赤クソ(ガイア)と白クソ(メシア)とクソ(他)   作:イリノイ州の陰キャ

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前回のあらすじ
アクエン『死ねクソガキィィィィ!!』
白クソ「オファ様万歳ィィィィ!!」
エツリ「ヒエッ……」
シルフ『大丈夫。エツリ君は私が守るよ』
エツリ「シルフちゃん……♡♡♡」
ヒバチ「エツリ。腕の中にいろ。私が守ってやる」
エツリ「ヒバチさん……♡♡♡」

 書けば書くほど姫になるなこいつ。変なテンプレートであらすじ書いてる奴が悪い。
 人間合体すこなんだ。そういや何年か前にSwitchアーカイブで真1やってました。きょうしんしゃとウェンディゴかなんかを合体させまくったおもひで。ちなわしの初メガテンはストレンジジャーニーの模様。そのせいか銃属性がお好み。エツリ君にもそのうち銃とか持たせたいんじゃ。



序盤の強ボスはレベル差あるけど属性有利だから勝てたみたいなのがセオリーじゃんか

 

 悪魔を合体させる邪法については、巷間で頻りに話されている、という訳ではないが、さして秘匿されている訳でもない。わざわざ吹聴して自らの立場を危うくしようという者がいないだけで、その術は周知のものだ。しかし、人の心身を合体の材料にするなどという試みについては、エツリもヒバチも、耳にしたことも、想像したこともなかった。

 

 

 

 グオオオォオオォオオ!!!

 

 

 

「うわっやばっ、な、なんか凄ぇでかいのが出てきたぞ!」

「狼狽えるな! いや焦るべきか! とにかく構えろ!」

 

 六芒の合体陣から這い出てきたのは、彼等の身長の三倍もあろうかという薄白い土塊の巨人だった。巨人はそれらしい言葉を一切喋らず、ただ咆哮を空に放つばかりである。意思の疎通も難しければ、正体を見破るのもまた困難であった。

 

「ちょっ、おいアレ、そんじょそこらの悪魔じゃないぞ!」

「当たり前だ! 合体から呼び出された悪魔がそこらの悪魔の類な訳があるか!」

「そうじゃなくて! 神聖なんだよ! あの見た目で聖なるオーラ放ってんの!」

「何ッ!? あの卑しき風貌で神に類するとでも言うのか!?」

 

 エツリは叫びながら、懐に隠しておいた虎の子のテトラジャストーンを砕いた。以前の作戦で支給されたものを返さずにくすねておいた残りだ。神聖に抵抗力のある彼自身がこれを使ったのを見て、ヒバチは驚愕した。わざわざそんな貴重品を切ったということは、耐性のある彼にも受けきれない破魔属性の攻撃が来るということ。

 それが何なのかはすぐに解った。巨人が突き出した拳はテトラジャの結界にぶち当たり、切れかけの蛍光灯みたいに明滅しながら激しい余波を撒き散らす。テトラジャは破魔属性こそ無効化するが、その余波までもを無効化しない。彼等は先程エツリから放たれた風撃よりも更に強い風に吹き飛ばされ、瓦礫の上をゴロゴロと転がった。

 

「は、白龍撃だとッ!?」

 

 いち早く起き上がったヒバチがエツリを助け起こしながら、その攻撃の正体を看破した。ずれた面を抑えながら立ち上がるエツリは、聞き覚えのない単語(しかも何だか響きが格好いい)に反応して首を傾げる。

 

「白龍撃?」

「神聖を伴った杖刑だ……メシア教でも武闘派のテンプルナイトが得意とする技だ。ここまでの威力ではないがな……!」

「あんた天使とか初めて見たんじゃないのかよ」

「教徒は別だ。むしろ毎日小競り合いを起こして――避けろッ!」

 

