押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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最後のひと時

──遭遇は突然だった。

 

 私達は何体もの吸血鬼を倒していた。

 知性無き放蕩獣、連続殺人鬼、そして町を恐怖で支配する独裁者。様々なタイプの奴等がいたが悉く倒してきた。人が救いを求めていたら救う、それが勇者パーティーの役目だから。

 長年人類が倒せなかった魔王軍の幹部をも倒した私達に敵はいない、そう思っていた。

 

 

「貴様らが我が眷属を斃したという勇者とやらか」

 

 

 その自負は、突如として降り立ったその男を前にして脆くも崩れ去る。

 

 ヴァリアント・デラーズ・フォン・クアラリッド。全ての吸血鬼の始祖、"真祖"であると男は語る。

 その肩書などどうでもよかったが、一つだけ確かな事があった。

 

 この男は、間違いなく私達の誰よりも強い。

 

 戦いは膠着した。

 当時の私はまだ弱く、奴に魔法を当てる事すら出来なかったのだ。唯一対抗出来たのはカケルだったが、彼の攻撃は奴に致命打を与える事は出来なかった。斬ったそばから回復していくのである。

 どちらも決定打に欠ける。そんな膠着状態が崩壊したのは、奴がカケルの不意をつき私に向かってきた事からだった。咄嗟にリグラ・グレンズを放とうとしたが時既に遅し、奴のレイピアが私の心臓を突く──

 

「ア、リ、シア……」

「ッ……かはっ……」

 

──動けたのは、私のすぐそばにいたアリシアのみだった。彼女は私の前に身を乗り出し、奴の刃は彼女を貫いた。

 刃を伝って滴る鮮血。その量と位置は、彼女がもう助からない事を意味していた。それは彼女自身も理解していたのだろう、アリシアはすかさず奴の首を両手で掴み、叫ぶ。

 

「"聖櫃(セレスアーク)"!!」

「何ッ!?」

 

 刹那、聖なる結界が彼女ごと奴を覆う。

 魔の物を拒絶する光は奴を焼き、悶えながらもレイピアを振り上げ彼女の身体を斬り裂く。そうして絶命する直前、彼女とカケルの目が合う。それだけで、二人の間で何かが伝わったのだろう。

 

 顔を歪めながらカケルが剣を振るう。聖なる結界ごと二人の身体を賽の目状に斬り裂いていく。

 

「フェニシアーーッ!! ドルズーーッ!!」

 

 彼が叫ぶ。

 この状況において私に求める事は一つだけだろう。私の頭は現実を受け入れられず拒絶していたが身体が勝手に動いていた。

 

「"破魂の渦(グリア・レウ・ディラーズ)"……!!」

「"バッシバルク"!!」

 

 私が奴の()に黒いナイフを突き立て、その隙にドルズが巨大なメイスを振るい奴を吹き飛ばす──

 

 

 こうして、真祖との邂逅は幕を閉じた……一人の仲間の犠牲と共に。

 今の私達では奴には勝てない。私達は必死に鍛錬し、復讐に燃えた。

 

 尤も、その機会は遂に訪れなかったのだが。

 

 

──────

───

 

 

 暗い暗い深淵の底へ私は堕ちていく。

 

 誰かが泣いている。

 しくしく、しくしく。大人の女性が鼻をすする音と子供の泣き声。

 

 血塗れの男を抱いた女と、その傍に立ち尽くす子供が泣いている。

 その二人はこちらに気付くと憎悪に満ちた顔で言う。

 

「「許さない」」

 

 その声に聞き覚えはない。でも、女が抱いている男には見覚えがあった。私の脳裏に焼き付いて離れない。

 男の額には一つの焦げた穴、そして削がれた右耳と斬り落とされた右腕。男の両目がこちらを捉える。

 

「許さない」

 

 ああ、そうだ。この男は。

 

「「「許さない」」」

 

 そうだ──私が殺した。

 私が殺したんだ。他の誰でもない、この私が。どんな理由があったといえどもその事実だけは変わらない。

 

「「「許さない」」」

 

 全部私が悪いんだ。

 どんな人間にも大切なモノは存在する。同時に、その人間を大切に思っていたモノも。それから恨まれるのは至極当然の事だ。

 

 ドロリとした沼に沈む。赤黒い溜まりに足がとられていく。

 仕方ない、仕方ないんだ。もうここで終わってしまってもそれは全て私のせいなのだから。

 

 だから……

 

 

「──っ……!」

 

 

