【全49話】英梨々に毎日プロポーズする夏休み   作:きりぼー

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おーい冴えカノどこいった~
と、自分でつっこみつつ話を進める。


22 ボゴタ 訓練

 カタルヘナから飛行機で1時間半。首都ボゴタはコロンビアの首都だ。治安の良い地域と悪い地域があり、カタルヘナと比べたら各段に悪い。空港からホテルまでの道のりでも、古く老朽化した建物などが多く、貧しい地域があるのがわかる。それでも中心地は高層ビル群があり大変発展していた。スラム地域との差が激しい。

 

 海部さんが調達した白いワゴン車は特殊仕様のものだった。防弾ガラスに防弾のタイヤ。もちろん黒くスモッグされていて、外から中は見えない。「ないよりはマシですが、ロケット砲の前には無意味です」と海部さん付け加えた。この街中でロケット砲?と思ったが、強盗や誘拐は今でもあるらしい。

 

 その他に傭兵の男性が3人乗っていた。いずれも迷彩服を着て身分証を首から掛けていた。武装していることがはっきりと分かる。1人はすでにライフルを構えていたし、1人は胸元とベルトのところに拳銃がみえる。一番柔和なおじさんだけは見えないように銃を隠し持っていた。

 

「ここがエメラルドセンターです」と海部さんが言った。海部さんも拳銃を携帯している。扱えるのだろうだろう。そもそもコロンビアって銃の携帯って合法なんだろうか・・・

 

「つまんない」と、ぶすぅーとした顔で英梨々が言った。俺も大袈裟だなと思った。多くの観光客もいる。街は平和そうに見えた。子供も老人も普通に歩いている。

 

 ワゴンからは最初に柔和なおっさんが降りた。名前はカタヤマという日系3世で日本語も堪能だった。小柄で細身の男性だ肌は浅黒い。髪には白髪が混じっていて50代ぐらいだろうか。俺のことを『アキ』と呼んだ。

 

 俺と英梨々が後ろについていく。海部さんと他の2人は車で待機していた。

 

「やっぱり危ないんですか?」と俺が聞いたら、「次の瞬間にテロにあってもワシは驚かんよ」と答えてくれた。

 

「大袈裟なのよ」と英梨々は意に介さない。

 

 エメラルドセンターはその名の通り、エメラルドだらけである。博物館のようになっていて、鉱山の様子などもわかるし、巨大なエメラルドも飾られていた。宝石ショップも多く、大量のルースも原石も売られている。

 

「英梨々、目的のものがあったぞ」

「いらない」と、拗ねた英梨々はもうただの駄々っ子である。

「お前なぁ、コロンビアのボゴタまでエメラルドを買いにきたんだろ。今更へそを曲げてどうするんだよ」

「だって、ここまでならあたし達だけでもこれたでしょ。そしたらここで購入して満足できたかもしれないじゃない」

「今でも満足できるんじゃ・・・」

「倫也、何もわかってない!」

 

 英梨々が出口に向かっていった。俺としては大きな溜息しかでない。カタヤマのおっさんは「大変ですな」と他人事のように笑っていた。英梨々を車でまで送って乗せる。それから海部さんとやりとりした。

 

 車は俺とカタヤマさんをおいて出発した。停車したままなのは危険なので先にホテルへ帰ってもらうことにした。

 

 俺はここでエメラルド原石をひたすら見た。ルーペを使って実物を見ながら解説を受けた。だんだんと値段が分かってくる。クズのエメラルド原石は10ドルだ。少し良くなれば100ドル。

 1000ドルになると原石は質がいいか大きくなる。カタヤマのおっさんが店の人と交渉をして、奥から1万ドルクラスのものも持ってきてもらった。輝きが違う。

 

「基本は透明度と輝き、色の濃さ、そして大きさ。エメラルドは不純物が多い。宝石になるのは一握りで、価値のあるものはわずかだ」

 

 カタヤマのおっさんはエメラルドに詳しかった。原石をジャラジャラと混ぜて、俺に査定をさせた。

 

「15ドル・・・60ドル・・・200ドル・・・20ドル・・・5ドル・・・500いや800ドル・・・」

 みようみまねで俺は査定していく。

 

「アキは筋がいいね。エメラルドのいいバイヤーになれるよ。原石の買取価格はその半額だ」

「はい」

「次はカットされて、磨かれたものを覚えてみよう」

 

