【全49話】英梨々に毎日プロポーズする夏休み   作:きりぼー

30 / 49
作中人物を褒めてあげたい。


30 ガリンペイロ④ 発見

 俺がスリランカに渡って早2か月が過ぎようとしていた。村は順調に発展しているものの望むようなサファイアは未だに見つかっていない。気持ちは焦るが慌ててもしょうがない。初志貫徹が大事だと言い聞かせる。

 

 それに村での生活は質素ながらも楽しかった。小学生に算数を教えていたが、同時に現地のシンハリ語を小学生に教えてもらうようにもなっていた。

 中学生には英語や数学を教え、彼らには歴史や社会を教わった。とてもいい関係性である。

 

 また正直なラジャは自分の妹のためだけにお金を貯めるのは悪い気がするといって、こっそり貯金することは拒んだ。これに関してはなんともいえない。そこで村長と相談しつつ、奨学金基金を村で作ることにした。実際の運用はラジャが担うが、村長の承認印が必要な形にした。これでラジャの妹も進学できるようになるだろう。

 

 大きく変わったのは流通ルートだ。まず原石の価値を三段階にわけた。一級品はスペンサー家のコネを利用し、イングランドの鉱山会社『DBS』のスリランカ支局の仲買人に直接売ることにした。余計な仲介者が入らないので利益が大きく出る。

 

 大手の会社は地元に一部の資金を還元する必要があり。開発援助の名目でそれが行われる。原石の査定額は全面的に相手を信用することになったが、それでもラトゥナプラで売却していた時よりも5~10倍に迫る金額になった。

 

 月に一度、コロンボのホテルで直接取引が行われ、現物の原石をすべて預けた。現金会計でない事にラジャは不安を覚えたようだが、銀行に振り込まれた金額をみて驚いていた。

 

 税務の問題もあったので、ラジャをCEOにして会社を設立した。村長には名誉職についてもらう。俺も設立の資金を出し取締役に名を連ねた。

 

 奨学金基金には自動的に売り上げの1割ほど振り込まれ、村長夫人に法人代表を勤めてもらった。

 

 村長は村の発展を望んでいて、もう個人の財産には興味をもっていなかった。次世代のことばかり心配していたので、運営はラジャに任せる事に反対はしなかった。

 資金に余裕ができてきたので、みんなでで村長の家の老朽化したコンクリートを補修し、鮮やかなオレンジ色のペンキを塗った。

 

 村の道路を整備し木造の家屋も順番に補修していく。原材料を街で購入し、自分達でなんでも器用にこなした。村には活気がでてきた。

 

 村を出て行って、街で挫折した元村人もぽつりぽつりと戻って来た。資金があることで仕事はいくらでもあった。また肝心の鉱床での採取作業も能率的に変革をすすめた。

 

 特に30mの底から手動で石を巻き上げるところは真っ先に改良した。今では電動でワイヤーを巻き上げている。ボロいヘルメットも新調され、明るい工業用のライトも地下につなげた。梯子で垂直に上り下りする時も、簡単に操作できる命綱を使うようになった。

 穴の入口が木材から金属製になっていくだけでも、近代化しているような気がした。本来ならこんなところに予算をかけられないのだが、俺としては必要以上に安全性を充実させる必要があったので、説得して推進した。

 

 ラジャの父親は鉱床の底で崩落事故にあって亡くなっていた。だから、安全第一の少し周り道の改革に賛成してくれたも大きい。

 

 一級品でない石はラトゥナプラで売りさばいていく、小太りのアロハシャツのおっさんが高値で買ってくれるのは、宝石店を経営している人だからだった。ラジャも以前のような悲壮感はなく、自信と余裕をもって交渉するようになった。アバウトな査定で妥協せずに一粒ずつ丁寧に取引を進める。それだけでも利益はだいぶ違ってきた。

 

 それ以下の悩ましい石は、プラスチックケースにいれて原石の観賞用に包装する。この作業をするだけで観光客がおみやげで買っていくようになった。5ドル~50ドル程度の価格帯が好評のようだ。ラジャの会社で発行する鑑定書と写真をつけることで本物であることの証明し、付加価値をあげていく。

 

