赤クソ(ガイア)と白クソ(メシア)とクソ(他)   作:イリノイ州の陰キャ

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前回のあらすじ
エツリ「天使君達ざっこーい♡ ざーこ♡ 方向音痴♡ 三半規管よわよわ♡ デブだから細い道通れない♡」
アクエン『うるせぇ! 俺の槍(槍)で逝き死ね!』
エツリ「お゛っ♡!!!!」

 キャラの掘り下げもできてない内から豊洲戦始めるんじゃなかった。これ終わったら隊長とかヒバチのこと色々書くつもりです。



姫プ系主人公(しかも女の子は戦うべきじゃないとかほざく)

 

 最下級の天使の槍は神聖を伴わない。それ自体は確かに武器であり、一定の脅威であるが、魔術的には勿論、聖性は殆ど気にしなくてもいいような、極めて平凡な得物だ。それはすなわち、使徒連も討伐隊と同じく、資金繰りや物資流通に手こずっているという意味でもあるが……しかしやはりエンジェルという〝悪魔〟に持たされる武器というのは、いつも粗末なものだ。

 

「せいやァッ!」

 

 ヒバチは上体を屈めて天使に体当たりすると、その肩の重さで容易に吹き飛ばし、鼻息を荒くして揚々と天使を見下ろした。

 咄嗟に天使は顔を上げるが、その表情はすぐに伏せられた。力を失い、ぐったりと首から垂れ下がり、そのまま胴体と切り離される。突き下されたヒバチの槍は、天使の首を貫通して路面に切先が刺さっていた。彼等の槍には細かい造形の差異を除いて優劣や相違はない。ひとえにヒバチの実力であり、少し手こずったとはいえ、天使といえども最下級の者では彼に太刀打ちすることは叶わなかった。

 

「よし、後は奴を、なッ……!?」

 

 一息吐く暇もなく、ヒバチは構えを正すことになる。エツリはアークエンジェルの前で両膝を突いており、その首元を狙って槍が引き絞られている。たった今自分が天使を殺した時のような構図になっていることに気が付くと、すぐに槍を持ち直して駆ける。彼我の距離は5メートルも離れていないが、それだけの距離があれば、追い付く前に首を差し貫くことなど全く容易い。

 

「――エツリ!!」

 

 ヒバチの絶叫は虚しく、エツリの足は動かない。彼等の表情は考えなしの焦りだけを表していた。まるで死を忘れてしまったかのように。対象に天使は勝利と敵の死を確信しており、その槍は今ようやく充分な助走距離を得て切先が首に向かっている。ヒバチはもはや槍が振り下ろされるのは必至という瞬間までを見て、思わず強く目を瞑った。

 

 

 

 

 

『……の、あんぽんたんっ――――!!』

 

 

 

 

 

 何者かの声が聞こえたのと同時に、横から針山地獄にぶつかったかのような、強烈な突風がエツリを発生点にして放射状に吹き荒れる。ヒバチは受け身を取る暇もなく吹き飛ばされ、それより背後にあった天使の遺体は風の強さのあまり海にまで飛ばされて転落していった。そして勿論と言うべきか、一番至近距離にいたアークエンジェルは突風を諸に受け、背後のコンクリ壁に激突した。

 

「うぅ……ぐっ、くそっ、何が……」

 

 ヒバチは路面を転がって痛む腕を庇いながら立ち上がり、困惑した様子で辺りを見回した。苦悶の声を漏らし、その場に跪く天使の手に槍はない。風に吹き飛ばされてしまったのだろうか。膝は震えており、とにかくすぐに戦いに臨めるような状態ではない。彼は敵が動けない今が好機であることに気が付くと、はっという顔をして起き上がり、安否を確認すべく突風の原因と思しき彼の下に駆け寄った。そしてエツリに声をかけようとして伸ばした右手が、行き場なく空中で泳ぐ。

 

「ど、どうなっている……?」

 

