朝、ホテルの部屋で歯を磨きながら俺は検索していた。さて、どうやって帰ろうか?
「どうやっても何も、飛行機でしょ?」
「乗り物でなく、ルートだよ」
「そんなの太平洋をぶーんとひとっとびでしょ」
「そうでもないんだ。直行便がなくてさ」
「ふーん。西回りで日付変更線を超えると明日になるって倫也いったわよね」
「なんか違うが、まぁそうだ」
「東回りだと、来た時みたいに過去になっていくのよね?」
「別に過去にはならんが」
「なんでよ」
「なんでだろうな。神様はそういう不正を許さないんだよ」
「ケチね」
頭の中を地球儀を回す。できるだけ時間はかけたくない。ニューヨーク経由だと一度北に上がってから西だ。中東あたりだとずっと北東に進路をとるから近いかもしれない。あんまり関係ないだろうか。
「英梨々、ヨーロッパ経由と中東経由はどっちがいい?」
「なんで、そんなところ寄るのかしら?」
「地球が丸くて、ブラジルは日本の裏側にあるからだろ」
「わっかんないわね。ヨーロッパならスペイン寄りたかったのよね」
「鉱山?」
「うん。スペインに、『スファレライト』っていう綺麗なオレンジの宝石があるのよ」
「聞いたことねぇな・・・」
「欲しいのよねぇ・・・」
「スイちゃん連れてだと無理だろ。店で買うならそれこそ現地行く意味ないしな」
「わかってるわよ。はいはい。合理的な倫也に任せるわよ」
「拗ねるなよ」
「拗ねてないわよ」
「トモヤ エリリー ソンリーサ」
「そうね。スイちゃん、怒ってないわ」
ソンリーサ。笑顔っていう意味だ。俺と英梨々のいつものやり取りなのだが、喧嘩に思われたらしい。子供に諭されるとは恥ずかしい限り。
「エコノミーでいいよな」
「どれくらい値段違うのかしら?」
「エコノミーで・・・20万。ビジネスで70万・・・」
「3人だから、エコノミーで我慢しましょ」
「それしかないな。ハイシーズンだしな」
中東経由でチケットを購入して予約した。
リオデジャネイロからドバイを経由する。乗り換えは一回で荷物は成田まで運んでくれる。アメリカ経由はめんどくさいらしい。
「ドバイ経由でチケットとったぞ」
「ドバイ降りられる?」
「降りられない」
「ケチッ」
「英梨々。ソンリーサ」
「・・・なによ」
「ナニヨー ワヨ?」
3人で笑った。
空港までタクシーを利用する。ドバイまでは12時間のフライトだ。しんどくなるだろう。
※ ※ ※
飛行に滞在中、ヒスイちゃんが飽きてぐずったり、泣いたりするかと思ったがそんなことはなかった。少し歩き回る時もあったが基本的には静かにしていた。最新のネズミーのアニメが放送されていたので、それを何度も繰り返し見ていた。
食事は中東系なので豚肉は使われていない。従ってハムとかベーコンもない。料理は美味しかった。お酒は無料のものもあって配られる。俺たちには関係ないので水を飲んだり、ジュースを飲んだりした。
本来は昼間なのでなかなか寝付けなかった。それでもヒスイちゃんは早々と寝て、それから起きて映画を見た。俺がようやくウトウトし始めたらドバイに到着した。英梨々はずっと寝ていた。
ドバイは大変発展していて飛行場も綺麗で大きい。乗り換え用のロビーから出られなかった。乗り換えの待ち時間が3時間あったが、その間もタックスフリーで買い物などができる。どのショップも24時間で営業していた。とはいっても広くないので全部を見て回っても一時間もつぶせない。
ヒスイちゃんがまた眠ってしまって。今は英梨々が抱っこのような形で寝かしつけている。俺はトイレを済ませ、現地のチョコをぼりぼりと食べ、スマホをいじって時間をつぶした。1時間ほどで英梨々と変わって、俺が抱っこをする。ヒスイちゃんはそんなに大きな子供でないのに寝ているとずっしりと重かった。交代で抱っこしながら日本行の飛行機に乗った。
ドバイから成田はさらに10時間である。今度はさすがに体感時間が深夜だけあって、俺は眠ってしまった。ヒスイちゃんは途中で起きて英梨々が面倒をみていた。
