押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
龍の籠──それは、魔物が無限に湧き出てくる釜『ダンジョン』を中核とした、魔物に占領された地域の通称。魔物がもたらす"富"──それを倒す事によって得られる様々な資源は現代社会の根幹を支えている。
だが、魔物は人間を襲う。世界が平和に動いている裏では、命がけで魔物達を抑え込んでいる者達がいるのだ。
群馬コロニー。旧群馬県地区に発生した、国内最大級の龍の籠。旧前橋を中心とした半径約30kmの範囲を立ち入り禁止区画として物理的な壁と魔術結界によって覆っている。
だが、それがあっても80年前に発生した第二次魔物燐動においては魔物が溢れ出し、多くの死者を出す事となった。その反省を活かし、現在では結界を過信する事なく内部に幾つかの駐屯地を設置し常時人の目によって監視している……
「……チッ」
北側には鬱蒼とした色とりどりの原生林、南側には魔造硬質セラミックによって造られた高さ50メートルもの壁が薄っすらと、それ以外は真っ白な霧しか見えない。
ここは人間社会から完全に切り離された場所。厄介者が最後に流れ着く場所。
群馬コロニー帝都方面監視基地、美里駐屯地。今日ここに新人が来るらしい……その名前を見て、アタシは小さく舌打ちをした。
陸軍の九六式
透き通る様な白い肌、艶やかな濃紫色の長い髪、モデル顔負けのスタイル。この国の民ならば、ある意味最も今有名な少女かもしれない──そんな彼女はアタシの前まで来ると敬礼する。それは本来であれば絶対に有り得ない光景であった。
「柊輝夜伍長、只今着任いたしました」
「……基地司令の
「……」
その少女──柊輝夜はアタシの煽りにも何も返さず、ただこちらをじっと見つめるだけだった。
「その虚勢もいつまで続くか見ものだな。来な、基地を案内してやる」
輸送ヘリは彼女一人を降ろしただけで再び飛び去っていく。
ヘリはやがて霧の中に突入し、そのまま見えなくなった。
「見たかい、ここは外界と隔絶されてるのさ。アンタのご先祖サマがかけた結界のお陰でね」
あの霧の結界はかつて原初の十一人が一人、柊花音が構築した物だ。龍の籠内部の魔力を吸収し半永久的に作動し続ける非常に高度な結界であり、たとえ一部が崩壊したとしても時間経過で自然治癒する優れモノ。
「アタシらの任務は何か分かるかい?」
「魔物の動きを監視し、帝都への被害を未然にふせ「違うよ。アタシらの任務は──」
アタシの問いに輝夜は教本通りの回答をする。が、そんな程度の覚悟ではここでは生きていけない。
否、そもそもここで"生きて"いこうと思う事自体が間違っている。
「──"全滅"する事さ」
柊輝夜。かつて十華族の花とまで称され、輝かしい将来が約束されていた少女。彼女は一夜にして十華族史上最悪の裏切り者という不名誉な称号を賜る事になった。
輝夜事件。柊家が抱えていた悪事を全国生放送で暴露したとんでもない事件であり、そのあおりを受けて十華族最大の権勢を誇っていた柊家は今、お取り潰し寸前にまで至っている。それ程までに彼女の暴露した事は衝撃的であり、如何に十華族とはいえ政府も庇いきれなかったのだ。
その影響は軍内部にも出た。これまで幅をきかせていた柊派閥の多くが粛清され、軍の運営にもガタが出た。その為、軍と政府の多くの者は今でも輝夜の事を恨んでいる。
「それにしても魔法師で伍長、ねえ……お前さん、何でこんな所に来たんだい。政治闘争に負けて島流しでも食らったのか?」
「……そんな所です」
魔法師は原則少尉以上になる。魔法学園を最低の成績で卒業したとしても、魔法師というだけで大半の兵士よりも高い階級になる。十華族ならそれだけで大尉、下手すりゃ佐官だってあり得るだろう。
だが、彼女は伍長。下から五番目の階級。
「ふん、良いざまさね。いやあ気持ちがいいね、いつも威張り腐ってるお貴族サマがこうやって落ちぶれてる姿を見るのはさ」
「……」
やはり彼女は何も言わない。
アタシは偉い奴等が嫌いだ。あいつらはいつも安全な後方で指示を出すだけ、前線で死ぬ兵士の事は数字でしか見ていない。
