全体的にハネムーン的な感じなのだけど、ここのクルーズ船がピーク。
全話UP終わったので悔いはない。
皆様はひと夏を英梨々と倫也と一緒にお過ごしください。
金と文明の恩恵を受け、俺は快適な眠りをとった。たぶん人生でもっと熟睡したと思う。自分で思って以上にひどく疲れていたのだろう。いつも英梨々よりも早く起きるのに、今日は起こされてしまった。それもチェックアウトぎりぎりの時間になってから。
英梨々はすでに支度を終えている。今日は赤いレトロなドレスに着替えていた。俺はTシャツにジーンズだ。自分で思ってた以上に腕が日焼けしていた。
「出航は夕方だから、どこか少し観光できそうだけど倫也どこか行きたい?」
「それなら、宇宙センターかな。やっぱりヒューストンまで来たなら見学しておきたい」
「どこ?有名なの?」
「日本の種子島宇宙センターとか、筑波宇宙センターとか同じだ」
「へぇー」
「無関心だな。ほら、『宇宙姉妹』の舞台になったところだよ」
「まぁいいわよ。行きましょ、お昼がてら」
ホテルをチェックアウトして、俺たちは宇宙センターへと向かった。いまさら金銭感覚にうだうだ行ってもしょうがないが、ほんとに寝るだけのホテルにモーテルの10倍ぐらいの金額がかかった。これはやっぱり貧富の差なんだろうか。あまりにも爆睡して英梨々ともしてない。
さんざん車に乗ったので、電車での移動が気楽で楽しい。ヒューストン宇宙センターは観光客で賑わっていた。ヒューストンはアメリカで4番目にでかい都市で観光名所も多い。その中でも人気のスポットなので当然だろう。
体験型アトラクションなども充実していて、大人から子供まで楽しめる。そして、俺はそこで自分のために買いたいおみやげを見つけた。
「英梨々。このペン知ってるか?」
「知らない。フィッシャー・スペース・ペン?聞いたこともないわね」
「アメリカが宇宙へ行った時にさ、重力がなくてボールペンがでなくなったんだよ。それでNASAは威信をかけて1億ドルを費やして、無重力でも水中でも氷点下でも100度を超えても書けるペンを開発したんだ」
「あっ、なんか聞いたことある。ソ連と宇宙開発競争していた時よね?」
「そう。『一方ロシアはえんぴつを使った』っていうジョークのやつだな」
「ふふっ。事実だったのかしらね。そのペンがあるってことは」
「そうなんだろうな。買っていいか」
「好きにしなさいよ。波島にも買っていってあげたら?」
「そうだな。伊織も男だからな。ちと高いが世話になっているし買っておくか」
おみやげを買った。次に俺たちは港のあるガルベストンに向かった。
ガルベストンは港町で大きなクルーザーがいくつも停泊していた。この青い海がカリブ海ということになる。ヨットも多く浮かんでいる。まずは昼を過ぎているのでシーフードレストランに入った。ロブスターやナマズ料理などが郷土料理として有名らしい。やはり南部アメリカだけあって、基本はメキシコ系のサルサソースなど唐辛子を使ったものが多い。シンプルに揚げただけのシュリンプが妙に美味い。あとはやっぱりジャガイモ。フライドポテトもあるが、ベイクイドポテトもあった。
「やっぱり日本人は魚料理なのかしらね。ほっとするわ」
「けっこう肉が続いていたからな。昨日は米も食べられたけど、やっぱりさっぱりと寿司とか食いてぇな」
「ヒューストンなら探せばあったと思うわよ」
「そういう寿司でなくって、やっぱり江戸前のだな・・・」
「そうやってだんだんと贅沢になっていくのよ」
「そうだな。気を付けよう」
腹は膨れればいい。英梨々は贅沢とのバランスのためにカップ焼きそばをあえて食べているのだろうか。たぶん好きなだけだろうけど、そんな側面もあるのかもしれない。
ここもサラダバーがついていたので、できるだけ野菜を多く食べておく。スープはちと塩気が強かった。車で移動中は水を飲んでいたせいか、コーラよりもミネラルウォーターが美味いと思うようになっていた。
※ ※ ※
