【全49話】英梨々に毎日プロポーズする夏休み   作:きりぼー

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倫也の最大の武器はハイコミュニケーション能力にあるのは間違いないだろう。

成り上がっていきたい。


29 ガリンペイロ③ 信用

 人生に成功するために必要なのは運である。次いで情熱と信用。若さと勢いだけの俺は最初にラジャと巡りあえたことを天啓と思って大切にしたい。

 

 まずは村で信用を得る事が先決だろう。最初の一日はラジャの仕事を手伝うことにした。村はだいたい50人程度の集落で、小学生は3人、中学生が2人、あとは進学せずに街で働いているか村に残っている。村の鉱床はあまり成果をあげてないのか非常に貧しかった。

 

 1週間の売上高が750ドルだったので、1人あたり13ドルだ。2000円ということになる。物価がいくら安いとはいえ、サンドイッチ10食分である。この金で電気代だけでなく、薬代や服代、調味料なども賄わないといけない。とてもじゃないが教育に十分に金が回せる状況ではなさそうが、ラジャの最初の仕事は、中学生二人を車で30分ほど南にいった街の近くまで送り届けることだった。1人はラジャの妹だ。ガソリン代や車の維持費もかかることから、教育は大事にしているようだ。

 

 ラジャは子供を送り届けたあと、街の片隅にある雑貨屋によってガムを1つ買った。帰りは長い距離を歩いて帰ってくるが、途中まで送ってくれる車もあるらしい。結構な山道なので俺には無理だ。何事もなれなのだろう。徒歩で2時間ぐらいかかる。

 

 小学生の3人は村長の家の1階で村長夫人の授業を受ける。村長の家といっても学校と役所も兼ねているような場所なのだ。公民館のようなもので、子供の授業をしたり、村の会議したり、お祭りしたりするようだ。

 

 村長は元ガリンペイロでこの村を作った。奥様は元教師なので、村の子供たちを教えている。村はもっと賑わっていた時期もあるらしいが、今では若人は街に移り住んでしまった。現状は日本の過疎村と似ているのかもしれない。ネットも通じないならしょうがないだろう。先がまったく明るくない村なのだ。

 

 鉱床では未だに原石が取れるが、効率がそんなにいいものでもないらしい。原石が採れることと、それを最大限に換金することは別なのだ。

 

 村は自給自足で農作物も作っている。冬がくるわけでないので冬に備える必要もあまりないようだ。基本的な食費が無料なので、あの少ない現金収入でもなんとかやっていけるのだろう。

 

 村のあちこちにノラ鶏が歩いている。犬もうろついていた。どちらも人懐っこい。

 

 ラジャは車を村長の家に戻して、お茶を飲み少し休憩をする。それから鉱床へと向かった。

 

 鉱床は地下30mも垂直に掘った穴で、あたりは田んぼや畑である。木の枠組みの手製穴で原始的だ。そこから砂利をザルにいれて、手動でロープを巻き上げて上に運ぶ。大型の機械に水と一緒に洗いながして最初の選別をする。小さくなった砂利を砂金のようにザルと水で洗っていくと重たい石が残る。この作業を農業を終えた村人で手伝う。おばちゃんもいれば、おじいちゃんもいる。学校を終えた子供なども手伝う。これが村の資金源なのだ。誰もくすねる人がいないのか、セキュリティーチェックなどはしていない。

 

 穴の下にもぐるのも、穴か土砂を人力であげるのも、大型機械を動かすのも、全部男性の仕事で過酷だった。俺もロープを引っ張って重たい土砂を上にあげた。あっという間に手に豆ができてしまった。軍手が必要な作業だろう。

 

 日中の一番暑い時間は働かずに休憩をする。村のおばちゃんがまかないを運んできてくれる。サンドイッチや竹に入った炊き込みご飯のようなもので味はどれもいい。お金はとらない。村人は運命共同体のようだ。

 