 避けろ、などと言いながら、ヒバチは有無を言わさずエツリの首根っこを掴んで放り出した。自分も続いて同時に体を背後へと投げ出す。そんな風にして転がった彼等のすぐ真上を、光り輝く拳が通り抜けた。そして雷のように甲高い破壊音。ヒバチはびっくりして体を震わせるエツリの服の襟を、引っ掴んで無理やり彼を立たせると、問答無用で背中を叩いて走るように催促した。

 

「うぉおおぉおお!!? あークソだから嫌いなんだよメシアの奴等マジで!!」

「言ってる場合か! 口を動かす余裕があるなら足を動かせ!」

 

 泣き言を言いながら逃げるエツリを叱咤するヒバチの額にも、脂汗の玉がびっしりと並んでいた。どっしどっしと彼等を追いかけている巨人は、神に類する存在らしい癖に中々感覚が鈍いようで、ちょこまかとジグザグに逃げるエツリ達を完全には捉え切れていない様子だった。しかし、一度彼等の姿を捕捉すると、今度は尋常ではない速度で距離を詰めてくる。このままでは辺りの建物を全て破壊して、何なら瓦礫も全部砂にでも変えてしまうのではないかという気勢だった。

 

「あーもう! なんだこのばーか! あほ! デブ! まぬけ! おたんこなす!」

「なんだその著しく知性に欠けた語彙は! 騒ぐ前に逃げろ!」

「食らえ泥団子野郎!」

「たわけッ!? 何をする気――」

 

 天使との戦いを切り抜けたばかりということもあって剛を煮やしたエツリは、ヒバチの制止も振り切って腕をかざした。空気を突っ切る衝撃魔法。彼の唯一の攻撃魔法であるザンが腕から放たれ、巨人の顔面にクリーンヒットする。巨人は動きを止め、その相貌を土埃の中に隠してしまった。ピクリともしないその様子を見たエツリは、軽薄な笑い声を漏らしながら得意げに腕を下げる。

 

「へっ、なんだよ意外と――」

 

 

 

 ゴァアァェェアェアアアァ!!!

 

 

 

「あー駄目みたいですね」

「大たわけがッ! 走れ!」

 

 更に激昂した巨人の拳が彼等のすぐ目の前に突き刺さる。クレーターを作ったとかそんな生易しいものではない。文字通り舗装路に突き刺さったのだ。食らえばペシャンコ。世にも汚いトマトジュースの完成だ。滝のように冷や汗を流すエツリは、軽薄な笑い声を乾いたそれに変えながら、両手を挙げてじりじりと後退すると、巨人が咆哮するのに合わせて弾けるようにヒバチと共に駆け出した。

 

「ふざけろ考えなしがッ! 死ぬ気か!」

「どうせ逃げきれなくなるだろ!」

「言い訳は聞かんぞ小僧!」

 

 ヒバチに叱責されて肩を縮ませるエツリは、それ以上にザンが全く効かなかったことを疑問に思っていた。外した訳でもない。それもかなりいい位置にヒットしたにもかかわらず。技量が足りないのか。あるいは衝撃属性に耐性を持っているかだ。後者であれば最早打つ手なし。ヒバチは攻撃に使える魔法を習得していないし、あの巨体に接近戦で打ち勝とうなどというのは現実的ではない。

 

「はぁっ……はあっ……流石に、きついな」

「気張れ……! 止まれば死ぬぞ!」

「ジリ貧だろこりゃ……」

「クソ……仕方ない!」

 

 ヒバチは懐から取り出した魔石を砕き、一時的にマグネタイトを増幅させた。彼が何をする気なのかは解らないが、エツリは走りながら横目でそれを確認すると、自分が次にどう動くべきかを思案し始めた。

 

「横に走って奴を引き付けろ! アナライズを仕掛ける!」

「そんなことできんの!?」

「口外厳禁だぞ!」

 

 アナライズ、と聞いた瞬間に、エツリは言う通りに横道に逸れて走り出した。序でに衝撃魔法を敵に当て、敵愾心を稼ぐ。読んで字の如く解析の魔法だが、これの使い手は限られる。というか、アナライズを使えると公言している人間は片手の指にも満たないのではなかろうか。

