元々、加藤を含めた三角関係のこじれを解消できないことから長々とこの冴えカノ同人を書いているのだが、「久保さんは僕を許さない」とか「阿波連さんははかれない」などを読み、ああこういうのが時代の需要なのね・・・と学習してみる。
スリランカの首都は長い名前で有名なスリジャヤワルダナプラコッテだが、これはスリランカ最大の都市であるコロンボの郊外にある。
成田からコロンボまでは以前は中継しなけばいけなかったが、現在は直通便もある。時差は3時間、飛行に乗る時間は9時間の距離だ。
敵地にでも乗り込むつもりで気構えたが、スリランカは観光立国だった。治安の悪いイメージがあるのは長らく内戦が続いていたからだろう。21世紀からはようやく政権も安定し民主化が進んだ。
世界の資本を集めてインフラを進めていたが、コロナの影響で観光客が激減。政府は負債を払えなくなり崩壊。混迷の時代へと突入している。
心配されたの『紅茶』だ。スリランカの紅茶は有名で世界中に輸出している。もしスリランカが破綻してしまい、紅茶を輸出できなくなると多くの紅茶企業では困ることになる。代表的なオリジナルブレンドにはスリランカ産の茶が必要不可欠だからだ。
結論からいうと政府は破綻した。しかし紅茶農園はなんら問題がなかった。多国籍起業が国家よりも強い時代である。イギリスの統治時代から受け継がれる紅茶作りのノウハウも輸出ルートもなんら影響を受けず、政府も外貨を稼ぐために必死なので紅茶産業だけは最優先に対応していた。
日本にいて、スリランカの事がニュースになることはあまりない。もし紅茶の輸出が止まってしまったら、ビッグニュースになっただろう。
※ ※ ※
コロンボの街は大発展を遂げていて、超高層ビルも立ち並んでいる。しかし少し郊外にいけば老朽化したビルや建築物も目立つし、バラックなどのスラム街もある。繁華街は新宿などに匹敵するぐらいの人混みだ。アジアらしい雑踏のカオス。
そして例によって海岸線はリゾート開発されて、とてもきれいなホテルなどが立ち並んでいた。
俺は英梨々との旅行では利用しなかったが、ユースホステルを探した。若者向けの簡易宿で破格に安い。YMCAなどが有名だが、あちこちの協賛で成り立っているところもある。1泊6ドル円ぐらいで泊れるところもあり人気だ。観光シーズンには満員になり、先着順ということになる。
安いだけあってボロ宿だった。4人1部屋の二段ベッドはシーツが敷いてない。シーツは1ドルでレンタルする。シャワーなどは壊れているのか、お湯がでなかったが常夏の島なので問題ないのかもしれない。石鹸で体と頭を洗い、水で流す。それだけだ。
夜はスリランカ料理を屋台で食べた。広い道路は車両通行止めで、道端にはいろんな色のプラスチックのイスが並べてある。
チキンが網で丸ごと焼かれていたり、スリランカのお菓子が売られていたり、瓶詰めのジュースはかき氷シロップみたいにカラフルで、とても飲むきにはなれない。そもそも水が怪しい。
一番まともで美味そうだったのが鉄板で焼いたパンにタンドリーチキンを挟むサンドイッチだ。けっこうなボリュームで1~2ドルぐらいで食べられる。
腹を満たして夜の繁華街を歩けば、娼婦のお姉さんが声をかけてくる。俺は立ち止まらずに律儀にユースホステルに戻った。ロビーでは各国のバックパッカーが集まっていて情報を交換している。バックパッカーとは大きなリュックに必要なものを全部詰め込んで旅行している若者たちのことだ。だいたいが貧乏旅行なのでユースホテルに集まることになる。
つわものになると寝袋も持参していて、ロビーの片隅で寝ている。この場合の金額は宿泊よりもさらに安い。ルールを守れば追い出せることはないようだ。
男の一人旅は気楽ではある。
観光客での情報で、俺は南部にある鉱山に行きたいといったら、「ああ、あそこはいいところだったよ」とか「偽物も多いから気をつけて」とか「体験できるところには原石はないんだ」とか、現地に行ったことのある人がちらほらといた。
『ラトゥナプラ』は鉱山の街である。検索したらVtuberがヒットしてうざったいこと限りない。
どうやら、コロンビアみたいに隠れた鉱山があるわけでもないし、マフィアが牛耳っているわけでもないようだ。誰でも訪れることができるみたいだった。
電車は通っていないで都市間を運航するバスでいくことなる。
ユースホステルのフロントで聞いたら、観光地として有名だと教えてもらった。宝石博物館もあり、そこで宝石を買うのが一番安全で安いという重要な情報をもらった。