大型クルーズ観光は日本ではまだまだ定着していない。定年退職した真面目な夫婦が大金を払って半年かけて地球一周旅行などをするが、「疲れた」という悲しい感想が多い。豪華客船だと1000人以上の人が乗っていて、動く街のようになっている。プール付きまでは発想としてわかるが、今ではサイクリングコースまであったりする。それぐらいバカでかいのだ。
俺たちの乗った船もまたでかかった。乗り場近くからは船は巨大な白い壁にしか見えない。全景を捉えるには高い位置からでないと無理だ。船の長さは200m以上ある。でかいものだと300mを超えてくるらしい。
船に乗り込んで、まずは避難訓練の説明を受ける。いざという時はボートで脱出するのだ。決して先頭にいって某映画のマネなどはしてはいけない。そのあと大ホールではウエルカムパーティーが催された。
館内には、劇場、カジノ、映画館、各種レストラン、ショッピングモールなどがある。ダンスホールもあり毎晩生演奏でパーティーが行われる。金持ちが海の上に天国を作ったわけだ。
「すまん。あんまり興味ない」
「知ってるわよ。でも映画は最新なのよね。ネズミー映画なんかは面白いのもあるわよ」
「そうだな。それよりも夕焼けは観たいな。海のサンセットって雰囲気あるもんな」
「いいわよ」
客室は2等客室を選んだ。2等と行っても十分だ。ベッドルームとリビングがあり、ベランダがあり、いつでも海が見える。リビングのテレビは大きくないがインターネットにもつながっていた。
「これで日本のアニメがみれるな・・・」
「あたしも同じこと考えてしまったわよ・・・」
まったくカリブ海を浮かぶ豪華客船に乗って、俺たちは何をしているのか?と自問自答したくなるが、旅が続いているだけに、ぼんやりとアニメを観たいのだ。
「まずは・・・船内探索するかぁ・・・」
「そ・・・そうよね」
だが、ここにきて貧乏根性が出てきた。なんか『元をとろう』と思ってしまうのだ。たぶんこれこそが日本人が疲れてしまう理由だろう。マイペースに自由に過ごせばいいのに。
・・・例えば昨晩のようにヒューストンの一流ホテルで寝るだけとか。
船内を探索してみるとけっこう楽しかった。船の中央は吹き抜けになっていて、公園のようになっている。それを取り囲むようにショッピングモールになっていた。ここだけ撮影しても船の上だとは思えないだろう。
次に上へ上へと登っていく。エレベーターもあるし、エスカレーターもあるし、綺麗な螺旋階段もある。あえて俺たちは裏から非常口を探してバックヤードから上がっていった。
この辺の悪戯魂は2人ともまだ子供っぽい証拠だろう。もちろんスタッフオンリーのところには入らないが、飽きてきたら入って迷子のふりをしようと思う。
屋上まであがるとプールがついていた。ビーチベッドが並んでいて日光浴もできる。かなり高さがあって、もうガルベストンからだいぶ離れていたのが確認できた。
英梨々の髪が海風に揺れていた。「サンセットまではもう少しかかりそうね」と言いながら髪を抑えている。
プールには併設されているBARがあったので、そこでコーラを二つ頼んだ。プールも気持ちよさそうだった。
「水着買おうかしら?」
「このプールのためのためだけに?」
「だって3泊も船で過ごすのよ。ずっと我慢するぐらいなら買った方がいいわよ。それに明後日はロアタンに寄港するでしょ?そこで半日も過ごすなら絶対水着があった方がいいわよ」
「そうだな。ロアタンがどこだかわからんけどな」
ロアタンはホンジュラスのすぐ北にある島で、カリブ海観光を楽しむので有名な場所だとわかった。
スキューバーやシュノーケリングが楽しめる。せっかく寄るなら確かに水着ぐらいは合った方がいいかもしれない。
ちなみに、ホンジュラスがどこかわからない人もいると思うが、メキシコの尾っぽからにょにょっと曲がっている当たりの小国のことである。
善は急げで下のショッピングモールまで水着を探しに行った。アメリカンサイズのものが多くある。英梨々なんかは子供用でちょうど良さそうなぐらいだが、もちろんそんなことは言わない。自称Cカップなのだ。