 これは単に難易度の高い魔法であるということもあるが、理由としては悪魔が教えたがらないことが大きい。自分から弱点を晒す方法を流布したいと思う者はいないだろう。余程実力に自信があるような奴でもなければ。

 

「今だ! こちらに引きつけろ!」

 

 路地の壁の向こうから聞こえてきた声に従って、エツリは滑り込むようにして横道をくぐる。巨人はその体躯から路地を上から見下ろすようにして彼を捕捉しており、いつでも視界に入れられているので逃げるのは容易でないが、引っかけるのは簡単だった。

 アナライズのシステマチックな光の束が巨人に当たる。すると、ヒバチの目に同色の光の螺旋が宿り、そして消えた。傍目から見ていると成功したんだかしていないんだか解らないが、どうせ打つ手なしのエツリは文句を言わずにそれを黙って見ていた。

 

「ウベルリだと……!?」

 

 二秒にも満たない無言の後、驚愕を隠し切れないヒバチの掠れた声が彼の耳に届いた。

 

「ウベ……ん? 何それ? すまねぇ、ガイア語はさっぱりなんだ」

「黙らんか粗忽者め! 大地と天空をその身で支えていたと言われる大巨人だぞ!」

「その割には小さくね? 神聖も薄いし。召喚した時に事故ったとか?」

「う、む? それは確かに……いや、そんなことは考えても詮無きことだ!」

 

 昔の人は何でもかんでもスケールでかくすりゃいいと思ってるのか、伝承の神やらそれに準ずる者等は、みんなみーんな天地がどうこうみたいな大きさをしている。何なら天使もそうだ。しかし実際に大天使と呼ばれる連中を目にした時、その大きさについてはかなり個体差(個人差?)がある。例えばラミエルとかいう大天使とガイアの抗争を遠くから見ていた時は、雑居ビルよりでかい翼と目の集合体みたいなのがビーム打ちまくってたのがそうである。反対に先程合体材料になったメシア教徒がいうオファニエルは、噂では人間とそう変わりない大きさであるらしい。

 

「それで、結局あいつ何なら効くの?」

「少なくとも破魔と衝撃は効かん。弱点らしい弱点は呪殺だけだな」

「マ? 進退窮まったなこりゃ」

 

 呪殺なんてもし使えたとしてもシルフが許さないであろう。そもそもここに呪殺魔法なんか使える奴はいない。雑魚下っ端のエツリには攻撃用の魔法石なんて購入したり保持しておく余裕はないし、解ったのはウベルリなる悪魔に対して、エツリには全く打点がないということだけだ。

 

「いや……まだ万事休すという訳ではない」

 

 神妙な顔でそう呟くヒバチの様子を横目で窺う。その表情には焦りこそあれ、絶望感を醸してはいなかった。

 

「何、やっぱ土の塊だし水に落とすとか?」

「いや、奴の起源は海底だ。水は効かんだろう」

「じゃあ……」

「悪魔を召喚する……あまり喚びたくないが」

 

 最初からそうしろ、という反論を先に潰しておくかのように、ヒバチは遅れて補足した。実際仲魔がいるならさっさと召喚してほしい所だが、エツリも同じようなことをしている身なので文句は言えなかった。

 

「で、今度はどんだけ時間稼ぎゃいいの?」

「いや、それには及ばん。そこまで〝燃費〟の悪い悪魔ではない……」

 

 歯切れの悪い言い方をしながら、ヒバチは携帯を操作し始めた。それには及ばんと彼は言うものの、余所見をしなければならない味方を敵の攻撃に晒す訳にはいかない。エツリは先程同様に敵の注目を集め、彼から少し遠ざかるようにして逃走を継続した。召喚が行使される時の独特のマグネタイトの流れが肌を横切る。撫で付けるような感覚に、シルフが感化されるのを抑えながら、彼は今にも悪魔が召喚されようとしている方を盗み見た。

 

 

「現れろ〝ガミジン〟!!」

 

 

