【全49話】英梨々に毎日プロポーズする夏休み   作:きりぼー

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行き当たりばったりで書いているせいで弊害がある。
ビルバオによらなくてもよかったのかなぁと思う。
その分、明日が慌ただしい。


36 百合旅行④ クルーズ船

 ルームサービスでイングリッシュブレックファストを頼み、2人でテレビを見ていると、地元のローカル局では昨日の激戦が繰り返し放送されていた。

 

「また英梨々が映ってる」

「ほんと、出演料でも欲しいわね」

 

 短く編集されているのに、最初のスタジアムの雰囲気や入場シーンのところなどで、英梨々がいたVIP席のアップも映るのだ。得点シーンでもスタジアムの様子や英梨々がやっぱり映っていた。

 

 恵も一緒には映っているのだが、影が薄いというか存在感があまりない。まるで回りの観客と同じモブみたいだと自分でも思った。その点ではやっぱり英梨々は華があった。

 

※ ※ ※

 

 電車の路線図をみて英梨々は不思議がっていた。

 

「これって、西にいけないわよね?」

「そうみたい。一度、バジャドリードまで行かないといけないのかな」

「めんどくさいわね・・・乗り返しても一日がかりになりそうね」

「・・・うん」

 

 いよいよ次の目的地は鉱山の街『アストゥリアス』だ。スペインの北部。カンタブリア山脈の奥にあり、同じスペインにありながら文化圏が若干違う。

 

「国内線の飛行機ならすぐだろうけど」

「味気ないのよね。あとは陸路でバスだけど、ビルバオまで戻るのも癪よね」

「陸路も空路もダメなら、あとは海路があるんじゃないかな」

「海路?」

「ほら、サンセバスティアンは港街で、目的のここ・・・アストゥリアスもスペイン北部で海沿いの都市があるから、なんらかの船がでてるんじゃないかな?」

「そうね。いいところに気がついたじゃない」

 

 荷物をまとめてフロントでチェックアウトした。それから英梨々は航路について話をききパンフレットを貰った。

 

 ロビーに座って待つ恵にパンフレットの地図を渡す。

 

「今はハイシーズンじゃないから昼間の観光クルーズ船はなくて、夜行の船は出ているって」

「ぜんぜんそれでいいんじゃないかな」

「なら、それで予約取るわよ」

 

 英梨々はホテルと相談し、一等客室が空いていたので予約してもらった。ただ出発は20時と遅いのが難点だった。今日中にアルトゥリアスに着きたいと思っていたからだ。

 

※ ※ ※

 

 サンセバスティアンをゆっくりと観光した。ここも丘の上までケーブルカーで昇って街を見渡すことができた。歴史美術館もあるし、宮殿もある。食事も美味しいので文句なく居心地の良い街だった。さすがのリゾート都市である。

 

 ホテルに荷物を預けたまま、町中を歩き回った。恵はあまり旅慣れていなかったが、やっと英梨々のペースと自分のペースで折り合いがつけられるようになった。目的地にいくことは大事だが、旅はその途中の手段にこそ意味があるのだ。

 

 きまぐれに店に入ったり、疲れたら良さげなカフェに入ってお茶を飲んだり、美味しそうなケーキがあったら夕食前でも食べた。

 

 日が沈んでからの方がスペインは盛り上がってくる。船の停泊している港付近も賑わっていた。

 

 乗船は出発の一時間前から可能だったので、2人はホテルの荷物を受け取ってから、船に乗った。

 

「わたし、こういう大きな船乗るの初めてかも」

「大きい?」

「屋形船の釣りはお父さんに連れっていってもらったことあるけど。あとは遊覧船とか」

「そう。宿泊施設のついている船だとだいたいこれぐらいの大きさからみたいね」

 

 スタッフに案内されて一等客室に入った。一等と言ってもそんなには広くはない。窓から外がよく見える高さだが夜のなので意味はあまりなさそうだ。テレビとwifi環境が整っていて、部屋に小さなシャワールームもある。