食事の時間になっても眠っている時は起こされない。俺は英梨々に起こされて、ヒスイちゃんとご飯を遺書に食べた。英梨々は食事をとらず交代で眠った。なんだか2人とも体内時計もバラバラだった。でも、2人で眠ることはなかった。
合わせて22時間のフライト時間で、乗り換えや移動を含めて約26時間の旅だった。成田には深夜に着いた。日本は夜なんだ・・・という感想しかなかった。
電車の終電が終わっていた。英梨々はタクシーを使うことにした。池袋まではだいたい3万円ぐらいかかった。深夜の割増し料金もかかって高い。ドルだと200ドルちょっとだからそんなに高く感じないが、円だと高く感じた。やっぱり実感がわくからだろう。
英梨々は俺の家に来た。英梨々の家だとみんながバタバタと起きてきてしまうからだ。
時刻は深夜の3時。懐かしい家の匂いがする。
俺の家には誰もいない。両親はほとんど家に帰ってこないで2人とも仕事をして家を長期間開ける時もある。昔からそうだ。
荷物を置いて、とりあえず日本茶を淹れた。緑茶の香りだけでも癒される。
「コレワ?」
「俺の家」
「オレノイエ」
「倫也 家」と俺は教えた。
「エリリー イエ ワヨ?」
「あっ~ ちがう。英梨々家 でかい」
「?」
その後、英梨々がスペイン語で説明していた。俺と英梨々はまだ結婚していない。ここは俺の家だが英梨々の家ではない。ヒスイちゃんは2人の関係を正確には把握していないのだ。
お風呂にお湯を溜める。部屋に戻ってみたが、懐かしい感じもするが、すごく狭く感じた・・・
海外のホテルはどこも広かったからだろう。日本の家屋が狭いという感覚が少しわかってきた。
リビングでは英梨々がしみじみとお茶を飲んでいた。なんだこの金髪の日本人は。
「お茶おいしいわねぇ・・・」
「安い緑茶だけど。コンビニでまんじゅうでも買ってくればよかったな」
「明日でいいわよ。・・・もう今日ね」
「なんか寝たり起きたして、時間の感覚がよくわかんねぇな・・・」
「時差ぼけはしょうがないわよ」
英梨々がヒスイちゃんと一緒に風呂に入った。意外と面倒見がいい。英梨々はもっとわがままで子供の世話などはできないと思ったが。
「これからのこと、考えないとね」
「スイちゃんこと?」
「そうよ」
「このまま育てないのか?」
「5歳よ。あたし達は18歳。無理よね・・・」
「13歳の時に産んだ子になっちまうのか」
「だから、パスポートの年齢は違ったでしょ」
「そうだな・・・じゃ、どうするんだ?やっぱり施設?」
「施設が悪いわけじゃないけど、心当たりが1人いるから頼んでみるわ。たぶんもう海部さんが根回ししてくれているでしょうけど」
「そっか」
テレビをつけるが深夜なので放送していない。ネット放送でニュース番組を見る。日本語の音声になんだか少し感動する。
3人で俺の部屋にあがった。6畳の部屋に3人は狭い。もっとも高校の時にはもっと多くの人が集まったが・・・
「なんか倫也の部屋だとほっとするわね」
英梨々がベッドに座った。スプリングの感触を確かめている。もう癖である。確かに旅を続けていくとベッドの固さは気になる。固すぎると寝にくいし、柔らかすぎてもダメなのだ。
英梨々はヒスイちゃんを抱えながら、朝までアニメを見て過ごした。俺はひさびさにノートPCからゲーム制作の進捗状況を改めて確認した。概ね問題なく進んでいる。俺がいなくても加藤がいたらゲームができるんじゃね?と思いつつも、細かい点は修正していった。
※ ※ ※
朝になったので英梨々の家まで3人で歩いていく。
「おかえりなさいませ」と海部さんは言った。いつもみたいにビシッとしているがスーツでなく、襟元を明けた白いブラウスを着ていた。クールビズなのだ。これこれでとても似合っている。
「ただいま」英梨々はツンとして変わらない。
「ただいま。その節はお世話になりました」俺はペコリと頭を下げる。
「カイフー タダマー」
「あら、ヒスイさんは日本が上手になっていますね」
「イスイ サン? ワヨ?」
