【全49話】英梨々に毎日プロポーズする夏休み   作:きりぼー

19 / 49
全話通して、この話が一番明るい気がする

プロット無しで毎日1~2話書き進めていて、このあたりで転調の必要性を感じていた。


19 ダンス

 幸福なる日々を振り返るほど、たいして長生きはしていないけれど、もし将来「幸せ」について聞かれたなら、俺はたぶんこのカリブ海クルーズでの日々を思い浮かべると思う。

 

※ ※ ※

 

 朝食も食べずに微睡に身を任せて、俺も英梨々も部屋のベッドでじゃれて過ごした。どうしたってトイレには行きたくなるので、俺がやっと立ち上がってトイレを済ませると、英梨々はシーツを体に巻いて起き上がっていた。気だるい表情でぼさぼさの金髪をポリポリとかいている。ベッドの下には無造作に脱ぎ捨てたショッキングピンクの水着が落ちてた。

 

 窓からは明るいカリブ海の光が入ってきていて、そんな英梨々の髪を照らしていた。まるで義理でスポットライトを当てているようにも思えた。

 英梨々は力を抜いてもいても、こんな風に絵になる時がある。

 

「朝からするものじゃないわね・・・ふぁ・・・」とアクビ交じりに英梨々が呟いた。俺もそう思う。

 

 でも、昨晩はカーテンを閉めなかったので明るい光に目が覚めると、英梨々はこちらを向いて静かに寝息を立てていたのだ。珍しく寝相がいいのか、たまたまその位置に戻ったのかは分からないけれど、体を少しくの字に曲げていた。

 

 英梨々は裸で眠っていたで(もちろん俺も裸だ)、俺がブランケットの中へと潜ると、英梨々の露わな胸を目の前に捉えることができた。英梨々が起きていても見る事はできるけれど、こう変態的に、あるいは理系脳的にじっくりと観察するようには見れないものだ。

 

 白くなめらかな肌の謙虚な膨らみに、薄いピンクに似た色の乳首をがツンと上向きについている。不思議な形だった。小さな乳首はまだ子供のようでもある。それは感度がよくて英梨々をだんだんと本能的な気分へとさせるスイッチであることを俺は知っている。眺めていれば触りたくなるし、押したくなるのだ。

 

 乳首がなければ産業革命が起こっても、押しボタンが発明されるのは十年は遅れただろう。彼らはバネを発明するとすぐにボタンスイッチを・・・それも小さな1㎝程度のボタンを作ったのだから・・・

 

 俺は自分がすでに悶々とするのを感じていた。どんなにバカげた理知的なことを思考しても、目の前にある欲望には抗えない。その英梨々の左ボタンにゆっくりと指を置いて触れた。微かに俺よりも冷たい。ツンと固そうなのに柔らかい、そっと触れる程度になでる。ぷるんっと跳ねて元に戻る。

 

 英梨々はすやすやと眠っている。起こしたら可哀想かなと想いつつも、乳首を押して弾力を楽しみ、元の形にもどってくる様子を見ていた。いじっているとだんだんとエスカートしてきて、それをつまんだり、軽くひっぱたり、乳房のやわかさを指でつついて堪能したり、しまいには謙虚な乳房を手のひらで揉み上げてみたり・・・

 

「んんっ・・・」という英梨々の声が漏れ出した。甘い夢でもみているのかもしれない。俺は自分がもう我慢できないことを悟った。妨げるものは何もなかったし、英梨々は絶対にアレをつけないし、何よりも俺は1人でする必要がないのだから。

 

 唇で包み込み、少し吸いながら舌で無心に転がしてみる。

 

「もう・・・朝から何してんのよ・・・」と英梨々が起きた。俺は乳首を口に含んだまま「おふぁよ」と答えた。

 

 そういうわけで、朝から一回戦だけ終わらした。そのまま英梨々とベッドでじゃれながらだらだらと過ごし、冒頭へ戻る。

 

※ ※ ※

 

 スキューバーダイビングのレッスンを受けることになり、船底に近い場所にある大きなプールに移動をした。もちろん道具はすべて一式貸し出してくれた。

 

 英梨々は黄色いダイバースーツを着て、「なんでお子様用の方にぴったりサイズがあるのよ」と不満そうに言ったが、お子様用の方が自分の好みのデザインがあったのも事実のようだ。

 

 体にフィットしたダイバースーツ姿の英梨々を見ると、アニメコスプレにみえなくもない。本人もわかっているのか、腰に手を当ててポーズを撮っている。ここにはケータイを持ち込んでいないので、どこかのチャンスで記念撮影をしようと思う。