 店の人は怪訝そうな顔をした。カタヤマのおっさんは10ドル札を出して店の人にチップを渡した。コロンビアでの10ドルはそこそこの価値がある。例えばマッグのハンバーガーセットは3ドル程度だ。

 

 店の奥の事務所に案内された。鉄の扉を閉められると緊張した雰囲気になる。高価な宝石の取引をする時は、店頭でなく事務所になるのだろう。

 

 そこで沢山の研磨されたエメラルドをみさせてもらった。英梨々も機嫌が悪くなかったら体験できたのに・・・と思ってしまう。

 

 流石に磨かれたものは元が上質なので高い。もう10ドルクラスのものはなくて、スタートで100ドルからだ。

 

 0.1カラットのものから1カラット程度のエメラルドをみる。重さはその場で計れる。ルーペで次々と品質を確認していった。

 

「付け焼刃なら数をこなしなさい」とカタヤマのおっさんは言った。物言いが最初は柔和だったのだが、だんだんと険しくなる。俺はひたすら査定をしていく。

 

「まずまずの正解率、いい目利きだな。買取額はここの半額。鉱山には磨かれたものを売ろうとする売人もいる。確かな目が必要だ」

「最高のものでいくらぐらいしますか?」

「最高の品質のものは『ゴダ・デ・アセイテ』といって、1カラットの物でも2万ドル以上する。鉱山でもよほどのコネクションがないと売ってはくれない」

 

 店の人が奥から出してくれた。緑の色が濃く透明度も高い。傷もなく、インクルージョンという不純物もほとんど目立たない。まるで緑色のダイヤモンドのような輝きだった。やはり最初の感性が大事で、魅了されるような美しさが宝石には宿っている。

 

「俺が欲しいのは0.1カラットなんですけどね」

「そんなに小さいのでいいなら、ここで買えるよ」

 

 店の人が0.1カラットの最高品質のものを持ってきた。今度は量が多い。

 

「1000ドルだ。好きなのを選んでいいって」

「そう言われても・・・」

 

 30粒ぐらいあった。俺はルーペで確認するが、今度は小さくてよくわからない。だいたいよりわけていくが、どれも傷がなくて状態がいい。俺には変わらないように見える。

 

「ここまで品質がいいと、次はそこの顕微鏡でみる。オイル処理をされているものがほとんどだから、処理される前かどうかを確認する必要がある」

「奥が深いですね・・・」

 

 顕微鏡の画面がPC上に映し出されて、インクルージョンと呼ばれる内包物などを探す。確かに、顕微鏡に映しだすとそれぞれの宝石に個性がある。できるだけキレイなものを探し出す。

 

「これが一番ですかね・・・」

「御名答だ。トモヤはセンスがあるね。日本では宝石を扱っていたのかい?」

「いや・・・ただの学生です」

 

 もし自分に目利きの才能があるとしたら、それは英梨々のおかげだろう。良いものにふれる機会が多かったからだろう。あるいはイラストや絵画などとも共通するものがあるのかもしれない。

 

 なんだか引き下がれない雰囲気になって、俺は購入することを決めて、1000ドルで決済しようとした。

 

「そこから値切らないと」

「なるほど・・・」

 

 交渉の末、850ドルで購入した。12万円といったところか。こんなに小さいのに鑑定証がついた。わずか3ミリの宝石にこの値段なのだ。この旅で知識を身に着けていなければ欲しいとも思わなかっただろう。

 

※ ※ ※

 

 エメラルドセンターを出てタクシーに乗った。乗ってはいけないとガイドブックに書いてある白タクだった。最初にカタヤマさんが金額を交渉した。 

 

 街の郊外へ連れていかれて、地下室に降りると射撃場だった。ここで俺は拳銃の撃ち方を教えてもらった。手が痛くなるまで100発ぐらい撃ちに撃った。小型拳銃でも反動が強い。

 

「一発ずつ冷静に撃つ。手の痛みや恐怖を忘れるように集中すること」

 

 俺は両手で構えて標準を合わせて撃ったが、それでも的に当てるのが精一杯で、当たらない弾も多い。カタヤマさんは片手撃ちでも、早撃ちでも的を正確に捉えて射貫いた。

 

「慣れだ。毎日撃って訓練し、戦場を経験して人を殺せば、すぐに到達する」

「あの人を・・・」

「あるよ。殺したこと」

 