俺はすぐに何の変哲もない、半ズボンとしても過ごせる水着を買った。それから店内に貼られていたガイドを読む。どうも屋内プールでスキューバーのレッスンが受けられるらしい。スキューバーだとウエットスーツが必要だろうか。道具一式借りれるだろうし、そこは買わなくても平気そうだな・・・と考えていた。
「ちょっと倫也。なんで着替えてないのよ」と英梨々が言った。振り返ると水着の上に白いロングTシャツを着ている。透けて見える色からしてピンクだ。
「一度部屋に荷物ぐらい起きに行こうぜ」と俺は答えた。
部屋に荷物をおいて俺も着替えた。上はTシャツを着ておく。船内では水着姿の人もちらほらいておかしくはない。真夏の街なのだ。
先ほどととは違うルートで屋上まで上がった。プールサイドチェアを脱いだTシャツで確保しておく。
英梨々はショッキングピンクの派手なワンピースの水着だった。胸元は強調されていないが、ヘソのところは出ている。くるりと回った英梨々の背中はほぼ紐である。まったくなんでこう水着というのは、エッチなデザインなのだろうか。
「なかなか攻めたな」
「どうかしら?解放的でしょ。もうアメリカって感じのデザインしかないのよ。奥ゆかしい日本人に合うのがなかったわ」
「いいんじゃねーか?カリブ海!って感じで、テンションあがっているのがよくわかる」
奥ゆかしい日本人がどこにいるのか・・・それは疑問だったがスルーしておく。
プールに入って軽く泳ぐ。あんまりプールではしゃいで遊んでいる人はいなかった。船内にはプールが何か所かあるから、ここは静かにすごしたい人用なのかもしれない。それにもう夕方だ。
プールから上がると日がだいぶ傾いてた。西の空が赤くなっている。東の空が暗くなって星が見え始める。
もう海岸線は見えなかった。もし海岸線があったら光る街もみえたかもしれない。風も暖かくて気持ちがいい。
「なんか新婚旅行みたいだな」と俺が言った。
「そのための旅行なのよ。それに本来なら倫也、婚前交渉はいけないのよ?あんたわかってる?」
「そうはいってもさ・・・そんな恰好だったら我慢するの無理だろ」
「やだ、けだもの!あんたそんな目であたしを見てたの?」
「見てた」
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?そこは少しは否定しなさいよ」
「否定したら否定したで怒るだろ」
「怒るわよ」
英梨々がチューしてきた。
「それで倫也なにかしら?今日はこの恰好でエッチしようとか、そういう邪なことを考えているわけね?」
「それ、お前だよね!?」
「正直言いなさいよ。もう二日も我慢してるしね」
二日間は過酷なドライバーをしていたからな。なれない仕事で夜は疲れて眠りたかった。今日は御飯もたくさん食べたし、特に何もしていない。船旅が4日も続くから先のことはとりあえず考えなくていいし、気持ちも楽だ。
「あーだめだ。バカな話したらムラムラしてきた。英梨々・・・」
「そうねぇ・・・」
「部屋・・・もどらね?」
「これから日の入りがいいところでしょーが」
「心配しなくても、明日も日は沈む」
「日が昇るみたいな励ましの言葉みたいに言わないでよ。どうしようかしらん」
英梨々がもぞもぞと下半身を動かした。今すぐにでもそのすべすべの白い太ももの間に手を滑り込ませたい。
確保していたイスからTシャツを手に取った。それを着て、英梨々にもかぶせる。
「ちょっと倫也。冗談でしょ。もうすぐなのにぃ」
赤い夕陽の光がまっすぐと伸びているのが見えた。素晴らしい夕陽だと思う。海だって綺麗だ。夜になったら何にも邪魔されない満点の星空も見えるだろう。
「英梨々。好きだよ」
「とってつけたように言わなくていいわよ」
「英梨々が好きだ。いつからかわからないけど、ずっと英梨々が好きだ」
「こないだは幼稚園の頃から好きっていったでしょ」
「今はその頃よりも好きなんだよ」
「今はその時よりもエッチなだけだったりして」
キスをした。
「必ずエメラルドも手に入れて、結婚しような」
「うん」と英梨々が素直にうなずいた。カワイイ。結婚しよ。
それから手を取って部屋へと戻った。夕日よりも英梨々の裸が見たい。
(了)
性格にもよるのだけど、クルーズ船の旅は何が楽しいか正直よくわからない・・・