新婚旅行っぽい感じになりますねぇ。のんびりしてますが。
無計画の旅では宿泊先をまずは探さないといけない。拠点は大事だ。
「今日の宿なんだがな・・・、北部の鉱山に行きたいんだよな?」
「ダイヤモンド鉱山って北にあるの?」
「そうみたいだな。アーガイル鉱山が有名らしい。アーガイル湖が観光地化されていて、北部オーストラリアの広大な荒野が人気らしいぞ」
「コアラいる?」
「コアラは・・・いるんじゃないか。それで拠点が『クヌヌラ』らしいけど、今日はそこを目指すのはどうだろう?」
「いいわよ。それでまずは宿を予約しようとしているのね」
「ああ、そこは随分と豊かな自然が残っているらしくて、近代的なホテルもあるが、コテージやバンガローもあるみたいなだな」
「バンガローってなによ」
「バンガローっていうのは、小屋だな。風雨はしのげるが基本的にインフラなどが整っていない。風呂やベッドなどもない。キャンプする人の拠点みたいなもんだな」
「いいわね。バーベキューやって、寝る時は小屋の中ってことね?」
「そうなるな。寝袋とかキャンプ道具なんかが必要なんじゃないか」
「レンタルもありそうだけど」
「ただ、今日の移動を含めるとキャンプするのはせわしいだろ。慣れていないしな。自然に触れ合いたいなら、小さなコテージが無難だと思うんだが」
ケータイの画像をみせる。南北逆転して冬なのだが、人気のハイシーズンは4月から9月頃だ。オーストラリアぐらいでかいと北部はかなり穏やかな温度になるようで、一年中観光が楽しめる。日本の沖縄みたいなものだ。
「そうね。じゃあコテージ予約してくれるかしら?」
「わかった。どうする?一泊するか、二泊するか」
「二泊する必要あるのかしら?」
「一泊だと慌ただしいからな。どうしても移動に時間を取られてしまうし。広大な国立公園をはじめ観光名所も多いから、2泊した方が情報も集まっていいかもしれない」
「倫也がその方がいいなら、それでいいわよ」
ネットからクヌヌラのコテージに予約を入れた。飛行機のフライト到着時間が13時過ぎなので、チャックインは14時過ぎになるだろう。メールでそのことも伝えておく。とはいってもパースからクヌヌラ便は一日一便だけだ。
「10時過ぎにフライトだから、空港いくか。パースももう少し観光したかったけどな」
英梨々はパースの観光ガイドブックを買っている。昨晩も夜まで観光していた。名のあるレストランで食事もしたし、近場の有名な建築物などは回った。けっこう満喫はしている。見どころはまだまだあるので、もう一泊してパース近郊を観光してもよかったかもしれない。
英梨々は残念そうにガイドブックをホテルのロビーに置いてきた。楽しくすごせるならそれでもいいような気がするが、一応イエローダイヤを買うという目的がある。もっとも移動先に売っているかどうかはわからないが。
無料のCATバスを使ってパース中央駅まで移動し、そこから電車で空港へ向かった。国内線の飛行機はそれほど大きくなく、小型プロペラ機だった。
さすが大陸である。オーストラリア西部から北部まででも3時間ほどかかる。これは札幌と沖縄よりも距離がある。だいたい成田からオーストラリアのケアンズまで7時間半ほどなのだ。いかにでかいかわかる。
飛行機の中ではドリンクサービスがついたが食事はつかなかった。飛行機から見下ろした景色は果てしなく続く赤褐色の大地であり、蒼天という表現がぴったりの濃い青が広がっている。
「お腹空いた」
「もうちょい朝食しっかり食べればよかったか」
「クヌヌラって、日本だとカナナラなのね」
「発音の問題だよな。現地語に近いのはカヌッヌラっぽいけどな。アボリジニーの街みたいだぞ」
「アボリジニー料理もあるのかしら」
「カンガルーって食べられるんだっけか・・・」
「ありそうね。ジビエでカレーとか合いそうだけど」
「腹減ったなぁ~」
腹が減っている時は飯の話題が多くなる。クヌヌラ駅についたのは13時過ぎだった。現地について驚いたのは。
「暑いじゃないの!!」
英梨々が怒るのもわかる。気温はなんと30度を超えていて、現在は33度!
