【悲報】ワイこと禪院直哉さん、青春ラブコメを夢見る模様   作:どんぶら溝太郎

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今更ですがこの作品は度々時系列が右往左往します。
ご注意ください。


私を祓った責任、ちゃんと取ってもらうんだからっ!

「人の呪霊って、おると思う?」

 

 真依の従兄弟である禪院直哉は京都高専の中庭にある池の前に屈みながら、神妙な顔で言う。

 どうせしょうもねぇ事なんだろうな、と内心で思いつつも口に出したら面倒くさそうなので、真依は黙って聞いてるふりを続けることにした。

 

 真希の体質が双子である真依にも影響を与えているのか、それとも単に慣れてしまったのか、他の女性ほどの嫌悪感は抱かない──それでも不快害虫を前にしているような気分になることは多々としてある──が、それでもこの不毛な会話に付き合うのはごめんだった。

 

「いやね、真依ちゃん。君は京都高専に入ったからもう知っとると思うけど、呪いって人間の負の感情から発生するものやろ?

んで大抵の場合はよくわからん気持ち悪いバケモンが生まれるわけなんやけど、たまーに特定の何かに対する畏れからクソ強い呪霊が生まれたりもするやん。

例えば口裂け女みたいな都市伝説に出てくるような化け物が仮想怨霊になったり、流行病が呪霊になったり……

つまりは人間が強く畏れるものがそのまんま呪霊になったりするケースもあるわけやん?」

「……まぁそうね」

 

 予想外に専門的な話が出てきて少し困惑する真依だったが、思えば直哉は術師としてベテランの域に達している。

 呪霊を祓うだけでなく、何でも東京高専に張られている天元の結界の改良に関わったこともあるらしく、高専呪術師として次期禪院当主という肩書き以上に有名人となっていた。

 

 当然、そんな人物が呪霊について語るのだ。その内容もそれなりに高度なものになるのではないか。ならば、術師として学びの為にしっかりと傾聴すべきだろう。

 しょうもないこと言うんだろうな、と思った手前態度を露骨に変えるのもアレなため表には出さないが、真依は禪院直哉の言葉を拾うことに集中しようと決めた。

 

「んで最初の話に戻るんやけど、それなら人間の呪いもおるんとちゃうかなって」

「まぁ、よく言うものね。いちばん怖いのは人間って」

 

 怪談のオチで使われるとガッカリする文言No.1(※真依調べ)だが、術師からすると強ち間違いとも言えない。

 何故なら呪霊の発生源は結局人間だからだ。それに、術師が相手するのは必ずしも呪霊だけでなく、呪詛師という人種も含むのもある。

 呪術師によっては呪霊よりも知性がある分、呪詛師の方が厄介と言う者も少なくない。尤も逆の考えの者も同じように存在するが。

 

 目の前の彼は呪霊も呪詛師も、なんなら呪術師も怖がってそうだとぼんやりと真依は思った。

 

「結局、人間って常日頃から人間という物と関わっとるわけで。

そうなると、有史以来人間は同じ人間へ負の感情を向けとるわけやんか。じゃあ、おるやろ、人間の呪霊」

「……」

 

 確かに、と思った。

 人間の呪霊など、見た事も聞いた事もない。しかし直哉の論理は明らかに筋が通っていた。

 

「多分やけど、ワイらが知らんだけでどっかで何度も発生しとると思うんよ。さっさと祓われるか、他の呪霊に喰われるかで存在を認知されてないだけで」

「なら大したことないんじゃない?」

「まぁ、せやね。 でも例えば、誰かがその呪霊を意図的に育てようとしたら、どうやろ?」

「……そんな人、居ないと思うけど」

「呪霊を飼う文化なんて、それこそワイらの実家にもあるやろ」

「確かに」

 

 禪院家の地下にある訓練所。そこには2級以下の呪霊が大量に飼い殺しにされている。

 呪霊を飼うということ自体は、別にそこまで不自然な話ではない。

 

「でも、その人間の呪霊を拾うヤツはなんのために?」

「えっ……わからん。仮定の話やし」

「それもそうね。水を差してごめんなさい」

 

 そこで直哉が嬉しそうな顔をした。どうやら、いつも素っ気ない真依が話を聞いてくれてることに歓喜しているらしい。

 それに対して少しイラッとするも、再び傾聴の姿勢に戻る。

 直哉の語り口に、少しだけ喜色が混じり始めた。

 