 

「今日はツインベッドなんだ」

「ダブルがなかったのよ。2人で寝るにはちょっと狭そうよね」

「別々に寝るから」

「1人で寝ると寂しいわよ?」

「普通は1人じゃないかな・・・」

 

 部屋でお茶を飲みつつ、恵はケータイで仕事の状況をチェックする。時間が空くとついつい気になってしまう。英梨々はぼんやりと船内のパンフレットを見ていた。

 

「とりあえずレストランいきましょ」と英梨々がいった。

 

 レストランは地下にあり広いスペースだった。ビュッフェスタイルのレストランだが一等客室なのですでに食事代は含まれている。お酒だけが別料金だった。

 

「そういえばビュッフェって久しぶりだわ」

「英梨々はあんまり量を食べないからじゃないかな」

 

 まずはテーブルを確保した。30人ぐらいが利用がしている。料理は肉料理、魚料理、豆料理、サラダ、フルーツ、ケーキバイキングと一通りそろっていた。パエリアもある。

 

「お酒飲むかしら?」

「もう、未成年だしダメだから」

「でも、あのシードル美味しかったわよね。飲みやすいし」

「・・・うん。でもダメだから」

 

 シードルというのはリンゴで作った発泡酒だ。あまり発酵させてないので甘味が残っているのが特徴だ。ビルバオの名産品が口当たりもよく美味しかった。

 

「じゃ、あたしはペリエでいいわ」

「英梨々はペリエが好きだね」

「さっぱりしていていいのよ。ジュースだと甘すぎるし、いつもコーラ飲むのは糖分とりすぎよね」

「普通のミネラルウォーターは?」

「ミネラルウォーターはあたりはずれがあるのよ。エビアンとかヴォルビックがあればいいけど。飲みつければわかるわよ」

「水の味がわかるの?」

「ええ・・・恵もまずいミネラルウォーターを飲めばわかるわよ」

 

 ドリンクコーナーにはミネラルウォーターが置いてある。スペイン産でみたことのないラベルが貼ってあった。

 恵は料理と一緒にそれを選んでみた。グラスに注いて飲んでみると、確かに硬い感じがする。でも気を付けなければわからなかったかもしれない。その点でペリエはどこにでも置いてあった。

 

「料理の味はいいわね」

「うん。これもバスク料理なのかな」

「さぁ?でも、あたしは何にしてもパエリアでご飯食べられるのが嬉しいわね」

「英梨々ってそういうところ、ほんと日本人だよね」

「日本人だけど?」

「そうだけど・・・」

「けっこう見た目は父型の血が濃いのよね。母も瞳がくっきりしているタイプだし、でも西洋人に比べて、鼻は小さいし、眉の形とか日本人って感じだと自分では思っているんだけど」

「金髪碧眼だから、どうしてもね。気を悪くしたらごめん」

「別にそんなことないわよ」

 

 料理を食べていると、舞台では生演奏が行われ、カルメンの踊りをみることができた。これはなかなかの見ものだった。

 

 カルメンとはジプシーの踊りである。ジプシーは国を失った流浪の民のことだ。赤いロングスカートを着て、カスタネットとステップが特徴的な踊りで、しばしば情熱的な踊りと言われる。

 

「スペインって感じがする」

「そうね。もう少しお酒でも回り始めたら、他の客も一緒に踊るんじゃないかしら?」

 

 ビアジョッキで豪快に飲んでいるおじいさんがいる。ワイングラスを傾けるおばあさんがいる。陽気で大声で笑い実に元気そうだ。

 

 カルメンが終わったあとも演奏が続いていて、その内フラフラと立ち上がって踊り始める人が1人、また1人と増えていった。

 