 その間、俺は村長の家で授業を聞いていた。年齢もまちまちの小学生なので、個別指導といった感じだ。国語の時間は俺も子供と一緒に授業を受けさせてもらった。算数はよゆうだったので高学年の子に教えてあげた。黒板に図を書きながら英語で説明していく。村長夫人にも褒めてもらえた。

 

 それからまた鉱床へ戻ると、もう穴から上に引き上げる仕事はしていなくて、みんなでザルをもって選別作業をしていた。集めた原石を集めて村長のところへともっていく。けっこうな量になるのだが、大粒でみるからに綺麗なものはなかった。これでだいたい一日が終りだ。

 

 肉体労働で過酷だし、合間に農作業はいているし、炎天下の下だし、確かに大変は大変なのだ。しかし効率よく最大限に働いているかといえば、どこか牧歌的ではある。もっと働いたら、もっと儲かるのではないか?と思わなくもないのだが、これぐらいのペースがちょうどいいのかもしれない。実際、俺は筋肉痛で辛くなった。もう少し利益があがれば電気も通っているし、機械化できるところもありそうなのだが。

 

 井戸水が合わなかったのか、俺は腹を下した。日本からもってきた薬で抑えつつも、とにかく慣れるしかない。トイレは川まで少し降りないといけない。大でもない限りそこまで行く必要はなかった。そこら中に木がはえていて草むらだらけだからだ。たぶん犬のようにそこらへんで済ましてしまう時もあるんじゃないかな。

 

 村の中は舗装された道路はないし、畑や田んぼ以外は油断すると草がぼーぼーになるようだ。廃屋もすぐに発見できる。

 

 自然の回復力が強いので、人はそれと戦いながらも、その恩恵をうけていた。おそらくはこの村の生活スタイルは何十年前とそんなにはかわらないはずだ。もしからした数百年単位でもそんなに変わっていないのかもしれなかった。電気で機械を動かしている以外は電燈も全部の家庭にいきわたってないのだから・・・

 

※ ※ ※

 

 ラジャと村長夫人と相談して、午前中は子供に勉強を教えるのを手伝うことにした。

3人とも学年が違うから、1時間ずつ算数を教えるとちょうどいいのだ。そこで給食というか村長夫人のまかないご飯を食べ、午後からは鉱床の方を手伝った。

 

 ザルを持って、土砂を水で洗い流しては原石を探した。サファイアらしき原石すら見つからない。アメジストや水晶が多い。

 

 夕方過ぎに中学生の2人が戻ってきた。この村の子は学校の勉強で躓くこと多く、金もないこともあって進学はしないのがほとんどだ。ラジャも中卒である。ラジャは妹の勉強が心配だから見て欲しいと俺に言った。俺はもちろん信頼にこたえることにする。本人たちの意志も必要だが、2人とも補習を受けるという。学問が未来を切り開くのは事実だ。

 

 村長の家の学校を借りた。ここしか電灯がつかないのだ。数学と英語の授業をした。2人とも熱心に聞いてくれた。まずは塾講師のようなことをしつつ、俺は村へ貢献していくことになる。

 

 1週間で村の中にうまく溶け込めたと思う。村人も俺の顔を覚えたし(当たり前だ)俺もだいぶ村人の顔と名前を覚えた。子供からの信頼は厚く、英梨々の書いたマンガノートも大事に回し読みされている。

 

 なんでこんなにドラゴンボーヤが人気なのか不思議だったが、村長の家の図書館・・・書庫?にはマンガも多く置いてあった。これは村から出稼ぎに出た人が寄贈してそろえてくれたものらしい。ここから巣立っていった村人も村の事が好きなのだろう。

 

 村がなかなか大きく発展できないのがもどかしい。

 

※ ※ ※

 

 週末になって、採取された原石をラトゥナプラまで売りに行くことになった。俺もラジャに同行する。ラジャがその役割なのは、ラジャが車の免許を取得していること、彼が温和であまり人と揉めないタイプで、正直なところが認められているからだ。村で一番重要な役割だ。

 