海部さんはしゃがんで目線を合わせてヒスイちゃんの頭を優しく撫でた。それから耳元で何やら囁いている。
「朝食は召し上がりますか?」海部さんが俺たちに聞いてきた。
「ええ、お願い」と英梨々が答えた。
澤村邸に上がってヒスイちゃんはキョロキョロと周りを見ている。「ホテル?」と聞いてきた。俺の家とは大きさが違うので、ホテルと勘違いするのもしかたない。「英梨々の家」と教えた。困った顔をして納得していないようだった。
食堂で和食を食べた。白いご飯。味噌汁。ノリ。漬物。あとアジの開き。箸で器用に食べているのを見て、ヒスイちゃんは驚いている。真似してすぐにできるわけでないので、俺と英梨々もフォークとスプーンに持ち替えて一緒に食べた。今はまだ疲れているので箸を1から教える気がしない。
給仕をしながら海部さんは話を進めていく。「それでヒスイさんの件なのですが、パスポートは用意できましたが戸籍となるとなかなか難しく、もう少し時間がかかります」
と言った。
「普通戸籍がないとパスポートって作れないよな・・・」と俺は呟く。
「アメリカのパスポートは軍でも発行できますが、日本の国籍となると話しが違います。それにヒスイさんを日本人にするか、移民にするかも迷うところです。母国を我々の判断で変えていいものかどうか」
あんまり細かいことを気にしてもしょうがないだろう。
コロンビアの孤児をNGOで救済し、日本で里親になる人がいたので養子縁組をする。それが基本的な流れになるようだ。すでにヒスイちゃんは日本に来ているので、あとは書類上で辻褄を合わせるだけのようだ。
「まずは細川さんのところに養子に迎えていただこうかと思いまして」
「あたしもそう思っていたわよ。本人たちが良ければだけど」
「慣れてますから。お二人はどうされたいですか?」
「俺はお任せします。最善を選んであげてください」
「なら決定ね」
細川さんは澤村家の元執事だ。スペンサー家のバットラーと言ってもいい。同じ意味だがややニュアンスが違う。結婚されているが子供はいない。英梨々が生れる前からスペンサー家に仕えていて、英梨々にとってはおじいちゃんみたいな人だ。英梨々がかろうじてまっとうななのも、俺がなんとか一人前に生きていけるのも、細川さんのおかげである。
昨年の夏に高齢を理由に惜しくも勇退されてしまった。英梨々は再三慰留を求めたが決意は固く止める事ができなかった。
俺たちは英梨々の部屋へと移動した。それから英梨々がヒスイちゃんを連れて澤村邸を案内している。英梨々の家はちょっとしたB&Bなどよりもずっと広い。バックヤードもあってメイドもいるのだ。100人規模のパーティーを開催するので専用の広いキッチンもある。
英梨々が俺と結婚して家をでるなら狭いところに住むことなる。いっそ俺が婿入りしようかと思うが、ここだと肩が凝りそうである。何事も育った環境に近い方が楽だろう。ヒスイちゃんぐらい若ければ、新しい環境にもすぐに順応するだろうが。いざ、英梨々と結婚しようとしたら、いろんな問題がありそうではある。
澤村邸の案内が終わった後、海部さんの提案でヒスイちゃんの買物に行くことになった。
車でデパートまで行き、日本らしい落ち着いた紺のスカートと襟のついた白いシャツを購入し、ヒスイちゃんに着替えてもらった。こう見ると私立の幼稚園児のように見える。ベリーショートの髪型だけが残念だった。
それから細川さんの家まで移動した。東京の郊外に古式ゆかしい日本家屋で塀もある。
現役を引退し、奥様を大切してのんびりと暮らしているらしい。70近い初老の方だが、見た目はもっとずっと若い。おそらく・・・というか、ほぼ確実に俺が戦っても勝てない相手だ。あらゆる武道に精通している。なんでも器用にこなすし。語学は「C3POの師匠なのよ」と英梨々が冗談を言うほどなんでも話す。学問と教養を身に着けた超人である。
「お嬢様。おひさしぶりでございます」と細川さんが笑顔で玄関まで迎えにきてくれた。
「ひさしぶりね」と英梨々は気取って言ったが、気持ち的には「おじぃちゃーん」と抱き着いたところだろう。目が子供に戻っている。
