押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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第二次皇居攻防戦(後編)

「貴方が、水先案内人、ですか。乃木さん」

「……驚いた。君は人の心の中にまで入り込めるのか」

 

 アメノサギリの力を使い姫星の心の中に入った私を一人の老人が出迎える……出迎えるというよりかは、立ち尽くしていた所に私が飛び込んだ様な形だが。

 彼は降り立った私に目を丸くする。

 

「ど、どうやって……いいや、今は方法などどうでもよいか。貴殿が赴いたのは姫星殿を呼び覚ます為であろう。だがしかし、それには極めて高い障害があるのだ」

「障害……」

「見てもらうのが一番早いだろうな。ついてきたまえ」

 

 私は彼についていく。その間も私の自我がじわじわとその空間に溶けていくのを押しとどめる。

 ああ、彩芽達は大丈夫だろうか。

 

「着いたぞ。これだ」

「これは……心の壁、ですね」

「そうだ。私には破壊する事は出来なかった。だが貴殿なら或いは」

「ふむ……」

 

 目の前に聳え立つ橙色の半透明な壁。これは心の壁といい、全ての人間が必ず持っている物だ。以前雲雀の中に入った時には予め月読命の力でこれを取り払っていたのだが、今回はこれを自力で打ち破らなければならない。

 今、姫星は現実を拒絶している。その関係で壁もより高く強固になっている。

 

「乃木さん、刀、貸してください」

 

 勇者の剣は彩芽に貸してきた上、先程のサギリジャックで魔力をかなり消耗してしまっている。こんな所で魔力は使いたくない。

 私は乃木の軍刀を構え、一気に振り払う。だがしかし、壁には一切の変化が見られない。

 

「駄目か……」

「いえ、手ごたえあり、です」

「なに? ……こ、これは」

 

 先程まで一切の傷も無かった壁に一筋、二筋と線が走る。

 やがてそれは全面を覆い尽くし、無数の破片となって崩れ去った。

 

「この手に限る、です」

「こんな事をしてもいいのか……?」

 

 安心して欲しい。心の壁などと大仰な名前が付いてはいるが、人の想像力に果てが無い様に壁の再生力にも限界はない。こうして壊した所ですぐに復活するだろう。

 

 さて、壁の向こう側には体育座りで塞ぎ込んでいる姫星の姿がある。私は彼女に駆け寄り、開口一番こう言った。

 

「貴女の家族は、生きていますよ……!」

「そうだ姫星殿。貴殿の家族はまだ死んではいない!」

「……」

 

 だが彼女は微動だにしない。想定内だ。

 私は彼女の襟元を掴み、ぐい、と持ち上げてその頬を平手打ちする。パン、と甲高い音が鳴り乃木を焦らせる。そんなに焦らなくても力加減くらい調整している。

 どうやら私のビンタはある程度効いた様で、彼女はその虚ろな目をこちらに向ける。

 

「……まじょ、ち」

「そう、まじょちですよ。さあ、早く起きる、です」

「でも、あーしもう、みたくないよ……あーし、みんながあんなひどいじょうたいになってるのに、あんなにのんきにいきてて、もう、いやだ……」

「嫌もへったくれもない、です。貴女が起きないと、皆が死ぬ。それだけ、なので」

 

 私のその言葉は、しかし逆効果だった様だ。彼女は目を見開き顔を歪める。

 

「みんながしぬ、しぬ、死ぬ……!!」

「あ……」

「魔女殿……それは無いだろう……」

 

 血走った眼で髪を掻きむしり始めた彼女を何とか押さえ込みつつ、私は説得の方法を考える。

 そもそも彼女は一体何を恐れているのか。家族が重篤な状態になっていながらそれを見ないフリをして楽しんでいた、という事らしいが。まあ確かに自己嫌悪するのも分かるがそんな事でうじうじと悩まないで欲しい。何の為にラージヒールをかけたと思っているのだ。

 いいや、或いは心の底から「生きている」と信じられないのかもしれない。あの重体っぷりはそう思ってしまうのも仕方ない。

 

「姫星さん、前を向く、ですよ。あと二日です」

「ふつか……?」

「そう、あと二日経てば何とかなる、です。私が何とか、してみせましょう。貴女の家族も、きれいさっぱり、元通り……」

 

 姫星にとっては何の根拠もない話だ。今ここで一発かませれば楽なのだが生憎そんな魔力は無い。

 

「死んだ人を、甦らせるのは難しい……時間が経っていたら、特に。まあ、3分以内なら、ノーリスク、ですが」

「???」

 

 彼女が口を半開きにして困惑する。蘇生魔法くらい私が使えないとでも思ったか。でもノーリスクで蘇らせられるのは死んでから3分以内の人間だけである。それ以前となると指数関数的に難易度が上がる。

 話がズレたな。

 

