押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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組織の蠢き(後編)

「アイナどう? 似合ってる?」

「うわキツ……ニアッテマスヨー」

「ぶっ殺すわよ。いいわよね貴女はチビスケだから」

「ぶっ殺しますよ」

 

 アディールの罵倒を軽く(・・)受け流しながら私は心の準備をする。

 これから侵入するのは国立天照魔法学園──ある意味日本の心臓部ともいえるその場所に、私達成人女性が何故か制服を着て紛れ込むらしい。イカレてるのか。まあ私はまだいいけれどアディールがキツイ。30歳172cmでJK制服は流石に厳しいでしょ。

 などと考えているとまた彼女が睨んでくるので、私はそっと目を逸らして潜入を開始した。

 

 魔法学園はかなり厳重な警備システムに守られている。

 物理的にも高い壁が敷地をぐるりと取り囲み、対人レーダーと魔力感知システム、防護結界など何重もの警戒態勢が敷かれているのだ。

 

 だが。

 

「結構あっさり入れるんですね」

「十華族が手引きしてるんだから当然よ」

 

 そんなシステムも、使う側が裏切っていれば形無しだ。

 十華族が一つ、櫻島家は組織に加担している。どうやらボスがその家のとんでもない秘密を握っているから、らしいのだが詳細は知らない。

 ボスが倒れ、組織が三つの派閥に分かれた後もこの伝手は各派閥に良い様に使われており、以前寛迎派が学園を襲撃した際も使われたらしい。

 因みに代理君(涼介)は普通に自分で侵入しているようだ。君達もテレポートを使えるようになるといいよ、などと言っていた。無理に決まってるでしょ!

 

 そんな話はさておき、夕方の学園は現役女子高生達がキャピキャピしている。学校なんて通ったことがない私にはちょっとばかり眩しすぎる。

 

「うわー! 露店もいっぱいありますよ、何か食べましょう!」

「はしゃがないの。遊びに来た訳じゃないのよ」

「いいじゃないですかちょっとくらい。ねえ、ここのオススメは何ですか?」

「ラーメンに生卵とニンニクトッピングやよぉ」

「じゃあそれ一つ!」

「はあ……私はあっち行ってるからね」

 

 アディールは呆れてどこかに行ってしまうのも気にせずに私はふと見つけたラーメン屋の屋台に座る。

 藤色の髪をした店主が差し出したラーメンを啜る~! (ニンニクを)入れるぞ~!

 

 

「ニンニク臭っ!? 馬鹿じゃないの?」

「えっ……そ、そんなに臭いですか?」

「どんだけ入れたのよ……」

 

 別にそんなに入れていない筈なのだが。嘘、こんなのもし代理君がいたら引かれちゃうじゃん。

 慌てて私は持っていたミンチアを頬張る。噎せ返る様なミントの臭いが慣れで隠れていたニンニクと混ざり合って絶望的な物へと変貌する。

 それで顔を青く染めて吐きそうになっている私にアディールがまたも呆れた様な視線を送りながらどこかを覗き込む。

 

「はあ……ほら、見なさい。あれが朝露咲良よ」

「オエ……と、隣にいるのは確か……秋空雲雀、ですか」

 

 吐き気を堪えて遠方からそっと対象を窺う。

 紫色の長い髪にマゼンタ色の瞳、背丈は私よりも少し高いくらい。彼女が以前寛迎派の大軍勢を一人で殲滅したという魔女。正直に言えば、とてもではないが信じられない。何のオーラも感じられないし凄く気弱そう。寧ろとなりにいる枯草色の髪をした少女の方が強そうだ。

 だってそっちは何とかって計画の被験者なんでしょう? そして安定化しているという事は適合したって事で、そんな背景があるんなら絶対に強いじゃないですか。ジェネリック代理君みたいで。

 

「で、ここからどうするんですか? ちょっと襲ってみます?」

「何言ってんのよ。騒ぎ起こしたら台無しじゃない。取り敢えずこのまま観察を続けて──」

 

「──やっぱり、生徒やなかったんやあね」

 