 刹那、視界が眩い光に覆われる。私の身体がふわりと穏やかな温もりに包まれる。

 赤黒い沼も死者の亡霊も、その全てが青白い光のもとに消え去り代わりに空から天使が舞い降りる。

 

 優しく微笑んだ天使は私の頭にそっと手を乗せ──

 

 

 

「……ん、ぅ……」

「起きた、ですか」

「まじょ、さま……」

 

──重い瞼を上げた私の視界に映ったのは優しく微笑む魔女様の姿。

 

「あ、ありがとうございます……もう少し撫でて貰ってもいいですか?」

「その様子なら、大丈夫そう、ですね」

 

 少し調子に乗った私の言葉に彼女がクスリと笑い、要望通り撫で続けてくれる。

 そんな柔らかな手触りを感じつつ、私は訊く。

 

「あの、私どれくらい寝ていたんですか?」

「今日は12月24日の、朝、です。丸一日寝ていた、ですよ」

「ま、丸一日!?」

 

 十三年いきてきたがそこまで寝たことは、というか寝られた事はない。一体私はあの戦闘でどれだけ消耗したんだ。

 あ、というか私戦いで結構負傷した気がするのだが、今は全く痛くない。魔女様のなでなでには鎮痛効果もあるのだろうか……そんな戯言を思いつつ自らの傷がある筈の場所を触る。

 

「あれ、傷がない……」

「傷なら、治ってた、ですよ。きっと魔法、ですね」

「魔法……魔法!! そうだ魔女様、私魔法を使えたんですよ!!」

「ええ、今でも彩芽が建てた柱は、残ってる、です」

 

 初めての魔法でここまで出来る人間はそうそういない、と彼女は言う。やはりこれまで魔力操作技術を高めてきたのが功を奏したのだろうか。

 でも、これも全て魔女様のお陰である。彼女が居なければ今の私はないのだから。

 それはそれとして、胸の高鳴りが止まらない。姫星や真弓、花音、そして魔女様の様に私も遂に魔法というおとぎ話の力を使う事が出来る様になったのだ!

 

「じゃ、じゃあ早速何か魔法を使ってみます! あの時の感覚を……」

「あ、それは……」

「…………アレぇ?」

 

 意気揚々とやってみるがうんともすんとも言わない。

 というかまず、以前の感覚が思い出せない。あの時は本当に極限状態で無我夢中だったのだ。

 

「前借り、ですね」

 

 彼女は言う。

 私が患っている『先天性魔力律動変換不全』は体内の魔力を魔法へと変換できなくなる疾患。魔力操作を続けていれば自然と治癒する物であるのだが、それが完治する前に少しだけ魔法を発動できる事がよくあるらしい。それを異世界では『前借り』と呼び、完治が近付いている兆候として喜ぶのだという。

 だからあまり落ち込まず、寧ろ数日のうちに治るであろう事を喜ぶべきだ、と彼女は言う。

 

 でも、ダメなのだ。

 今日は魔女様と出会って六日目。そして明日は──だから、それまでに私は彼女に私が魔法を使う所を見せてあげたいのに。

 

 そうして私が落ち込んでいるのを見て彼女は私の手を取り上げる。

 

「……さあ、行く、ですよ」

「へ、ど、どこにですか?」

「皆、待ってるです、から」

 

 そう言うと彼女は無理矢理私を箒に乗せて飛んだ。

 

 

「あやち~!! 良かったぁ~~!!」

 

 降り立った私に姫星が勢いよく抱きついてくる。わんわんと泣く彼女の涙と鼻水が肩を濡らす。

 

「姫星殿、彩芽殿が驚いているぞ……彩芽殿、よくぞ無事でいてくれた」

「は、はい」

 

 そう言いながらハンカチを差し出してくるのは乃木である。どうやらまた出られる様になったようだ。

 私が受け取った布でべっとりついた液体を拭っていると、今度は儚くか細い声が聞こえてくる。

 

「あ、彩芽さん……」

「あっ、花音ちゃん。良かった、無事だったんですね」

「はい。貴女のお陰です……貴女が無事で本当に良かった……そうじゃなかったらあたし、あたし……っ」

 

 花音は俯いたまま私の手を握ってくる。

 

「……昨日、貴女が言ってくれたこと」

「?」

「あたしには……大切なものなんてありません。戦う意味だって無かった。そんなあたしに、貴女は言ってくれたんです」

 

──貴女に戦う意味が無いのなら……私の為に戦って下さい──

 

