赤クソ(ガイア)と白クソ(メシア)とクソ(他) 作:イリノイ州の陰キャ
前回のあらすじ
エツリとかいう親なしのオスガキがおりましたとさ。オスガキはオニにわからされそうになるも、命からがら返り討ちにし(耳を澄ませば「あれ〜? オニの癖にニンゲンに負けちゃうんだ〜。ざっこーい♡ ザコザコー♡ 靴舐めたら許してあげる♡ よわよわ能無しザコ悪魔のオニ君♡」という股間に効く声が聞こえてはこないだろうか)二十体もの
先日の襲撃により、討伐隊の約二割が死亡した。特に被害が大きかったのは公園口守護の隊。エツリがいた場所だ。生き残りは彼を含めてたったの三人。それもあの後隊長が駆けつけていなければ、全滅していたのは間違いない。隊長は圧倒的だった。二つの頭を持つ獣を呼び出すと、ただの呼吸で辺りを焦土に変えた。後からやってきた別働隊が、地面に転がった炭と化したオニの軍勢から使えるものだけを抜き取り、負傷者を担いでようやく防衛戦が復帰した。
ようやくといっても、隊長の視点からすれば十分にも満たないうちに起きた話だ。上野の連中は弱小討伐隊だ、などと別の討伐隊に揶揄される中で、隊長だけは例外的に評価されている。偏にその強さのためだ。彼がいれば上野が悪魔に脅かされることはないと、市民が本気で信じきる程度には強い。ならばもう少し早く来てくれても良かったのではないか、とエツリは内心で毒吐いていた。隊長が五分でも早く戦場に到着していれば、少なくとも今の惨状よりも十人は救われていた筈だ。ここに来るまでの隊長の事情なんて、生き残った彼等にしてみても、そして死んでしまった隊員連中からすれば勿論と言うべきか、知ったこっちゃない。
『動かないで』
昨日、今日と立て続けにシルフの回復を受け続けた左腕は、折れた骨が露出したグロ画像みたいな容体から、傷は塞がっていないものの、何とか直視できる程度にまで治っている。それを水で雑に洗って上から包帯で覆い、彼はようやく額に滲む汗に頓着しはじめた。シルフ曰く、昨日の夜は大変だったらしい。痛みで寝ながらうめき声を垂れ流すエツリに回復を唱え続けてくれたようだ。
精霊に属する彼女等は、基本的に人前に姿を現さなさい。それはシルフやサラマンダーといった、精霊としては上位の悪魔に限らず、フレイミーズやアーシーズ等にも言えることだ。人間に協力するなんてのは以ての外。それも悪魔合体なる邪法で契約を結ばされたのでもなく、口約束で契約する者など、精霊の中にはいない。そもそも人間と会話をしないので。
悪魔の如何に疎いエツリですら、彼女が巷間に跋扈する有象無象とは何かが違うと認識しており、それほどの悪魔が自身に力を貸す理由を測りかねていたが、彼はあえてそれを問いただすような真似はしなかった。というのも、下手なことを聞いて彼女の機嫌を損ねるのを恐れているからだが、それとは別に、聞くまでもないような気がしていたからだった。信頼とも呼べない不安定で相手の出方に依拠する関係を、隊長ならば強く咎めるであろう。他の隊員なら、悪魔に唆された裏切り者と言って今以上に排斥感情を増大させるだろうか。とにかく碌なことにならないのは目に見えているので、彼女の存在を誰かに悟られるようなポカはしないと、心に決めていた。
『はい。今日の診察はお終いです。昨日よりは良くなったわ』
「ありがとう。また助けられた」
『本当よ。私がいないと何にもできないんだから。ちゃんと感謝してよね』
彼女はエツリの隊服の懐から勝手に魔石を取り出すと、それをどこかに消し去って(消えたように見えるが、悪魔しか知らない場所に送られている、というのが俗説)しまった。彼はそれを咎めようともしなかった。回復の対価と思えばむしろ安いくらいだ。なんなら手持ちの魔石は全部彼女に渡そうと思っていたくらいだが、彼女に『ばかー!』と言われて止められた。地上で活動する者にとって、魔石は生命線だ。緊急用の回復(そんな使い方をする者は殆どいないが)にもなるし、何より悪魔はなぜかこれを好むので、交渉の材料にもってこいだった。シルフのことになると短慮なエツリよりも、彼女はずっと聡明で、いずれ必要になった時に困るのはお前だと彼に言い含めていた。
