押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
「鳥高様、今年生まれた子です」
ウチが彼女と初めて出会ったのは十三年前のある日。
昔馴染みの夫婦が連れて来たその紫色の産毛を湛えた赤子は、どこか不思議な魅力を持つ少女だった。
「ほーん可愛ええやん。名前は何て言うん?」
「まだ決めていないんですよ。鳥高様に決めてもらおうと思いまして」
「そっか、そんなら……」
こういう事はよくある。
神が人間の前に現れて100年余り、その権威にあやかろうとする者は多い。大規模な神社などでは希望者が多すぎて神が名付けたというていで人がやっている様な場所もあるらしいが、ここ鳥高神社ではウチが直々に名付けている。地元密着型神とはウチの事や。
「──咲良。この子に
薄く覗かせたマゼンタ色の瞳がウチの顔を映し出す。それは僅かな愕きと望郷を孕んで一瞬硬直し、すぐに逃げる様に瞼が降りる。
その意味をウチが知るのは、ここから十三年経ってからの事となる。
そうして再会した時、ウチは最初あの時の子供だという事に全く気付かなかった。何しろ咲良は物心ついてから一度もお参りに来なかったのだ。
でも、彼女が元々別世界の人間であり、赤子となって人生をやり直す事となった──そんな話を聞いた今なら彼女の心情も分かる。
当たり前に魔法が使える世界から、突然選ばれし者しか使えない世界に、それも赤子で転生したのだ。そりゃあ周囲とのギャップに苦しむだろうしストレスだってたまるだろう。特に彼女は魔法に傾倒している節がある。それが使えないとなればその辛さは窺い知れぬものがある。
どうやら、彼女は"厄災の魔女"と呼ばれておりいずれこの世界を滅ぼす運命にあるらしい。
確かに、危うさはあるだろう。彼女の持つ力はこの世界──否、この星そのものを破壊する程の力を持っている。或いは、本当にこの"世界"──宇宙そのものすらも壊せるのかもしれない。奇跡的なバランスの上にこの世界は存続している。
彼女は至って普通の人間だ。ただ力を持ってしまっただけの、ただの少女。だからこその危うさ、だからこその未来。
「そういや、ショゴスが化けとった子って何なん?」
彼女が一瞬消え、そして戻ってきてからウチは訊いた。
鈴木翔……出会った時の反応、そして化けていたと知った怒りからして、確実に彼女にとって大切な存在だったのだろう。
咲良は少しばかり逡巡した後に話し出した。
「彼は……私の、憧れ、でした」
かつて彼女がその光を追い、光の中に消した"勇者"。
出会い、苦悩、そして別れ。その旅路を聞いてウチは何となく理解出来た。彼女は彼の背中を追い続けている。強さに、ではない。その精神性に、だ。きっとそれが、彼女をまだ"人間"たらしめている所以なのだろう。
「でも結局……私は何も、
咲良の目がどこか遠い所を見て呟く。彼の背中を追い続けていたのに、結局偽物にすら気付かなかったのだ。
でも──
「他人の事を理解出来へんのは当たり前やろ」
「……え?」
「たとえ心を読んだとしてもそれは相手の事を"知った"だけで"理解"出来とう訳やないで。もし理解出来たと思ってる相手がおるんならそれはそう思い込んどるだけや。そうなったら余計に自分の中の相手の姿と実際の姿の差に耐えきれんくなる」
人の心は複雑怪奇、宇宙の星粒を数えるくらい難しい。相手の本心だと思っている事でも、実際にはその更に奥に本当の気持ちを隠しているかもしれない。
別にそれは問題ないのだ。隠し事が存在しない関係なんて有り得ない。真に危ういのは、相手を完全に理解出来たと思い込む事だ。
「……貴方がそう言うのは、私の事を理解しているという事ではない、です?」
「いいや? これは単なる推測や」
理解の思い込みは相手への押し付けに過ぎない。
色々と難しい事を言ったが、まあここまでの事を常に心に留めておくのが大事という訳だ。良好な人間関係を保ちたいのであれば。
「まあ要するに、そんなに気落ちせんでもええって事や。そもそもその子が化けてるだけっていうのに気付かんかったのは理解云々とは別問題やろ」
「それは」
「アンタが冷静さを欠いて魔力探知とかを怠っただけや。普段のアンタなら一目見ただけで気付いとったやろ」
「う……」
彼女が目を泳がせる。
目の前の相手が契約している神を一目で見抜く程の"眼"──ただ化けているだけの魔物など本来ならすぐに気付いた筈である。
でも、その油断はある意味安寧だ。
「まあ色々と言うたけど、要するにもう少し気いつけって事やな。あとなんか怪しいなってなったらウチを呼び。力あるからって一人で抱え込み過ぎるのは悪い癖やで」
「別に……そんな、事」
「自分で全部やった方が楽とか思っとるんやろ。どんな小さい事でもええからウチに言い、なんぼでも受け止めたる。ウチめっちゃ神やし」
そんな事を言っていると、彼女は若干うんざりした様な目を向けてくる。
「……なんだか、親みたいなこと、言う、ですね」
「当然やろ。だってウチはアンタの神様やからな!」
「はあ……まあ、頼りにしてる、ですよ。私の神さま」
溜息をつきながらも彼女は言う。
彼女の事は誰かが導かなければならない。正しい道に、とまでは言わない。それは単なる傲慢だ。
でも、彼女が人の道を外れない様に──世界の敵にならない様に、くらいは望んでもいいだろう? それが彼女を選んだ神としての責任だ。