 血液が宙に浮き、流れ出た場所へと戻っていく。少なくない量の血液が体に戻っていく度に、エツリの額には大量の汗が滲むが、しかし辛そうな様子に反して肌色は改善されていく。それが回復なのか攻撃なのか、側から見るとよく解らない様相であった。

 

「か、回復しているのか……?」

「そうは見えないってか? だろうね……」

 

 彼は取り落としたボロ刀を逆手で持ち上げると、震える膝を殴ってでも立ちあがろうとした。誰の目から見ても無茶をしているのは明白だった。特に頭の傷が痛むようで、傷口を手で乱暴に押さえてふらついている。ヒバチは立ち上がることにすら苦難するエツリを見ていられず、声を荒げて彼を制止した。

 

「待てエツリ、その傷で無理をするな!」

「もた、くさし、てらんないだろ……今に二陣が、来る……」

「勿論承知している! しかし体力を回復させないことには、逃げられるものも逃げられんぞ!」

「ヒバチ……前だッ……」

 

 警告するエツリの切迫した様子を見下ろしながらも、ヒバチは動揺を見せなかった。奇襲の刺突を何なく槍で捌くと、返す二の手で足を狙って穂先を振るう。腰を落として武器を構えていると、どうしても膝が体よりも先行していて攻撃を避けにくくなる。天使は大げさに後退して何とか斬撃を避けると、奇襲が効かない相手と見るや途端に槍を引き気味に構えて後退る。そんな風に慎重に構えを正す様子は、一見冷静さすら思わせるが、その表情は酷く歪んでいた。

 

『なんということか……天使を、神の僕たる天使を殺すなど……! 貴様等、震えて赦しを請え! そして後悔しながら怒りの日を待つがいい! 主は決してこのような瀆聖を赦されないッ!』

「赦されないならば、赦しを請う必要は元よりないだろう。私には私の神がいるのだ」

『ほざけッ! 悪魔の手下共めッ!』

 

 激昂して槍を振り上げる天使の間合いを尽く見極め、迫り合いにも持ち込ませずに躱していく。天使は先程のエツリとの戦闘で負ったダメージの蓄積もあってか、ヒバチに比べて動きの精細を欠いていた。

 ヒバチは天使の刺突を上から槍で叩き落とすと、そのまま敵の槍を押さえ付けながら一歩前進し、相手の想定するタイミングを見計らって、意識の逸れる一瞬を縫って刺突を喰らわせた。

 

『ぬぐぅッ……』

 

 帷子のために致命傷とはならずとも、鎖を貫通して天使の体に傷を付ける。血の一滴も流さず、白い筋繊維を覗かせる傷口は下手なホラー作品よりグロテスクだった。

 

「武器を収めろ。去るならば終わん」

『ぬっ、ぐぅ……』

「待てヒバチッ……それは……」

 

 ヒバチは戦意を投げ、防戦一方の天使に降伏を勧めた。まるでお前には勝ち目がないと指摘するかのように。実際それはエツリの目から見ても明らかであった。エツリとの前戦でいくらか体力を消耗したアークエンジェルとは違い、ヒバチはかなり余裕を残している。その上彼は未だに無傷だ。このまま何事もなく続けていれば、間違いなく勝つのはヒバチの方だろう。

 しかし、天使はプライドが高い。というか大半の悪魔もそうであるが、人間などという下等生物に劣ることを絶対に認めない。先程エツリが軽く挑発しただけでそれに応じたことから考えても、天使が降伏するとは、彼には到底思えなかった。

 

『むぅ……ぬぐあぁああ!!!』

「なにッ……」

 

 そして案の定天使は怒り、ヒバチの意図しないタイミングで叫びながら槍を振り上げる。彼は不得意な間合いのまま槍を引いて防戦に回ることを余儀なくされ、天使はエツリと戦っていた時には見せなかった連続の刺突を繰り出してきた。その上槍に神聖の気配が集まり始め、こうした魔を滅する気配に弱いヒバチの槍が衝撃を受けきれずに後退させられ始めた。槍が神聖の膜に覆われ、打ち合う音が鈍くなる。ヒバチは腕が痺れるほどの衝撃を何とか上下左右に受け流し、正面から力にぶつかる事態を避けようとしていた。