「真夏だな・・・」
「こんなにも違うのね」
「ほぼ北に飛んだからなぁ。北海道から沖縄みたいなもんだろ」
「考えるとなっとくね」
飛行機の中でセーターは脱いだが、下は長袖である。さらに脱ぎたいところだ。周りの観光客はみんなTシャツやノースリーブなどの夏のかっこうをしていた。
「セーター買ったのがバカみたいだな・・・」
「ほんと無駄になるわね」
「パースも日中はそこまで寒くなかったしな・・・」
「もうちょい事前調査すべきじゃないかしら?」
「それは鏡みて呟いてくれ・・・」
※ ※ ※
クヌヌラ空港は、これまた映画に出てきそうな田舎の空港だった。パース国際空港とは大きく違った。広大な平地にとりあえずコンクリートで滑走路作りましたという感じだ。建物も平屋で、日本の観光地にある寂れたボーリング場のような趣がある。
飛行機から直接階段で地面に降りるのが新鮮だった。その場でキャリーバックを受け取って、滑走路の横を通って建物へ歩いて移動する。飛行機もこれぐらい緩い感じだと利用しやすい気がする。バスとそんなに変わらない。
「とりあえず、俺らのコテージから迎えが来ているはずだから」
「どの辺にコテージはあるのかしら?」
「ここからすぐ」
バスが何台か止まっていた。俺は自分の予約したホテルのものを探す。バスといっても小さな乗合バスで10人ぐらいしか乗れない。車も使いこんでいて旧い型のものだ。パースのCATが最新型のEVだったのに比べるとぜんぜん違っていた。
他にも3組ほどのカップルと一緒に移動する。車に乗る時間は5分もかからなかった。道路はアスファルトで舗装されていたが、所々ボコボコと壊れていた。道路の外側はガードレールなどなくて、オーストラリアらしい荒涼とした大事が広がっている。低木がちょびちょびと生えているぐらいだ。動物は見えない。
街の中心は電灯もあるし、道路もしっかりしていた。大きなホテルや集合住宅らしきもものある。しかし基本は平屋一戸建ての建物が多い。しかも不規則に点在していた。
駐車場は舗装もされていない。コンクリートの四角い事務所みたいなところがフロントだった。そこでチェックインをする。
説明はすべて英梨々が聞いている。俺はパンフレットなどをもらった。この場所がもう国立公園のすぐ隣なのだ。少し歩けば川があって、川下りツアーで南に下ればアーガイル湖にいける。
英梨々がカードキーを受け取った。4番のコテージでホテルのおばちゃんが案内してくれた。道がぜんぜん舗装されていないのが珍しい。
コテージはこじんまりとしていた。三角の黒い屋根の木造だ。扉を開けて中へと入る。ホテルマンのおばちゃんは愛嬌があってよくしゃべる。いろいろと説明してくれているが俺には聞き取れない英語だった。訛っているのだろうか。
中は快適だった。一面がガラス張りで広い草原と『リリー・クリーク・ラグーン』と呼ばれる水辺が見える。水連が咲き、水鳥の棲息場所らしい。何羽もの鳥がみえる。自然がそのまま残っているような場所に「コテージをとりあえず建てました」みたいなところだ。
ジャグジー付きの快適なバスルームに、トイレも清潔で綺麗だった。簡易キッチンもある。申し分ない作りだった。英梨々はおちゃんにチップを渡した。
※ ※ ※
「お腹空いた」と英梨々はつぶやいた。
飛行機の中から言ってる言葉である。キャリーバックを開けて日本から着てきた夏服の白いワンピースに着替える。帽子をかぶれば着替えは完了だ。俺は上だけTシャツに替えた。もうセーターを着る必要性はなさそうだ。
街の簡易地図を見ながらカフェレストランを探す。とりあえず腹ごしらえがしたい。店の評判などはとりあえず気にしなくていいだろう。そんなに店の数も多くない。
そう遠くない場所にカフェを発見して店へとはいる。愛想の良い大柄の男性スタッフが迎えてくれた。2人で座るには大きな木のテーブルだった。英梨々が会話の相手を担当している。男性スタッフが英梨々をカワイイと褒めているのがわかる。俺の目の前で口説くなと言いたいが、言葉がわからないふりをしておく。日本からきたことを告げると驚いていた。あまり日本の観光客はこないらしい。
