メノの秘密。それが存在すること自体は、前に本人から自室に入る際の注意点を、簡潔に語られた時に知った。
私たちを心から信頼していて、完全なプライベート空間である自室に入ることすら拒まないにも関わらず、1冊の日記帳だけは見せたくないと言われたから、凄く印象に残っている。
無論、知られたくない秘密が1つもない人妖なんて居ないだろうし、それ故にメノに秘密があること自体は、何らおかしくなどない。
正直何が記されているかは気になってはいるものの、そこは鋼の如き意思で抑え、私もスターもルナも決して知ろうとしないようにしていた。
「あっ。でも、言葉が出てこないかも……だから、その時になったら、僕の日記帳を見てもらおうかな。1週間後に言おうとしてること、全部書いてあるの」
「日記帳を……えっ? でも、メノが隠してる秘密以外のことも書いてあるんじゃ……」
「問題ないよ、サニー。実際のところ、僕の秘密に比べれば大したことないから。例えば、贈り歌の歌詞とか、サニーたちへの感謝を綴った文章とかだし」
「なるほど。秘密に比べれば、確かにそうかもしれない。だけど、本当に大丈夫?」
「そうそう。もう大切な家族なんだし、ちょっとやそっとじゃ4人の絆には傷すらつかないから、言いたくないなら別に良いわ!」
「……ありがと」
ただ、メノに取り憑いていた『
スターが言うように、メノとは切るどころか並大抵の出来事では傷すらつかない程の、凄まじく強い絆で結ばれている。
隠している秘密だって、穏やかで優しすぎるメノのことだ。きっと、私たちを含む誰かを傷つける類いのものではなく、私たちと出会う前の過去についてだろう。
(……っ! それならいっそ……)
もしそうであるのなら、とても恐ろしい。何にも勝る恐怖を感じる。
既に本人から話されている分の過去ですら、私たちにとっては相当えげつない内容であり、仮に同じ目に合った場合に耐えられる保証が全くない。
雰囲気が楽しむそれではなくなったために、気を利かせてレミリアや美鈴と一緒に帰っていった魔理沙も、いつぞや「えげつないな。私でも耐えられるか分からないぜ、こいつは」と、苦々しい表情を見せながらこう言っていた。
なのに、それらと同等か上回るくらいに酷いエピソードが実はまだありましただとか、今まで話した過去の出来事は可能な限り、内容を削るか表現をマイルドにしてましたとかだったら、もういたたまれない。
「ううん、良いの。僕は僕自身の意思で、秘密を全部打ち明けようとしてるだけ」
「テルく……メノちゃん、本当にごめんなさい。わたしが、わたしが馬鹿なことをしたせいで……」
「ふふっ。そんなに泣きそうにならなくても、怒ってないから大丈夫。だって、ウルは僕の恩人……いや、幽霊だから恩霊さんかな……? まあともかく、ウルだから怒らないし、怒れないし、怒ろうとすら思わないってやつ。大好きな家族であるサニーたちでも、同じだけどね」
「……本当に君は、昔から変わってないんだから……もうっ!」
私が見る限りでは、メノは今相当キツそうだ。
レミリアや美鈴、魔理沙やルナと色々やっていたことによる、抜けきっていない身体的疲労。
私たちにも知られたくないような秘密を、全て打ち明けるに至ったが故に生じた、1週間後まで続くであろう精神的負荷。
これら2つが合わさることによる、負の相乗効果を私が受けたとしたならば、解放された後に体調を崩しかねないと思う程だった。
しかし、何人たりとも打ち破ることのできない壁の如き固さを誇っているとは言え、メノの決意に水を差すような真似は、今回に限ってはできそうにない。3割くらい、私のせいでもあるのだから。
「ウルがああ言うくらいだし、分かってはいたけど、本当に筋金入りなんだわ……ねえ。スター、ルナ。改めて聞くけど、例えどんな秘密が隠されてたとしても、宣言を反故にして打ち明けるのを止めたとしても、メノは大切な
「愚問よ、サニー。さっきも言ったけど、たかが秘密が隠されてた程度じゃ、4人の絆には傷すらつかない。秘密を打ち明ける約束を破った程度でも同じ。つまり、メノが家族であり続けるのはもはや決定事項だわ!」