 村長のところに集められた石は、紙に値段が書かれて目標額が記入されている。全部の石をは売りに行かず、貴重なルビーやサファイヤなどは村長の家の金庫に保管しておき、大きな買い物をする時に換金する。例えば車やこの建物などがそうだ。その時は村長は自らラゥナプラまで行く。さすがは元ガリンペイロで売るのも上手い。今はラジャを育てる意味でも任せているのだろう。

 

 ラジャはそういう意味ではまだまだ見習いみたいなところがあるのかもしれない。今回の目標額は1200ドルだった。これが村人50人の一週間の稼ぎになる。自給自足できているとはいえ少なく思える。高校や大学へ進学できないのも納得だ。

 

「いつもあのアロハのおっさんに売りに行くのか?」

「だいたいそう。彼が一番良心的な価格で買い取ってくれる」

「宝石店には売れない?」

「なかなか買い取ってくれない。村長がキープしているような石ならまた別なのだろうけど」

「そっかぁ」

 

 単純に高く売りたいなら観光客が一番いい。しかし観光客はなかなか原石は欲しがらない。偽物も多いから信用ある宝石店で買う。それでも普通に買うよりは3割ぐらいは安く買えるのだ。

 原石を買うのは仲買人が多く、したがって買い叩かれやすい。原石を仕入れる海外のバイヤーとコネクションができれば安定して高く売れるかもしれないが。

 

 今回の目玉は大粒のアクアマリンだ。村長は500ドルと言ったが俺が買取たいぐらいだ。その他にキャッツアイもあり、あとは小さいルビーや色の悪いサファイアだ。しかし日本で買えば、0.1カラットでも数万円はする。末端価格で5000ドルの宝石でもここでは1/10程度の金額でしかさばけない。

 

 50ドルで売れれば十分な原石が30粒ほどある。50×30+500=2000 それをなんとか1200ドル以上で売るというのが今回のミッションだ。2000ドルはスリランカではそれなりに高額なのだ。日本円で28万程度としても、物価は3倍から10倍は違う。75万~250万円ぐらいの取引と考えたなら、けっこうなプレッシャーなのがわかると思う。

 

 その稼ぎでガソリンを買い、プロパンガスを買い、衣料品や食料品、薬代。学校の授業料や電気代も賄う。50人分なのだ。ひとり頭で割ればわずかな金額になる。

 

 ラジャはまずは街の宝石店に行った。ここは原石の買取もしてくれる店らしい。仲介が入らない分一番高く買ってくれる可能性が高い。その代わり検査などの時間もかかる。

 アクアマリンだけ買い取り価格がついて250ドルだった。だいぶ足元を見られている。とりあえず保留する。

 

 次に観光客に声かけするが警戒されて商売にならない。街のバイヤーはアクアマリンを目ざとく鑑定し、だいたい100ドルという。中には150ドルの人もいた。そう考えるとあの宝石店が一番良心的ともいえる。

 

 それから、公園で並んだパラソルで商売をしているアロハシャツのおっさんの所へ行った。全部で700ドルだという。流石の値段だ。参考までにアクアマリン抜きの値段を聞いたところ、「それなら買わない」と言った。なるほど厳しい。

 

 他の原石を1粒10ドルとして300ドル、アクアマリンの査定は400ドルぐらいだろうか。粘れば800ドルでの取引が可能なら、村長の査定額の500ドルは妥当ということになる。しかし、目標額の1200ドルにはぜんぜん届かない。

 

 アロハシャツのおっさんはがかなり強い売却ルートをもっているか、宝石を研磨して直接販売する店でも経営しているに違いない。

 

 泣く泣く700ドルでアロハのおっさんに売ろうとするラジャを俺が止めた。アロハのおっさんは驚いた顔をしていた。この辺では一番高く買っている自信もあるのだろう。

 

 俺はビールを買って、アロハのおっさんに渡した。「すまないけれど、ちょっと勉強したいから今回は目を瞑って欲しい」と謝っておいた。ヘソでも曲げられると、今後のラジャの取引に支障をきたしかねない。アロハのおっさんの顔を立てることも大事だ。

 

