「よう、メノ。お前が1人で外出だなんて驚いたぞ。詳しい事情は知らないが、大丈夫か?」
開口一番、休憩のためにお茶を飲んでいた僕と視線が合った魔理沙は、とっても優しくて穏やかな表情を見せながら左隣に座り、そう声をかけてきてくれた。
一応、心配させないようにと表情や仕草には気を使っているつもりだったけど、サニーたちに次いで付き合いの長い魔理沙には、案の定僕の心はお見通しだったようである。
「えへへ、大丈夫だよ。今日は僕の新しい日記帳探しのために、1人お出かけしてるんだ」
「なるほどな。サニーたちのお陰で癒されつつあるが、何年もの経験によって積み重なっちまったトラウマを自力で乗り越え、自分のために外出する。並の気合いで出来ることじゃないぜ」
「そうね。確かにそれもあるでしょうけど……どちらかと言えば、サニーたちのためね? 例えば、負担を減らしたいとか」
「……うん、そうだね。少しでも多く、自分のために時間を使って欲しくて」
「あいつらのことだから、その程度負担とすら考えていなさそうだが、まあそう考えちまうのは理解できるな」
そして、魔理沙よりも付き合い自体は短いものの、右隣に座ったいつも通りの表情を見せる霊夢にも、僕の心はお見通しであったようだ。
今まで1度もしたことがない、たった1人での外出。誰かの付き添いがあったとしても、僕が僕自身のためだけに進んで外に出ることすらなかったのだから、お見通しでも至極当然と言えるか。
(ふふっ)
霊夢は、魔理沙のように直接的な言葉をかけてくる訳ではなく、表情や仕草もいつもと殆んど変わらないものの、醸し出す雰囲気が僕のことを心配していると教えてくれた。
友達や知り合いと言った形で、僕やサニーたちと関わってくれている人や妖怪さんの中には、優しい人たちしか居ない。
勿論、僕は皆の全てを知り得ている訳ではないから、もしかしたら優しいところばかりではない、恥ずかしかったりちょっと怖い
今でこそ違うけど、前までは僕もサニーたちにすら明かしていなかった、前世がある上に元々は男子だったと言う特大の秘密を持っていたのだから。
「うーん……メノ、すまないね。良い感じのものは見つからなかったよ。使いかけだったりボロボロだったりで、とてもあげられたものではなさそうだったから」
「そっか。霖さん、わざわざ探してくれてありがと」
「どういたしまして。この程度ならお安いご用さ」
頭の中で思考しながら、霊夢や魔理沙とのんびり会話しつつ過ごしていた時、少しホコリを被っていた霖さんがそう話しかけてくる。どうやら、良い感じのものが見つからなかったようだ。
ここで見つかってくれれば嬉しいなとは考えていたけれど、同時に見つかる可能性はあまり高くないと推測はしていたので、特段気にしてはいない。
むしろ、わざわざ僕のために時間を使ってまで、日記帳となり得るものを探してくれたと言う事実だけでも、十分嬉しいことである。
「私の家でも探せばありそうなんだが、如何せん整理整頓してないからなぁ。霊夢と外出中ってのもあるし、今日中ってのは厳しそうだ」
「うちの神社の蔵も探せばありそうではあるんだけど、掃除とかしてないからホコリが凄いのよね。一応掃除がてら探してはみるけど……仮に見つかったとて、汚いやつをあげるのも気が引けるわ」
「人里なら確実だろうけど、1人で行くとなったら無理だろうし……メノ。アリスの家は行ったか?」
「ううん、まだ」
「なら、行ってみたらどうだ? 一応、帰ったら私の方でも探してみるけど」
「うん。勿論、そうしてみるつもり」
そこに霊夢や魔理沙も、僕の話を聞いて探すことを前提とした声かけをしてくれたのも加わったのだ。これを嬉しいことと言わずして、何が嬉しいことであろうか。
妖精の女の子として、幻想郷と呼ばれている場所に生まれ変わった。普通に考えれば、絶対にあり得ない展開だ。
だからこそ最初の頃は、得も知れぬ不安感やらに襲われることが多かったけど、蓋を開けてみれば前世とは比べ物にならない程に、幸せな生活を送ることができているのである。
大好きな家族であるサニーたちや魔理沙、家族同然の存在であるチルノ一行や霖さん、僕にとっては衝撃的なくらいに優しい、霊夢一行や紅魔館の面々やアリス。
幻想郷について、まだ完璧に知っているとはとても言えない状態の僕だけど、皆の存在がここにあると言うだけで、素晴らしい場所であるとしか表すことはできない。
物質的に豊かでなくても良い。今の僕が抱いている望みはたった1つ、この幸せな一時が続いてくれますように、であるのだから。
「じゃあね、霊夢に魔理沙。霖さんも、今日は色々とありがと」
そんなこんなで会話を楽しみつつ、出されたお茶を飲み終えた僕は3人に頭を下げ、次なる目的地であるアリスの家へと出発する。