さっき言った「アタシらの任務は全滅する事」の意味。後方の奴等は、アタシらが幾ら危機を訴えても動かない。アタシらが全滅して初めてそれを脅威と認め、改めて結界外で防衛体制を整えるのだ。
つまり、アタシらの役割は時間稼ぎですらない。上の奴にとってこの基地は警報装置に過ぎないのだ。全滅したら魔法師1名含む38名戦死、と骨も拾われずに報告されるだけ。
全滅するまで何人死のうが増援が来る事はない。警報装置に送るくらいなら結界外で待機させる方が余程マシ、という事なのだろう。
「ここはしょっちゅう魔物が襲ってくる。前来た奴は一週間で死んだ。その前は四日さ。さて、お前さんは何日持つかね?」
兵士の墓場にやってきたお嬢様。政治ゲームに負けて流されてきた、或いは前線に出てみせることで軍内部の支持でも集めようとしているのか。
兎も角、温室育ちの少女ではすぐに音を上げるだろうと考えていたのだが……着任してから一週間が経った今でも彼女は真面目に軍務を続けている。毎日他の兵士よりも早く起き寝床を整理し、点呼にも必ず応答する。
しかも部屋は男共と同じ四人部屋。そりゃあそうだろう、伍長如きに与える個室はないし、そんな事すれば他の者に示しがつかない。そんな尊厳無視な待遇を受けても彼女は文句一つ言わず働いている。
その余裕はどうしても──鼻につく。
「今日お前さんにやってもらうのは監視装置の点検及び修理だ。第五小隊に随伴してこの地図にある装置を点検してこい」
「了解しました」
監視装置は基地の周辺に設置されている有線式の魔力感知装置であり、複数の魔物が基地方面に向かった際の動きを基地へと伝える。
これは頻繁に魔物に破壊されており、定期的に直接赴く必要がある。そして、この任務の死傷率は非常に高い。当然である。各種兵装で守られている基地から生身で外に出るのだから。毎回必ず二人はドッグタグで帰ってくる。
到底新兵に任せる任務ではないが……ここで死んだらその程度の奴だった、というだけだ。そんな考えでアタシは彼女を送り出した。
果たして、彼女は帰ってきた。それだけではない、小隊の兵士全員が生きて帰ってきたのだ。
兵に訊いてみたが、別に魔物が襲ってこなかったとかそういう訳ではなく、寧ろいつもよりも圧倒的に活発だったのにも関わらず輝夜は奮戦し、事実上一人で小隊を守り切ったのだという。
そして、そんな大役を務め切った彼女は今もいつもと同じ様に粛々と軍務をこなしている。
「……これもお貴族サマの余裕、ってか」
ああ、やはり鼻につく奴だ。その余裕が気に入らない。その余裕を、壊してやりたい。
☨
「……」
就寝時間となった。
龍の籠の夜は不気味な緋色だ。霧のせいで月光すらも入ってこず、魔素に付与された性質通りの色に染まる。
この基地に来てから二週間が経った。
私一人の力では、やはり柊家という巨大権力に抗うには足りなかった。どこからか手を回し、私はいつの間にか軍人という扱いになり有無を言わさずこの基地に送り込まれる事となった。
とはいえ、良い機会だとも思った。常に戦いが身近にあるこの世界で、一度も戦った事のない者の話を聞く傾奇者はいない。ここで暫く実績を積み、改めて柊に立ち向かう。それが私の思惑だった……のだが、最前線は私の思っていた以上に過酷な環境だった。
「……」
気軽に補給も望めない立地。魔物の襲来で破壊された箇所は応急処置が何重にも施され、空調も碌に効かず、食事は大半が龍の籠内部で採れた得体のしれない素材で作られた物と味気の無い栄養バー。それですら意図的に減らされている節がある。
部屋は男の一般兵士と同じ部屋。プライベート空間といえば、カーテンで区切られたベッドの上だけ。化粧品など当然の様になく、風呂は一週間に一度のみ。男兵士が入った後の垢だらけの冷めたぬるま湯。それ以外の日はシャワーだが、一人に割り当てられた時間は非常に少ない。
軍務も辛い。一般兵のそれに加えて魔法師としての物もやらねばならず、休憩時間は寝る時だけだ。
「……朧は元気にやってるかしら」
思い浮かぶのは私についてきてくれた妹の顔。前線行きを察知した時点で私は彼女を