中へと案内されて、和室で上等なお茶を出してもらった。そこでしばし旅の話をした。英梨々が一生懸命興奮しながら話すのを、楽しそうに奥様と聞いてくれている。昼食には特上の寿司が届き、それをいただくことになった。
ヒスイちゃんの「コレワ?」攻撃が始まり俺は丁寧に1つ1つのネタを答えた。その間も英梨々はずっと旅の話をしていた。しかも、コロンビアでヒスイちゃんを連れ出したエピソードは自分がその場にいたかのように臨場感がある。
事前に話しはある程度通っているのだろうだろうが、ヒスイちゃんの養子縁組に関してはl
「そのような事情なら協力しなわけにはいけませんわ」と奥様が快諾してくれた。
当の本人のヒスイちゃんが理解していないので、その後はスペイン語で海部さんが説明し、英梨々が説明し、細川さんもスペイン語で説明していた。わからないのは、俺と奥様かと思ったら、奥様もスペイン語で話をされていた。御せぬ。ここは日本なのに。
ヒスイちゃんは泣きそうだったが、ぐっと我慢している。たぶん怖いのだろう。それはそうだろう。異国の地でひとりぼっち。知らない家というのは不安がどれほどか。
俺の家で一緒に暮らしてあげたいがそれが最善とも思えない。ヒスイちゃんには教育をしっかりしてあげないといけない。感情だけの愛情では幸せにはできない。
話がまとまったのでそろそろ帰ることになった。席を立って玄関に向かった。細川さんの隣でヒスイちゃんは涙をこらえて立っている。聞き分けがある賢い子だ。ここなら教育もしっかり受けられる。自由も平等もある。育つ環境には申し分ない。
玄関をあけたところで、ヒスイちゃんが泣き始めて、俺の方へ走ってきてシャツをギューと掴んだ。
・・・あの時のように。
「英梨々。俺・・・」
「それをやられて命かけてきたのよね?どうするのよ」
「どうするもこうするも・・・」
号泣して止まらなくなったヒスイちゃんの背中をトントンと叩きながら、「大丈夫、大丈夫」と慰めた。
大人は子供の鳴き声に弱い。ましてやこんなにも小さな女の子なら尚更だ。しかもシラミ駆除のためにバッサリ切られた短髪も哀愁をさらに誘う。
みんなが沈黙して困っていると、「あなた、また出勤なさいな。もう十分隠居生活も楽しんだでしょ」と奥様が言った。
「そうするか・・・」と観念するように細川さんが呟いた。
「では、そのように進めさせていただきます」と海部さんは頭を下げて、ヒスイちゃんを抱きかかえた。名付け親なのだ。もしかしたら海部さんが引き取りたかったのかもしれない。
泣いているヒスイちゃんを後部座席の真ん中に座らせて、俺と英梨々が両脇を挟んだ。
「チャイルドシートも必要ですね」と海部さんが笑いながら言った。
※ ※ ※
暫定的だが、ヒスイちゃんは澤村邸で暮らすことになった。ここなら英梨々も海部さんもいるので寂しくないだろう。細川さんがまた通うことで徐々に懐くに違いない。そしたら細川さんのところで暮らせばいい。養子縁組先は細川さんである。
『 細川翡翠 5歳 』になるのには、ゆっくりと時間をかければいい。
「実は細川さんからの提案で、翡翠から翡(かわせみ)の字を取り、翠のみにしよう考えています。『H』の発言ができませんし、自分のこともスイちゃんといってますから」
「その方がいいわね」と英梨々が同意した。
「細川翠か。ミドリの方が和名っぽいけどな」
「それも考えたのですが、本人がスイで気に入ってますので」
「そうよ倫也。スイちゃんで旅してきたんだから」
「字画とか大丈夫なのか?」
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?そんなこと気にしてたらキリがないでしょ」
「そうなのか・・・」
「そんなに心配なされなくても、女性は結婚して姓が変りますから」
海部さんが正論を言った。字画など気にしてもしょうがないだろう。
「いや、嫁にはやらんぞ?」
英梨々がひきつった顔をした。
翠ちゃん