「あー……」
眉間を指で押さえながら、エツリは冷たい地下鉄の壁に体を預けた。疲労感のせいでまともに動けない。痛む瞬間を見計らったようにかけられる回復の光と、シルフの高く、しかし落ち着き払った声だけが彼の安寧だった。肩を止まり木にする小さな精霊と、冷気の漂う地下鉄の路線に座り込み、切れ切れの身包み布の中で体温を分かち合う。いつ死んでもおかしくない環境にある人々には、娯楽に奪われる気力も残っておらず、休みといえばこうして何もせずに体力の回復を図るか、少ない金で酒の代替品(大概は工業用の無水エタノールや安物の香水を加工した、明らかに健康に悪そうな色合いのもの)を買って飲むくらいしかすることがない。この退屈をシルフが苦痛と思わないこともまた救いであった。でなければ一人で痛みに悶えながら、碌に体も精神も休められなかったであろうから。
『刀、折れちゃったね』
「ん? あぁ、まぁ……」
『戦えないでしょ。それじゃ』
「なるようになるって」
新しい武器の支給まではしばらくかかるらしい。こんなことならどさくさに紛れて死体から剥ぎ取っておけばよかった、と、彼は後悔したが、倫理もへったくれもないこんな状況で、討伐隊は死体漁りごときにケチは付けない。なんなら平隊員の錆び付いた刀の一本や二本、無事なものが残っていればすぐに渡されていた。オニ連中の苛烈な打撃で一つ残らず折られていたというのが事実だ。
医薬品どころか、包帯すら完全には出回っていない中で、隊は武器も同様に工面に手こずっている。といっても困窮の具合で言えば上野はまだマシな方だ。遅れるとは言えど、供給され次第武器も配られる旨の説明を隊長がしていたし、少なくとも食うには困っていない。外に出てみれば救荒植物みたいに豚の悪魔が群れを成している。だからこそ上野の隊長には隊員以上に強さが求められるのであろう。人類にとって安定した拠点がいかに重要であるか、などと説明するまでもない。最前線で自然災害みたいな悪魔と戦っている連中に物資を回す中心点でもある訳だし、
しかし、最近はその物資に関してもそうでもなくなってきている。というのも、銀座の方の動きが何やらきな臭くなっているのが原因らしい。生活品の輸送に駆り出された隊員が言うには(戦闘時以外でエツリにまともな受け答えをする隊員などいないので、シルフが盗み聞きしてきたのだが)ガイア教の下部組織が姦計を講じているとか何とか。
銀座周辺はガイア教と関連組織が占領しており、警戒を強めた討伐隊は、近隣の地下街に戦闘や長期任務で入り用になる品目を大量に運びこんでいる。そのため生命線である医療品も枯渇一歩手前だ。一応は討伐隊員が優先的に与えられるが、回復を自前で用意できる隊員、すなわち回復が可能な悪魔を使役している者や、悪魔から回復の魔法を教わっている者は、各自で治せというのが暗黙の了解だった。
「……」
『ねぇ、昨日のこと、やっぱり気にしてる?』
「…気にしてないよ」
『嘘言わないでよ。ホントに気にしてないんだったら「何が?」って聞いてくるでしょ……ねぇ、気にしちゃダメよ。あんな奴等の言うこと』
オニの襲撃を生き残ったエツリは、案の定と言うべきか、別の場所を担当していた隊員達に詰問された。いや、詰問というには過激で、決めつけの激しい罵倒であったが、とにかく彼等からすれば、数少ない気の許せる仲間よりも、エツリが生き残ることが疑問で仕方なかったのだろう。何でお前が生きてられるんだ、とか、仲間を盾にしやがったな、とか、散々な言われようだった。危うく暴力まで振るわれそうになった辺りで、騒ぎを聞きつけた隊長がやってきて、エツリはそれに乗じて逃げ出してきたのだった。その時は怪我の痛みばかりが頭にあって、ロクに受け答えもできなかったが、今思い出せば解る。仲間を、何なら中立者を見る目ではなかった。良くて外の悪魔達、もっと言えば、どっかの飲んだくれの寝ゲロでも見るかのような視線で非難された。それも複数人から同時に。