そんな事を考えながら眠りにつこうとした、その時だった。
「──!?」
シャッ、とカーテンが開けられる。慣れない環境で疲れ切った身体では反応する事も出来ず、私は一瞬で押し入ってきた男に覆い被される。
「え、あ……」
「はあ、はあッ……もう限界だ。そんなカラダして、誘ってるんだろ? くれよ……俺にさあ!」
下卑た笑みを浮かべて熱い吐息を浴びせてくる。彼は同室の軍曹、つまり私の上官だ。
「ずるいですよ軍曹殿ぉ」
「俺にも分けてください」
「よーし、お前らは手を足を掴んどけ。幾ら魔法師といったって所詮はガキだからな」
同室の残り二人も同調して襲ってくる。
私は動けなかった。それは咲良にかけられた呪いのせいだけではない──初めて感じる"男"の情欲に、私は完全に萎縮してしまっていた。
男の手が私の身体に伸ばされる。どうやっても動けない、私はぎゅっと目を瞑り──
「お前ら、ガキ相手に何やってんだい」
──人の声が聞こえた。
「あ、姐さん」
「ったく……昨日もあんなに絞ってやったのにまだ足りなかったのかい? 今日の所は見逃してやるからさっさと寝な。輝夜、お前さんはアタシと一緒に来な」
扉を開け、男達を止めたのは紫雨大尉だった。彼女の言葉で彼らはすぐに萎縮し、そそくさと自らの寝床に戻っていく。
自分の身体を抱きかかえて呆然としている私に、彼女は言った。
「何ぼさっとしてるんだい、早く来な」
「……ッ、は、はい」
背後から感じる下卑た視線に気付かぬふりをして、私は彼女について出ていく。
「災難だったね。でも許してやってくれ、こんな場所じゃあ溜まる物も溜まり続けるのさ」
「……」
「不服、って顔だね」
私は凌辱されかけたのだ。それを許せなどと、出来る訳もない。
そう考えていると、彼女は訊いてくる。
「なら質問するが──なんでお前さんはアイツらを殺さなかった? 幾ら伍長とはいえお前さんは魔法師だ。あの状況で三人全員殺した所で軍法会議にすらかけられないよ」
「それは……」
「萎縮して動けなかった、かい? まあそれもあるだろうが……それでも魔法師ならいざとなれば反撃の一つくらい出来る筈さ。だがアタシが入った時のお前さんにはその素振りすらなかった」
魔法師は魔力補充の為に露出しなければならない──そんな原則は、魔法師が軍人として活躍し始めた時に大きな問題となった。
何しろ、魔法師を除けば軍人など殆どが男性だ。強姦事件、未遂も含めれば星の数程起きた。その度に法整備が行われ、今では魔法師が一般兵に行う事は大体何でも正当防衛として不問にされる。
それはたとえ上官相手でも変わらない。あの場で私が軍曹を殺していたとして、彼女の言った通り裁判すらなく闇に葬られる。
「別にあの場で殺していたとしてアタシはお前さんを軽蔑しなかっただろうさ。でも……お前さんは傷付けようとすらしなかった」
「……」
「ハハ、アタシの負けだよ。これまで色々とすまなかったね、お前さんは本物の"兵士"だ。お貴族サマじゃない」
彼女が差し出した手をおずおずと握る。
正直な所、仮にその意思があったとしても呪いのせいで素振りすら見せられないのだが……まあ、言わない方が良い事もあるか。
その後、私の待遇は大幅に改善された。
私の部屋は移動になり、大尉の個室に簡易ベッドを置いてそこで寝る事になった。本来であれば魔法師用の個室がもう一つあるのだが、そこは以前の襲撃で破壊されてマトモな修繕もなされていないかららしい。
また、化粧品や生理用品も大尉の分を分けてもらえる様になった。食事に関してだけは改善しなかったが……そこはそもそも大尉すら一般兵と同じ物を食っていたので仕方がない。
どうも彼女の悪感情は完全に反転したらしく、今では私の長い髪を風呂上りにドライヤーですいてくれる様にまでなった。
また、共に任務に出る事も多くなり、背中を任せる間柄にもなっていった──
カンカンカン!!!
──だが、そんな日常は儚くも崩れ去る。
落ちぶれた輝夜先輩……
ちなみに魔物相手には呪いは発動しません
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