だから──
☨
「本日よりメアリ様の身の回りのお世話をさせていただきます、アイラ・ヴィクトリア・ブラウンと申します。なんなりとお申し付けください」
「あ、はい」
茶髪の少女が恭しく頭を下げる。
何か遠き極東の地で重めの話をしている気がするが、まあ今の私には関係のない事だ。今の私にとっては同年代で同じくらいの背丈の少女がホワイトブリムを付け、王立マーリン魔法学園特有の痴女めいた制服でかしこまってくる方が大変である。
「あー……確かエルーブルー様の侍女ですよね。私なんかについて大丈夫なんですか?」
「お客に快適なスクールライフを送ってもらうのも大切な事だと、姫様は仰られておりました」
「さいですか」
そう言う彼女の顔はどこかほっとした様子だった。ここまで緊張していたのが解けたような、そんな雰囲気。
無理もない。本来であれば彼女が側付きをする相手は私ではなく快人であったのだから。
さて、ここまで来れば説明せずとも分かるだろう。
彼女──アイラは"原作"における海外留学編の第一ヒロインである。イギリスにやってきた快人の身の回りの世話を行うという名目で送り込まれたハニトラ要員だ。
確かその為の色々な"訓練"もやっていた筈……でも今の表情を見る限り、その訓練が無駄になった徒労感よりも知らん男の下の世話をしないで済む事への安堵の方が大きいのだろう。少なくとも今回は純粋なメイドとして送り込まれている筈なのだから。
「とはいってもなあ……特にやってもらいたい事とかもないですし」
「ふふ、そうでございますね。メアリ様はお強い御方ですし」
「そうでもないですよ……まあ、愚痴聞いてもらうくらいかな」
「何なりと」
着替えだって一人で出来るし、同い年の同級生を顎で使うのも気が引ける。
「なら……この制服どう思う?」
「制服、でございますか……ま、まあ仰りたい事は分かります。ええ」
「ですよね~!!!」
レフィナはこっちの方が落ち着くとかほざくし祈里は割と平然としてるし会長は誇りに思ってる節すらあるしで中々この羞恥を共有する相手がいなかったのだ。
いやだって馬鹿じゃないですか。なんだよ上半身リボンだけって。なんだよ下半身前垂れだけって。しかも会長のロザリオのチェーンはこれまたバカみたいな場所に繋がってるっぽいし……それに。
「その……ピアス、痛くないの?」
私はアイラの右胸を指差す。
私よりも幾分か大きいその先端に、布越しだがピアスが付けられロザリオが垂らされている。ハッキリ言ってキャラデザ担当者が暴走した末路みたいなデザインをしている彼女は、顔を赤らめながら答える。
「さ、最初は痛かったですが……慣れますよ」
「なんでわざわざこんな事……」
「メイドの証ですので……」
らしい。
やっぱり痛いんだ。いや、原作では挿絵があるだけで本文では全く触れられなかったから気になってたんだよね。いや快人(原作)も目の前の女がチクピしてるのに何でスルーしてるんだよ。
っていうか挿絵であるのに本文では触れられないってやっぱりイラストレーターの暴走だろ。海外留学編暴走多すぎるゾ。イギリス制服が痴女みたいなのはそういう設定だから良いとしてピアスはやりすぎだろピアスは。
そしてそれに感化されてその後のギリシャ編はもっとやばい事になってるし。いや私は絶対にギリシャには行かないぞ。(フラグ)
などと思考に耽っているとアイラは顔を更に赤らめながらこちらに視線を送り、自らの胸を腕で挟み込む様にして言う。
「さ、触られますか……?」
「結構です」
桜井涼介一筋〇〇年。他の者に目移りなどしない。
さて、これから我が輝かしいイギリス留学が始まる訳だ。
原作における、快人が原因となった騒動なんかはもう起こらない事が確定している訳だが、そうでないイベントは普通に発生するだろう。そしてそれを解決する立場にあるのは私である。
この章では様々なキャラが出てくる。
一般レズカップル、根暗陰キャド巨乳女、イジメっこ系性悪女に委員長系高身長貧乳女……特にイジメ関係で起こるイベントはなるべく解決していきたい所だ。どうせ暇だし。
原作ではアイラは第一ヒロインとなり快人と床を共にする。そしてなんやかんやあってエルーブルーと快人を庇って死に、何人目かも分からない心の傷要員となる。雑にヒロイン死に過ぎで炎上した。
その後快人と一番くっついたのはエルーブルーだ。物語終盤では普通に子供までいた気がする。いや死んだんだっけ? あんまりそこまで覚えてない……涼介君が死んだ後の話だった筈だし。
まあともかく、この留学における目標は「良い学園生活を送る事」! これに尽きる。
折角
アイラ・ヴィクトリア・ブラウン
【挿絵表示】
ちらっと出てきたギリシャのやばみに関してですが……
『元々財政破綻してた様な国が魔法師の出現で一気に三大列強にまでのし上がった』
『そのためギリシャでは魔法師の数を重視している』
『魔法師は魔法師から生まれやすい』
あまりにもあんまりだし深夜の悪ノリみたいな設定なのでほんへで語る事は多分ないです。
というか世界各国への風評被害が凄い。すみません(平伏)
次回は多分四章に入れると思います。
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