なんだか俺が思っているイメージとはぜんぜん違うような。秘境だと思っていたスリランカは観光立国で、宝石の採れる鉱山は有名な観光地。誰でも安心して買える宝石・・・
どんな場所なのかはまだ行ってないのでわからないが、少なくともコロンビアのような危険はないらしい。
「行ったら死ぬかもしれない」と警告されたコロンビアでは、鉱山で実際に銃で撃たれた。相手は俺が防弾チョッキを着ていることを知っていたとしても、常識では考えられない。スリランカもそんなところかと思っていた。
現在のところ、アジアらしい喧噪と汚さがあるものの安全である。女性の観光客も多く、英梨々を連れて来ても問題はなさそうだった。そういえば海部さんもぜんぜん止めなかったな・・・
なんだか拍子抜けをしてしまった。とりあえず英梨々は手紙を書いて欲しいといったので、コロンボに着いたことはメールで伝えたが、深い内容は伝えていない。
俺はボロボロのテーブルの片隅で、手紙を取り出して何を書こうか考え始めた。
『親愛なる英梨々へ』と書き始めてから、俺は英梨々に年賀状は書いたことがあっても、手紙を書いたことがないことに気が付いた。
今日あったことを淡々と書き連ね、たいしておもしくもない手紙だなと自分で思いつつも、最後に『早くサファイアを見つけて英梨々に逢いたい』と書いて、封筒にいれて封をした。
※ ※ ※
翌日、中央駅のチケット売り場で『ラトゥナプラ』行きまでのバスチケットを買った。バスがくる時間まで街を散策し、コロンボの郵便局を見つけた。国際郵便用に封書の重さを測ってもらい、スリランカの切手を買って貼った。それから郵便局員に確認してもらって日本へ国際郵便を出した。無事に届くことを祈ろう。
大型のバスは満員で、隣には強面のおっさんが座った。現地の言語で話かけられたので、俺はわからなかった。相手もこちらが観光客だとは分かるみたいで「チャイナ?」と聞いてきた。俺は「ジャパン」とだけ答えた。その後は現地までの3時間、話しかけてくることはなかった。
道路はちゃんと舗装されたアスファルトで、ラトゥナプラもまた大きな街だった。
バスから降りる観光客を待っていたようで、白いシャツの日焼けしたスリランカ人のおっさんが声をかけて回っている。手には原石をもっていた。俺はあらかじめ「騙されるな」と聞いていたので、どうせ偽物だろうと思ったが、中にはその場で買う人達もいる。
まず始めにユースホステルを探したがこの街にはなかった。もっとも安い素泊まりの宿を探して、そこに決める。一泊20ドルぐらいする。早く仕事を探さないと俺の小遣いが底をついてしまう。
ホテルには、荷物を置いても貴重品は置いていかないのは鉄則だろう。ホテルの人も信用はできない。特にこういう安い宿では注意が必要だ。はホテルに貴重品を預け、貴重品をホテルの人に盗まれたなんて話もある。
街の中心の大きな公園付近では、カラフルなガーデンパラソルが立ち並び、露店が賑わっていた。テーブルの上で宝石の取引が行われている。この光景はボゴタの街でも見かけた。
俺みたいな貧乏そうにみえる若者にも声をかけてくる。手のひらの宝石や原石を売ろうとする人が絶えない。全員詐欺師に見える。
公園のベンチに座って、しばらくその様子を眺めていた。宝石の街といわれるだけあって、商品が集まってくるのだろう。あちこちで取引をしている。これだけの取引のすべてが偽物ということもないだろう。どんな風に正しい知識を身に着ければいいのだろうか。
何も知らない観光客に偽物や劣悪な宝石を売りつけているだけはないはずだ。プロっぽいバイヤーもいる。
露店で缶のコーラを買って、それを飲みながら取引している人のやり取りをみていた。
「君もどうだい?」と俺の目線に気が付いたのか声をかけてきた。白い木製のテーブルの上には、いろんな種類の小さなクズ原石がならんでいる。小太りの人で赤いアロハシャツを着ていた。商談していた相手はどこかへ行ってしまっていた。俺が熱心に見ていたのを知っていたのだろう。
「見せてもらっていいですか?」と許可をもらってから、俺もバイヤーっぽく、宝石を持ってきたルーペで1つずつ確認した。インクルージョンも多いし天然石なのは間違いないようだ。素人の俺の目でも物になりそうなものがなかなか見つからない。せいぜい10ドルぐらいか。
唯一綺麗だったのが、赤い宝石で大きさは原石で1カラットもない。それがルビーかどうか俺にはわからかった。