 

『おのれぇええぇえ!!!』

「むぅッ……まだ斯様な力を……!」

 

 実力が拮抗している者同士。より攻め気のある方が流れを握る。天使の神聖がヒバチの体を掠め、その魔力を収奪していく。魔力に増強された身体から魔力が失われれば当然、体力や技量にも影響し、戦運びに綻びが生まれ始める。ヒバチは盛んな戦意に反してじりじりと後退されられ、遂にはエツリをすぐ背の後ろにする所まで後退させられた。

 

『その槍ごと両断してくれるわッ!』

 

 エツリを庇ってこれ以上下がれないヒバチは、槍を横にして受け止める姿勢を取るも、その額には薄らと汗が滲んでいた。何となく受け切れないことを予見してか、ヒバチは足を先行させるようにして、胴を隠して構えを固める。攻撃を加えられることを前提とした構え。それはこの一瞬において天使が完全に優勢を取り戻したことを意味していた。

 

『死ねぇッ!』

 

 荒々しく響く叫び声に潰された風切音は鈍く、鈍器でも振るっているかのように抵抗の強い音を柄の後ろに続かせる。ヒバチに迫る脅威の刃風は、しかし彼の槍の柄に訪れるべき衝撃となって訪れることはなく、それ以上に大きな風の音にかき消された。

 

 

「ザン……!」

 

 

 エツリの放った衝撃魔法は、先程のように撃ち損なって胴の帷子で受けられるようなことにはならず、狙い通りに天使の顔面に直撃した。槍を振り上げた体勢のまま一瞬硬直してしまった天使の腹に、何が起こったのかを即座に察知したヒバチの蹴撃が突き刺さり、天使は元の間合いにまで一気に後退させられた。

 

「ぬはは! 確かにベストパートナーという奴やもしれんな!」

 

 衝撃魔法をモロに食らって視界を奪われた天使と、調子を取り戻したヒバチでは、その実力はもはや比較にもならなかった。

 

 

 

「ここまで来れば……よし」

 

 ヒバチはエツリを壁にもたれさせるように下ろすと、傷が痛まないように丁寧に服をまくった。

 

「傷は……む? 浅いな……」

「あぁこれは……ちょっとだけ回復魔法の覚えがあるんだ」

「そういう訳か」

 

 裏路地は瓦礫に道や頭上を阻まれ、元より複雑な格子路を更に混迷とさせていた。彼等は頭上も背後を瓦礫に囲まれたどん詰まりの場所に身を隠し、暫くの間体制を整えることにした。特にエツリの傷が酷い。謎の力で出血は抑えられているものの、頭の傷が痛むようで、自重を支えようと足に力を入れる度に貧血になり、折角収まりかけている出血がまた始まるという悪循環に陥ったので、ヒバチが恥ずかしがるエツリを無理やり持ち上げてここまで運んできた。所謂お姫様抱っこである。

 

「お姫様だっこは恥ずいって。男だぞ」

「何を言うか小僧め。子供は大人の世話になっていろ。成人もしておらんだろう」

「小僧って……多分十七かそこらだけど」

「ほら見ろ。小僧ではないか」

「お前何歳だよ……」

「知らん。少なくとも二十は数えた」

 

 傷を癒しながら、彼等は他愛もない話をぼそぼそと語り合った。まだ食える方の悪魔の肉、一昼夜暇な日の過ごし方、高値で売れる狙い目の遺物。一番命の危険を感じた時のこと、なぜか蒐集している好事家が多い映画パンフレットの話……とにかく毒にも薬にもならないような話題に拘って、余計に精神を消耗させないような退屈な話を繰り広げていた。

 