 

 レッスンは2時間ほどで基礎が中心だ。足びれの扱いがなれなかったが、なんとかプールの底を自由に移動できるようになった。浅瀬で潜って楽しむことはできる簡単な資格を取得した。

 

 朝食も取らずに練習したので、レッスンの終わった後は腹が空いていた。ガッツリとハンバーガーセットでも食べるか迷ったが、『和食』があったのでその店に入った。蕎麦も寿司もカツ丼まであった。

 

 室内は純和風からワビサビをとった絢爛豪華さで、黒いペンキ(漆ではない)と金色の目立つ色彩だった。それでも砂利石の道があったり、造花だったが生け花風に飾られるなど和のテイストは強い。ディフォルメされた和のイメージなのだろう。

 

 食事の大変良かった。純日本用の麺つゆもあったし、メキシコ風の麺つゆもあった。蕎麦は香りも高くのどごしがいい。寿司も期待以上に良かった。ネタが若干怪しいが寿司職人は日本人で、ちゃんと修行を積まれた方だった。ひさびさに日本語で他人と会話をした。

 

※ ※ ※ 

 

 次に英梨々はブティックで緑色の鮮やかなワンピースを買った。ウエストを絞ったボディーラインのでるドレスだ。夏用の薄い生地で少し透けて見える。俺にもポロシャツを買って着替えさせた。デニムのジーンズからスラックスにはき替える。

 

 夜はなんだかんだで豪華客船を楽しむことにした。劇場で観たダンスの演目は内容がわからなかったが、とても華やかで賑やかなので思ったよりもずっと楽しめた。ついでにオペラも観覧した。俺にはオペラはさっぱりわからなかったが、英梨々は別に退屈はしていないようだ。俺はあきらめて途中で寝てしまった。

 

「終わったわよ」

「ああ、うん。どうだった?」

「面白かったわよ。ちゃんとした人がちゃんとしたオペラを演じてたわよ」

「そっか。寝ちまったよ」

「正直、あたしも眠かったけど」と言って英梨々は笑った。

「俺の方が少し運動した分、我慢できなかったんだよ」と言うと、「バカ」と言って英梨々が笑った。

 

 船内の上映スケジュールに追われて、今日もサンセットを見損ねてしまった。俺たちが屋上へ上がると、天球はすべて夜空になっていた。照明もそんなに強く灯っていないので、星が良く見える。天の川がはっきりと見える快晴だった。

 

「壮観だな」

「那須がちょっと気恥ずかしくなるぐらいね」

 

 那須には英梨々の別荘がある。とても暗くなるので星が良く見える。でも山に囲まれているし、星を観る事はできるが、ここまで全面に見ることはできない。見渡す限りの星空だった。

 

「水平線に吸い込まれていく星まで見える」

 

 俺は西の空を指した。そこには星がつぎつぎと落ちていくように見えた。目が慣れてくると流星を観る事もできた。

 

「ドーンッ」という音と共に、今日も花火が上がった。昨日は部屋で音を聴くだけだった。量は多くないけれど真下から見ることができた。船が動いているので燃えカスなどは船の後ろに落ちていくのだろう。

 

 花火が終わるとあたりは静寂に戻っていった。

 

 英梨々が手つなぎなら、「せっかくだしダンスパーティーもみていきましょうか」といって俺の手を引っ張った。俺は社交ダンスはできない。英梨々は嗜みとして知っているのかもしれないがあまり気乗りはしなかった。

 

※ ※ ※

 

 ダンスができる場所は船内には二か所ある。クラシカルなダンスフロアと、ショッピングモールの広場で催される若者向けのものだ。船内と屋外。

 

 クラシカルな方は、生演奏のオーケストラもいて、クルクルと回るあの社交ダンスだ。英梨々と2階席でジュースカクテルを飲みながら見下ろすように見ていた。金髪ツインテールの英梨々はそれなりに目立つらしい。俺がいるにも関わらず、英梨々をダンスに誘う男性が絶えなかった。

 

 雰囲気を壊さないように英梨々は愛想良くことわったが、そのたびに気まずい雰囲気になる。俺としては慣れっこではあるが、俺みたいな小さなアジア人などいないかのように振舞う男性がいた。小バカにするように浮かべた冷笑がすべてを物語っている。潜在的レイシスト。

 

 けれど俺はそんなにはムカつかなかったし、英梨々もいちいち相手にはしなかった。それはもうこちらの問題でなくて、あちらの問題でしかないからだ。

 

