死にゲー裏ボスお兄さん 作:くるみ
ビルの中でボロボロになったソファに座る。
一先ず、自分の現状と、この世界について振り返ろうと思ったからだ。
てか、一旦ちゃんと考えないと、混乱し過ぎてやばい。
なんせ現状理解できていることが一割にも満たないだろうから。
「……取り敢えず。舞台、についてだな」
まずこの世界についてだが。
現代より未来に存在する地球、とは言ってもそう遠くない未来だ。
場所は東京で、ジャンルはオープンワールドアクションRPG。
システム的にはダ◯ソやブ◯ボに近いかもしれない。
設定で言えば……現代地球でパンデミックが発生、死亡した人物が突然生き返って他人を襲う……まぁ、ほとんどゾンビものと変わりはない。
ただ一つ、特異点を持つ狂人以外は。
『特異点』、それは狂人たちのある意味では究極点と呼ぶべきか。
ゲームのプレイヤーからすれば、『ボス』と呼ぶべき存在。
奴らは生前と同等の知能を持ち、そして復活の際になんらかの能力を与えられる。
倫理観諸々と引き換えに。
そして特異点には全員話はできるものの、会話はできないと言う特徴もある。
悉く無茶苦茶なことを言いつづけるのだ。
ただ狂人同士で会話みたいなことをしているシーンはあった以上、狂人同士ならば会話できるのかもしれない。
「そう考えると……今の俺って、ボスと会話できる、のか?」
少なくとも今の俺は狂人であると言える以上、会話ができる可能性がある。
だってこんな能力、狂人以外ありえない。
近くで歩き回っている、さっき狂人にした男を見ながら考える。
もし俺が人類の生存圏に立ち入ったら。
その瞬間、壊滅を迎えるのだろう。
俺の能力によって。
「……ま、どうでもいいか」
近寄る用事も必要性もないわけだし。
一先ず、生存している人間は置いておこう。
原作に登場する『英雄』とかは別として。
「アレについては……いつか考えるか」
『アポカリプス・サバイバー』の主人公は人間だ。
主人公は偶然、死んだ時にチェックポイントで生き返る能力を得ただけの、ただの人間。
この世界では人間も、たまになんらかの形で能力を得る。
と言っても、そのほとんどは狂人化に対する耐性を得たことによるものだ。
そして能力を得た人間は、その類稀なる能力を使い、『英雄』となっている。
生存圏を伸ばすための、先導者として。
「……出会いたくは、ないな」
まぁ、でも……特異点と出会うよりはマシかもしれない。
人間として話の通じる英雄と違って、奴らは根本からおかしい。
目的のためなら手段も方法も厭わない、どころか。
この世、そのものをひっくり返すことすらやりかねない奴らが揃っている。
王道RPGで例えるなら……出会ったボスが全員魔王級だった件、みたいな。
強さ的にも、そんくらいは言える。
主人公が死に戻りできること以外は普通の人間、ってこと考えても。
大体の奴らが一撃で九割削ってくるせいで、防御力が形骸化していた。
攻略wikiも『ステータス割り振りは攻撃力と俊敏に全振りで問題ないです。防御? 当たらなければ問題ないでしょ?』のスタンスだったしな。
俺たちはその死に覚えに楽しさを見出してたわけだが。
俺は多分、死んだら終わりだろう。
能力はこの『顔』で確定している以上、主人公のような死に戻りはない。
「慎重に、やるべきか」
だが……何か上手く言えないが。
今なら……なんでも上手くいく、そんな感じがする、
多分今なら、この世界にいる奴らに負けることはないだろう。
それが、堪らなく恐ろしい。
「……そもそも、俺はなんで死んだ?」
前世の記憶、死ぬ寸前の記憶が一切ない。
前世のことは大まかに覚えているのに、覚えてなきゃいけないはずのことを、ちゃんと覚えていない。
忘れているとかじゃない。
すっぽりと、その部分の記憶だけがないのだ。
「……考えるだけ、無駄か」
失った記憶については考えても仕方ないから置いとくしかない。
取り敢えず、現状わかることは……さっきの光景から、まだ原作は始まっていないこと。
つまりボスは全員生存中。
そして俺はボス格の狂人……それもただの特異点ではない可能性を持っている狂人として、転生した、ってことぐらいか。
ボス全員生存かぁ。
「出会いたくない、な」
特にフィールドをランダムで歩き回るやつとか。
「少年よ!! 道を開け!!! 少女よ!! 前を見よ!!!」
聞き覚えのあるセリフとともに、突然外から声が響く。
あまりに大きな、そして
嫌な感情とともに。
「フラグ回収、早すぎ、だろ」
考えただけで出てくるのはなしだろ、普通。
近くで動き回る狂人を放っておいて、俺はビルの入り口の陰に行く。
そして陰からそっと、外を覗いて声の主を確認した。
「ふはははっ!! 我が道、妨げるもの!! なし! なし! なし! なしィッ!!!」
声の主たちは道の真ん中でズラッと長い隊列を作り、どこかへと向かっていた。
全員が全員軍服を着ており、その手には銃剣が握られている。
そして全員少女で……全員が
身長も、見た目も、なにもかも、全く同じ。
そこには個性なんてものは存在していない。
「『くるみ割り人形』、か」
奴はボス……特異点の一人『くるみ割り人形』だ。
由来は……頭を、ね。
……考えるのはやめておこう、うん。
「厄介、でしかないな」
ボスの中でも、特にめんどくさい部類のやつが出てきた。
奴は非常に耐久が脆い。
が、その能力のせいで非常にめんどくさい。
なんでこんな奴らが、こんな最初のエリアに。
「……待てよ」
そう言えばそうだ、ここは最初のエリアだ。
そして『くるみ割り人形』の行進。
この光景は……まさか、あの回想シーンか?
……という、ことは。
少し上の方を見上げてみると、人影のようなものが見えた。
そこに立っていたのは、普通の人間……しかも女子高生だ。
手に刀を持っている点を除いては、普通の女子高生だ。
「……なるほど。
彼女はプレイヤーの間で胡桃先輩と言われ、愛し親しまれているキャラだ。
回想でしか出てくるのことはないのだが、一部のプレイヤーからの偏愛が非常に凄まじい。
ちなみに胡桃先輩と呼ばれている理由は、彼女の名前が胡桃だから……そしてもう一つは──
「少女、少女、少女よ!! その蛮勇を以って我らに挑むか!!」
「これは蛮勇なんかじゃない……! 私は、この世界を変える!!」
「ふはははははははッ!! 良き前進であるぞ!! 我が好敵手よ!!! 進め進め進め進め進め進めェッ!!!」
気づけば、二人は相対していた。
胡桃先輩はビルから飛び降り、彼女たちの前に刀を手にして立っていた。
やはり同じだ。
あの回想シーンと、全く同じ。
このまま進めば、彼女たちは戦うことになるだろう。
そう、これこそが、あれこそが、彼女が胡桃先輩と呼ばれている理由。
──『くるみ』のよう、呆気なく死に行くからだ。