「面白い文化」

「ラテン系はだいたいこんな感じよね。冒険心が旺盛で陽気で何にも考えていない。で、毎日を一生懸命楽しんでいる。」

「見習わないと」

「見習わなくていいわよ。恵がラテン系になったら、ブレッシングソフトが潰れるわよ」

「まさかぁ。それにつぶれたところで作ったばかりの会社だし」

「倫也がつまらないサラリーマンなんてできるかしら?」

「それは・・・」

 

 言われてみればけっこう行き当たりばったりなところが倫也くんにはあるなと恵は思った。とはいえ、自分などいなくても会社は成り立ちそうではある。でも、そこを自己卑下しすぎてもしょうがない。みんなで作った大切な会社だ。

 

「そういえば英梨々、目的地の鉱山には当てがあるの?」

「ないわね。でもスペインの鉱山も閉山しているらしいのよね。鉄鋼産業って安定しないのかしらね?」

「詳しくはわからないけど、採算がとれないんじゃないかな」

 

 そう。ここスペインの目的である『スファレライト』は鉱山の副産物として産出された宝石だ。希少性があり、閉山した今は新しいものがもう採れない。

 

「そういえば倫也が鉱山経営とか一生懸命調べていたわね・・・」

「凝り性だからしょうがないんじゃないかな」

「今もスリランカの貧乏村の経営に携わっているし・・・」

「ああ・・・うん。なんかすごかったみたいな話は聞いたけど」

 

 それから話題が倫也のことになって、英梨々は倫也のことを話す時に、少し小バカにしたように悪口をいうけれど、言葉の端に愛情が伺える。ペット自慢しているように聴こえなくもない。

 

 恵はそんな風に楽しそうに笑う英梨々を見て、こんな素敵な子に倫也くんじゃ釣り合わないなと思いつつも、英梨々には倫也くんしかいないのだろうなとも感じる。そして自分の気持ちを・・・またうまく誤魔化すのだった。

 

※ ※ ※

 

「くしゅんっ!」と倫也はくしゃみをした。時計を見るともう深夜の3時を回っていた。ずいぶんと遅くまで仕事をしてしまった。やることが多すぎる・・・

 

 特にスペンサーの家の協力を仰ぎながら進める最後の宝石に関しては挫折しそうだった。海部さんがいろいろと教えてくれるが、どうにも難しいのが現状だ。余計な意地を張ってもしょうがないこともある。

 

 英梨々は今頃どこにいるのだろうか?そんなことをふと考えた。英梨々ならきっとスファレライトを見つけて持って帰ってくるだろう。

 

 調べれば調べるほど、倫也は宝石をとりまく表の輝かしい光には、それに匹敵するぐらい暗くて深い闇があることを知りはじめている。

 

 銃で撃たれたあのコロンビアのエメラルド鉱山・・・あの場所には秩序がまだあったのだ。世界にはもっとひどいところがある。

 

 最後の宝石、「カナリーダイヤモンド」その産地はアフリカのボツワナだった。倫也は名前は聞いたことがあるが、場所も首都も文化も何も知らなかった。内戦の行われているアフリカ諸国ほどひどくはないらしい。けれど強盗や誘拐は日常的だ。計画の中止か変更もやむをえないと思い始めていた。

 

 仕事を中断し、大きなあくびをした。スペインは一番賑わっている時間帯だ。倫也は英梨々に今日あったことをメールで報告し、最後に『バスクダービーのハイライトニュースをネットでみた。英梨々と加藤が映っていたよ。あまり有名になると遠い存在に感じるから(物理的にも遠いな・・・)、あまり目立たずに帰ってきてくれ。無事に戻ったら結婚しよう』と、今日のプロポーズを書いてみたものの、あまりしっくりこないので消した。なんだか女々しい。

 

『おいしい野沢菜をネットで注文しておいた。白いご飯を炊いて待っておくから、食べたかったら結婚しよう』

 

 だから、今日もふざいけたプロポーズでお茶を濁したメールを送信した。

 

(了)

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