メニューは種類が豊富でよくわからない。とりあえずハンバーガーとポテトらしきものが写真にあるのでそれを注文した。英梨々は地元の魚料理にポテトだ。暑かったので飲み物にコーラを注文する。
「ワニがあったわね」
「ワニ?」
「ワニ料理」
「まじか、頼めばよかったかな」
「頼む?」
「そうだな」
英梨々が店員に注文の変更をお願いした。スタッフが笑っている。ワニ料理がポピュラーな地元料理なのか、それとも観光客向けなのかはわからない。
この地域はキンバリー地区といって秘境になるらしい。アボリジニーの原住民も多く住む地域だ。この男性も浅黒い肌から原住民か混血だろう。
運ばれてきた料理は盛り付けがおおざっぱだった。大きな皿にアボガドや菜っ葉を中心とした大量のサラダ。そこにワニ肉と思われるものが入っていて、何やらソースがかかっている。見た目からしてワイルドである。
英梨々の皿も似たようなもので、白身魚の上げたものとサラダ。それに赤いソースがたっぷりとかかっていた。
「ポテトは美味いな」
「そろそろ白いご飯が恋しくならない?」
「そうでもないな。俺ポテト好きだし。英梨々は?」
「あたしもパンとかポテトで平気だけど、何日目ぐらいかしらね、お米が恋しくなるのは」
2人でお互いの皿をシェアして食べるが、いかんせん量が多い。二人前ぐらいある。ワニ肉はあっさりとしていた。鶏肉といわれても俺はわからないだろう。ソースはガーリックがよく聞いていてスパイシーだ。野菜と一緒にガツガツ食うにはちょうどいい。
「今日の予定なんだがな、隣接したところに国立公園があるみたいだから、そこを散策してみよう」
「わかったわ。アーガイル湖もあるのよね?」
「そうみたいだな。ここから川下りツアーもしている。ランチクルーズがあるから予約して明日はそれに参加するか」
「コアラ抱ける?」
「湖だからなぁ・・・コアラは無理じゃないか」
「ワニがいるのかしらね」
「そうなんだろうな。あとはセスナ機にのって、上空から国立公園の『バングルバングル』っていわれるところが見れるみたいだな。オーストラリアらしい奇岩群」
「両方いけないかしら?」
「それはどうだろうな・・・」
英梨々の方の魚料理はさっぱりしていた。少しエスニックな感じがしないでもない。いったい何料理なのかよくわからない。
とりあえずはっきりしていることは、コーラ最高ということぐらいだ。
※ ※ ※
腹を満たすと気持ちも落ち着いてきた。そのまま歩きながらミリマ国立公園にたどり着いた。
入園料は無料だ。車で入る場合は有料だと書いてある。
手すり付きの舗装された道を歩いていく。中が特別に何かされているわけでなはい。ミニバングルバングルと呼ばれているらしいが、大きなむき出しの岩がある。この景観がなかなか珍しいらしいが、正直良さはよくわからない。
「なにもないところね」
「それがいいんだろうな。ここで分岐だぞ。難易度高いコースらしいがどうする?」
「いかないわけにはいかないでしょ。若いんだし」
みんながそっちの方へ行くのでついていく形で進んだ。舗装された道路がなくなって、ゴツゴツとした坂道などをのぼっていくと、見晴らしのいい場所に出た。そこからはクヌヌラの街が見下ろすこともできるし、ラグーンもよく見渡せた。
「広いなぁ~」
「広いわねぇ・・・」
東京タワーの上から関東平野を見下ろすよりもずっと広く感じた。果てしなくつづく荒涼とした平野が見渡せる。
「あれがダイヤモンドロックかな」
「ダイヤはあそこで取れるの?」
「それは違うと思う。むき出しの大きな岩にそう名付けたみたいだけど」
「ふーん」
「興味なさそうだな」
「だって、コアラもいないし、花が咲いているわけでもないし」
「荒涼としているよなw」
引き返して元の道にもどった。それから公園をぐるりと周る。全周で400mぐらいしかないらしい。小さな公園だ。日本の庭園なんかとはちがって、むき出しの大地に道を作っただけの感じ。珍しい景観といえばそうかもしれないが、日本にある有料庭園などとはぜんぜん違う。
そのまま歩いて街を探索していると、アボリジーアートのお店が何軒かあった。お店というか露天商みたいな感じだ。作業場も外から丸見えだ。