 禍々しい、悪意と結び付いた系統の魔力が地を這うように流れ出し、呪力に耐性の低いウベルリとエツリが動きを鈍らせる。

 

『暫くぶりの俗世と思えば……神におもねる恥知らずのお相手ですか……いえ、文句などありますまい。ええ、ありませんとも』

「うぉ……だ、堕天使?」

 

 エツリには縁の薄いタイプの悪魔だ。彼等は召喚者に従順な反面、自らの利益にならない相手には全く興味を示さない。世間に疎い上に力もない彼は、堕天使からすれば路傍の石ころにも価値で劣るもの、あるいは生体マグネタイトと血肉の供給源以上の認識を超えない。馬の顔をした堕天使は、わざとらしくヒバチに平伏してみせると、逼迫した彼等の様子など意にも介さず辺りをゆったりと見回した。

 

『お連れ様がいらっしゃいましたか。これはまたバカ面……知性に貧した顔……バカ面な方でございますね』

「面つけてんだから顔なんか見える訳ねーだろ。バカはお前だウマシカ野郎」

「無駄口を叩くな。お前はそこで魔力を集めていろ」

『仰せの通りに』

 

 やっぱり相性が悪いのか、堕天使はエツリをあからさまに見下した態度で笑った。それこそ自分の契約者であるヒバチに対してすら不遜な微笑みを絶やさない。ガミジンの手を起点に、悪意を起源とする魔力の流動が始まると、エツリはこれ以上近くにいられないという風な態度で距離を取り、調子を取り戻したらしいウベルリを睨みながらじりじりと横に膨らんでいく。

 

「まずは一発撃ってみろ」

『ではご覧なさい。〝ムド〟』

 

 黒い魔力の塊が、風をかき分けるような緩い音に反して、猛烈な速度でウベルリの顔にぶつかる。エツリはガミジンが召喚された時と同様に気分を害し、面越しに口元を手の甲で抑えた。命中したムドは彼のザンにも及ばない程度の衝撃しか生まなかったが、ウベルリは大きく仰け反り、顔を押さえて苦しみ始めた。

 

「おぉ……めっちゃ効いてるじゃん!」

「あぁ。だが一度や二度では……」

 

 

 グォエァォアァア!!

 

 

「すっごい怒ってる」

「だろうな……エツリ! 陽動しろ!」

 

 言われるまでもなく、ウベルリが顔を上げて走り出そうと足に力を溜めていた時、既に彼は走り出していた。巨人は言い伝え通り酷く鈍いようで、集まっていた二人と一体の区別が付かず、弾かれたように飛び出したエツリがムドの術者であると勘違いした。走り続けていれば溜めが必要な白龍撃は飛んでこないという寸法で、エツリはもはや裏路地とも言えない瓦礫の上を駆け抜けた。

 

「もう一度引きつけろ!」

 

 ある程度走り回った所でヒバチの声が響く。エツリは半ば倒れ込むようにしてヒバチ等の前を走り抜け、その瞬間にムドが放たれる。二発目も命中するが、今度は狙いが右肩に逸れた。同様に引き付けて三発目。鈍いといっても学習能力はあるのか、これは紙一重で避けられる。続けて四発、五発と撃ち続け、いよいよ引き付け役のエツリの体力勝負という様相を呈してきた。それからガミジンの残存魔力の問題もある。まだ余裕があると表情では言っているが果たして何発撃てるのか、そして何発撃ち込めば倒れてくれるのか。明確なゴールを決められないまま走り続けるのが、精神に多大な苦痛であるように、彼等は如何にもタフな巨人の暴れっぷりに辟易していた。

 

「食らえ!」

 

 ヒバチが指差すムドの行き先は的確にウベルリの顔に集まっている。見た目には解らないが確実にダメージが蓄積している筈だ。それなのに巨人の挙手に翳りはない。

 

「クソッ……! 効いているのか!?」

『どうでしょうねぇ』

「もはや形振り構っていられん! 出力を上げろ!」

『ご無理を言いなさるな。私は――』

「倍だ! 倍をくれてやる! いいから言う通りにしろ!!」

『なるほど……ではそのように』

 

 ヒバチは酷く苛付いて、悪魔に怒鳴り付けた。走り回るエツリの困憊具合に気が付いていたからだ。これ以上は持たない。天使との戦闘で消耗している状態で、更にあのウベルリとかいう悪魔を相手に長期戦をしかけられるほど、彼等に残されたリソースは多くはなかった。

 

 

 ギァアオォォェアアアア!!!