エツリは怪我が治って余裕が生まれるにつれて、昨日のことを鮮明に思い出してきた。オニに何度も殴りつけられ、臓物か何なのか解らない赤白い物体を、腹やら頭やらから飛び出させる隊員だったモノのゴミ溜め。死んだ味方の遺体など意にも介さず放たれる地獄の番犬の地獄の火炎。何かちょっと美味しそうな匂いと、火事場荒らしの別働隊連中……酷い有様だった。もう人間がどうこうとか言ってるのは彼くらいなものだ。誰も彼も本能で生きてきた頃の一歩手前にまで自分の精神を立ち戻らせ、法制やら良識に委ねない生き方を身に付けている。
エツリはあえてこれ等を無視した。何か決定的な格好付けの精神とでも言うべきか、胸だか頭の中で傍観してるちっちゃい自分にでも見せたくてなのか、もう何でもかんでも強がってみせた。
「生きてるんだから、もうそれでいいよ」
『ギリギリだったけどね……』
「生き残れば勝ちみたいなもんだよ」
『……というか、今度戦う時は私も呼んでって言った筈だけど。しかも直前に』
「……いや、けどさ」
『もう! 信じてないみたいだけど、君が苦戦してたあの趣味の悪い悪魔なんか』
「オニのこと?」
『そう。オニ。あんな奴私にかかれば一捻りなんだから』
苦戦なんてもんじゃない。一歩間違えれば殺されていた。かろうじてあの場では勝利を得たものの、彼の武器は無惨にも切れ味の悪い短剣に成り下がり、その上出血多量で倦怠感が凄まじいことになっていた。武器に関しては、何も百が五十に減った訳じゃない。二が一になった程度のことだ、と考えて割り切ることにした。元から信頼を寄せられるほどのものではない。昨日の戦いだって柔らかい下顎から刺したというのに、折れた刀身の半ばまでしか刺さり切らず、一息で殺し切ることはできなかったのだ。
悪魔召喚プログラムは利用者に悪魔召喚を可能にさせるだけではなく、それに足りる肉体すら与える。与えるというか、肉体や技能を成長させる。だから隊員は全員常人とは比べ物にならない腕力と体力を有しているが、それでも首を貫通させきれない脆弱さ。まともな武器は殆ど前線に送られるので仕方ないとはいえ、あんまりなクオリティだ。しかも他のエリアの連中からすれば、オニはそこまで脅威でもない腕力だけの雑魚悪魔。雑魚は俺達の方だ、と、エツリは吹聴して回りたい気分になった。するまでもなく周知されている。
『次は呼んでよ。約束しなさい』
「いつかね」
彼は提案を話半分に聞き流しながら、悪魔召喚プログラムをいじって暇を紛らわせ始めた。最早処置なしという様子で、シルフは呆れっぽくため息を吐いた。
隊員達は今日も今日とて豚を屠殺する。幾ら仲間が殺されようと、生きている限りは腹が減る。自然の摂理だ。
『随分数が減ったね。何があったか知ってるよ。悪魔の群れに無様に殺されたんだろ?』
「……」
シルフが言うには、カタキラウワ、とかいうどっか九州かなんかで言い伝えられている悪魔らしい。片耳がないだけの喋る豚であり、エツリには詳しいことは解らないが、体組織の構成的にも豚と変わらない、とか偉い人達が言っているのを彼は聞いたことがあった。養豚とまではいかないが、筋っぽい猪肉のような味がする。植物の栽培なんてほとんど絶望的な†暗黒魔界東京†において、普通に食べられる食材というのは大変に貴重だ。地下の人々は悪魔の肉を食べることにもはや何ら抵抗はなく、エツリも含めた若い衆の間では、生まれてから悪魔由来でない食肉は食べたことがない、なんてのも珍しくはなかった。
『オニの軍勢ごときに何人も殺されたらしいじゃないか。別の地域の討伐隊ならこうはならなかっただろうねぇ』
「…………」
『あたし等からすりゃあね、こんな所で雑用やってるニンゲンなんか畜生と変わらないんだよ。おいガキ、四足で歩きなよ。畜生には似つかわしい態度ってもんがあるだろうが』
「お前みたいにか? 面白いこと言うね」
刀が短くなった一番の弊害はこれだ。屠殺の苦労が増した。お陰で逃げ回る畜生の戯言を前の二倍は長く聞かされなければならなくなった。こいつ等の良い所なんてのはあっても一つだ。