 公園内のパラソルの場所で販売を行う。そのために関係者などにも仁義を通しておいた。とくに小太りのアロハシャツのおっさんは顔役だったので、酒の付け届けをした。また、俺からは日本人観光客への安全な店として紹介することで、アロハシャツのおっさんにも利益をあげてもらった。何事も独占はよくないし、持ちつ持たれつである。

 

 経済が好転すれば何もかもうまくいく。村に活気が戻ってきただけでなく、何よりもラジャには意中の恋人ができた。俺はそれがとても嬉しかった。元々相思相愛のような関係だったのだ。経済的な問題さえ解決すれば、話はトントン拍子で進んだ。

 

 俺は毎日英梨々に手紙を書き、週末にまとめて日本へ郵送した。

 

 週末にラトゥナプラの街でネットにつながると、英梨々からは大量の感想と、文句と、愚痴でメールやラインが埋まった。ずっとツンツンしている。スイちゃんも順調に日本に慣れている様子が伝わってほっとしている。

 

『たまにはデレろよ』って返信したら、『泣いちゃうから嫌だ』って返信があった。英梨々は英梨々で東京でがんばっているのだ。

 

 俺も早く期待に答えたい。

 

※ ※ ※

 

 俺もラジャもとても忙しい立場になったが、鉱床での作業は続けていた。深い穴に降りて岩を砕き、上へあげ、それを選別していく。腰が痛くなるほど、ザルで細かく選別する作業を繰り返した。俺はここで小さな原石を見つけて一喜一憂していた。この作業は楽しいというのもあるし、なんとしてでも『ディープパープルサファイア』を見つけたかった。

 

 人任せにしていて、金儲けのことばかりしていたら、村人からは信用されなかったと思うし、嫉妬や摩擦が生れてしまったと思う。いつも労働者の目線を忘れないように気をつけて、同じ水準の生活を心掛けた。

 

※ ※ ※

 

 そんな晴れていたある日の事だ。

 

 俺は小学生達とランチ休憩をとりつつアニメを見ていた。衛星放送で見る事ができるようになったのだ。

 村でたった一台のテレビは重要な情報源であり、村長や村人はニュース番組やバラエティーを見るようになった。夜は村長の家に集まるきっかけにもなっていた。

 

「見つかった!」と大声が聴こえた。

 

 村長の家の学校へ駆け込んできたのは、いつもお菓子を焼いてくれる気のいいおばちゃんだった。鉱床では直接働かないが、みんなのランチを作ったり、おやつを差し入れたりしてくれる。

 

「何だろう?」と俺がすっとぼけていると、手の平を見せた。そこには青い石がのっていた。小指の先ほどはあるでかさだった。

 

 濃くて深いブルーだ。すでに透き通っている。

 

「ほんとに!?」俺も慌てて、外に出て日光に原石をかざした。インクルージョンもほとんど肉眼では見えない。恐ろしいほどのクラリティーである。原石の段階で輝いてみえた。この圧倒的な存在感は、レッドベリルやエメラルドの原石でも体感したことがある。本物だけが持つ魔性のような魅力だ。

 

 みんな鉱床での作業をやめてぞろぞろと村長の家に集まってきていた。村長も2階から騒動を聞きつけて降りてきた。

 

「おめでとう!」と誰かが言った。そして、みんなが「おめでとう」と続けて言った。俺には何のことかよくわからなかった。

 

 村長が「トモヤ。これは君のものだ」と言った。

 

 いやいや、仮にこれが本物のサファイアなら評価額は1万ドルを余裕で超えてくるはずだ。桁がさらに増えても不思議ではない。村人の家をみんな新築にできてしまうだろう。

 

「あの・・・買取りますよ?」

「こういう時に冗談はいっちゃいけない。素直に喜びなさい」と村長は真顔で言った。

 

 俺は状況が分かっていなかった。確かに俺は英梨々のためにサファイアを探している話はした。今では村の誰もが知っている。でも採掘されたら俺に欲しいとは一言も言っていない。俺は自分で見つけて買い取るつもりだったからだ。

 

「トモヤに渡したくて、みんながんばったんだ。それはトモヤの石だ」とラジャが言った。「それに、その石がどんなに高価でも・・・トモヤ来なければ俺は1000ドル以下で売ってしまっただろう」と付け加えた。

 

 ・・・それはそうかもしれない。でも1000ドルもけっこうな大金だ?このスリランカのエリートサラリーマンの一か月分以上なのだから。

 