 ラジャとランチを食べる。ここはアロハシャツのおっさんに教えてもらった店だ。ラジャは不安そうに「売れないと大変なことになる。ガソリンもいれないといけないし」と言った。

 

「心配はいらない。最悪俺が700ドルで買うよ。それなら問題ないだろう?」

「ああ・・・うん?そんな大金をもっているのか?」

「一応ね・・・日本人だから」

「グレート・・・」

 

 頭の中で電卓を叩く、これはとても上質のアクアマリンだ。ここで500ドルなら研磨してルースの末端価格は4000ドル。指輪になって5000ドルを超える一品のはずだ。

 

「そんなことしてトモヤにどんなメリットがある?」

「君の妹を高校へあげる資金になる」

「・・・」

「そうやって、売り上げ大きくい上がれば、村の教育資金として少しずつ積み立ててあげられないだろうか」

「なるほど・・・でも、どうやって売るんだい?」

「日本人バイヤーに売る」

 

 ラジャはしばらく考えてから了解してくれた。俺はとりあえず銀行へいって1000ドルの現金を引き落として、700ドルをラジャに渡した。ラジャはこれから買い出しもしないといけない。俺は麻袋の宝石を受け取った。

 

 ラジャはお金を受け取っているとはいえ、俺のことを信用してくれている。俺も信用に答えたい。ラトゥナプラはケータイもネットも通じるし、連絡はお互いにいつでもとれる。ラジャもケータイは持っているのだ。村の所有物みたいなものだが。

 

 自由になった俺は腹のポシェットに宝石をいれて隠した。これで外からはばれないだろう。日本人が現地でバイヤーのまねごとをするのは危険だろう。恨みも買いかねない。ことは慎重に進めるのべきだろう。

 

 まずは郵便局で、英梨々に書いた一週間分の手紙を出した。そだけでもけっこうな金額になった。

 それからネットをチェックして、ブレッシングソフトの仕事をこなしつつ、英梨々からの大量の愚痴に目を通す。返信は短めにしておく。すぐに返信がまたきたが既読無視をした。相手にしていると時間を消費していまうからだ。

 

 やるべきことがある。

 

 大きな電気屋でプリンタを購入した。一番安いので十分だ。紙は一番上質な物を選ぶ。これをもってきたタブレット端末と連携させて、それっぽい「鑑定書」を作成した。

 

 店員の人にチップを渡して控室で作業した。それとラジャの村の風景写真や発掘現場の写真もプリントアウトしておく。

 作業が終わったら、また箱に戻してしまった。荷物が邪魔なので、ここでラジャと落ち合った。鑑定書にはラジャのサインをもらって、俺のものと2種類のサインにする。どちらも仰々しい肩書がついている。プリンタはラジャのトラックに積んでもらって、また別れた。

 

 次に日本人の中年女性観光客に声をかけた。2人組の相手は現地に日本人がいたことに驚いていた。俺は街を案内しつつ(ほんとうはぜんぜん知らないけれど、ガイドブックの知識と頭の中のMAPでなんとかした)、中卒のわけありで3年間スリランカに住み着いている苦労人を装った。案内しつつだんだんと仲良くなっていった。

 

 女性客が宝石ショップで買い物するときに、俺はバイヤーをやっていることをこっそりと教えた。店の外でこっそりとアクアマリンの掘り出し物を見せた。相手が目の色が変わって興味をもってくれた。

 

 俺は場所を移動して、安全なホテルの喫茶店を利用した。見えにくい角の席を取る。

 

 相手はもちろん偽物を疑ってきた。俺は発掘の現場をみせた。俺も写真に写っている。タブレット端末には大量の写真があるのだ。質問されたら資料をそろえて証明する。嘘はついていないのだ。自信をもって説明できる。

 

「というわけで、びっくりするぐらいの掘り出し物で」

「で、おいくら?」

「2500ドル」

「高すぎ」

「でも、日本の実勢価格で100万円ぐらいですから、7~8000ドル以上の価値です。6カラットを超える高品質のアクアマリンです。価格が1/3程度と考えたら破格だと思いますが」