安心できる憩いの場の香霖堂、ここを立ち去る時の足取りは結構重たかったし、霊夢や魔理沙が日記帳となり得るものを探してくれるのであれば、このまま家に帰って待ってたって問題なさそうだ。
しかし、サニーたちにあそこまで啖呵を切った以上、頑張れば取れる手段を取らず誘惑に負けて帰るなんて、とてもじゃないけどしたくはない。
このまま帰ったとて、サニーたちであればニコニコしながら出迎えてくれるだろうし、良く頑張ったと褒めてくれるとは思う。
だけど、それでは僕自身が納得しきれない……いや、欲深いと言った方が正しいかも。
何せ、サニーたちの負担を減らしたいのは大前提として、こうした方が沢山褒めてもらえると考えが、僕の中にあるが故に頑張っているからだ。
「こんにちは、人形さん。アリス、家に居る――」
「えー……んぇ!? アリスさま、メノが
そうして、アリスの家へと何事もなくたどり着き、庭仕事をしていた人形さんに話しかけた瞬間、一瞬だけ時間が停止したかのように動きを止め、その後に凄い早さで家の中へとアリスを呼びに行った。
まるで、とんでもない来客が来たと言わんばかりの振る舞いだけど、僕のことを知るアリスからしてみれば、1人で僕が来るなんて想定外も良いところ。指示を出されている人形さんが、こんな反応を見せるのも頷ける。
「いらっしゃい。1人でここに来るなんて、よっぽどのことがあったの?」
「うん、僕の新しい日記帳探し。沢山行ったことあるところくらい、1人で行ければサニーたちも喜んでくれるかなって」
「あー、そう言うこと。まあ、メノが元気になってくれたと言う絶対的な証明にもなるから、喜ぶのは確実ね」
「えへへ、そうだよね。ところで、今って忙しかったりするかな?」
「その辺なら大丈夫だから、気にしなくても良いわ。探してあげるから、取り敢えず中に入って待ってなさい」
待つこと体感的に1分半後、アリスが5人の人形さんに引っ張られる形で出てきたので、1人でここに来た理由を簡単に説明すると、特に考えもせずに僕を家に招いてくれたので、お言葉に甘えようと決める。
(甘い香り……
アリスが愛用しているテーブルの上には、凄く美味しそうなクッキーに紅茶が置いてあり、側の床下には箱にしまわれた裁縫道具……人形さんの洋服でも作っていたのだろうか。
何にせよ、一時的に休憩時間を中断させたのは確実、本人は気にしなくても良いとは言ってくれたけど、正直そこそこ気になっている。
この対価としては、何が適切であろうか。お金の支払い、料理・お菓子作り、僕が高水準でできることはこのくらいだ。いや、強いて言うなら絵を描くことも選択肢には入るか。
「メノ! 今作ったばかりのクッキー、食べる?」
「えっ、良いの? アリスのなんじゃ……」
「良いから良いから! それより、味の感想を聞かせて欲しいな!」
「うん、分かった……人形さん。美味しいよ、とっても」
「本当? やったぁ!」
それにしても、何となくだけどアリスの人形さんたちの立ち振る舞いが、より人間の子供……もしくは、妖精さんに近くなっているように感じた。
元々、本当に生きていると思うくらいに感情豊かだったのに、より一層磨きがかかり、端から見たら自律していると言っても過言ではない。
でもアリスの事だから、改善・改良すべき点が沢山あると考えているのだろう。一切妥協せず、極限を目指すその集中力と根気は見習うべき点だと僕は思っている。
「お待たせ、メノ。こんなので良ければ持ってって」
人形さんが持ってきたクッキーを食べ、楽しくおしゃべりをしながら待つことおよそ30分、アリスは新品同様に綺麗な『本』を持ってくると、僕に手渡してくれた。
今も日記帳として使っている『本』と似た装いで、ページ数も殆んどそっくりであり、更に防水防火の加工が施されている優れものとのこと。
「わぁ! 綺麗でそんなに凄いやつなのに、本当に大丈夫なの?」
「勿論よ。ちなみに、お代とかお礼は特段必要ないわ……いや、ごめん。もし良ければで大丈夫だけど、私自身とうちの人形たちに貴女の料理でもお菓子でも、教えてもらえると助かるわ」
「分かった! そんなので良いなら、いくらでも教えるよ」
こんなにも良いものをもらったのであれば、アリス自身や人形さんたちへ僕の料理を教えて欲しいとのお願いは、聞いてあげなければならない。
そう思った僕は、内心でサニーたちに帰りが遅くなることに謝りながら、アリスや人形さんに案内を受けてキッチンへと向かっていった。
光の三妖精+オリ主以外で出番多めにして欲しい妖精キャラに関して
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作者にお任せ