「だからさ、遠征の時はいつも探してるんだよね。一巻と、あと五巻」

「うぅむ……小説の類には明るくないが、途中から読むのでは抜けが気にならんか?」

「あの時は暇が潰せりゃ何でも良かったからな。それにしても、何ですぐに本燃やしたがるんだろ。メシアの連中」

「よくあることだ。焚書は異端の排斥には最適だ。語る者がいても、人の記憶は正確ではない。形として残るものがなければ、受け継いでいくのは難しい」

「受け継ぐ、ね……」

「メシアの連中にとっては、僅かばかりか聞こえが悪いかもしれんがな」

 

 エツリのあってないような戦闘技術も、野営や潜伏の知識も、先人の討伐隊が焼け残った書物や実戦の中で培ってきたものを口伝で受け継いだものだ。魔法にしたってシルフに教えて貰って受け継いだと言ってもいい。学びなどという言葉が贅沢な魔界ではあるものの、それでも何かしらの学びを得て、それを元にして生きている。学ぶことを押さえつけようなどというのは土台無理な話だ。普通にしているだけで、誰しも無意識に何かを学び取っている。例えばそう、今この瞬間にも、ヒバチの一挙手に見え隠れする周囲の警戒の方法やら、彼の堅苦しい割に俗っぽい話し方を、無意識のうちに集積して学んでいるのだ。

 

「つーかさ。あんた何で俺みたいな雑魚隊員に構ってるワケ? 雑魚雑魚言われてる上野討伐隊の中でも、下から数えた方が早い雑魚だぞ、俺は」

「実力はさして重要でないことだ。力ある獣と非力な人間ならば、後者の方が万事に向いているだろう」

「まぁね……でもさ、俺が言うのもアレだけど、獣じみた生き方になってもしょうがないじゃんか。悪魔とか天使みたいな知性のある生き物の中じゃ、人間なんか最弱の部類だべ。生きてくために卑怯になるのも解るよ」

「しかし我々は悪魔よりも結束に長け、天使よりも自由意志に富む。これは得難い強みだぞ。自由と統制の両得であるからな」

「中途半端なだけだろ……」

 

 そうかもしれん、と笑うヒバチの言葉遣いは、この会話をそこまで本気にしていない者のそれだった。というのはエツリもエツリで本心から卑怯になるだとか獣になるだとかは言っておらず、というかそうすればいいものの、無価値な良心を捨てられない不器用者であるので、ヒバチの態度を咎める気にはなれなかった。彼等は十年来の友人のように振るまうが、しかし互いに共通する不信を探り合わない無関心をも持ち合わせていた。軽薄で馴れ馴れしい態度と無関心不干渉は両立する。異界化東京の人付き合いにおいては、顔芸腹芸読心術の三つが必須項目であるのだ。

 

「尚更疑問だね。ガイア教の連中は完全な実力主義だろ。あんたみたいなさ、こう、仲間と手を取り合って頑張ろう! みたいな奴は教団の中で浮かないか?」

「そうだな……奇特な男だとは言われる。臆病者、ともな。しかし誰に何を言われようと結構だ。私には私の主張がある。それを受け入れられんのならば、やはり力を示すより他にない。ガイア教団とはそういう場所だ」

「ガイアらしくないね」

「うむ。それは褒め言葉か?」

「そら勿論」

 

 ヒバチは懐から取り出した水筒を大きく傾けて、音を出しながら飲み干した。エツリも面をずらしては、少量を口に含んでは飲むを繰り返して喉を潤した。十五分かたかだかの会話ですら、彼等にとって久しぶりの長いお喋りだった。

 

「私はいつか、同胞達に力を認めさせる。そして、私の下においては実力主義が必ずしも絶対ではないことを知らしめるのだ。実力でな」

「そりゃ……大変な道のりだな」

「男が夢を追う道のりが、苦難に満ち溢れていなくてどうする。それでこそ挑む価値があるというもの」

 