 

 

 走力が落ち込み始めたエツリの頭を、巨人の岩拳が掠めた。元から頭にダメージを受けていたこともあって、簡単に脳を揺らされたエツリは走りながらふらつき、横に倒れ込むようにして肩を壁に激突させた。

 

「エツリ!」

「構うな! 策があるならさっさとしてくれ!」

 

 強がりでそう言ったのではない。エツリとしては、何か策があるならさっさと使って倒してほしいのだ。元々体力に乏しい彼の陽動は限界に近かった。 壁を肩で擦りながらも死に物狂いで走るエツリの怒声に、ヒバチは弾かれるようにして気を取り直した。

 

「ガミジン……!」

『いつでも』

 

 悪魔の左で、ヒバチはマグネタイトを帯びた手掌を神妙に降した。マーカー代わりのマグネタイトの線がウベルリの全長と完璧に一致した瞬間に、馬の表情が不自然な歪み方をする。人の笑みに似た笑顔を再現する頬が引きつる時、この世のものにはあり得ない邪悪な形状の牙が見え隠れした。

 

 

『出血大サービスといきましょう。〝ムドオン〟』

 

 

 

 

 ギャイイイィァィイイィ!!!!

 

 

 

 

 胸の空くような悪意の波紋と、怪我と疲労との積み重ねから、エツリがその場に倒れるのと同時に、一回り大きい呪詛の塊がウベルリを押し倒し、まとわりついた。呪言と害意の具現である赤黒い影は、聖なるものに準じるウベルリには、二つとない脅威であり、最も不愉快な感覚であった。巨人は両腕を振りまして建物や瓦礫を吹き飛ばしながら、絶叫してのたうち回る。エツリには倒れ伏したまま頭を手で覆う以外に術はなく、ヒバチも同様に頭を守り、耳を塞ぎながら様子を窺った。

 やがて叫び声が遠のいていく。まるで悪意から逃げるようにして。その場を支配していた重苦しい神聖も、軽薄な悪意もどこかへと去り、その場に残されたのはくたばり損ないのニンゲン二人だけとなった。

 

「凌いだか……?」

「もう……無理……」

 

 ヒバチもエツリ同様にその場にどっさりと倒れ込み、肩で息をし始めた。作戦を生き残れた時点で幸運であるが、二人とも今は自分のことを幸運とは呼びたくなかった。

 

 

 

 天使の軍勢は潮が引くかのように一斉に撤退を始め、その幾らかは背中を斬られるか撃たれるかして墜落したが、大部分は戦場から逃げ出した。

 勝鬨橋とその周辺を舞台とした死闘は熾烈を極め、互いに少なくない被害を生んだが、その上で歯切れの悪い終わり方をした。両者共に損害は出たが、決定的に勝敗を判別する材料まではない。なにしろ両陣営の主導者はどちらも健在で、互いに若干の余力を残したままだ。