「場所を変えましょうか」と言って英梨々は立ち上がった。雰囲気の良い場所だっただけに少し残念だった。ケンカを売られないだけマシだと思っておこう。

 

 地上に出て(この表現も変だが空が見えるので)、若者向けのダンスフロアに向かう。こちらはけっこうガチャガチャとうるさい。盆踊りフロアでもあれば一番落ち着くかもしれないが、もちろん存在しない。

 

 黒人ユニットなどが派手なダンスを披露したかと思えば、素人らしい人が下手なダンスを踊っている。

 しばらく見ていたが、どうやら飛び入り参加できるイベント中らしい。

 

「賞金でもでるのか?」

「優勝者はカップと船内お食事券みたいね。参加すれば記念キーホルダーはもらえるみたいだけど」

「はははっ、まぁ踊れないから関係ないな」

「そうかしら?」

「そうかしらって、英梨々踊れるのかよ!?」

「はぁ?あんたバカじゃないの?死ぬの?あたしが踊ってどうするのよ」

「今それ言う?でも、俺は踊れないぞ?」

「あるでしょ」

「何が」

「倫也でも踊れるダンスが」

「ねぇよ。あっ・・・盆踊り?マイムマイム?ジェンカかっ」

「あのね・・・『ハレ晴れユーカイ』なら踊れるわよね」

「・・・昔練習したなぁ・・・古典的にアニメダンスの名曲だよな」

「じゃ、がんばって」

「がんばってって何を?」

「さぁ、行ってみましょう倫也。今日のプロポーズの言葉は?」

「・・・お前、俺がおどったら結婚しろよ」

「優勝したらね」

 

 英梨々が悪戯っぽい笑顔を浮かべてエントリーした。スタッフがその音楽がわからないといったので、英梨々は保存ファイルから動画を見せた。動画ファイルがあれば、バックスクリーンに映し出すことができる。

 

 順番が回ってきてスタッフが俺を紹介した。それから「このダンスを一緒に踊れる人は?」と観客に問いかけた。そんな人いるかよ・・・と思ったら、3人ほどいた。

 

 世界には物好きがいるのを驚くべきなのか、それとも世界中に日本のアニメが広がったことに感謝すべきなのか。

 

 3人と軽く相談し、3人がバックダンサーになった。キャラクターの名前をいったら役割を理解してくれた。かなりのオタクとみる。仲良くなれそうだ。

 

 俺が主人公のヒロインのパートを中央でしてもいいが、そんなものは誰も喜ばないだろう。何しろを舞台の袖でそわそわして、瞳を輝かせている金髪ツインテールがいるのだから。

 

 俺は舞台袖から英梨々を引っ張ってきて、中央に添えた。「ちょっと何するんのよ!?」

と英梨々が文句言ったが、俺が合図を送るとミュージックが流れた。

 

 音楽さえ流れればさんざん踊ったのだ。体が覚えて・・・いるようでいないような、そうでもないような・・・

 

 英梨々はキレッキレのダンスを踊り、俺を含めたバックダンスの4人はそれに合わせつつ踊る。英梨々がひどければ大惨事だったが、英梨々は次第点以上のダンスをルックスと表情でカバーした。かなり上出来だったと思う。

 

 あきれてポカーンとしている観客も途中からノリノリだったし、知っている人も中にはいて会場で踊っていた。日本のアニメすげぇーとけっこう感心する。

 

 カリブ海に浮かぶ豪華客船で、日本のアニメダンスをする。それがけっこうウケたのだ。バックスクリーンにアニメ映像が流れているのも良かった。

 

 最後の決めポーズの後は、会場から大きな拍手が鳴り響いた。見事な盛り上がりだった。原曲がよかったこと。英梨々が可愛かったこと。バックダンサの数がぴったりとそろったことなどが幸いした。即席とは思えない出来栄えだった。

 

 英梨々が満面の笑みで手を振ってから、頭をペコリとさげて舞台袖に下がった。

 

「びっくりするでしょ!」

「踊りたかったくせに・・・」

「そ・・・そんなことあるわけないじゃない。バカッ」

 

 他の3人とも握手を交わした。参加証のキーホルダー全員が1つずつ貰った。英梨々は上機嫌だった。

 

 俺はこの時、日本アニメの偉大さを感じた。自分たちが思っているよりもずっと世界の方が日本を評価している。

 

(了)

 

 




この飛び入り参加の人たちこそ、スペンサー家の隠れ護衛だったりして・・・

小説は都合よく物語が転がるものだけど、英梨々主人公で作っていると「初めてのおつかい」みたいにスタッフで安全が固められているような気分になる。
何を言っているかわからんよね・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。