死にゲー裏ボスお兄さん 作:くるみ
プロローグ
顔に張り付いた、ニコちゃんマークの描かれた紙。
ズタボロのベージュのコート。
筋肉質の肉体に、白いシャツ、黒色のズボン。
そして周囲の光景は瓦礫で埋まった東京の中心。
一番巨大なビルは崩れ木々が巻きつき、唸り放浪する人間たちの姿。
中には普通ではない、バケモノの姿まである。
俺の格好に覚えはないが、この景色には覚えがあった。
前世で死ぬほどやり込んだ死にゲー。
『アポカリプス・サバイバー』と言う、ど直球なタイトルのゲームだ。
内容は……まぁ、タイトルのまま。
終焉を迎えた地球で、死ぬとチェックポイントまでに戻る能力を得た主人公が、何度も死にながら狂人たちと戦い、人類の生存圏を増やして行くってゲームだ。
難易度がぶっ壊れており、死に覚えゲーの極致みたいなゲームだったのを覚えている。
どんな攻撃を仕掛けてくるか、どんな行動パターンを持つか。
ありとあらゆることを覚えていないと、まともにボスと戦えないゲームだったなぁ。
で、そんな世界にどうやら俺は転生してきてしまったようだ、
ただし……自分のこともよくわからない状態で。
まず自分の格好だが、ゲーム内でこんな装備はなかった。
と言うか、襲われていないし、喉の乾きも腹の減りもないところを見るに、どうやら俺は
確かにボスは会話はできずとも、自意識を持っているような描写はあった。
と考えると……俺はボス格の狂人に転生した、と考えるべきか。
「……ここどこなんだ?」
一応声は出せるが……これは……意味を成していない?
でも、喋った言葉自体は通じる気がする。
同じ狂人ならば、だが。
……多分、普通の人間相手に話しかけても、無茶苦茶な言語にしか聞こえないだろう。
「……取り敢えず、移動するか」
しかしゲームでは見たことある奴らがいる割に、周囲の風景は見たことがない。
俺は見たことある風景を求めてフラついた足取りで歩き出す。
狂人、って割には意外とちゃんと動ける。
この世界の狂人は基本的に、ゾンビみたいな動きしかしないからな。
まぁ、ボスは例外だが。
「ここら辺は……場所的に、最初のエリア周辺か……?」
少し歩き回っているとオフィス街に出た。
ビルが立ち並び、ボロボロになった車がいくつか止まっている。
狂人たちはビルに入ったり出たり、物を壊したりと意味のない行動を繰り返している。
「てことは……まだシナリオ自体は進んでいない、か」
最初のエリア、か。
懐かしいな……初見殺しが酷すぎて投げ出しそうになったエリアだ。
なんせ少し道を外れビルに入ると、本筋とは関係のないボスが出てくる。
のだが、そいつが異常に強い。
攻撃しようとしたら、隠密で姿を消しほとんど瞬間移動する。
しかも距離を取れば銃による回避不可能攻撃仕掛けてくるし。
無理無理無理ゲー……一応倒したけどさ。
「普通の人間とは、会いたくないな」
もし今、普通の人間と出会うことになったら。
間違いなく俺は攻撃されるだろう。
対抗手段もない俺は、多分殺される。
そして俺自身、あまり人間を攻撃したくない。
そんなこと言ってる場合じゃないのはわかってるんだけどな。
「……武器を探すか」
一先ず、身を守れる程度の武器を探すべく近くのビルへ。
ゲームだと死んだ人間の物が残ってたりするから、ここでもそこから武器を手に入れられるはずだ。
ビルの中はだいぶ崩れている。
上の階の床はいくつか落ちてきて、まるで吹き抜けのようだ。
死体の山が瓦礫の上に重なっているが、どれも狂人のもので……少し臭い。
この感じだと、武器はあまり期待できそうにないな。
「だ、誰だ!!?」
突然、そんな声が瓦礫の向こうで聞こえる。
その声に驚き振り向くと、銃を構えた男が一人、そこに立っていた。
最悪だ……もう出会ってしまうとは。
狂気。つまり、こちら側ではない、普通の人間。
出会いたくないと言ったそばからこれだ。
どうする……会話は、不可能。
接触しようとも、俺が殺される可能性が大。
どうしようもねぇな、これ。
「狂人か!?」
俺のフラついた足取りを見てか、それともこの妙な顔を見てか。
男は銃を構えて引き金を引いた。
火薬の匂いが鼻に突き刺さり、弾丸の音が耳に響く。
すごく……なんというか、妙な感じだ。
どういうべきか……
ありとあらゆる感覚が超越して……説明むずいな、これ。
まぁ端的に言えば、放たれた銃弾を目で見て避けるのが余裕、ということだ。
俺の額を狙った弾丸を、顔を少し横にずらして避ける。
弾は後ろの壁に突き刺さった。
「くっ……!?」
銃弾を放つ轟音とともに、三発ほど撃ち放たれる。
気づけば、無意識のうちに体が動いていた。
ただ抵抗しよう、その感情一つで。
「ヒィッ……!!?」
男の腕を右手で掴み、地面に叩きつけて顔面を近づける。
そして気付いた時には左手で、顔に張り付いた紙を捲り上げていた。
「あ……」
顔の下を見た男の表情が変わる。
その感情を表現するのは些か難しいだろう。
理解できたのは……俺の顔を見た時点で、男は既に
「今のは一体……体が、勝手に動いて……」
正気? ……に戻った俺は男から距離を取る。
男はおもむろに立ち上がると、唸りながら徘徊を始めてしまった。
まるで……狂人のようだ。
少し近づいてみるが、男は俺のことを認識していないようだ。
それにこの顔の状態は……!
「おい……おい、マジかよ」
これは、間違いない。
俺の狂人としての能力、それは他者を狂人に引きずり込む能力。
それはゲームでも存在が仄めかされた程度の存在。
それも世界をこんな状態にした元凶として。
「……は、はは。まるで、まるで──」
今の俺の存在は、まるで──
「裏ボス、みたいじゃねぇか」