「もしワイがそいつやったやらどうするか。

ワイならその呪霊に人間の文化を学ばせる。呪霊の生得術式言うんは単純で、自身の起源である負の感情に由来するものを持つ。

つまりは人間の呪霊の術式は人間というものに深く関連するものになるやろうな。

要は術式を磨くために、人間を学ぶことこそ近道かつ最適解なわけや」

 

 1級呪術師最強候補の一角が唱える論理には、強い説得力があった。仮定の話、として片付けることに抵抗を生じさせるほどの。

 

「そして、ここからが本番や」

 

 直哉のその言葉に、真依も身構える。

 きっとこれから聞く話は、自分にとって金言になるに違いない────

 

「温室で育てられた人間の呪霊──髪は灰に近い青、少し面長やけど幼さが残る顔立ちの美少女で、スレンダー──は人間について学ぶにつれ、外に興味を持ち始めるんや。

そして呪霊…いや彼女は鳥籠から抜け出して、外に出る。

そこで、少女は外の世界を、人間が営む社会を初めて実感するんや。

何をするのも、何を見るにも襲いかかる新鮮さに、少女は圧倒される。

当然、彼女は呪霊やから普通の人間はその子のことを見ることはできない。

見れるとしたら、呪術師くらいなんやけど、仮に見つかれば彼女は敢え無く祓われてしまう。

つまりは、飼い主かあるいは呪術師に見つかるまでに発生したほんの僅かな自由。

それを知ってか知らずか、彼女は全身全霊で外の世界を楽しむんや。

やがて彼女は古びた映画館に辿り着く。映画というものを観てみたい、と。

しかし、呪霊である少女はチケットを買えない。無理なのか、と諦める少女。

でも、そこで奇跡が起きる。

 

────『あれ、そこでなにをしとるんや、キミ』と少女に話しかける、一人の青年。それこそ…」

「あ、もう大丈夫」

「えっ、いやここからが本番で」

「もう喋らなくていいわ」

「で、でもここから天才呪術師禪院直哉と人に憧れる呪霊ちゃんが折りなすジュブナイル伝奇ラブコメが…」

「鯉にでも話してなさい」

 

 真面目に聞いて損した。

 真依は立ち上がって、直哉に背を向ける。

 

「ちょ、どこ行くんや真依ちゃん!」

「東京。交流会の挨拶に行くのよ」

「あ、それならワイも東京に行くから一緒に行こーや。ちょっと悟くんに呼ばれてて」

「……私に東堂とあんたを同時に相手しろって?」

「葵くんも来るんか! 楽しみやで!」

「……ハァ」

 

 周囲にいる男たちが尽くろくでもないことを呪いながら、真依は直哉とともにその場を後にした。

 

 

「その禪院直哉、っていう呪術師。そんなに強いの?」

 

 灰色に近い青髪の青年が本を読みながら、額に()()()()がある僧侶風の男に問いかける。

 

「強い、というより特異だね。

いや実際、現代の術師の中では上澄みも上澄みだけどさ。総合的な強さだけなら五条悟や両面宿儺には及ばない」

「ふーん。じゃ、殺した方がいい?」

「別に殺す必要もないけど、生かす必要もないかな。

ああただ……真人は禪院直哉と戦うのは避けた方がいいよ」

 

 真人は本から目を外し、夏油に顔を向ける。

 

「なんで?」

「禪院直哉は少々変わった体質の持ち主でね。結界術に対する才能が抜きん出ている。歳を重ねれば天元の結界術に匹敵しかねないほどだ。

まだ推測の段階だけど、シン陰流のような簡易領域は、工夫によっては君に有効打を与える可能性がある。

つまり、その簡易領域を現代最高レベルの精度で使える禪院直哉は天敵になり得るってことさ」

「はぁ〜、なるほどねぇ」

 

 人間の呪霊たる真人は、本を投げ捨てて笑った。

 

「天敵ってどんな感じなんだろ、夏油」

「なんだ、戦いたいの?」

 

 別に止めはしないけど、と笑う夏油。

 

「でも、今の優先事項は」

「宿儺とその器、でしょ? わかってるって〜。

あっ、そういえば最近映画館で暇つぶしに丁度よさそうな人間と会ってさぁ〜」

「へぇ、聞かせてご覧」

「いや、それがそいつほんとバカで。名前は確か…順平って言ってぇ」

 

 夏油と真人。二人のヒトデナシは地下で悪辣に笑いあった。

 

 ────偶然にも、京都にいるアホの話のタネにされてるとも知らずに。




禪院ヒソヒソ話:
特に仕事がない時の直哉は、構ってくれそうな人が居るところに用もなく出現するぞ!
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