良い思い出が無に等しかった前世で、数少ない心の支えと幻想郷での再会。
サニーたちとの初外出も併せ、お陰で気持ちが大きく和らいできた僕は、霖之助さん
内容としては別に大したものではなく、自分の趣味や得意不得意の話から、家でするような
長時間動き回った休憩がてら、お店の一角に作られた和室に敷かれた座布団に座り、出された渋めの緑茶とお饅頭を堪能しながらのそれは、ルナが「家以外だと最高に近い一時」と言うだけあると思う。
「うひゃあ。2人とも、良くそんな
「うん。
「じゃあ、今度たっぷり仕入れとかないとね! それにしても、本当にルナと食べ物の好みがそっくりだわ! 他の人妖で例えたら、血を分けた姉妹って感じ」
「あははっ。だってよ、ルナ。僕と姉妹だって」
「うん。今のところだけど、格好も同じだしね……髪と瞳の色、羽の枚数とかが似てたら、魔理沙とか香霖ですら初見だと見間違えてたかも」
「ああ、僕も一瞬違和感を感じた身だ。それは違いないだろうね」
しかし、仕入れるのが大して難しい訳でもなく、僕たち妖精と同じで
本来は喧騒を好まず、香霖堂で静かに1人で過ごすか、物を拾いに外出する生活を送りたい人にも関わらず、まあまあ騒がしい僕たちが連絡なしに遊びに来てすらこの待遇である。
表情や声のトーン、無意識下の仕草にすら不満を感じさせる要素が、見たところ全くないのは凄い。
「あの……霖之助さん。お茶とお菓子、無理しないで。きっと、大好きなんでしょ?」
「確かに好きだ。ただ、嫌々出している訳でも、毎回出している訳でもないから、心配は要らないさ」
「そうそう! 本当に嫌だったり無理な時って、香霖はきっぱり断ってくるわ! 例えば、宴会へのお誘いとか」
「一癖も二癖もある人妖が集まるからねー。今のメノには、絶対にキツいと思う」
「……うん」
ただ、それに味を占めて騒ぎすぎたり、常識的に考えてあまりにも長い時間滞在したりすれば、流石の霖之助さんでも良い思いはしないだろう。
それを基に考えれば、この幻想郷でも共通事項なのは間違いなく、最悪は関係悪化の可能性が出てくるだろう。
まあ、その辺はしっかり守られているから、時折サニーたちが遊びに来て騒ぐくらいでは、不満なんて感じようがないのだろうけど。
「さて。申し訳ないけど、そろそろ帰ってもらって良いかい? おそらくもうすぐ、ここへ来客が来ることになっているんだ」
そんなこんなで、猫ちゃんぬいぐるみを大事に抱えながら楽しむこと約3時間、食器の片付けや荷物整理を済ませて戻ってきた霖之助さんから、そう声をかけられる。
(もうそんなに……? やっぱり、楽しいことって、時間が経つのが早いんだなぁ)
サニーたちとの一時や魔理沙さんとの練習時もそうだったけど、僕の感覚的には1時間も経ってはいない。
あの人たちと居る時は、逆に物凄く長くなったかのように感じることが殆んどだった故に、何とも新鮮な気分だ。
「いやまあ、秘密の話をする訳でもないから、別に居たければ居ても良いんだけど……メノが、知らない他人は苦手だろう?」
「うん、確かにそう。ちなみに、来客って誰?」
「紅魔館の面々だね。レミリアと、咲夜の2人」
なお、来客は霖之助さん曰く紅魔館の面々……そこの主である吸血鬼の『レミリア』さんと、館のメイドさんたちを束ねる長の『咲夜』さんとのこと。
大体がこの時間帯に訪れては、便利なものや興味を引くものがあれば買っていってくれる、香霖堂のお得意様らしい。
今日の僕たちみたいにいきなり来ることもあれば、事前にこの日に行くと伝えてくる時もあるようだ。
「あー、うん。そういうことなら……サニー、スター。今日は帰ろう」
「ええ! 結構入り浸っちゃったし、ちょうど潮時だわ!」
「面白そうなものも買えたしねー。あんまり居すぎるのも良くないし」
