死にゲー裏ボスお兄さん 作:くるみ
「はっはっはっはっ!!!! いいぞ、いいぞ!! この高揚感!! これぞ戦場!! 我が戦場!!! 争え!! 戦え!! 殺しあえェッ!!!」
「ぐっ……!!」
胡桃先輩と兵隊たちが交戦中、俺はそれを陰から覗き見中。
胡桃先輩は次々現れる兵隊を片っ端から切り刻んでいるが、兵隊たちは一切怯むことなく前進。
後ろから次々湧いて出ては、彼女に銃剣で斬りかかろうとしている。
弾は一人の銃剣にしか入っていないから、それも仕方のないことなんだろうが。
『くるみ割り人形』……奴の持つ能力は『増殖』。
一人を起点にして無限に増える厄介極まりない奴だ。
一応本体と呼べる奴がいて、そいつを殺すことができれば死ぬのだが……。
そいつは銃に弾を込めている上に、自ら前線に出るためわかりづらい。
しかも前線といっても、しっかり自分の能力のことを把握しているせいで、死なないぐらいの立ち位置にいる。
見極める方法も特にないため、ほとんど無ゲーだと言っても過言ではないだろう。
ゲームじゃどうやったっけな……。
……いや、片っ端から倒して、体力を減らす以外の方法なかったな。
一応『真実の眼球』という、とあるボスを倒した時にもらえる道具を装備しておけば、本体がわかってヌルゲーにはなる。
が、その頃にはもう既に、こいつを倒し終わっている頃なのは間違いない。
「少女よッ!! 何故、恐怖に怯える!?」
「我らが同胞よ!! 何故挑む!!」
「我らが宿敵よ!! 何故戦う!!」
「我らが希望よ!! 何故立ち向かってくるのか!!? その得難い蛮勇故にか!? ……であるならば!! 進めッ!! 我らが絶望よ!!」
「進め!!」
「進め!!」
「進め!!」
「進め!!」
「進め!!」
「進め!!」
声が続く、何度も、何度も、何度も。
まるで重なるように、連なるように。
胡桃先輩の声も大きくなって行く声に掻き消されて、もはや聞こえなくなっていた。
そしてここからでもわかるくらいに、かなり追い詰められている。
そもそも刀一本、味方0の状態で戦いに挑むのがおかしい。
主人公も確かに味方がいない状態でやるが、それでも徹底的に対策を練ってくるのが普通。
というか、そうしないと勝てない相手だ。
何で戦うのか……って、理由は知っているんだけどさ。
「く、そおぉぉおおッ!!!」
「そうだ! 唸れ! 叫べ!! 声を上げろ!!! 道はここで終わらぬぞ!!!」
しかしあのままじゃ、確実に原作通り『くるみ』のように殺されるだろう。
一応あれでも、強いっていう設定のはずなんだが。
噛ませの設定感あるし、仕方ないのかもしれない。
俺は陰から覗きつつ、二人の様子を見続ける。
先輩はひたすら刀を振るって、次から次へと現れる兵隊を切り刻む。
だが、それよりも早く次の兵隊が現れては、彼女の周囲を囲んで行く。
死ぬのも時間の問題だった。
……俺は、悩んだ末に一つの結論を出した。
それは、原作の改変……つまり、胡桃先輩を救いに行く、という答えだ。
俺の体の戦闘能力は未知数だが、助けるぐらいならばできるはずだ。
ボス格の狂人である以上は。
それに原作に介入したところで、そこまで問題はないはず。多分。
そもそもゲーム自体がフリーシナリオ系統だったからな。
だから、多分、まぁ、大丈夫だろ。
「……行く、か」
俺は覚悟を決めて、陰から表へと出て戦場へと向かう。
相変わらず足は覚束ないが、前へと進んで行く。
戦場の方を見れば、胡桃先輩はもう既にやばい状況に追い詰められていた。
腕は片方使い物にならないのだろう、完全に脱力している。
足も変な方向に曲がりかけている……というのに、戦うことを止めようとしない。
逃げようとせず、ただ殺意のみが存在していた。
そこまでして、仇を取りたいのか。
俺は覚束ない足を強く踏みしめ、戦場の『領域』へと立ち入った瞬間だった。
兵隊の視線が一斉にこっちを向いた。
殺されかけている胡桃先輩も、困惑の表情とともにこっちを見ていた。
「……だ、れっ?」
か細い声で呟く先輩を一瞥すると、兵隊たちに視線を向ける。
こうやってみてみると、すごく気味が悪いな。
同じ顔で、同じ表情で、こっちをみてくる姿は。
「貴殿の名を申せ」
乱入されてお怒りなのか、いつものテンションはどこにもなかった。
しかし名前か、名前なんてなんて言えば──
「我が名は、グリム」
──……え? 俺今、なんて言った?
