スパイファミリーのひと夏の物語でも書こうかと思いつつ断念した。
スパイファミリーのオチって、
黄昏の詮索相手とヨルさんの暗殺対象が「超能力者の子供」になるんだろう。
それで詮索してアーニャだとわかるけど、アーニャは先に察知家を出てひと悶着あるんだろうなぁと勝手に思っている。
国家よりも家族を選んで国家相手に危機になるけど大団円みたいな。
アメリカ大陸旅行も今日で最後だ。朝からロキソニンを飲み、ホテルの朝食をとった。
「さーて、今日は最後だし遊ぶわよー」
「アソブ ワヨ?」
ホテルのクリーニングからあがった花柄模様の白いワンピースに包み、同じ帽子をかぶった親子が左手を腰に当てて、右手を指さしたまま高らかを上げて決めポーズをとった。
人種は違えど親子である。昨晩でずいぶんと仲良くなったようで微笑ましい。
中心地からはタクシーを使ってリオの海岸まで向かった。こちらは白い砂浜が4キロにも渡って広がっている『コパカバーナ』だ。タクシーにおっちゃんにチップをはずみ、俺たちは降りた。
「ウワー キレー? キレイ?」
「そそ、綺麗だねー」
「コレワ?」
「海」
「ウミ キレイ ワヨ?」
「そうそう。ウミ キレイ」
賢い子でどんどん言葉を覚えていく。まずは店に入って水着を探した。俺はすでに短パンタイプのものをはいている。
「英梨々もクルーズ船で買ったろ・・・」
「あんなパッションピンクの水着なんて恥ずかしくて着れないわよ」
「着てたじゃん・・・」
俺の意見など聞き入れるはずもなく、2人で水着を選んでいる。レジを済ませてから着替えてでてきた。100ドルの水着が安く見える・・・
英梨々は黄色いワンピースで布の面積も大きい。肩とのところにはフリルもついているし、パラオもついていた。セクシーな水着ではない。
ヒスイちゃんは、ピンクだがデザインは一緒でフリフリがたくさんついている。どちらもとても可愛い。髪の毛だけが残念だが、大きな帽子をかぶっているから問題ないか。
日焼け止めクリームをたっぷり塗ってから、まずは砂浜で思う存分遊ばせる。ゴミは多いが海の水は綺麗だった。英梨々もヒスイちゃんも波の満ち引きにキャーキャーいいながら遊んでいた。ヒスイちゃんは海が初めてのようでわかるが、なぜ英梨々が同レベルではしゃいでいるのかは謎だ。
「ふっ・・・子供だな」と横目で2人を見ながら、砂浜で城作りを始める。洋風のキャッスルは人気だが、ここは知識を総動員させて、白鷺城を目指す。白鷺城とは姫路城の別名で人気の御城だ。まずは外堀を作り、石垣を作っていく。
俺は夢中で城を作っていた。外堀と内堀そして矢倉を数台作った頃には、周りにギャラリーができてくる。何かのアーティストとでも思われたのだろうか。
「何真剣に作ってんのよ」
「白鷺城。これから本丸をだな・・・」
「あたしも作ろうかしら?」
「コレハ?」
「お城」
「オシロ ワヨ?」
英梨々も工作は起用で白鷺城を建てていく。日光が強いので砂はすぐに乾燥して崩れやすい、俺は定期的に海水を含ませて塀が壊れないように修復していく。時間と手際が大事だ。
英梨々がいなければ、本丸ができたころには外堀は崩れ去っていたかもしれない。
さくさくと本丸をつくって、少し寸胴な日本の城が出来上がった。いろんな観光客がケータイで写真を撮っていた。中にはチップをくれる人もいる。俺たちが何かのストリートアーティストとでも思ったのだろう。英梨々が帽子を逆さにしてぐるりと回ると水着が買えるくらいの金額が集まった。
瓶のコーラを差し入れてくれる人もいて、俺は喉を潤す。暑い夏にいい仕事ができたと満足だった。リオの太陽が眩しい。
豪快に肉を焼いている屋台があったので、そこでマッシュポテトとステーキを頼んで食べる。とにかく肉が安くて美味いのだ。肉の塊を心行くまで堪能するには南アメリカがおすすめだ。日本では高い牛肉も、ここではチキン並みに安い。しかも美味い。