「ルビー?」と聞いたら、「ガーネット」と教えてもらった。随分と正直な人だ。いくらか聞いたら30ドル程度だった。そんなもんかな?安いけれど、物にならないかもしれない。それでも見聞料として俺は買うことに決めた。ガーネットを買うんじゃない。この人のとの関係に投資するのだ。
「いい選択だ」と褒めてもらった。彼は英語だったので情報収集をかねて会話をした。日本から来た漫画家の卵で、鉱山の取材をしていることを伝える。
「うちの息子も日本のアニメが好きだ」と言っていた。スリランカでも日本のアニメは支持されているようだ。コロンビアの山奥でも知っていたのだ、有名な観光地ぐらい発展しているのなら、日本アニメは浸透していて当たり前なのかもしれない。
「ここは暑いから場所を移そう」と小太りのアロハシャツのおっさんに提案された。あまり騙すような感じの人ではなかったので、俺は付いていくことにした。彼は店に入ってチキンケバブを頼んだ。「ここのは美味いよ」と薦めてくれたので、俺も同じものを注文した。
店は昼間なので電気はつけていない。だから奥の方は少し薄暗い。彼は昼下がりだというのにビールを飲んで、俺はペットボトルの水を買った。
鞄から取り出したノートを見せて、自分がマンガ家の卵であることを証明しようとした。「上手だ」と感想をいったけれど、対して興味はなさそうだった。おっさんすぎて心の琴線には触れなかったのだろう。
フィアンセに贈るブルーサファイアを探しに来たことを話した。そして「どこか鉱山で働きたい」と言ったら・・・
『ラトゥナプラには鉱山はない』という衝撃の答えが返ってきた。
スリランカはどこででも宝石がとれるらしい。漂砂鉱床というらしく、雨や川によって削られた土砂が堆積してできる沖積鉱床だ。実際に道路を開拓中に有望な鉱床が見つかって工事が止まったたりするらしい。
「日本人は鉱床では働けない」と教えてもらった。労働許可証がいるらしい。当然と言えば当然だろう。あと、「体験採掘は選別の終わったクズ土砂ばかりだからやっても無駄」ということも聞いた。ユースホステルでも聞いた情報だが、現地の売人が言うのだから本当なのだろう。お金を払って宝石のない土砂をひたすら水で洗う・・・それにお金を払うのだ、一種の詐欺みたいなものだが、観光客は満足するのでギブアンドテイクだろう。
ちなみに、この小太りのアロハシャツのおっさんは仲介バイヤーで、村などの小さな鉱床から来た売人からまとめて買い付けるらしい。そのためクズ原石もたくさん混ざっている。
「その原石はどうするのですか?磨いてもものにならなそうですが」と聞くと、「その通り」と答えた。これは体験採掘に混ぜられたり、宝石体験工房の練習用として使うらしい。完全に無駄ということもないようだ。また原石のままおみやげ買う人もいるらしい。
そうこう話を聞いているうちに、アロハのおっさんのケータイが鳴った。「仕事だ」と彼は言った。酔っぱらっているのに・・・と思ったが別に俺には関係のない話か。「ついていって見ていいか?」と聞いたら許可をくれた。
場所はさっきの公園で、同じ白いテーブルだった。この場所が職場の1つなのだろう。並んでいるパラソルで休憩している人はいないので、どうやらここはバイヤー用のスペースが暗黙の了解になっているようだ。
20歳ぐらい肌が焼けた痩身の青年がやってきた。なかなかのイケメンにみえるが服はボロボロだった。アロハのおっさんは前に座った、アロハのおっさんは俺をマンガ家のアシスタンだと紹介した。
青年は宝石の仕事よりもマンガ家の話題に興味はあったようで、「何のマンガを描いているのか?」と聞いてきた。俺はノートを見せた。「以前、とある漫画家のアシスタンをしいていた」と言った。青年は鳥山田先生を思い浮かべるかもしれないが、別に嘘はついていない。その漫画家は同人作家の英梨々というだけだ。
青年は目をキラキラと輝かせて話を聞きたがった。
「仕事を先に済ませよう」とアロハのおっさんが言った。青年は無造作に麻袋から原石をバラバラとテーブルの上に置いた。30粒ぐらいあり、大粒で綺麗なものもある。色合いからしてアクアマリンだろうか。偽物ということはなさそうだ。俺も俄然興味が出てきた。最初は英梨々の思い付きいのような宝石を求める旅だったが、今では宝石のメッカまで人rいで来てしまうぐらいになってしまった。
アロハのおっさんはルーペとライトで査定をしていく。紙にメモしながら個別に値段を書いていく。それからざっくりと「600ドル」と言った。ドル?と俺は疑問に思った。スリランカの通貨はスリランカ・ルピーである。でも、大きなホテルや商店ではドルも使える。大きな単位だとドルの方が信用があるのだろうか?