殺しても良心が痛まないから後腐れなくていい。ということだけ。魔法なんか使う訳にはいかない。血や臓腑を抜く前から骨ごとミンチにしてしまう。だからといってなめてかかると、偶に酷いしっぺ返しを喰らうこともある。もう数年も前に、この豚をなめてかかった挙句、大挙して襲ってきた群れに殺された隊員がいた。それを知る隊員は、未だに彼の名を挙げては物笑いにしている。豚連中の人を苛つかせる才能に関しては……上には上がいるものの、やはりうざったいのには違いはない。討伐隊に嫌われている理由の一つでもあるが、嫌う理由が増えれば増えるほど、刀を振り下ろすことに対する躊躇がなくなっていく。人間に理解できる言語を喋るだけあって、最初こそエツリも殺すことに躊躇いを感じていたが、侮ったり慈悲をかければ殺された隊員の二の舞を演じることになる。なので今はそうでもなくなっていた。殺害数をカウントして競争する悪趣味な隊員達の遊びに、密かに加わる程度には。
(これで六体……)
すなわち本日六回目のお手軽なカタルシスを得た辺りで、討伐作戦を(仮にも悪魔なので名目上は討伐)統括する隊員から招集がかかった。本日の業務はこれで終了。簡単に血抜きだけしておいた死体が集められ、運ばれていく。百とまではいないが、それなりの数の豚が荷車に乗せられていた。エツリが屠殺した豚の数は、討伐数で言えば八位。十余名いる隊員達の中では下から数えた方が早い程度の数だった。乱獲するのも良くない、などと内心で微妙な結果に言い訳をしながら、後続の荷車に死体を投げ入れ、解散の号を聞くや否や、他の隊員達と同様に、真っ直ぐ地下街へと戻った。
「……」
いつもより人通りに厚みがある。活気付いていると言えば聞こえはいいが、いつもと違うことが起きている時は、大体ロクでもないことの前触れだ。往来からガヤガヤとまともな言葉に聞こえない声を幾つも耳が拾う。エツリはすぐに気が付いたが、和やかとは言えない雰囲気を醸していた。それに誰の目にも明らかな焦りがちらついている。彼は念のため、地下街に降りてからも武装を緩めなかった。ガチガチに警戒していては怪しまれるので、地上での活動が終わった帰り、という雰囲気を前面に押し出して、周囲を観察する。
人足のほとんどは人外ハンター協会に向かっていた。協会などというには酒精が強過ぎる盛えていない盛り場だが、あそこにあるモニターはどういう原理か、別のエリアの協会も併せて同時に映像を再生する。中継、とかなんという技術であったか、と、隊長の言葉を思い出していた。なんでも普通の方法では再現できないらしく、魔術的な方法を混ぜ込んで同時放映を可能にしているらしい。モニターの原理が何にせよ、それのお陰で情報共有にはこれ以上ないくらいに適していて、フリーの人外ハンターは地下街に降りると真っ先に協会に顔を出す。そんな協会が忙しない時は十中八九クソみたいなことが起きている、というのは隊長の言ではなくエツリ自身の経験則であった。
「ガイアの連中と……」
「俺達……がある――今――て……!」
前に同じような騒ぎがあった時には、マッハとかいう、ゴミ漁りクソカラス共の数倍クソな害鳥が暴れ回ったせいで、日暮里が端まで更地になった。かくいうエツリも雷に打たれて黒焦げになった死体の処理に駆り出された。上空で協会本部に依頼を受けた人外ハンターが(あくまで人外を相手にするハンターのことだが、人外がハンターをやってるから人外ハンターでも意味は通りそう)バトル漫画みたいな戦闘を繰り広げている中、腐敗臭と焦げた地面の熱さでグロッキーになりながらも、下っ端の隊員達は全ての死体を引き上げたのだ。どこぞの知らん奴のゲロを幾つ踏まされたことか。建物が軒並み壊されて砂漠のように風通しが良くなっていたので、激臭を直に浴びて気分が悪くなる隊員が後を絶たなかった。その後無事に討伐された自称女神の鳥畜生は、食用には適さないらしく、羽毛や皮革も質が悪く何にも使えないということで、討伐隊本部によって剥製にされ、現在は南砂町駅に飾られているらしい。敵とはいえ趣味が悪いにも程がある。