 不意にそんな声がする。慌てて振り返るとそこには先程のラーメン屋の店主が冷たい笑みを浮かべて立っていた。

 まずい、聞かれた。どうやら白を切るのも無理そうなので私達は魔装を身に着ける。

 

「貴女のラーメンは美味しかったですが、聞いてしまったのが悪いんですよ。安心してください、殺しはしません」

 

 そう言いながら私は彼女に近付こうとする。別に話を聞かれたくらいで無辜の少女を殺したりなどしない。ただ少々記憶を消すだけだ。相手は一般人、私達はエージェント。難無くこなせる──

 

「……ッ!? アイナ、動くなッ!!」

「え? あぐぅっ!?」

 

──筈だった。

 だが、ほんの僅かに動いた瞬間私の全身に鋭い痛みと息苦しさが走る。見ると、私の身体のあちこちが薄く斬り裂かれ、流れ出た血が空中(・・)に紅い筋を作っていた。

 アディールが動く気配もない。どうやら彼女も私と同じ状況に陥っている様だ。

 

「これは……魔力で紡いだ鋼糸か!!」

「そ、そんな……一体いつの間に」

 

 アディールの声に私は困惑する。だってそんな予兆も感覚も一切無かったのに、どういう訳か私達は切れない糸に身体中を縛られている。

 これを誰がやったのか、候補は一人しか居ない──

 

──ゾクリ。背筋が凍る。

 

「ッ、なら!」

「"主神之大権"」

「ああっ!?」

 

 ならばと動かずとも使える魔法を、と思った瞬間に身体中の力が抜ける。

 魔力や体力が吸われたというよりも、根本的に魔法が使えなくなる感覚。私の脳の片隅にあった知識が警鐘を鳴らす。

 現役時代の菊花彩芽が使っていたらしい、魔法処理能力を極端に低下させる魔法……なんでそれをこんな一介の女子生徒が!?

 

「別にこっちやって殺すわけやぁないよ? ただちょっと話がききたいだけで」

「アイナ!!」

「分かってます!!」

 

 こいつには勝てない。ならばやる事は一つだ。

 

 

「……あら、消えちゃった」

 

 手足胴体首まで縛った、魔法も制限した。そこまでしても忽然と消えてしまった不審者二人を前にして少女──仲山美玖は気の抜けた声を出す。

 彼女は職業柄人間観察が得意である。一見すると同い年かそれ以下に見えるアイナもその肌のツヤや弛み、動作から成人女性であると気付いた。そこで追いかけてみたら今度は明らかに大人の女性が制服を着ている所に出くわしたので取り敢えず拘束したのだが……抜け出されてしまった。

 

転送魔法(テレポート)が組み込まれた呪符……まあ、仕方ないかぁ」

 

 表には出回っていない、というよりも作れない筈の代物。そんなものを持っているという事は、あの二人は単なる不審者ではないのだろう。下手に首を突っ込んだのは失敗だったのかもしれない。

 まあ取り敢えず不審者がいたという事だけ通報しておこう、そう考えて彼女はその場から去っていった。

 

 

   ☨

 

 

 結局、潜入作戦は失敗した。それもターゲットである朝露咲良のせいではなく一般糸使い魔法師の手によって。

 その後ターゲットの実家にも宅配業者の振りをして行ってみたが、どういう訳か飼っているらしい猫から猛烈なプレッシャーをかけられた。

 今回私達があくまでも調査目的のみで来ていたからあれで済んだのであって、仮に襲撃などしようものなら一瞬で消し炭にされていた事であろう。そして恐らく、あれを使役しているのは朝露咲良……うん、やーめた。やめだやめだ。これ以上深入りしたら絶対に死ぬ。命大事に、任務なんかより大事な事なんて幾らでもあるのだから。

 アディールは休日もそれとなく探るなどと言っていたが私はごめんだ。それに今週はアレがある。

 

 そうして迎えた日曜日。私は某所イベント会場にやってきていた。

 それなりに広い会場内には幾つもの長机とパイプ椅子が置かれ、そこにこれまた多くの人々が敷物を敷き、本立てを置いて薄い本であったりアクリルキーホルダーなんかを陳列する。

 

「あっ、今日はよろしくお願いします。これ新刊です」

「よろしくですー。こっちもどうぞー」

 

 隣に来た女性と本を交換する。

 

 そう、今日は何といってもミラフィアオンリーイベント『アルクスフレーバー』!!