「あたしに意味を与えてくれたのは貴女です。だからあたし、貴女の為にこれからも戦います、貴女についていきます、貴女の言う事を何でも聞きます。だからこれからもあたしに意味を与えて下さい」

 

 彼女が両手で私の手を包み込みその場に跪く。こちらに向けたその目は、以前と同じようにどんよりと濁っている。ただ、絶望というよりかは、何処か狂信的な感じがした。重い。

 そんな彼女を姫星はあまり理解出来ていない様な顔で、乃木は同情気味に、魔女様は複雑な表情でそれぞれ見つめている。

 まあ、頼もしい仲間が出来たと思えば……良しとしよう。

 

『うーん……まあ、この子ならいいか。彩芽とか言ったわね、ウチの子をお願いね』

 

 と、そこで花音の傍に青白い髪をした女が現れる。昨日出会った花音の契約神、天之狭霧神(アメノサギリ)だ。

 

「ウチの子?」

『契約したんだからウチの子でしょ。いやあ花音が憧れたのがそっちのきな臭サイコ紫魔女じゃなくて良かったわ~~』

「は?(威圧)」

『え、こわ……師匠が師匠なら弟子も弟子ね……』

 

 魔女様への余りにも失礼な物言いに私が睨み付けると、彼女は慌てて縮こまり乃木の背後に隠れる。そして彼に向けて言った。

 

『ほ、ほらアンタも何か言ってやりなさいよ。神の命令よ!』

「えぇ……しかしですねアメノサギリ様、彼女らは我々の為に尽力してくれたのです。それを中傷するというのは流石に……」

『少なくともサイコは事実でしょう。神を当然の様に操ろうとするなんてサイコパス以外の何物でもないわ』

「うーん……」

 

 乃木が困った様に唸る。これを普通の人間が言っていたのならば一喝して終わらせる所なのだが、如何せん相手が神、それもイザナギ・イザナミの孫という高位の神である。穏便に宥める事しか出来ないのだ。

 

 さて、そんなこんなで交流をしつつ私達は戦勝パーティーを行った。

 今回の襲撃を乗り越えた事に対する物であり、どうやら私が起きるのを待ってくれていた様だ。何故待ってくれていたのかと訊けば。

 

「だって彩芽は、今回の主役、ですから」

 

 らしい。私としてはずっと霧で守った花音や姫星の為に尽力した魔女様も充分主役だと思うのだが。

 まあそれは兎も角、私達は存分に飲み、話し、笑った。私が気絶した後の事もこの時聞いた。

 まず真祖に関しては魔女様達が対峙するとすぐに逃げていったらしい。思ったよりも私の攻撃が効いていたのか、或いは未だ完全には回復出来ていない為に魔女様と戦うのは得策ではないと判断したのか、その理由は定かではない。

 そして姫星を連れ戻した方法だが、どうやら魔女様の過去を語った様だ。その過去とやらが何とも信じ難い内容ばかりであり、魔族を数億体殺したとか山や島、大陸を幾つも消したとか、実は人生二度目だとか……でも、不思議とそれらの内容は私の胸にすっと入り込んだ。まあ魔女様なら有り得るか、と。

 

 さて、パーティーが終わり夜には風呂に入る。以前と同じ様に姫星や春子、そこに花音も加えて。途中から何故かサギリまで入っていた。神様って風呂入れるんだ。

 花音の身体には痛々しい傷跡が残っていた。親からの虐待の痕らしい。もし私が魔法を使いこなせる様になったら治してあげよう、そう決意した瞬間だった。

 

 そうして就寝時間となる。いそいそと布団に入る魔女様に私は言った。

 

「……魔女様」

「何、です?」

「今日、一緒に寝てもいいですか……?」

「いい、ですよ」

 

 以前は勝手に潜り込んだが、今日は流石に許可を取る事にする。

 私達は狭いベッドに半ばくっつく様に寝る。

 魔女様の息が、体温が、鼓動が全て伝わってくる。こんなに小さな体で、私よりもずっと強く、過酷な運命を潜り抜けてきたんだ。今日は悪夢を見ずに済みそうである。

 

「魔女様……」

 

 暗い部屋の中、目を閉じた私はそっと訊く。

 

「これからもずっと、私と一緒に居てくれますか……?」

「……」

 

 その問いに、彼女は何も答えなかった。

 彼女はただ、一言。

 

 

「安心して、彩芽」

 

 

──ずっと一緒に居てくれる、とは言ってくれないんですね。




何気に神同士が会話したのこれが初めてかもしれない


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