腹ごしらえができたので、ビーチパラソルの下でお昼寝をする。ヒスイちゃんは電池が切れたように眠った。英梨々はまめに日焼け止めクリームを塗り直している。
「あっちで、スキューバーダイビングもやれるみたいだぞ」
「いいわねぇ。やりたいけど・・・」チラッとヒスイちゃんを見た。スピィーと眠っている。寝息が聞こえるから熟睡しているようだ。
「俺がヒスイちゃんみてるから、参加してきたら?」
「ひとりで大丈夫かしら?」
「ダメかもしれん」
「あのね・・・いいわよ、行って来るわよ。ふん」
「何事もチェレンジが大事だからな」
ヒスイちゃんはぐっすり眠っている横で俺はココナッツジュースを飲んだ。売り子がビーチを売り歩いているのだ。波の音が心地よい。のんびりとした時間が流れる。人は多いがあんまり慌ただしくない。
英梨々が戻ってきたのは2時間後だった。「ただいま」と言った。「どうだった?」と聞くと、「ええ、よかったわよ。海は綺麗ね。カリブ海とはまた違うのよ。倫也もいってきたら?」
売り子がきたので英梨々はペリエを買った。炭酸水を買う習慣が俺にはなかなかつかない。遺伝だろうか。
「俺はいいよ。今度は水中カメラも用意したいな」
俺と英梨々が話をしていると、ヒスイちゃんの目が覚めた。ヒスイちゃんが寝ぼけているうちに英梨々が日焼け止めクリームを全身に塗ったくっている。ヒスイちゃんも慣れたもんでバンザーイをして大人しい。全身がテカテカになる。それからココナッツミルクを両手で抱えてクルクルストローで飲んだ。
今度は俺がヒスイちゃんと海辺で遊んだ。少し深いところまで行って泳がせてみる。手をとってバタ足をさせると小学生の時を思い出した。ヒスイちゃんもそのうち日本の小学校に通っていろんなことを学んでいくだろう。
英梨々はパラソルの下で仮眠をとっていた。貴重品はロッカーに入れてあるので心配はない。けれど、ときどきナンパされていた。あれじゃ、ぐっすり眠れないなと思い、英梨々のところに戻ると、英梨々の機嫌が悪くなっていた。
「何なのよ、人が昼寝しようとしているのに!」
「ナンパされるうちが華だろ」
「そういう問題かしら?」
ヒスイちゃんもペリエを飲んで、不思議そうな顔をした。「美味しくないよな」というと、「コレワ?」と聞いた。「ペリエ」と俺は答えた。それから飲んで首をかしげていた。「ペリエ ワヨ?」と、納得いかない様子だ。
※ ※ ※
着替えてから、コルコバードの丘に移動した。大きな白いキリスト像で、両手を水兵に広げて『ブーン』をしている。たぶんチャネラーのキリスト様だ。
ロープウェイがあったのでそれを使って登った。迫力のあるダイナミックな景色がひろがった。ガラス越しにヒスイちゃんが見下ろしてはしゃいでいる。街が一望できるのだ。
「なんか、あたしは無理してはしゃいでたのかしら?って気分にさせるわよね」
「大人になったんだな」
「『見てみて~倫也、人がゴミのようだ~』とか言わなくていいのは楽ね」
「いいたかったら、いってもいいだぞ・・・」
「はっはっはっ、人がゴミのようだ~!」
「ほんと言っちゃったよっ!」
「ファッファッファッ ゴミヨウダー!」
「ほら、真似しちゃうだろ・・・」
「いいじゃない。立派なオタクに育てましょ。高いところに登ってこのセリフが言えないような小さな大人にはなって欲しくないわ」
英梨々に多大な影響を受けるヒスイちゃんの未来が心配である。
丘からの景色は見晴らしがいい。空が少し赤味がかってきている。夕日も綺麗にみえるだろう。リオは南半球なので日の入りが少し早いのだ。暖かいが冬である。
