押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
朝露咲良──圧倒的な実力を誇る突然変異の魔法師。これまで様々な相手を難なく打ち倒してきた少女は今、菊花伊織の目の前で消失した。
伊織には何が起こったのか全く分からなかったが、少なくともこの凶行を行ったのが目の前に立つ『鈴木翔』と名乗った男である事だけは確かだった。彼女はすぐさま魔装を展開し刀を彼へと向ける。
「貴様、朝露を何処へやった!!」
「おーおー勇ましい事だ。でも君は僕には勝てないよ」
伊織の殺気を向けられても尚『翔』は余裕の態度を崩さない。
彼は薄ら笑いを彼女に向け、次の瞬間にはその喉を掴んでいた。
「ぐぅっ!?」
「ハハ、弱い弱い。このまま捩じ切って──」
と、掴む手に力を込めようとした、その時だった。
腕が二の腕から斬り落とされたのは。
「──は」
『翔』が対応する暇もなく、残された三つの手足も斬り落とされる。
自由になった伊織は自身を助けたその少女の名を呼んだ。
「あ、朝露!! 助かったぞ……」
「いえ」
「ば、馬鹿な……どうして……何故!!」
その少女──咲良は剣に付いた血を振り払い、不愛想に返答すると目を見開いて絶句する彼へと向く。
「な、何故だ!! どうやってもど──」
「煩い」
彼がその言葉を言い終わる前に咲良は彼の口を押さえ地面に押し倒す。
ドサリ、と鈍い音を立てて男が倒れた次の瞬間、彼の表情が一変する。それはまるで、何かの洗脳が解けたかの様だった。
「……!! フェニシア、これはいった」
だが、そんな彼の顔を咲良は拳で叩き潰す。
「ちょ、やめ」
「お、おい」
グシャ、グシャ、グシャ、と骨と肉が砕け混じり合う音が響き渡る。
その手には一切の躊躇がない。ドン引きする伊織の声も聞かず、飛び散った血を顔に付けながら彼女は言う。
「本物だったら、謝って蘇生する、です……だから、一回、死ね」
そう言って手の平に光を溜め始めたのを見て彼は顔色を蒼白にし、銀色のドロリとした粘性の液体へと姿を変え咲良の拘束からするりと逃れる。
だが、それで逃がす彼女ではない。一瞥もせずに銀色の不定形を紫色の膜で覆いビー玉程の大きさまで圧縮し──
「"ディア・ヴィロリア"」
跡形もなく消し飛ばす。
既に記憶は読み取っている。目の前の"コレ"がカケル本人でない事は分かっていた、だからこそ消したのだ。
ショゴスというクトゥルフ神話系統の魔物、それにカケルの記憶を入れただけの紛い物。
下手人はやはり"組織"の一派閥。どうも以前壊滅させた『研究所』の生き残りらしい。研究所の実験体であり、咲良が壊滅させる以前に別の施設に移送、そこで何らかの処置を受けて今日ここに送り込まれた。何らかの、と濁したのはその部分の記憶が巧妙に消されていたからだ。
どうやら相手は自分の対策を知り尽くしているらしい、咲良はタイムスリップする直前に感じた魔力──ヴィロリアの魔力を思い返しながら心の中で舌打ちする。仮に犯人が彼女ならばカケルの記憶を手に入れられるのも当然だった。
兎も角、だ。その別の施設とやらの場所は分かったので逃げられる前に殲滅しておこう。
という訳でその場でテレポート、防壁で覆い魔法で全員気絶。資料やら記憶やらを探ったがやはり処置の内容は分からなかった。仕方が無いので住所を紅葉に渡し伊織の元へ戻る。ここまで僅か数分の出来事であった。
咲良は焦っていた。正直な所こんな事に時間を割いている暇などないのだ。カケル本人でないのなら、こんな紛い物になど興味はない。
「伊織、さん……彩芽の元に、行きましょう」
「よ、呼び捨てをするな……まあ分かった。なら空港に行くぞ」
現在菊花彩芽は京都にある菊花家本家にて床に臥せている。その為、伊織はわざわざプライベートジェットを手配していた。
だが、咲良はそれを断り伊織の手を取る。
「いえ……すぐに着く、です」
「は?」
彼女がそう呟いた瞬間周囲の景色が一変する。
学園の中から古風な町中へ。今、目の前にあるのは硬派な武家屋敷であり、帯刀した袴姿の女性が守衛として門の傍らに立っている。
「は?」
「なっ、え、今、どこから」
「到着、です。さあ、案内してください」
絶句する伊織、困惑する守衛、それらをガン無視してずかずかと門に近付く。
「だ、誰だお前は!? って伊織お嬢様!?」
「……はっ。い、良い。こいつは良いんだ。門を開けてくれ」
「え、は、はい……」
守衛は困惑しながらも伊織の指示に従って門を開け二人を中に招き入れる。
丁寧に切り揃えられた松葉、規則的に鳴り続ける鹿威し、整備された枯山水。そんな日本庭園の傍を歩いていく。
「こちらです」
「奴吾は廊下で待っておく。そういう指示だからな……くれぐれも粗相はするなよ」
使用人がその襖を開けると、そこには広くも狭くもない薄暗い部屋が広がっていた。