エツリは思い出したくもないこと(討伐隊の野蛮っぷりも含めて)を思い出してしまい、血色の悪い頬に血が上ったり、白くなったりを繰り返しながら、なんとかそれを振り払った。それから気持ちを切り替えて往来に紛れると、協会の中を覗き見る。赤い服装の連中と隊長が何やら話し込んでいた。あの目に悪い色を見間違えることはない。ガイア教の信徒であるとすぐに気が付いた。彼等の頭上のモニターは電源が消されており、それが余計にエツリの不安を煽った。いつもなら存在理由の希薄なランキング名簿が馬鹿っぽい色味でビカビカ光っているというのに。
彼等の会合の様子を観察していると、本当に何となく、という風に、ガイア教の男がエツリの方を向き、彼と目が合った。ほとんど反射に近い動作で咄嗟に目を逸らしたが、すぐに後悔した。何かを探っているのが態度からバレバレだ。エツリは後ろ髪を引かれる思いを堪え、地下鉄線に戻ることにした。何の話をしているのか気になるが、これ以上木端隊員が聞き耳を立てていれば、誰かしらの反感を買うかもしれない。悪魔に殺されるのはいつも引き際をわきまえない奴だ、と、まるでおまじないのように胸中で反復しながら、ホームまでの薄気味悪い階段を降りていった。
『ガイヤ、ガイアキョー? っていうの? あの趣味の悪い連中』
「やっぱりそう思う?」
際限のない闘争本能を表した(とかガイヤの下っ端が勝手に解釈していた)あの赤い装束は、どうやらシルフの趣味には合わないようであった。待ち合わせで居場所を探すのに苦労しなさそうくらいしか利点がなさそうな服だが、隊員も幹部もみんなあの服装なので、結局探すのは難しいから、やっぱり利点なんてないのではなかろうか。自分がガイア教の装束に身を包む姿を想像したエツリは、次いで救世使徒連の服を来た自分を想像し、そっちよりはマシか、などと失礼なことを考えた。あの真っ白な服では汁っぽいものは食べられないし、頻繁に洗濯をしなければならない。勿論血痕も目立つであろう。だからこそ潔白を証明できるのかもしれないが。
『あの服着るのだけは絶対やめてよね。切り刻んで素っ裸にしちゃうから』
「着ないよ」
エツリは何か悪い方向に事態が転がる予感を念頭から追いやるために、できる限りの準備を始めた。雑嚢の中の荷物整理に始まり、武器の点検(主装備は諦めた)や召喚アプリの確認。特に召喚アプリが持つ身体拡張の機能に気を付けた。これは使用者が召喚した悪魔に殺されないように最低限の力を与え、更に現段階の実力以上の悪魔を召喚できないようにするプログラムが施されている。悪魔が知恵を授けるというのは、このアプリを介して技術や魔法を教えることを指す。といっても彼が教わったのは衝撃属性の小魔法のみ。豚を殺すのに使えるくらいだ。それも結局死体をズタズタにしてしまうので使えない。だから回復の魔法を加えて教わり、万が一、いや十中八九怪我は負うであろうが、立って逃げられる程度には回復できる手段を増やしておくことにした。
『言っておくけど、タダじゃないから』
釘を刺すかのようなタイミングで言われて、彼は思わず所持金を確認した。八百マッカぴったり。一番等級の低い傷薬も買えない。参ったねこりゃ。
『マッカなんていらないわ。そうじゃなくて、次に戦う時は必ず私を呼んでよ。そうじゃなきゃ怒るから』
「……」
エツリは怒っているシルフを想像した。あんまり怖くない。むしろかわいいまである。
『くだらないこと考えてるでしょ』
「…………」
後日、エツリの下に一つの指令が下った。
「我々はガイア教と連携し、豊洲を奪還する」
悪い予感は全て当たる。これは彼特有の特殊能力とかではない。この世界で嫌な想像をした者は、大体その通りの筋書きに乗せられるクソシステムだから。
・人外ハンター協会
商会ではない。人外ハンター達の管理、依頼の斡旋を行う組織、あるいはその施設。殆どの地下街にバーとして居を構え、ハンター等に酒や依頼を提供している。本部は周辺を完全に悪魔から奪還した新宿の地上にあり、多くの人外ハンターが自発的にここを守護している。そのため新宿には討伐隊の支部がなく、新宿は全ての勢力に対して完全な中立を明言している。
でも本当はカタキラウワ好き。ちょっぴりツンデレさんなのだ()