「私もサニーやスターと同じ思いを抱いてる。それに、4人で楽しく幸せに過ごす日々、今更そんなことで失うのは冗談じゃない」
だから、1週間後に日記帳を見せられた時に、そこにどんな凄まじい内容の秘密が記されていようと、関係なく家族として接してあげること。
そして、仮に1週間が経つ前に決意が揺らぎ、隠し続ける選択肢を取ってしまったとしても、決して私たちからは触れずにいつも通り接してあげること。
メノのためであるのも勿論だけど、スターやルナも抱いているこの幸せを守るためと言う意味でも、それは当然の摂理だと言える。
「サニー、スター、ルナ。ウルのこと、受け入れてくれるかな……?」
なお、ウルとの微笑ましいやり取りを終えたメノから、心配しつつもこの子を認めて欲しいとの感情がこもった声でそう聞かれたけど、答えは既に決まっている。
何せ、私たちに出会う前にメノの心を支え続けて、壊れないようにしていてくれた最大の立役者なのだ。
今は私たちが居るにせよ、メノがそう望むのであれば無下にはできない程に、ウルの存在は大きい。端的に言うなれば、一心同体だろうか。
「大歓迎よ! 面白そうだし、何よりメノの恩人だもの!」
「私も歓迎。毎日がより一層楽しくなりそう」
「反対する理由もないし、同じだわ。ところで、ウルって今は幽霊でしょ? メノも言ってたけど、恩人と言うよりは恩霊じゃない?」
「うーん、確かに! ふふっ……と言う訳だからよろしくね、ウル」
「ありがとう……! サニーちゃんたち、わたしでも受け入れてくれるなんて優しいね!」
「でしょ? だから、僕はサニーたちが大好き。家族になることができたのが、何にも勝る
で、歓迎する旨を伝えると、ウルもメノも笑顔を見せて喜んでくれた。ウルの方に至っては、そのキラキラした群青色の瞳が潤んでいるように見える。
もしかしたら、メノと同じ感じで過去に辛く苦しい日々を過ごした記憶があるのかもしれない。
身体的に痛い目に合い続けたのか、精神的にえげつないことをされてきてしまったのか、はたまたその両方か……何にせよ、これからは共に過ごす仲間なのだ。
まあ、私たちが気づかなかっただけで、今までもずっと一緒に過ごしていた訳だけども。
「あら? ウル、身体が透けてきてる……まさか、成仏するとか言わないわよね?」
「勿論だよっ! ただ単に、実体化の限界が来ちゃっただけ。わたし自身は、メノちゃんの魂が存在する限りは不滅だからね」
と言うことで、メノの身体を労ってもう少し休んだ後に、ウルの歓迎会をしようと思っていたのだけど、実体化には時間制限がある事実と、それに加えてもう少しで制限に到達してしまうことが判明してしまった。
本人曰く、これは取り憑いた時に
要するに一心同体であり、自由に憑いたり離れたりできなくなったと言う訳だ。
なお、今日のようにメノの身体・精神・魂へ一切影響を及ぼさず、おおよそ1時間実体化するに至るまで、それこそ年単位での時間と絶対的な集中力を費やしてきたとのこと。
しかし、1度実体化すると現状最長で2週間が経つまでは再び実体化はできず、会話に関しても今日はもうできそうにないみたいである。
少し残念ではあるものの、メノとウルのことを考えればどうこう言おうとは思わない。また後日、実体化ができるようになったらその時は5人で1時間、存分に遊ぼう。
「じゃあ、また今度ね。サニーちゃん、スターちゃん、ルナちゃん。そして、メノちゃん!」
「ええ、またね! 面白い遊びを考えとくわ!」
「ばいばーい。のんびり待ってるねー」
「じゃあね、ウル」
「うん……また、お話しようね」
そんなことを考えつつ、徐々に透けていきながら笑顔で手を振るウルに、私も笑顔で手を振り返した。
オリキャラ【ソーウル・デュー】の詳しい解説項目を追加しましたので、確認したい方は活動報告までどうぞ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=303114&uid=286187
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