 ミラフィアシリーズに限定した同人誌や同人グッズ等を頒布するイベントであり、今年はミラフィアシリーズ150周年ともあって規模が非常に大きく、なんとあの逆三角形の建物が特徴的な大型会場で行われている。

 

『それではこれより、アルクスフレーバー287を開催いたします』

 

 そのアナウンスで皆が拍手する。

 さて、そうして始まったイベント。私は昔から推しているハギュフィアの主人公×ラスボス純愛本と最新カプであるキラフィアのひかり*1×テーレ*2倒錯百合本、後は既刊を数冊出している。

 私のものもチラホラと売れて非常に嬉しい。

 

 そんなこんなで続ける事数十分。

 

「あ、あの……サハリン先生、です?」

「はい! サハリンで、す……」

 

 ちょっとばかり客足が落ち着いたのでスマホを弄っていた所、不意に声がかけられたので営業スマイルで顔を上げる。

 そこにいたのはものすごく見覚えのある顔だった。

 

「え、あ、あさっ……は、初めまして」

 

 思わず名前を口走りそうになるのを必死にこらえ、私は何とかぎこちない笑顔に戻す。

 それもそのはず、そこに立ってモジモジとしていたのは私達が必死に追っていた朝露咲良その人であったのだから。隣には秋空雲雀もおり、私は内心冷や汗ダラダラだった。もしバレてしまえば私の人生自体が終わってしまうかもしれないのだから。

 

 だが、そんな私の不安を他所に彼女はいそいそと言った。

 

「し、新刊と既刊を一冊ずつ……あ、ひかテレ本は二冊、欲しい、です」

「えっ」

「え?」

「え、あ、ぜ、全部で2500円です」

 

 差し出された金を受け取り、指定された本を渡す。普通の客だった。

 その後、彼女は自らのカバンから何かを取り出すとこちらに差し出す。一瞬武器か爆弾か何かかと思ったが、よく見ると普通のお菓子だった。

 

「あ、あの……こ、これ差し入れ、です」

「え、あ、ありがとうございます」

「わ、私……サハリン先生の大ファン、で。先生の描くひかりが凄く好き、です……!」

 

 彼女は顔を真っ赤にしながら言ってくれる。

 

「こ、これからも頑張って、ください……!」

「あ、ありがとうございます! ……ちょっとその本貸してもらってもいいですか?」

「?」

 

 私が言うと彼女は首を傾げながらひかテレ本を一冊差し出す。私はペンを取り出し、描き込んでいいかの許可を取ると表紙の裏にサラサラと描き込んでいく。

 大して客がいないのも功を奏した。数分間集中し、私は表紙の裏にひかりとサインを描いて彼女に返す。

 

「あ、あ、あ、ありがとうございます!」

「ふふ、また来てくださいねっ!」

「はわぁ……!!」

「良かったっすね咲良。ところで何で二冊も買ったんすか?」

「保存用、です……先輩達は目的の物、買えた、ですかね?」

 

 彼女はとても嬉しそうな顔をしてその場から去っていった。

 その姿が人ごみに紛れて見えなくなるまで私は見送る。心はとても温かかった。

 

 

 

「朝露咲良さん……とっても良い子ですよ。あんな子をコソコソ探るなんて私にはもう出来ません」

「どうしたの急に」

 

 人の心の光を見た一日であった。

 きっとこの先彼女が何をしようと、私は彼女の味方で居続ける事だろう。

*1
主人公

*2
妖精枠




実は紅葉先輩の預かり知らぬ所で脱柵していたサブ同一同。
ちなみにアルクスはラテン語で『虹』です。

美玖さんは糸使い。美玖さんのガチ戦闘シーンと魔装は2巻で見れます



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