 真面目くさって、真剣な顔で言い切ったヒバチの横顔を眺めていると、何だそれ、などと言って茶化す気も失せた。空になったビニールの水筒を投げ捨てたエツリは、密かにシルフに協力してもらい、急突貫で塞いだ傷口の様子を確かめると、休み過ぎて鈍った体に血液を通わせるべく、大袈裟に伸びをした。

 

「んー……さて。もういいだろ。多分役目は果たしたよ。果たしてなくても果たしたってことで」

「陽動は十分こなした筈だ。見ろ。先程からちらほらと戦の光が上がっている」

「あー……本隊は突入できた訳ね」

「巻き込まれる前に引き上げるぞ。散らした天使共の生き残りに感付かれるやもしれん」

 

 足下に広げていた外套の上に置いていた水筒やら包帯やらを、早々と片付けてしまったヒバチは、だらだらと支度を整えるエツリに先んじて体制を整え、槍を担いだ。

 

「傷は大分良いようだな。神聖に抵抗力があるのか?」

「うん。ハマとか天使の聖気とかあんま効かないんだよね。なんでか知らんけど」

「なるほど、それは僥倖……よし。では、私が先行する。続け」

「おっす。悪いね。じゃあ頼むわ――――」

 

 エツリが言い終わるが先か、かれの背後の瓦礫が吹き飛ばされた。その衝撃は建物の壁までもを削り、彼等を隠していて瓦礫を取り払ってしまった。建物は指で横からスポンジを抉り取られたケーキのように不揃いで致命的な損害を負い、内部の構造が土埃の間に見え隠れする。エツリは咄嗟に頭を両腕で庇って転がり、背後の瓦礫の山にぶつかって止まった。背中を打ち付けた衝撃で胸の中の空気が抜け、少しの間息を吸えずに苦しみ、呻き声も出せずに口を開閉した。

 

「エツリ、大事ないか!」

「大丈夫……それより、逃げないと……」

「無論だ! 肩を預けろ!」

 

 吹き飛ばされたエツリは酷く咳き込みながら、ヒバチに助け起こされた。治りかけの傷を押さえながらよろめき、ヒバチの腕に頼って体を起こすと、ようやく謎の爆発が起きた方を向くことができた。

 土汚れた白いローブに、青い十字。その風貌はシルフが散々こき下ろしていたメシア教のものに間違いなかった。そして、こんな所にいるメシア教の人間は、救世使徒連の兵僧より他にない。

 

「オファニエル様……見つけました。ご意志に逆らう賊を……!」

 

 オファニエルの名前を聞いた瞬間に彼等の身体が硬直した。天使の七階級のうち、少なくともアークエンジェル以上の名前だ。というか、後世に名前が残るような天使であるならば、大抵は先程戦ったエンジェル等とは比べ物にならない強大な天使であることは確定している。即座に逃げる算段を付け始めるエツリであったが、対照的に、ヒバチはまんじりともせずに信徒の男を見つめていた。

 

「いや待て、よく考えろ。このような場末に大天使が直々に足を労するか?」

「それは……確かに。じゃああいつ誰に話しかけてんだ?」

「解らんが……あの男、何か様子がおかしいぞ」

 

 瓦礫を吹き飛ばした下手人は間違いなく目の前の男だった。その証拠に、男の手の周囲で生体磁気が渦巻き、磁気の歪みを起こしている。しかし、それ以上に目立ったのは彼の背後に続く一筋の血の跡だ。地面に点線を描く血液の出所は恐らく男の背中。よく見ると顔面は蒼白で、失血性のショック死まで秒読みといった様子だった。その死に体で起こしたこととは到底思えない威力だが、この場に他の敵影はない。エツリ達はそのちぐはぐな様子に疑問を深め、一層の警戒を以て後退る。すぐにでも尻尾を巻いて裏路地に逃げ込めないのは、先程の大威力の何かをもう一度放たれた時、今度は生き埋めにされるかもしれないからだった。

 

「万歳…オファニエル様」

 

