。かなり薄いが彼女の速さなら避けられるだろう。

 

「王火『紅色の花婿』」

 

炎はさまざまな形で分散。1段階は小さく速く、2段階は大きくゆっくりと…そして、3段階めで纏まり、炎のレーザーとなる。

 

ただ霧雨魔理沙はそれすらも外してみせる。詰めが甘いのは、箒が少し焦げたところから知れる。

 

「くらえッ!!恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

炎のカーテンから現れるのは彼女の代名詞、マスタースパーク。高火力の虹色のレーザー砲と一言では言うが、厄介この上はない火力をしている。要はなめれば死ぬ。簡単な話だ。

 

「だが、直線的だ。」

 

そのまま横を通り抜け、霧雨魔理沙の懐へと入る。

これが一番容易い。

 

「ッ!?」

 

「さて、どうする?」

 

口角が上がる。汗が吹き出す霧雨魔理沙の懐へ拳を捩じ込む。体勢を崩した彼女はそのまま地面に墜落…と思いきや、スレスレで持ち堪えた。

 

「へっ!!」

 

即座に踵を返し、地面を蹴り、空へと戻る。

 

「行くぜッ!!魔符『スターダストレヴァリエ』ッ!!」

 

「…ほう?」

 

その勢いは減速することなく…否、増しながら急激に加速しながらこちらへと迫ってくる。星型の弾幕を箒の尾から出し、箒ごとこちらへと迫り来るその様はまるで砲弾のようだ。

 

「いっくぜぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」

 

所詮は諸刃の剣。

差し迫ってくるその一撃は簡単に避けられる。だが、星型の弾幕が少々厄介か。

 

「…ならば、これの使い方を考えるが吉。」

 

戯れならば、自身の学びに還元する。

殺し合いならば、自身の弱さを認める。強者はずっとそう生きるもの。

 

右手から溢れ出すそれにルーミアが目を見開く。唖然としたのも束の間、口から血が溢れ出んばかりに歯軋りをし、此方を睨みつける様は仁王のようだ。だが、己を強くするならば手段など選んでおられる。

 

黒色の布のようなものが右手を覆う。そのまま視界はブラックアウト。霧雨魔理沙共々覆い尽くし、空を夜へと変える。

 

「なんだぁ!?」

 

「…ルディウス…ルディウス・スカーレットォォォッ!!!!!」

 

大地が爆ぜるような声がルーミアから聞こえる。

目から涙を流しながら此方へと向かってくるが…明確な殺意を孕んでいる。霧雨魔理沙は驚愕。…此方としては想定内といったところか。

 

「おい!?どうしたんだよッ!?ルーミアッ!?」

 

「…世の中は物々交換だ。己ばかりが私腹を肥やして居ればいずれそこにあるのは破滅のみ。…良い教訓だな?闇の人喰い妖怪よ。」

 

…余の周りには紫色の魔法陣が立ち並ぶ。これも、ルーミアからの良き選別よ。

 

「私からッ!!私の力をッ!!吸ってたのねッ!!このクソ野郎ッ!!」

 

ルーミアは怒号を上げながら、大量の弾幕を打ち込んでくる。…それは戯れなどではない。怒りに染まり、霧雨魔理沙をも殺しかねない全力。速度も密度も避けることはままならない。静かに、冷徹に…余は右手を前へと翳す。

 

「その人間を壊すな。…余も気に入っているのだ。」

 

次の瞬間だった。上空から大量の闇の雲が滝のように弾幕を飲み込みながら降り注ぐ。その地面との衝突時に発生した突風に霧雨魔理沙とルーミアは流される。突如として、現れるのは…何事もなかったとする晴天の霧の湖だった。

 

「…貴様…ッ…。」

 

「…あの闇の濁流を喰らってなおも、立ち上がるとは…。」

 

衣服はボロボロ。髪は乱れ、皮膚には泥がまとわりついていた。それは後ろにいる霧雨魔理沙も同じだろう。…余の声は己でも驚くほどに冷たい。右手の感覚がない。腐食したか?汚染されたか?…ふむ。息をするように右手を切り落とす。また、咲夜に怒られてしまうな。

 

「私の力を…蓄えていたのね…ッ。」

 

「何の利益もなく、汝の力を抑えるわけがなかろう。逆に感謝するが良い。その身体を留めておけるのは余の力のおかげよ。これぐらいは対価だ。」

 

「ふざけるなッ!!…私をずっと…騙してたんだ…!!」

 

「何を勘違いしている。…そもそも、少し貰うという話だったはずだろう?忘れているのは貴様だ。」

 

子どものように泣き叫ぶルーミアを静かに睨みつける。そう、あの時は少し力をもらう代わりに幼子の姿に止めるという話だったはずだ。話をすり替え、恩義を忘れるとは…愚図の極み。

 

「全然、少しじゃなかった…!!アンタは私からどのぐらい吸い取ってたッ!?」

 

「…チリも積もれば…何とやらというやつだ。喰らう量は変わっておらぬ。」

 

「嘘だッ!!…あんなの…ちょっとでできるわけがない…。」

 

…否、違うな。

認められぬのだ。その怪奇的な現象を。圧倒的な力を。この大妖が怯えるほどの力だったというのか。確かに代償は高くついたか。

 

「長らく燻っていたものが助長したのだろう。…故に暴走した。全ては己の未熟さ故だ。だが、仕方あるまい。アレを守るのに全力を尽くした。貴様が全てを滅ぼそうとしたからだ。」

 

アレ…霧雨魔理沙はまだ眠っている。頭から落ちたわけでもなく、命の匂いはまだまだ臭いほどに香る。高濃度に魔力に触れたから…だな。今は生きていても、そのうち死ぬだろう。

 

「…あれは戯れでは済まんぞ。」

 

「え…だって、アレは…。」

 

「動揺した?…くだらん妄言を吐き散らかすな。貴様の言葉を借りるならクソはどちらだ。人の道など何の値打ちにもならず、我々には歩むことすら許されぬもの。されど、この箱庭にいるのなら…殺していいものと殺してはならぬものの区別ぐらいつけよ。」

 

…いじけた子どものようにルーミアは黙っている。いくら、余を嫌っていようといまいと、今回悪いのはこの女なのだ。一般的な知能は持ち得ているだろう。…さて、おしゃべりをしている暇ではあるまいな。まだ気絶している霧雨魔理沙を担ぎ上げる。

 

「ねえ。」

 

その言葉は背後から聞こえた。

歩みが止まる。

 

「私も…行く。」

 

「…勝手にしろ。ただ、汝を労うことはできんぞ。」

 

背後を向くことはない。

そのまま紅魔館の門を通った。




※作者はルーミアが嫌いなわけではありません。むしろ好きです。本当です。
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