「私だって、昔、家族を無くしました」

「まじょち……」

「3回」

「さんかい?????」

「一度目は、私が生まれた直後に魔族に、殺された。二度目と三度目は、私が殺した、です」

 

 私を産んでくれた親、人生の方針を決めてくれた親、そして私を拾い育ててくれた親。

 一度目は正直人伝に聞いただけなので実感はない。二度目は昨日彩芽に問い詰められた、罠に嵌められた時。

 でも三度目は確実に私の意思で殺した──この手で、斬り殺した。確実に。

 という訳で生きているのなら是非とも前を向き続けて欲しいという意味を込めたのだが、姫星にはいまいち伝わらなかったらしい。こうなれば最終手段だ。

 

「私、元の世界では、魔族を凄く殺した、です」

「それがどうしたの」

「数億体くらい」

「おく」

「山や島、大陸も幾つも消した、です」

「たいりく」

「で、最終的には、自分も死にました。実は人生、二度目、です」

「??????」

 

 私が一通り言い終わった後、彼女の顔には困惑しか浮かんでいなかった。

 カウンセリングは苦手だ。ずっと火力で解決できることをしていたい。

 

「さて、何もかもどうでもよくなってきた、です?」

「……うん。ちょっと壮大過ぎて……」

「それはよかった、です」

 

 スケール感が違い過ぎる事を捲し立てて相手が悩んでいる事を相対的に極小にする。成功したみたいで何よりだ。

 

「……貴殿を果たしてこのまま野に放っておいてよいものか、疑わしくなってきたぞ」

 

 一方の乃木は複雑な表情を浮かべてそんな事を呟いている。普通はこんな事を言っても出来の悪い冗談だと笑い飛ばすものではないだろうか。それともコイツはやらかすとでも思われているのだろうか。

 まあいい。今は姫星を連れ出す事が先決だ。

 

「さあ、姫星。一緒に来る、ですよ」

 

 私は彼女へと手を伸ばす。

 

 果たして、彼女は──

 

 

──────

───

 

 

 最初の敵を倒してからどのくらいの時間が経ったのだろうか。果てしない時が経ったように思えるが、実際には数分しか過ぎていない。

 その僅か数分で、私の周囲は夥しい数の死体で埋め尽くされていた。

 

「はあ、はあ……」

 

 服は血に濡れ、あちらこちらに生傷が出来ている。

 しかし、その傷は紛れもなく防衛出来ている証だ。未だ防衛ラインは突破されていない。

 

「──ッ!!」

 

 不意に私は身体を少し捻らせる。瞬間、すぐ脇を巨大な拳が通り過ぎて地面に突き刺さる。

 いつの間にそこに居たのやら、一つ目の巨人が私を潰さんと立っていた。刹那、私は左手に持っていた銃をその大きな瞳に目掛けて放つ。

 飛び散る鮮血、呻き声を上げて暴れ回る巨人。だがその動きは全く私の動きを捉えられていない。我武者羅に振り下ろされる拳を避けながら両足の腱を斬り、姿勢を崩した所で跳び上がる。

 

「巨人には、うなじ!!」

 

 そう叫びながらうなじを斬り、巨人は力なく倒れていく。

 

「がっ」

 

 そうして地面に降り立った瞬間、私の脇の傍を何かが貫く。火星人みたいな魔物が私に向けて触手を伸ばしていたのだ。

 咄嗟に銃の引き金を引くが弾は発射されない。弾切れだ。マガジンは全て使い切った。仕方がないので銃を仕舞い触手を握り潰し、地面を蹴り飛ばして接近、火星人の首を斬り落とす。

 続けてずり落ちる首を蹴り上げて上空から襲い掛かってきていた魔物を撃ち落とす。

 

 

 パチ、パチ、パチ。

 

「……真祖」

「いやあお見事。あのもう一匹が居ない中でここまで奮戦するとは少々予想外であったぞ」

 

 そこに、真祖が手を叩きながら現れる。奴は以前会った時の様な苦虫を噛み潰した様な顔ではなく、勝利を確信した様な傲慢不遜な笑みを浮かべていた。

 

「では褒美に──」

「ッ!!」

 

 そう言いながら奴の姿が掻き消える──刹那、ギイン!と甲高い金属音が鳴り響く。私が咄嗟に出した剣と奴のレイピアが打ち合わされた音だ。

 

「ほう……?」

 

 意外だとでも言わんばかりにあからさまに口を開ける。

 今のは完全に偶然だった。私の勘がかっちりとはまった結果だ。自分でも受け止められるとは思っていなかった。

 そのまま一合、二合、三合と斬り結ぶ。完全に私は遊ばれていた。

 

「ああっ!?」

 

 だが、それも長くは続かない。奴の一撃で剣が何処かへと飛ばされてしまったのだ。

 それに奴はニヤリと笑い、こちらに手を伸ばす。

 