 教団縁者に対してはなんだかんだで仲間意識の強いガイア教の末端連中は勿論、一部のハンターからも反発があった。斃れた仲間達は一体何のためにこの争いに身を投じたというのか。勢力の均衡にも支配地域にも影響の出なかった今回の衝突は、全く無意味だったと思われてもおかしくない。無意味かと言えばむしろ相当な重要度(勝敗ではなく抗争自体が)を有している。理由は簡単だ。この武力衝突はとある遺物の回収命令を受けた別働隊から意識を逸らすための、壮大な時間稼ぎだったのだが、そんなことを表にすれば、更なる反感を買うことになる。埠頭に積まれたままの用無しコンテナが余波で幾つか潰れるのとは訳が違うのだ。鉄の箱とは違って仲間は動くし喋る。顔を突き合わせて短い仲と言えど、情は移る。かくいうエツリもこれには巨大な疑問符を浮かべたが、教団の陣頭指揮やら討伐隊隊長などの、平よりちょっと地位の高い連中が皆平然としていることに、そこはかとなくきな臭いものを見出し、立場を悪くするのを嫌って下手な追及を控えた。

 

『で、あんなに頑張ってたのに、本部からはねぎらいの一つもないのね。あんなに、死にかけになって、結局私抜きで戦って』

 

 未だに頭部の包帯が取れないエツリを呆れ腐って睨みつけるシルフに対して、彼には居場所がなかった。というのも、散々警告して回復まで手伝い、ピンチになったら呼べという彼女の言葉を、遂に作戦終了までガン無視した挙句、ウベルリを相手に出てこようとする彼女を押さえ付けていたことが原因で、彼女は相当ご立腹であるらしい。

 

『知らなかったわ。君、弱い上にマゾヒストだったのね。ボコボコにされて嬉しいんだ』

「ごめんね……本当にその」

『ごめんね?』

「いや、あの……ごめんなさい」

『別に私は痛い思いしてないからなー』

 

 以前にもこうして彼女が怒ることは何度かあった。でもその時はもっと(チョコの味の好みで喧嘩になったくらいの)些細なことで、尚且つ長引くようなものでもなかったし、ただのじゃれ合いくらいなものだった。しかし今回は本当に、もう本当に怒っている。彼女が偶に無言になる度に、エツリの肩が縮まっていった。実際の体躯の大きさはあのウベルリとニンゲン以上の差があるというのに、ここにおいては彼等の全身の大きさにそう変わりはないようにすら見えた。

 

『それにしても……よかったわね。死なずに済んで』

「一人なら死んでたよ。君のお陰」

『それと、あのヒバチって人もでしょ』

「そうだね……」

 

 

〝やはりベストパートナーは撤回する〟

 

 

 半ば呆れ気味にそう言って去っていったヒバチの表情には、しかし怒りはなかった。出来の悪い弟でも見るような顔。居心地の悪い視線に見下ろされ、たじろぐエツリの頭をパシッと叩くと、彼は堂々とした足取りでガイア教団の群に戻り、そのまま本拠機へと帰って行った。お礼の言葉も一つも受け取ってくれなかったのは、ヒバチ風に言うなら「いずれまた相目見えよう」ということなのだろうか。

 

『じゃあほら、頭出して。回復するから』

「ごめん。毎度毎度」

『そう思うなら、変なプライド出さないで戦闘にも私を呼びなさいったら』

 

 精霊は人前に出ることを嫌う。善性が強く、偏りや争い事、不自然な統率も嫌う。だからガイアやメシアの連中には絶対に迎合しないし、そもそもこんな荒れ果てた世界では姿を見せようともしない。そんな精霊の一員である彼女が、なぜ自分の下に姿を現し、こうして力を貸し、更に慰めるようなことまで言ってくれるのか、エツリには解らなかった。何か企みがあるようには思えない。そうだとしてももっと実力のある者の前に現れる筈だ。だからこそ、時折彼女の優しさが怖くなる。不気味だとか信用できないとかではなく、返せるものがない罪悪感から、これ以上恩義を滞納する訳にはいかないという気持ちにさせられるから。

 

『はいおしまい。じゃあもう今日は……』

「うん。休むよ」

『夜遅くまで携帯触ってたりしたら駄目よ』

「解ってる。ありがと」

 

 

 

 それからは、まぁ平和ではない通常通りの日々が続いた。時折生活圏に迷い込んでくる悪魔を、他の隊員達と協力して何とか倒すなり追い払うなりするか、可食悪魔を屠殺して食肉を集めるかするだけの、通常通りの日々だ。ただ隊長だけは何となく忙しそうにしていた。その理由を木っ端の隊員が知ることはないが、どうせ碌なことじゃないのだけは確かだ。