何処にでもありそうな畳張りの部屋──その中央には布団が敷かれ、一人の人間が寝かされている。
肌は古木の様に皺が立ち乾燥し、腕は枯れ木の様に細く息を吹きかけるだけでぽっきりと折れてしまいそうだ。頭は頭蓋骨の形がくっきりと分かる程肉が削ぎ落され、髪は色素が抜け落ち、モノトーンとなったそれは暴風雨に晒される羽虫の如く頼りない。
一切見た事のないであろう老人、だがしかし、私にはそれが誰だかハッキリと分かった。私は老人に近付くとそっと声をかける。
「……彩芽」
「……ぁ……」
すると老人──彩芽が小さく声を漏らし、その藤と金の混じった目を薄く開ける。
その瞳に私の顔を映した瞬間、ふるふると顔と手を震わせ、目尻に涙をためる。
「まじょ、さま……待たせすぎ、です……よ……」
「ごめんなさい。今、帰ってきた、ものですから」
ぽろぽろと涙を流しながらプルプルと手を差し出してくるのでそれを優しく握る。
私にとってはついさっき、彼女にとっては130年越しに手を取り合った。下がった体温が時の経過を知らしめてくる。
「私……ずっと……ずっと……」
「ええ、ええ……!」
私は酷い後悔に襲われた。
あまりにも遅すぎたのだ。だって、私の目に映る彼女の魂の揺らめきは今にも消えてしまいそうになっているのだから。いつ消えてもおかしくない──そんな状態で、彼女はいつ現れるかも分からない私を今か今かと待ち続けたのだ。
「色々と、話したい事、あった筈なんですけれど……貴女に逢ったら、それだけで……」
私だってそうだ。私だって、貴女に謝らなければならない事が沢山ある。
結局の所、私は貴女に名前の一つも教えられなかった。結局私は、私が私になってからの事を殆ど教えてあげられなかった。未来の事だって、知っていればうんと楽になっただろうに。
でも、彼女はそんな内心を見透かすかの様に言う。
「未知の体験というのも……悪くはなかったですよ……? それに……もし、知っていたら……きっと私は、逃げていた、から……」
「っ、そんな事はない、です……貴女は、強い子、ですから……!」
「ふふ、ありがとうございます……」
そうだ、そこで逃げる様な人物なら私は貴女に皇居を任せたりしなかった。
貴女は私の──戦友だった。すごくすごく頼もしい、背中を任せるに足りる魔法使いだったのだ。
ふと、彼女が私の手を両手で包み込む。
「一つだけ、我儘を言ってもいいですか……?」
「ええ、何でも言う、ですよ」
「それなら……魔女様の名前を、教えてください……」
「勿論、です。私の、名前は──」
今、私が教えるべきは。
今の、私は。
「──朝露咲良、それが私の名前、です」
「さくら……魔女様らしい、良い名前ですね……やっと、知る事が出来ました……」
そう言うと、彼女の顔から元々薄かった血の気が更に引いていく。
体温も急激に下がり鼓動も弱まっていく。
彼女の命が、失われようとしている。
「ああ……私はもう、まんぞくです……」
「彩芽……」
ポタリ、ポタリ、と私の目から涙が零れていく。
たった一週間だ。彼女と出会って戦ったのは。たったそれだけの間で、彼女はここまで私にとって一体どれ程の存在になっていたのだろうか。
彼女はゆっくりと目を閉じる。穏やかな表情で眠りにつこうとする。
「ごめん、なさい……」
私はそう呟き、彼女にそっと口づけをした。
「皆さん初めまして。第2・4・8・14代太政大臣、初代魔法庁長官、初代法務卿、初代文部卿、第2代華族院議長、初代学園長、元国連総会議長、現予備役総監統括元帥にして今日からこのクラスに編入となりました魔法学園一回生の菊花彩芽です」
「突然の事に驚かれる方もいるかと思いますが、どうぞ同じ生徒として接して頂けると幸いです」
「何故いるか、ですか? ええ、私としても満足して成仏しようとしていたのですがどうも簡単には逝かせてくれない様で……」
「ああ、そういえばこのクラスには
「何かと覚束ない所もあるかと思いますので、どうかこれからよろしくお願いしますね──」
「──ま・じょ・さ・ま?」
勝った!! 第三部完!!
という訳で第三章完結となります。皆様長い間お付き合いいただきありがとうございました。
これからの予定としては、いつもの如く閑章として何話か書いた後に第四章に入りたいと思ってはいますが、四月から私生活の方が激変するので更新間隔はかなりまちまちになってしまうと思います。
また、5/25の関西コミティアに申し込んだのでそちらの作業にも手を付けたいと思います。コミティアの新刊としては第二章の書籍版になりますが、現状かなり書き直しているので大まかな流れ以外は殆ど別物になりそうです。間に合うのかこれ
5…10秒で終わるので高評価お気に入り登録よろしくお願いします。
本のタイトルどっちがいい?
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