西の空はブラジルの大地が広がていて、緑も多く自然豊かだ。遠くに見える山のどれかが鉱山なのだろうが俺にはわからない。英梨々と2人なら、鉱山まで行ってみたかったが・・・
「やっと綺麗な夕日がみれたわね」
「いろいろあったからなぁ・・・」
「アッタカナー」
ヒスイちゃんがしんみりとさせてくれない。おかげでいつも笑っていられる。じゃあ、俺も英梨々を笑わせてみるか。
「ブラジル人はさ、病院で子供を産まないんだぜ」
「へぇー。そうなの?」
「なぜかわかるか?」
「さぁ?広いからあんまり病院ないんじゃないの」
「病院ぐらいは各地にあるだろうけどな。実はな、産婆が好きなんだ」
「へぇー」
「産婆とサンバを・・・」
「さーてもどりましょうか、スイちゃん」
「コレワ?」
「寒いジョークよ」
※ ※ ※
ホテルに戻る時には、ヒスイちゃんはまた疲れて寝てしまった。俺はなれないおんぶをしいていた。ベッドの上にごろりと寝かせると熟睡していた。まだ幼いせいか、遊ぶ時は全力で遊び、寝る時はパタリと寝る。
5歳の子がどれくらい眠るのか俺はよくわからない。1時間ほど寝かせ、可哀想だが起こして夕食を食べ外へ出た。
ホテルの近郊でも人気のレストランがある。リオデジャナネイロは港町だけあってシーフードも美味しい。木造つくりのレストランは仕切りのような壁がなく、電灯の光も少ないので落ち着いた雰囲気がある。キャンプ場にいる感じがする。
ここでは伝統的なブラジル料理を提供してくれるので、観光客には大人気らしい。
ムケッカと呼ばれるココナッツで煮込んだシーフード料理が有名なのでそれを注文した。魚介は焼いただけのシンプルなものに、お好みのソースをつけて食べる。こちらもおすすめだが、醤油が欲しくなるのは日本人だからしょうがない。
「おいしいわね。ここは当たりだわ」と英梨々も満足そうだ。
「エビ イカ サカナ」ヒスイちゃんは言葉をどんどん覚える。
「トモヤ エビ オシシイー ワヨ」
「そうだね。エビおいしいね」
「なんか言葉遣いがわたしに似てきたわね・・・」
「エリリー サカナ オイシー ワネ」
言葉をどのように人間が覚えていくのかわからないが、5歳児の適応能力の高さは驚かさせた。今日でまだ3日目である。単語から文章になりつつある。
言葉が通じなくて不便ということはない。英梨々とはスペイン語でも会話もする。それだと俺には聴き取れない事が多い。2人が目を合わせて俺の話をしているのがわかる。
レストランで食事を終えてホテルへと戻る道を歩く。道路では酔っぱらって歌を歌っている人が必ずいる。陽気な街だ。
お風呂に入ったあと、昼寝したせいかヒスイちゃんは元気だった。英梨々は昼寝をしそこねているので少し眠そうである。ベッドで絵本を読み聞かせつつ自分が先に寝てしまった。しょうがないので俺が読もうとしたら、スペイン語の絵本だった。
俺がカタコトのスペイン語を読もうとしたら、ヒスイちゃんがスラスラと朗読した。どうやら丸暗記しているらしい。字は読めないらしく、俺がカタコトで読むとそれを綺麗に朗読していた。どっちも勉強になる。俺が日本語を教えて、ヒスイちゃんがスペイン語を教えればちょうどいいかもしれない。
やがてうとうととしてきてヒスイちゃんも眠った。今日も川の字である。ヒスイちゃんのほっぺにチューをした。
俺はまだ目が冴えていたので起き上がった。それからテラスでリオの夜景を見ながら夜風に当たった。冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ。英梨々が起きてこないかな?と思ったがもう熟睡してしまったようだ。
部屋に戻って、英梨々のおでこにもキスをした。
「日本に戻ったら、結婚しよう」
そう言って今日もプロポーズをしてみたが、スースーと寝息が聴こえただけだった。
(了)