 豊洲作戦から五日が経とうという頃、また協会がきな臭い雰囲気を醸し始めた。採算がどうこうとか食い扶持がどうこうとか。最近地下にまで悪魔が侵攻されるような事態が起きていないので、人口がちょっとずつ増え始めている。そこで、労働力誘致とか嘯いて、市民を別の地下街に飛ばすのだ。彼等がどうなるかは知らない。知りたくもなかった。そろそろそんな時期か、と別の隊員が呟くのを聞かされ、エツリはまた酷くナーバスな気持ちにさせられた。どうせ自分が犠牲になるだとか、市民を守るために立ち上がるだとか、そこまでの正義を振りかざす勇気もない癖に。平和ではない通常通りの日々とはすなわちこういうことだ。誰かが生き残るために、誰かを殺す毎日。どうにか受け入れようとしてみるのだが、嫌悪感は壁にくっついたまま固まったガムよりもしぶとく、そして往生際悪く彼の胸に残っていた。

 

 

 

 

「……」

 

 土塊を見下ろす二つの影が、刀についた埃を落とすようにして左右に斬り払った。この刀の前では、ウベルリはまるで紙粘土か何かのように容易に切り崩され、果ては幾つかの岩と泥の塊に成り下がっていた。

 

『精霊の匂い……』

「――精霊だと?」

 

 影の跡には生命の気配が一つとして伴わなかった。ただ物騒な笑顔にも見える闇と光との対照が、気まぐれに明滅するのみだった。

 

 





・ウベルリ
 地霊ウベルリ。海底から天地を支える起源の巨人。以前は鬼神に属する強力な悪魔であったが、紀元後に登場した多くの神話に押され、信仰を失ったことで弱体化。地霊にまで神格を失墜させた。思想的な面でも変化が起きており、以前は造物主に信仰を追われた多くの神々と結託し、造物主とその配下に敵対を宣言していたが、現在では自身の存在を安定化させるため、天使側の傘下に置かれている。ただ神格を失墜させたことが原因で、知性や全長など、能力が大いに失われている。 

・ガミジン
 堕天使ガミジン。レメゲトン第一書〝ゴエティア〟に詳述される序列第四位の侯爵。ただ悪魔の強さは信仰とか知名度にも左右されるので、レベルにすると12、3くらい。ウマ、あるいはロバの体躯を持つ悪魔。ヒバチとはあまり反りが合わない模様。とある対価を支払って喚び出している。

・アナライズ
 悪魔の正体やその力を看破する魔法。かなりの高等技術で、悪魔から教えられる(所謂ウィスパーイベント)以外には習得する方法はない。また悪魔の方も自ら弱点を晒すようなことをしたくないので、覚えている人間は極めて少ない。またアナライズができるとバレれば、各陣営からは(かなり強引な手で)引っ張りだこになるし、悪魔からは率先して狙われるしでいいことなし。基本的に術者はアナライズができることは隠している。

・エツリ君は
 ヒバチがいるせいで気が大きくなってますね。普段の彼なら効くかも解らない強敵に魔法を撃って逆上させるような真似はしません。気兼ねなく喋れる仲間みたいな奴が隣にいるからはしゃいでます。小物すぎるだろこいつ。


 序盤の強ボスは味方ゲーでしたとさ。倒せて良かったね(倒せてない)
 ヒバチ君大活躍で草なんだ。主人公交代しろ。エツリ君は相手が悪かったね。こんな序盤に主人公が属性負けする悪魔を出すな。
 さらっと燃費とか言っちゃう辺り、ヒバチの悪魔に対するスタンスが見て取れますね。まぁこっちのがスタンダードなんやが。エツリ君は今まではぼっち拗らせ過ぎてて、オタクに優しいギャルみたいな悪魔にしか心開けなかったの。
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