「…またか。」
出かける準備を始める咲夜に自然と声が漏れる。咲夜の顔を見れば少々疲れが見える。
「何度も何度も呼び出されてはかなわんな。」
「しかし、白玉楼の庭師だけでは足りませんので…。」
3日に1回。その異常な頻度に難色を示す。
咲夜が宴会に駆り出されている。無論、場所は博麗神社に決まっている。あの“霊夢”が何の違和感もなく場所を貸している…というのも大変妙な話だ。十中八九、気づいていないのだろうが。
「門前で見送ろう。また夜だ。」
「ありがとうございます。」
先に飛んでいく咲夜を美鈴と共に見送る。
妹たちは依然夢の中、パチュリーは動かない。顔を出せば良いのにと言ってもやつと図書館はひっついているのではないかと思うほどそこから動かぬ。まぁ、ここまで毎夜のことであれば、うんざりしてしまうのであるが。
「妙だ。」
「人間が祭り好きなのは今に始まったことじゃないでしょ?」
隣の美鈴が真顔でそう言った。
ハロウィン、クリスマス、そして、元日。人間はあらゆる記念日を祝い、過ごす。彼らにとっては何気ない日も祝い日なのかもしれない。確かに宴会は悪くない。己には月夜にワインを傾け、嗜むのが合っているのだが、賑やかに清酒を傾けるのも悪くない。だが、流石に多すぎやしないか。
「人間と私たちの時の流れは違うもの。毎日でもお祭り騒ぎしたいんでしょ?」
「…わかったような口を言う。」
「まぁ、おかしな気の集まりは感じるけどね。」
咲夜を霊夢が呼び立てるので紅魔館は一部を除いて毎度顔を出すようにしている。なんとも殊勝なことだが、それは白玉楼も同じ。だが、皆が享楽を演じているように見える。
「なんとも異な。」
「本当、アンタと会ってから奇妙なことばっかりね。」
腰に手を当てやれやれと呆れた様子で余を見る。大凡、背丈も同じのため、見下すほどではない。
「だが、飽きぬだろう?」
「アンタが胸張ることじゃないでしょ…。でも、大丈夫なの?」
…その言葉に自然と眉間に皺が寄る。
美鈴も整った顔が難色を示していた。
「咲夜…か。」
「咲夜ちゃん。気がだんだんとすり減ってる。ちゃんと寝てる?」
顎に手を当て思案に暮れる。
奴は自身を犠牲にするタイプの人間だ。ならば、時を止めて眠れば良い。…いや、あの愚か者はしないだろう。
「…時を止めれば僅かな余波を感じる。たった僅かなきっかけだが、感じようと思えば感じられる。咲夜は愚かにも余の生活に干渉する時には能力を封印することとしていた。」
「なら、寝てないわね。」
「問題ない…といつも言っているのに。…阿呆め。」
…こちらも休めと言っている。というのに奴は…頑なに紅魔館の業務もこちらの宴会の引き立て役も全てを全て引き受けてしまう。十六夜咲夜の生き方に起因しているのか、あるいはその真面目さ故か。
「…怒ってる?」
美鈴が真剣な顔でそう言った。
「…まだ倒れてすらおらぬ。」
「随分と…甘くなったわね。」
「…ふぅ。」
…息を吐けば見渡すのは紅魔の赤の生える蒼天。今宵は星々の輝くいい月夜…だろうか。
「…博麗神社が血に染まるか。」
そう言い残して徐に…館へと戻った。
…時がたち、時刻は夜。
馬鹿騒ぎに馬鹿騒ぎ、数日おきの宴会だというのに人々は飽きを示さず、妖怪はあいも変わらず…ただただひたすらに馬鹿に騒ぐ阿呆ばかり。
石段を登り終え、余が向かうのは社にいるこの神社の主である。
「…博麗の巫女よ。」
その問いにかの者はただ正面を向くばかり。
「何も…気取らぬか。」
「…この宴会は、何度目よ。」
「数えてなどおらぬ。ただ…仕組まれているものである。」
そう言い残すと博麗の巫女を置いて空へと浮く。妖怪も、妖精も、亡霊も、人間も…全てが異端たる余を見ていた。
「…貴様はずっと我らを見ていた。」
その言葉に周りはざわめく。特にうるさいのは…。
「あ?どうしたんだ?ルディウス。」
何も気づかぬ霧雨魔理沙である。その手には酒瓶。…愚鈍な女だ。されど満月のスポットライトに照らされし余はだれよりも目立ちながら言葉を綴る。
「姿を表せ。…異なる者よ。いや、随分と…懐かしい匂いがする。」
霊夢がゆっくりと上に上がってくる。余の隣に浮かび、話を続ける。まるでそこだけが切り取られたかのように。その一帯だけが静寂に包まれていた。
「ご主人様…。」
咲夜の顔から疲労が見える。
「…不愉快だ。姿を表せ。…鬼。」
その瞬間、周りの霧が一挙に集まる。舞台は空。そこにそれは現れる。栗色の髪、2本の尖ったツノ。嫌に小さな体躯。…間違いなどない。
「あれー。ばれちゃった。」
「…小さい…けど。」
霊夢もわかっている。その目はキツくその鬼を見据える。鬼はニヤリと笑い、手に持つ盃を浴びるように飲んだ。
「ぷはぁ…。何が不満なのよ…。三日三晩宴会。誰も彼もが辛いことからも嫌なことからも逃げて、美味い酒を飲んでさぁ。みんな楽しんでるじゃない。」
「…鬼にしては不遜な輩だ。」
酒を飲み、言葉の端々に少しだけ嘘の香りがする。鬼とは元来嘘を嫌い、誠実に生きる者。気だるげに笑うものの…その力は強大そのもの。紛れなく…鬼である。
「鬼の何がわかるんだか。逆に私はアンタを見てきたよ。懐かしい顔で…しかも、自分が絶対的に強いと思ってる。鬼の名を語る馬鹿野郎。」
「…ほう。」
「…本来ならば出る気はなかったでしょ?そこの巫女に気づかせたかった。だけど、あれか。あの片付け係がとてもとても衰弱していくのが見たくなかった。優しいねえ。偉いねえ。…だが、仲良しごっこもここまでかな?」
…ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ煩わしい。
指を空間に這わせ、空間を指2本できりさく。その亀裂に手を突っ込み、手に入れるのは『玄天』。鞘を抜くと余を中心に竜巻が舞う。
「…鬼を殺したとなれば妹たちにいい話を持っていけるだろうか。」
「はぁ?勝てる気でもあるのかしら?」
鬼は余裕そうに酒を飲む。
霊夢も出そうになるが…この女だけは余の手で屠らねば気に食わぬ。久々に不遜で…心がたぎる。そうだ、鬼とはこのようなものだった。
「名乗れ。小娘。」
「…伊吹萃香。アンタは私には勝てないわよ。絶対に。」
「…試してみろ。」
ちょっとずつ再開していきます。とりあえずvs萃香。萃香は強いです。多分きっと。