青年と値段交渉し、青年は半分泣きながら値段をあげてくれと頼む。最終的には「750ドル」で落ち着いた。約10万円だ。スリランカの物価からするとかなり高額だ。
取引を終えると、アロアのおっさんは立ち上がって「あとはその青年に話をきくといい」とだけ言い残してどこかへ言ってしまった。転売先は秘密にしておきたいのだろう。
青年は気を取り直して、俺にマンガ家生活の話を聞いてきた。俺は適当に答える。それから俺も青年に質問をしていく。わかったことは、この750ドルが彼の村の1週間分の収入になるということだった。
彼はこれから街で買い出しをしてから車で帰るそうだ。俺は彼とは気が合いそうなので買物も付き合うことにした。
彼の名は、ラジャナトラムといい、『ラジャ』でいいと言った。握手をして友達になった。俺のことは『トモヤ』と呼んでもらった。
彼はマンガが大好きで、ずっと日本のマンガやアニメの話をしていて、いろいろと質問してきた。好きな話題なのでだいたい答えることができたし、共感することも多かった。
彼は鳥山田先生のドラゴンボーヤの大ファンだったのも幸いした。だから英梨々が描いてくれたドランゴンボーヤのキャラクター集のノートをみて、感激していた。
買い出しではガスボンベなどの燃料、村では手に入らない調味料、缶詰やドライフードなどの食料、最後にドラッグストアで買い物をした。
「本当はもう少し買いたい物があったのだけど」と言った。
「何が必要なの?」と聞いたら、「電化製品。扇風機が壊れたしまったんだ」という。俺は電気屋まで一緒にいって、扇風機を3台購入する代わりに値切った。50ドルもあれば買うことができたのだ。安い買い物である。
それから俺の事情を話して、村へ行っていいか尋ねたら、心地よく迎え入れてくれた。3台の扇風機は手土産にはちょうどいいだろう。
ユースホステルに戻って宿泊予約をキャンセルした。
彼の車はボロボロの小さなトラックだったが、メイドインジャパンだ。「日本の中古車はスリランカでは人気がある。これは村の財産」とラジャが教えてくれた
。
彼の村は、ラトゥナプラからさらに東の山奥で、途中から案の定、舗装された道路はなくなってガタガタの道になった。タイヤがパンクしないかだけ気になった。車に揺れること1時間半だった。ジャングルみたいな森と山を抜けた。
彼の村は山間にある小さな集落だった。辛うじて電気は通っているがケータイは通じなかった。ガスと水のインフラはなくて、井戸水を共用している。近くには川がながれているし水には不便がないようだ。プロパンガスを使っているのは村長の家で、そこだけはコンクリートの建物で広くて立派だった。他は平屋の木造でトタン屋根のバラックだ。まるで戦後の日本みたいな場所だった。
英梨々が見たら喜ぶだろうなぁと思った。見るだけならだが。生活は無理だと思う。水洗トイレはなく、川に囲いがしてあるだけだった。天然の水洗トイレというべきか。
日が沈んで暗くなってきた。村には街灯がないのでどんどん暗くなっていく。
ラジャは俺のことを村長に紹介してくれた。村長は初老の方で背は小さいけどガッチリとした体格の人だった。奥様は痩せていて落ち着いた雰囲気がある。身なりもキレイだった。
俺が村長と外で会話していると、続々と村人が集まってきて囲まれてしまった。全部で30人ぐらいはいる。老人も子供もいる。
よそ者を村に連れてきたのでラジャは叱られていた。けれど、俺が扇風機を贈ったことと、何よりもマンガノートが村の少ない子供たちの心を掴んだ。年配の村長は渋々俺を受け入れてくれて、俺はラジャの家でお世話になって泊ることになった。
ラジャの家は狭くてボロかった。母親と妹の3人で暮らしていた。妹は中学生だ。貧しい家庭だったけれど、彼は俺を歓待してくれた。俺は妹と母親に怪訝そうに睨まれていたが、日本からの持ってきたお菓子を渡すことで機嫌をとることができた。
「この村でも極稀ににサファイアが採れる」と彼が教えてくれた。
まずまずの滑り出しだったと思う。
俺は英梨々に手紙に今日あったことを書いた。でもこの手紙が出せるのは1週間後に彼がラトゥナプラへ宝石を売りに行った時になるだろう。それでも約束だから毎日手紙を書いてみようと思う。
『親愛なる英梨々へ』と書き始め、
『丸一日、英梨々と合えない日はとても不思議な気分がする。君に会いたい』と締めくくって、封筒にしまって日付と宛名を書いた。
(了)