 

 俺はルーペとペンライトを渡した。色も濃いし、インクルージョンも少ない。淡々と事実を説明するだけでいい。ライトに照らされれば美しさが本能的に女性の心を魅了する。

 

 あまり売り込もうとはしない。この価格は嘘ではないのだ。俺はラジャと違って今日売り払う必要はない。最終的にはスペンサー家の会社『DBH』で妥当な金額で買い取ってくれるだろう。いわば保険付きの絶対に負けない戦いだ。それが余裕を生む。

 

「もう少しなんとかならない?」

「値段ですか?おいくらぐらいが希望で?」

「千ドルぐらいなら・・・お小遣いでなんとか」

「はははっ、正直いいますと、あまり駆け引きはしたくないです。みんな高値で買わされると思って値段交渉してくるので。何日ぐらいスリランカに滞在されます?」

「あと二日ぐらいだけど」

「そしたら、ケータイ番号を教えておくので、あちこちを見て納得したら買ってください」

「値引きはしないと?」

「はい。無駄な交渉は信用に傷がつくので」

「でも、2500ドルは・・・それに原石ってよくわからなくて」

「これを磨いて持ち帰ったら関税に引っかかります。持ち帰ってから、後は御徒町で・・・」

 

 俺はタブレットから御徒町の加工する工房を紹介した。ネット環境があれば俺は鬼に金棒だ。必要な情報を任意に引き出すことができる。この工房は英梨々と指輪を作ったところだ。信用と伝統のある宝石工房だ。

 

「ここなら、研磨もしてオリジナルの指輪を作ってくれます」

「お高いのでしょう?」

「そこは材料費にもよりますが・・・ただ、お高いかどうかは別にしても、このアクアマリンを2500ドル以上で引き取ってくれますよ。末端で5000はくだらない代物なので」

「ちょっと考えさていただくわ。ありがとう」

「ええ、連絡お待ちしています」

 

 やれやれ、いきなりは売れないか。1000ドルで売ってしまえばよかったか。いやいや、300ドル程度儲けてもしょうがない。俺は席を立った。

 

「そうそう、もし売れてしまっても後悔しませんよう。先着順なので」

 

 この嫌味が功を奏したのか、「あの、もう少しだけなんとかなりませんか?」と食いさがってきた。

 

「値引きはできませんが・・・おまけはつけましょうか」

 

 俺は再び席についた。1人の人は絶対に買いたいようだ。もう1人のおばちゃんは慎重で俺を疑っている。

 

 バラバラと小粒の石をみせる。だいたいどれも50ドルはする。クズ石とは違うのだ。研磨すれば宝石になるポテンシャルがある。

 

 俺はルーペを貸し出して、丁寧に相手が納得するまで説明した。ここには小さいがルビーやサファイヤが混じっている。キャッツアイが一番よいものだろう。小指の先ぐらいの大きさがある。

 

「おひとつプレゼントしましょう。」

「これも売り物かしら?」

「ええそうですね。日本人にはちょっとおすすめはしにくいですが、お土産には喜ばれると思いますよ」

「おいくらかしら?」

「だいたい50ドルぐらいですね」

「あら、安いのね」

 

 感覚が麻痺してきていると思われる。ラトゥナプラまで着ているのだ、それなりに買い物をする予定だったのだろう。

 

「迷うから、10粒ほど購入するわ。おまけは、このキャッツアイでお願い」

「お目が高い」

 

 俺はリュックからさっき購入しておいた、小さなビニール袋と、梱包材を取り出した。そして1つずつ梱包してビニールにいれる。それからシールで、サファイアとかルビーとか日本語と英語で書いておいた。ほんとはガーネットかもしれないし、ベリルかもしれない。そんなことは知っちゃこっちゃない。相手だっておみやげ用なら高そうな名前の方がいいだろう。

 