「ふむ、これで終わりか。丁度良い、貴様に良い提案をしよう」

「……何処かの鬼みたいな提案しやがって……」

「以前貴様は自分の血はどれだけ吸っても構わないと言っていたな。今ここにその願いを叶え、我の眷属としてやろう」

 

 何処かの役立たずの狛犬みたいな提案しやがって……ならば私の答えは決まっている。

 

「……ならない。私は吸血鬼になんてならないっ!!」

「そうか」

 

 そう言うと、奴は無造作に剣を振る。

 私は身構えたが、それは私に対しての物ではなかった。

 

「──え」

「ふむ、丁度良い位置に当たったな」

「え、あ……」

 

 奴が狙ったのは──姫星だったのだ。

 霧の中、厳重に警備されている筈の姫星、そしてその中に入っている魔女様を狙ったのだ。花音の霧には防御機能も付いている筈だがそんな物など初めから無かったかの如く斬り裂かれている。

 

「ッ、お前ぇっ!!! ぐわッ」

「下等生物如きが、我に逆らう権利などある筈も無かろうに……」

 

 激昂して立ち向かおうとした私は容易く首を掴まれ、その首筋を晒される。

 

「喜べ、貴様は高貴なる一族の末席に座る事となるのだ」

 

 奴の牙が首に突き立てられる。

 僅かな痛み、直後襲い掛かる猛烈な快感。全身の筋肉が弛緩し、だらりと力なく手足が垂れる。

 

「あ、あ……」

 

 抗えない。目の前の男に抗えない。

 何の力も入らない。

 

 

──もう、抗わなくてもいいんじゃないか?

 

 だってそうだろう。私は、約束を守れなかった。

 無防備の姫星があの斬撃に耐えられる訳などない。

 

 今の私に、生きている価値などあるのか?

 

 

 

「ッ……ふざ、けるな……」

 

 

 生きている価値を決めるのは私じゃない。

 私はただ全力で生きているだけでいい。価値なんて後から幾らでもついてくる。

 

「あ、あ……」

「む?」

 

 魔力を滾らせろ。やる気のない筋肉に檄を飛ばしてやれ。

 

 なるんだろう。魔女様に誇れる様な人間に!!

 

 

「あ、ああああああああーーーッ!!!!!!」

 

「なっ──」

 

 

──刹那、私の中で何かが弾けた。

 私から光の粒子が迸り大地に浸透する。

 

 直後、地面から生えてきた樹の柱が真祖をぶち抜く。

 それだけではない。とめどなく重低音が鳴り響き数え切れない程の柱が聳え立ち、皇居へと侵入しようとしていた魔物共を全てぶち抜いていく。

 

「はァ、はっ、あ……」

 

 拘束を解かれた私は倒れそうになるのを何とか堪える。

 今、何が起こったのか分からない。魔法なのか、それとも別の何かなのか。でも今はそんな事はどうでもいい。問題は真祖を倒せたか、魔物共を倒せたかだ。

 柱に突き上げられた魔物共は半分くらいがまだ生きている。そして真祖は。

 

「グ……き、貴様ァ……」

 

 腹をぶち抜かれながらもまだ生きている。

 真祖は怒りで顔を歪めながら柱を折る。でも効いた。私はもう一度今の感覚を──

 

「──あ、あれ」

 

──出来ない。全身の力が抜けてその場に倒れ込んでしまう。

 指一本動かない。これまでに感じた事のない感覚だ。

 

 でも、駄目だ。ここで奴を倒さないと。

 

「か、下等生物がァ……貴様はここで殺す。確実に殺してやる!!」

「く……」

 

 動け、動け、動け!!

 私が、ここで、やらなきゃ、いけないんだ──

 

 

「──ッ!?」

 

 

──そんな時だった。奴が血相を変えてレイピアで何かを受け止めたのは。

 甲高い金属音。珍しく焦る真祖。

 

 

「──遅くなった、です」

 

「あ、あ……」

 

 特徴的な紫色の髪をした少女がふわりと降り立つ。

 その右手には先程飛ばされた勇者の剣が握られている。

 

「さあ、私が相手です……真祖(ヴァリアント)……!!」

 

 そう呟いて剣を構えた魔女様がひらりと身をかわす。

 

 

「──撃てぇーーーッ!!!」

 

 

「なッ」

 

 そんな声が響いてきたかと思えば、無数の爆発音と共に真祖へ向けて大量の光弾が向かっていく。

 魔女様が向かってくると思い込んでいた真祖は不意をつかれる形となりそれらの砲弾をもろに食らう。巨大な爆発が起こり奴の姿を包み込む。

 

「あやちごめん!!」

「頑張った、ですね……」

 

 

「「あとは、(あーし)に任せて!!!」」

 

 

 その心地良い声に包まれて、私は意識を手放した。




来いよ真祖、銃なんか捨ててかかってこい!(発砲)


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