澤村邸ではヒスイちゃん改め翠(スイ)ちゃんの部屋が迅速に用意された。ベッドだけは英梨々と並んで置かれた。当分の間は一人で眠れるようにはならないだろうからしょうがない。
翠ちゃんは泣き疲れたのもあるだろうが、新しいベッドで眠ってしまった。
これで翠ちゃんの件は一段落した。新生活を始めつつ問題があれば修正していけばいい。
※ ※ ※
俺もやっとほっとして家に帰った。日本の夏は蒸し暑い。麦茶を作って冷蔵庫にしまっておく。ベルがなった。英梨々がまた来た。
「どうした?」と俺が聞く。「どうもしないわよ」と言って「用事なきゃ来ちゃいけないのかしら?フィアンセなのに」と英梨々がいった。
「まだフィアンセになってないよな」
「細かい男ね」
「断られているのは俺だからねぇ!?」
「しょうがないでしょ、指輪が完成しないんだから」
玄関で靴を脱ぎながら英梨々が言った。俺の部屋へと上がっていく。黄色いノースリーブのワンピースに着替えていた。英梨々らしい色だ。ツインテールは解いていてストレートだ。
英梨々はベッドに座って「まだ夕方だけど」と言った。
「なっ・・・英梨々発情したのか!?」
「はぁ?あんたバカじゃないの?」
「えっ、違うの」
「東京の夏は蒸し暑いわね」
英梨々がリモコンでエアコンを付けた。窓を閉め、カーテンを閉ざした。部屋が涼しくなるのには時間が少しかかる。
それからベッドにもぐりこんだ。
俺はどうしたものかと思ったけれど、英梨々の隣に寝ころんだ。背中を向けている英梨々を軽く抱き寄せる。
「まだ、ママになんてなりたくないのよ」
「すまん・・・」
「もっと倫也のそばにいたいのに」
「ごめん」
「なんで子供なんて拾ってくるのよ」
「成り行きで」
「ほんと、なんにも考えてないわよね」
ずいぶんと非難がましい。英梨々は翠ちゃんをことは本当は反対なのかもしれない。それはそうだろう。普通、旅先で子供を養子に迎えるようなことにはならない。
俺は英梨々のワンピースの後ろのチャックを下ろした。
「英梨々のことばかり考えているよ」
「嘘ばっか。『エッチなことばかり』の間違いでしょ」
「英梨々が可愛いから」
背中を向けていた英梨々がこちらに向き直した。青い瞳でじぃーと俺を見つめる。部屋は暗いがカーテンが閉めたぐらいでは真っ暗にはならない。
「英梨々の瞳はアレキサンドライトみたいだ」
「そんな覚えたての宝石の名前を使わなくていいわよ。それにあたしの瞳はそんなにみどりがかってないし、赤味がかってもないでしょ」
「そうだな・・・どっちかっていうと濃いサファイアだよな?」
「そうね・・・もう少し紫に近いと思うのよね。もしくは黒か」
「うーん」
顔が近いからキスをする。英梨々の手が俺の服を脱がせていく。
「それで倫也。欲しい石があるのよ」
「イエローダイヤだろ?」
「それもだけど・・・『ディープパープルサファイア』っていうのがあるのよね」
「ほう・・・」
俺も英梨々のワンピースを脱がせていく。こんな時間にエッチをしにくるのは珍しい。たぶん翠ちゃんと同居になるので、しばらくは夜に抜け出せないからだろう。
「だから、行くわよ」
「次はどこだ?」
「スリランカ」
「紅茶の国だな」
スリランカはインドの南。インド洋に浮かぶ大きな島だ。紅茶で有名なこの国について、俺はあまり知識をもっていなかった。
「じゃあ、スリランカに行ったら結婚してくれる?」
「ううん。もういいの」
英梨々が俺のアレをギュッと握った。二日もしないと硬くなって万全の状態だ。
「もういいってどういうことだよ・・・?」
俺は英梨々を仰向けに寝かせて、上にまたがった。
本来なら夏休みの間中、これぐらい退廃的に毎日イチャイチャしてる方が普通のカップルなのかな?と思いながら、俺は英梨々のブラを外した。
『もういい』の意味が俺にはよくわからなかった。
(了)
この物語の倫也のイデアは英梨々のために鍛え抜かれているので、小学生の時に英梨々がいじめられているのを回避させている。
そのため少女の涙には滅法弱い性格になっている。