 全部で3000ドル、俺はカードが使えないというと銀行まで移動してキャッシュを用意してもらった。相手は最高の買い物がしたと思っている。そしてそれは事実だろう。もし、しかるべきところでオークションに出せば、この金額では手にはいらないのだから。

 

 商談が無事に成立した。おれはラジャと連絡をとって銀行前で、このまま落ち合うことにした。

 

 ずっと様子をみていた疑り深い方のおばちゃんが、「残りの全部買うわ」と言ってきた。数えると22粒あった。俺は1000ドルにおまけして受け取った。角の喫茶店で梱包しようとしたら、そのままでいいという。俺は梱包材と原石をすべて渡した。

 

 いい商売ができた気がする。WINーWINの関係だろう。

 

※ ※ ※

 

 しばらくしてラジャが車で到着した。トラックにはいろいろ積んである。

 

「やぁ?売れたって」

「ああ、おかげで興奮できたよ」

「いくら?」

「4000ドル」

「4000ドル!?」

「はははっ、700ドルは差し引いて、約束通り3300ドル。ノルマが1200だったから、2100ドルがラジャのものだ」

 

 俺はラジャに3300ドルを渡した。

 

「嘘みたいだ」

「あとは口裏を合わせよう」

 

 ラジャはそのあと派手に買い物をしたがった。俺は目立つのよくないから今まで通りでの方がいいとアドバイスをした。ただ、大量のノートや文房具は買った。これは学校へ寄付する分だ。

 

 村長も1200ドルで売れるとは思っていなかっただろう。あれはラジャにはっぱをかけているのだ。700ドルでいいと言ったら、ラジャは最初のとこで250ドルで売ってしまうにちがいない。

 

 それからラジャはアパレルで女性用の服を何着か買って、櫛や髪飾りも買った。村の女性へのおみやげである。それとお菓子屋でもけっこうな量を買いこんだ。さらに煙草を1カートン。

 

「帰りにちょっと寄っていきたいところがある」とラジャが言った。

「ぜんぜん暇だし、もちろんいいよ」と俺は答える。

 

 ラジャが寄っていったのは、中学校のある街の雑貨屋だった。いつも子供を学校へ送った後に立ち寄ってガムやアメを買っていた。俺も一緒に降りて雑貨屋を眺めた。彼はそこで調理器具などを買った。

 

 同じぐらいの年の綺麗な女性がレジをしている。黒い髪と黒い瞳の美人でスラリとしている。品のいいワンピースを来ていて、髪を後ろで結っていた。俺はそれでラジャがここに通う理由がわかった。

 

 レジで談笑しているので、車から先ほど買ったばかりの櫛を持ちだして、ラジャに渡した。レジャは照れ臭そうに笑った。

 

 あとは野暮なので車の中で待った。エアコンのない車なので窓は開けっ放しだ。

 

 帰り道に「中学の時の同級生なんだ」とラジャは言った。俺はそのあと少し浮かれたラジャの中学生時代の思い出を助手席で聞いていた。

 

 彼女もまだ独身らしい。

 

※ ※ ※

 

 村長は驚いていた。ラジャは口裏を合わせたのに、正直に俺のおかげだと言った。嘘がつけないタイプのようだ。村長は俺にお礼を言った。村長はガリンペイロあがりなので、俺が成果をあげると素直に評価してくれた。

 

 おみやげで村の女性は喜んでいた。お菓子もみんなに配る。男性にはタバコだ。1人2箱も配られて驚いている。みんながとてもハッピーになっていた。

 

 その日は村長の家の一階で、みんなで集まって酒を飲んで騒いだ。

 

 電灯は村長の家しかつかないので、外は真っ暗になっている。懐中電灯で各家まで戻っていく。

 

 とても綺麗な星空が森の間から広がっている。この村は貧しいけれど、何もかもあるような気がした。

 

 英梨々へ贈るサファイアも見つかる気がする。きっと喜んでくれると思う。

 

 その日の夜は長い手紙を書いた。そして最後に『ハニカムように笑った英梨々がいつもそばにいるような気がする。それだけが今の俺の支えだ』と書いて封書した。

 

(了)

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