 ゆらゆらと重心の安定しない動きで、男はぶつぶつ何かを呟いている。手の周辺に集まっていた磁気の淀みは薄れ、マグネタイト特有の威圧感が離散していく。エツリは油断して肩の力を抜き、刀にかけていた手の力を緩めた。対してヒバチはやはり、迂闊なエツリとは違って警戒を緩めない。特にこういう気のおかしい手合いについて、彼は石橋を叩いて渡るまでの慎重さを見せる。

 

「万歳……万歳……万歳……!」

「あぇ? な、何?」

 

 思わず聞き返したエツリの質問に返事はなかった。男は脂汗を舗装路にポタポタと落としながら、時折危険な笑みを深めたり、真顔に戻ったりしながら、万歳、万歳と繰り返す。そればかりで、彼等のことは全く眼中にないようであった。

 

「万歳! 万歳ッ! 万歳ッ!! 万歳ッ!! 万歳ッ!!! オファニエル様万歳ッッ!!!!」

 

 急に大声で叫び始めた男の周辺に、先程より更に濃度の高い生体磁気の歪みが生まれた。恍惚の笑みを高く空に向けて浮かべる男のくねくねとした動きは、まるで脊椎を失ったかのように抵抗がなく、両頬に添えられた手が時折痙攣していた。

 

「うわっ何、何っ、こわっ」

「油断するなッ! あの男何かしでかすぞ」

 

 生体磁気の……魔力の奔流が反時計回りで男に集まっていく。それは空中よりもむしろ地面から影響を受けているようであった。男の足下に六芒星が浮き上がり、その中心に黒い悪魔が召喚された。

 彼等は悪魔が襲いかかってくるものと思ったが、悪魔は魔力に拘束されて動けず、何ならその背後の男も魔力に拘束される。しかし男は悪魔と違い拘束を受け入れており、二者はそのままプラズマを放ちながら、やがて肉体の整合を失い、高密度のマグネタイトに変換されていく。

 

「目を瞑れッ!」

「えっ……」

 

 ヒバチの警告は僅かに遅れ、エツリは強烈な閃光を間近で目に焼き付けられる。それに遅れて響く爆発音、激しく明滅しながら混ざり合う二者の魂が争い、しかし、あまりにも窮まった男の信仰心が、悪魔の欲も悪意もすべてなみしてしまった。

 

 

 

 

「オファニエル様ァァァァーッッ!!!!」

 

 

 

 光と音の双方が消える。目も耳も一瞬では暗闇の世界に慣れず、エツリは落差のあまり気分を害し、その場に膝から崩れた。薄白い残像に視界の隅まで占拠され、甲高い耳鳴りが前後左右の覚えを妨害する。酷い魔力酔いの中で、ヒバチの腕に支えられながら、彼は無意識のままに呟いた。

 

「オ、ファニエル……」

 

 信徒は死ぬ間際にすら主の名を呼ばなかった。大半の啓示宗教で禁じられている天使の崇拝。禁忌の中でも特に忌まわしき命の収奪と変容。果たしてこれは純粋なるメシア教信者と呼んで差し支えのない者であろうか? 崇めて止まない天使の御心に叶わず、道半ばにして斃れる無念、その一心で、男は死んだのだ。

 

 





・人間合体
 とある邪教にのみ伝わる瀆聖の異端、悪魔合体。その技術を用いて、悪魔と人間を合体させるという、更に道理に背いた外法。一説には、人間を生贄とすることでより強力な悪魔の契約を誘引しているのではないかと言われている。

・エツリ君は
 レベルで言うと5。因みにエンジェルはレベルで言うと8。アクエン君は16です。この弱さでシルフに戦うなとか言ってたのかよこいつ。色々伏線だけ匂わせてる癖に正義感強めなだけの雑魚なのなんかムカつくわ、嫌いになってきた。まぁでもこっから段々強くなる予定だから許して。


 こういう狂信者ほど気が付かないうちに教義とか破りまくってるんだ。天使崇拝する上に邪法まで使うとかもう終わりや。死んだなこいつ。既に生贄になって死んでたわガハハ。
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