 そのさらりと言った一言に背筋がゾクッとした。柔和な人だけどガチな傭兵のようだ。

 

 海部さんはいつでも引き返していいと言った。目的のエメラルドはもう手に入ったのだ。無理してコロンビアの鉱山に行く必要はどこにもなかった。旅の目的から逸脱しつつあるのは自覚している。

 

「こちらは訓練を積まないとどうにもならないが、一応体験しておくといい」

 

 そういってショットガンを渡された。最初に手ほどきを受ける。フォアハンドをガチャリと引いて、引き金を引いた。

 

 ドムンッ

 

 イヤーマフ越しにも鈍い重低音が響いた。自分が吹き飛ぶかと思うほどの反動で、肩が外れたかと思った。冗談でもこんなものは初心者に撃たせたらダメだろ・・・と思った。撃った後は痺れて身動きが取れなかった。こんなもの持って戦えるとは思えない。扱えるようになるにはどれぐらいの訓練が必要なのか。

 

 カタヤマさんが手本を見せてくれた。素早く装填して的を次々と撃っていく。肩がぶっ壊れないのか気になったが平気なようだ。やっぱり構え方とか、反動の逃がし方とかあるのだろうか。射撃の精度も正確だった。散弾が的の中心からひろがっているのがわかる。

 

 マシンガンも映画みたいにガガガガッと撃てるようなものでなかった。反動を抑えるのが精一杯で、的を狙えるような代物じゃない。ハッキリ言って撃っている自分が一番危険な気がする。なんだこれ?

 

 軍人はやはり闘うプロなのだ。俺が得た教訓は戦っても勝てないという悟りだけだ。

 

「アキは運動は苦手みたいだ」

「ええ・・・まったく。走り込みぐらいはしてましたが」

 

 走り込みというか新聞配達のバイトのことだが足腰はずいぶんと鍛えられた。子供の頃は前執事の細川さんに教えてもらって、英梨々の家の庭で障害物競走などをして遊そびながら学んだ。細川さんは『体力が肝心』とよく言っていた。

 

 銃の訓練の後は座学だった。簡単なスペイン語と地図を頭に入れた。究極的にはエメラルドの採掘場所のムゾー鉱山から、山と森を超えてボコタに戻ってくればいいらしい。サバイバル術というやつだ。いや、無理いうな。

 

「そんな事態になる前に殺されるから心配ないけど」とカタヤマのおっさんが言ったが、冗談は面白くて笑えるものにして欲しい。

「できれば助けたいとは思っているから、少しでも生存術を学ぶことだ」

 

 教える側が真剣なので、俺も懸命に覚える。この感覚は子供頃に細川さんに教えてもらった時に似ている。彼はいつだって穏やかで優しかったけれど、いつも真剣だった。

 

 世界で最高品質のエメラルドがとれるムゾー鉱山は、ボコタの街の北北西120キロのところにある。しかし一度北北東に進路をとり、フケネ湖というところまで行く。ここは観光地化された湖なので、そこまでの道のりは比較的安全だという。そこから北西へ進路をとり、『シニハカ』という日本語では不気味極まりない名前の街が最後の大きな街だ。そこからはジャングルの山道を進んでいき、『ブエナビスタ』が最後の休憩ポイント。そこから先は秘密の道路になる。

 

「鉱山の場所は秘密だからね。もっとも今じゃ衛星をつかってはっきりと確認できてしまうが」

 

 古い時代には現地の人以外が見つけると殺されてしまったらしい。排他的なのだ。

 彼らはそこでは生活をしているので畑などもあるらしい。もちろん政府の管轄外で安全は今でもまったく命や安全の保障はされない。

 

「死んでも山に埋めるだけ。原因なんて捜査しないし、そもそも警察もいない」

 

 カタヤマのおっさんの話は淡々として現実味がない。けれど銃の訓練を受けた後だけに真実味があった。話半分できいて俺が得することはないのだ。先に座学だったら、俺は冗談半分に聞いていたと思う。

 

※ ※ ※

 

 ホテルに戻った時には21時を回っていた。ひさびさに頭をフル回転して勉強した気がする。今になって肩の違和感がひどくなってきている。

 

 英梨々の部屋には海部さんがいた。俺が戻ると軽く挨拶をして隣の部屋へと移った。

 

「ただいま」

「遅かったわね」

「ああ、なんかカタヤマのおっさんにいろいろ教えてもらってた。英梨々は飯食ったか?」

「まだ」

「そっか。ホテルでまだ飯食えるかな?」

「ルームサービスは24時間よ」

 