「ヤシの実に模様付けているんだな」
「プリミティブアートなんでしょうね。デザインは悪くないわよね」
「お土産に買ってく?」
「ううん」
「おっ、ブーメランがあるな」
「ほんとだ。これはいいデザインね」
「値段も手頃だし買ってくかな。そんなに邪魔にならないだろうし」
俺は店の人にいって木でできたブーメランを買った。先住民が狩りで使う実物と同じものらしい。そう聞くとテンションが上がる。
袋にいれてもらったが、手にもって歩いてみる。
「ガキね」
「ふふふっ、なんとでもいえ。男のロマンがわからないなんて」
「あたしも持ちたい」
「ここでは投げるなよ」
英梨々がブーメランを縦に投げた。勢いがなくてクルクルしてぽとんと前方に落ちた。
「投げるなっていったろ。危ないな」
「戻ってこないじゃない」
「こういうのはコツがいるんだよ。たぶん回転を意識してだな・・・」まぁ投げ方はわからない。あとで現地の動画でもみてみるか。
「HEY!」
声がかかって振り向くとアボリジニーらしき人がいる。浅黒く顔がやけていてたくましい男性で、妙な模様のTシャツをきている。英梨々と会話して、ブーメランを受け取った。
それから豪快に投げた。それはもうびっくりするほど大きく空に舞い上がった。クルクルと周っているのが見える。そしてこちらに戻ってきた。戻ってくる頃には勢いも落ちていて、ゆっくりと回転しながら落ちてくる感じだ。
ジャンプしてキャッチするあたり、かなりの使い手とみえる。
「すごい!」
英梨々が素直に感嘆している。それからその男の人と会話していた。盗み聞きするにブーメランの投げ方を教わっているらしい。さすがに先ほどのウエイターみたいに口説くわけではないようだ。
それから英梨々はワンコインのチップを渡した。
「それって、チップ必要なのかよ」
「アボリジニーの生活と文化を守るのに、こんな形でしか貢献できないでしょ」
「なるほどな・・・」
他の店では石や岩を削っていた。幾層にもなった岩なので、綺麗に研磨するだけで趣のあるオブジェになるようだ。ただネックレスはお世辞にも綺麗なものとはいいがたい。黒い石で重そうだ。プリミティブなファッションには良さそうだが、英梨々には似合わないと思う。
コンビニがあるわけでもなく、電気屋があるわけでもない。日本の小さな駅前のほうがずっと発展している気がする。秘境の入口の街と言われるだけのことはある。
コテージに戻ってコーヒーを飲む。もう夕方になっていた。
「変な時間に飯食っちまったな。夕食どうするか」
「そうなのよね。あんまり遅くまで営業してなさそうよね」
「暗くなりそうだしな。治安は良さそうだけど」
「ワニとかクマとかでてこないかしら?」
「ワニはいないだろ・・・クマも。確かに野生動物とは遭遇しそうだけど、そんなに植物の豊富な地域じゃないし、いねぇんじゃないの?」
「じゃあ、後で食べに行きましょ」
英梨々はベッドにゴロンと寝転がった。今日は移動して、ちょっと歩いただけだがずいぶんと疲れた。俺も隣に寝転がった。
「ここもいいところね」
「そうだな。星がたぶん綺麗だと思うぞ」
「ガラスだからここから見えるのかしらね」
「どうだろうな・・・ふぁぁ・・」
俺があくびをすると、英梨々もあくびをした。
長閑な一日である。
「少し寝る。英梨々はどうする?」
「そうね・・・少し休んだら、せっかくだしスケッチするわ」
パースの街で小さなスケッチブックと色鉛筆を買っていた。ここから見える景色でも十分綺麗なところだから、ちょうどいいかもしれない。
隣に英梨々が寝ているので、少し引き寄せてキスをする。
「おやすみ英梨々」
「ちょっと倫也。寝るのはいいけど、あんた今日のプロポーズ忘れているわよ」
気のきいたセリフの1つも浮かびもしない。
「整いました。3年間毎日プロポーズすると解きまして、ブーメランと解きます」
「その心は?」
「どちらも千回(旋回)するでしょう」
「いまいちね」
なぞかけで満足しないなんて贅沢なやつだ。
「離れる時があっても、必ずに側に戻ってくる。英梨々、結婚しよ」
英梨々が天井をみながら、納得したようにうなずいていた。
(了)