「俺の家にも電気がきたのはトモヤのおかげだ」

「娘が勉強が楽しいって。トモヤが来てから笑ってくれるの」

「未来を諦めてた息子が進学を考えている。トモヤ、君におかげなんだよ」

 

 あまり話したことない村人も俺に感謝していた。俺はずっとただ働きだったけど、この村で迎えてくれて、毎日ご飯も食べさせてくれて感謝していたぐらいだ。だからせめて村の発展に貢献したいと思っていた。実は迷惑なんじゃないかと半信半疑でがんばってきていた。

 

「はやく、フィアンセに知らせてあげないと」とラジャは言った。

 

「ありがとうございます」と俺はみんなに大きく何度も何度も頭を下げた。

 

※ ※ ※

 

 村ではネットが通じないので、ラジャが車で下の街まで連れていってくれた。ラジャの恋人のいる雑貨屋。ここならネットの電波が届く。俺はそこから英梨々にネット電話をする。英梨々は直ぐに電話にでた。

 

「もしもし」

「英梨々か?今そっち何時だ?もしかして寝てた?」

「こっちは夕方よ。どうしたのよ突然、びっくりするでしょ」

「はははっ、英梨々の声。ひさしぶりだな」

「話そうと思えばできたのに、レトロな交流にこだわったの倫也でしょ」

「手紙どうだった?」

「良かったわよ。楽しく読ませてもらってるわ。まとめてくるのだけが難点よね」

「村には郵便局ないからさ。無事に届いてよかったよ」

「それでどうしたのよ?何かあったのかしら?」

「ああ、それな・・・」

 

 あっ、俺はひっそりと計画していたことを浮かれて忘れていた。まずは英梨々をスリランカに呼び寄せないといけない。

 

「えっとな。小さい・・・たぶん、0.1カラットなら加工できそうなサファイアが見つかったんだよ」 俺は嘘をついた。見つかったものはもっとバカでかい。

「あらそう。二ヵ月もかかったのね」

「うん・・・まぁ。なかなか貴重なんだよ。それはそうと、スリランカに来ないか?」

「またえらく突然ね」

「見せたいものがあってさ。嫌ならいいけど・・・」

「別に行かないなんて言ってないでしょ。何泊ぐらいでいけばいいのかしら?」

「観光するなら1泊はしてくれ」

「それなら調整しなくてよさそうね。週末に行くわよ」

「観光するなら何泊かした方がいいぞ」

「そりゃそうでしょうよ。でも10月なのよ?学校があるでしょ。誰かさんと違って休学していないんだからね」

「わかった。とにかくフライトが決まったら教えてくれ」

「こっちから倫也につながらないでしょ」

「もう自由なんだよ。毎日メールチェックするからさ」

「わかったわよ。ほんと突然よね・・・えっと、とれたわよ」

「何が?」

「コロンボ到着が明日の15:23分ね。そちらの時間かしら?スリランカ航空の・・・」

 

 英梨々が電話しながらフライトの予約を入れたようだ。早すぎだろ。

 

「早いなっ」

「何よ。一週間ずらそうかしら?」

「いや、まってる。あとさ、汚れてもいい服装も用意しておいてくれ」

「わかったわよ。他には?」

「大丈夫だと思う。こっちのことは全部任せてくれじゃ、またなっ!」

「慌ただしいわね」

 

 ひさびさに英梨々の声が聞けて良かった。なんかドキドキする。そして声を聞いただけなのに下半身がむずむずする。欲求不満なのは間違いないな・・・

 

「英梨々。スリランカに着いたら結婚しよっ!」

 

 電話口の向こうでぼそぼそと言ってる音がする。さては声がでないな。

 

「だから、もう少し断りやすいプロポーズにしなさいよ・・・ほんとに」

 

 英梨々は電話を切った。

 

 俺はラジャを待たせてごめん・・・って言おうと思ったら、ラジャは雑貨屋の娘と楽しそうにまだ話をしていた。別に慌てる必要はなかったなと思った。

 

 俺は車の中でラジャを待つ間、改めてサファイアをルーペで詳しくみた。『ディープパープルサファイア』がどんなものなのかは知らない。でも、このサファイアの色は英梨々の瞳に似ているような気がした。

 

(了)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。