 さすが一流ホテルである。セキュリティーも万全だ。俺は疲れていて食欲あまりなかったが、おすすめのディナーディッシュを頼んだ。英梨々はフィッシュアンドチップスを頼んだ。これもどこにでもある定番料理の1つだ。

 

 せっかくの広くて綺麗なホテルなのに、ぜんぜん満喫している様子はなかった。2人でもそもそと遅めの夕食を口に入れていく。

 

「英梨々は何してた?」

「何もしてないわよ。でもタブレットがあったから少し絵を描いていたわ」

「そっか。考えてみればサイトも更新していないものな」

 

 英梨々はイラストサイトで、俺はラノベ評論サイトを運営している。それなりにファンがいて、楽しみに待ってくれている人がいるのだ。

 

 平和な日常がひどく遠い昔に感じた。

 

「そうだ英梨々。渡すものがある」

 

 俺はリュックから買ったばかりの箱に入ったエメラルドを取り出した。

 

「これ、『ゴダ・デ・アセイテ』っていう、最高品質のエメラルドらしい。俺も実際にたくさん見てきた中では一番よかった」

「ふーん」

「なんだよ・・・まだ拗ねてるのかよ」

「そうよ、拗ねているわよ。悪い?倫也だけそうやってエメラルドの勉強をしてきたわけね」

「それは英梨々が帰ったからだろ・・・」

「そうよ?あたしはどうせ囚われのお姫様だもの」

「お前好みのシチュエーションじゃねーか」

「バカ」

 

 食事はなかなか美味かった。この豆のよくわからん食い物のと、なんだかやっぱり妙にあまったるいソースのステーキもよかった。トウモコロシパンも口に慣れてきて素朴でうまい。コロンビア料理は繊細ではないが、朴訥として俺は好きだった。なんていうか無駄がない料理だ。

 

「それ、俺からのプレゼントな。もし万が一俺が・・・」

「やめてよ。そういう死亡フラグいらないから」

「死なないよ。現地じゃ小さい子供だって生きているんだぞ?村があって生活している。ルールを破る外部のものは危険にあうかもしれないけどさ、そうそう死なんだろ。俺はエメラルドで一攫千金しようとしているわけじゃないからな」

「まぁそうよね」

 

 人間、死ぬときは死ぬ。ただ日本で部屋に引き篭もってゲーム作っていれば死ににくいというだけの話だ。なら、運命は自分で選びたい。

 

「そうだ、あと頼みがあるんだが・・・」

「何かしら?」

「ちょっとノートに、漫画書いてくれるか?そうだな、ドラゴンボーヤとか、ワンビーズなんかがいい」

「何に使うの?」

「コロンビアでも日本のマンガやアニメは大人気なんだよ。絵が描ければそれだけで味方になってくれるだろ。クルーザーのダンスの時みたいに世界共通なんだ」

「そう。別にあたしでよければいくらでも描くわよ。でも倫也も描けるでしょ」

「俺が描けるのは特定のポーズの有名どころだけだからな・・・」

「そうね。何枚か書いておくわよ。明日の朝まででいいのよね?」

「頼む。英梨々が描けば本物とほぼ変わらんだろ。それで俺は『漫画家のアシスタン』の身分で鉱山に取材目的でいってくるからさ」

「取材名目?」

「そう。その方が誰かしら味方になってくれるだろ」

「甘い見通しよね・・・」

 

 食事を終えて俺は風呂に入った。体に痣ができているのはショットガンの反動の時にできたものだろう。

 

 英梨々は明日もお留守番だ。俺は早朝出発なので早めに寝る事にする。

 

「じゃ、俺は先に寝るから。エメラルドを無事に持って帰ってきたら結婚しような」

「無事に帰ってきてから考えるわよ。バカ」

 

 俺は英梨々をリビングに残してベッドに入った。英梨々はこれから少し漫画を描く。その方が気がまぎれるだろう。

 

 隣で寝ていたら気がくじけそうになる。ショットガンを撃った反動がまだ体の芯に残っていて、火薬の匂いが鼻から離れなかった。

 

(了)




昭和のバブル期ぐらいのコロンビアのイメージで。

このあたりから暢気はハネムーンものから、経済と切り離せなくなってきてつまらなくなっていくんだろうなぁ~とわかってていても話を進める。
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