サニーたちも、もう少し居たかった表情を見せつつも、僕のこともあってかあっさりと帰ることを決め、支度を整えていく。
(あぁ……僕が、もう少し緊張感に強かったら、もっと居れたのに……)
せっかく、霖之助さんが居たいなら良いと認めてくれたのに、僕のお陰で自分たちの意思を曲げたサニーたちを見て、何と言うか心が痛い。
だったら、もう既に膨大な幸せを与えてくれている家族のために、僕が自分の意思を曲げよう。
猫ちゃんぬいぐるみの助けもあるし、1人や2人くらい知らない他人が増えたって、乗り越えることはできる。
「メノ! そんなに心配しなくても、あなたに不満なんて抱くはずがないわ!」
「そうそう。だから、あんまり深く考えなくても良いからね」
「本当、今日は楽しかった。また今度、一緒にお出かけしよう。メノ」
なんて思っていたら、僕の方を見てそれを察したサニーたちが優しい言葉をかけてくれた。直接的には言ってこず、僕の意思を曲げる必要などないと言われているように感じる。
もう少し香霖堂に居たかったのも本当なのに、仲間のためなら自分たちの意思を曲げることすら厭わない。これだから、僕が自分から色々してあげたいと思うのだ。
無論、そんなサニーたちの強い意思を無視する訳にはいかない。このまま香霖堂にお客さんが来る前に、皆で家へ帰ろう。
「香霖、今日はありがとうね! ばいばーい!」
「ああ。いつでもって訳じゃないが、君たちなら歓迎するよ」
と言うことで、サニーに続いて霖之助さんに手を振った後、僕たちは香霖堂を後にしていく。
「さてと、メノ。今日はどうだった? ちょっとは楽しんでくれたかしら?」
「うん、とっても楽しかったよ。この子とも再会できたし、まだお話する時は緊張するけど霖之助さんは優しい男の人だし、香霖堂は良い場所だったと思う」
「そう? なら良かったわ! 香霖堂に慣れてきたら、いずれは博麗神社とか、その辺にも行ってみましょ!」
「人里は……当たり前だけど人が多いから、当分無理そうだけどね」
帰る道中、サニーから今日の外出についての感想を求められたけど、言わずもがなとっても楽しかったので、そう答えておいた。
お店の雰囲気に穏やかな性格の店主さん、今まで見たこともないようなものの数々、猫ちゃんぬいぐるみとの再会を抜きにしても、また来たいと思わせるには十分な場所である。
いずれ、1人で外出ができるくらいに幻想郷に慣れてきたら、時々入り浸るのも良いかもしれない。
言わずもがな、香霖堂は霖之助さんの住む家でもあるし、本人の性格や好みもある。あまり来て欲しくなさそうな時は、僕の気分がどうであれ、問答無用で大人しく引き下がろう。
「ただいまー! って、まあ誰も居ないんだけどね!」
「まあ、もう癖みたいなものだし」
「そもそも、返事が帰ってきたら怖いわ。侵入者が居るってことだから」
色々と会話を交わしたり、何となくで僕の鼻歌を披露したりと楽しみながらそこそこ長い間歩き、最高にリラックスできる我が家へと帰った瞬間、一気に疲れが出てきた。
身体的な疲れと言うよりは、初めての経験による精神的な疲労と表した方が、多分正しい。
まあ、いくらサニーたちや猫ちゃんぬいぐるみが一緒ではあっても、元々の僕の性質が性質なのだ。長年の生活で染み付いた精神もあることだし、完全に打ち消せなくても何らおかしくはない。
「皆、今日はありがと。ちょっと僕、疲れたから自分の部屋で休んでるね」
なので、未だに盛り上がっているサニーたちに声をかけた後、溜まった疲れを癒すために僕は自分の部屋へ、猫ちゃんぬいぐるみと一緒に休みに向かった。
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