いや、そんなことよりも。
兵隊の一人が大きな笑みを浮かべる。
まるで子供のようで、そして待ちわびたかのように。
「あぁ……ああ!! グリム!! グリムよ!! 我らが
歓喜の声とともに、兵隊たちがまるで泥のように溶けてゆく。
そして気づけば一人の少女と、胡桃先輩だけがそこに立っていた。
「グリムよ!!
「我が友よ。今一度、立ち止まるがいい。振り返れ、そして前を見よ。友よ」
「……ふは、ははっ!! で、あるならば!! この命、今は預けよう!!」
そう言うと兵隊は姿を消した。
……「その子を離してくれないかな?」と言ったつもりなのだが。
何故か変な言葉になって発音された。
独り言なら喋れるが、どうやら会話するときは狂人特有の喋り方になるらしい。
一応伝わっているから、いいとしよう。
それに戦うことなんてことにならなくてよかった。
「……グリム」
下から声がして視線を向けると、胡桃先輩が座り込んでこちらをじっと見ている。
結構血塗れだが生きているようだ。
しかし『グリム』か。
聞いたこともない名前だが……それよりも今は、胡桃先輩の方か。
どうしようか、と悩んでいたところ。
「貴方は、一体……」
そんな声を聞いた瞬間だった。
俺の体が勝手に動き出す。
自分の体のはずなのに、何故が上手く動かない。
さっきと同じだ。
同じようにまた、俺は紙を上に上げようとしている。
顔を見せようとしている。
こちら側に、引きずり込もうとしている。
「……なに、を」
俺の左腕は胡桃先輩のことを地面に押さえつける。
勝手に動いた右手が俺の顔へと近づく。
そしてその顔についた紙を、上へと、巡りあげようとした──
「胡桃ッ!!」
──のだが、遠くが聞こえてきた声に、俺の意識が戻ってきて、パッと手を離しフラフラと後ろに下がる。
声の主の方を見ると、槍を持った一人の少女を先頭に複数人がこちらに向かっていた。
先頭を走る少女には見覚えがある。
名前がない、通称『チュートリアル先輩』、略して『鳥先輩』だ。
胡桃先輩の同期で親友だった、と言う設定があったはず。
「き、さまァッ!!!」
俺が胡桃先輩を襲った、と勘違いしたのか、俺に向けて槍を振るう。
だが俺の体はまるで槍の軌道がわかっていたかのように、軽々と動いて攻撃を避ける。
そして行列が蹴りが、自然の体がから出ていた。
「ぐ、ぅッ……!?」
鳥先輩は腹に蹴りを入れられた衝撃で、少し離れたところに下がる。
そこですかさず追撃を加えようとしたところに、胡桃先輩が立ちはだかった。
俺と鳥先輩の間に立ち入って、鳥先輩の攻撃を止めたのだ。
「胡桃!? なにをしている!?」
「有賀ちゃん! ちょっと待って! この人は私のことを、助けてくれた……!」
「なにを言っているんだ!? どう見ても狂人だぞ!?」
「でも!! 攻撃してこないよ!!」
「っ……! そ、それは、確かに、そう……だな」
鳥先輩は警戒しつつも槍を下ろす。
そして胡桃先輩を引き寄せると俺から距離をとる。
そして警戒を一切解くことなく、胡桃先輩を連れて去って行ってしまった。
「行った、か」
取り敢えず……原作改変、だな。
胡桃先輩は救えたから良しとしよう。
だが……気になることが多すぎる。
なんで俺の体は勝手に動いて、勝手に喋るのか。
早いところ解明しないと、後で取り返しのつかない事態になる可能性がある。
「……行くか」
とにかく自分のことをちゃんと知らねば。
と、なれば……情報の集う中央街へ向かうしかないか。
でもあそこはなぁ……。
しかし、変に危機を呼び寄せるよりはマシ、か。
仕方ない。
行くしかないだろうな。
俺はため息をつきつつ、フラついた足取りで歩き出す。
自分のことを調べるべく中心街へと向かって。
『くるみ割り人形』
物が必要なくなったら、君たちはどうするだろうか?
大抵の場合は捨てると思う。
彼女もそうだった。
必要なくなったから、捨てられた。
長い戦いの中で尽くしてきたというのに、その最期は哀れそのものだった。
そんな彼女を救ったのは、物でも、人でも、そもそも形あるものでもない。
『狂気』だったのだ。
ただ狂気に身を落とすことだけが、彼女の救いになったのだ。