押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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英雄の帰還(後編)

『総員戦闘配備!! 魔物の大規模な接近を確認!!』

「司令、この数は……」

「ああ……クソッタレ、何でアタシの居る時に起こるんだよ」

 

 非常事態の鐘が鳴り響き、私達は作戦室に呼び出される。

 その内容は魔物の襲撃。それだけなら普段からある事なのだが……問題はその規模だった。

 

「数万単位の活性化……これって、まさか」

「ああ……魔物燐動だ」

 

 魔物燐動──魔物が一斉に活性化、暴走し人間社会を襲う現象。

 前回は80年前、その被害たるや凄まじく、死者行方不明者は十万人を超え、あの菊花彩芽の息子や孫娘なんかも死んでいる。それ程の大災害。

 しかも、今回は。

 

「おい……嘘だろ」

 

 監視櫓に上り龍の籠方面を見た大尉がうわ言の様に呟く。それに私も魔力で視力を強化して見る。

 そして、絶句した。

 

「あれは……王山龍(デメテリアス)……!? まさか、そんな、あれが目覚めるなんて」

 

 それは、ここ群馬コロニーに君臨する巨大な"龍"の名。

 龍の籠の各コロニーにはそれぞれその地域を支配する龍がおり、例えば世界最大級のハワイであれば深淵祖龍(エンシェントドラゴン)海神龍(リヴァイアサン)の二体が君臨し、何人たりとも寄せ付けない未到達区域と化している。

 そして、今の世界にそれら龍に対抗する手段は殆ど存在しない。各国の最高神との契約者であればギリギリ戦いになるか、という程度。

 

 今回動き出した王山龍(デメテリアス)は全長5km、高さ1.2kmにも及ぶ、一見すると岩山に見える巨大地龍である。これに対抗するには天照大御神クラスの火力が必要となるだろう。私の精神魔法だって通じるとは思えない。

 

「クソッ、こんなのアタシ達の手に負える案件じゃない。上への報告は!!」

「やってますがノイズが酷く繋がりません!!」

「なら直接伝えに行くとするぞ!! 基地は放棄する、夜逃げの準備だ!!」

 

 彼女の判断は早かった。どうやら、あんな事を言っていた割には死ぬ気など無かったらしい。有難い事だ。

 

 だが──

 

 

「──ッ!?」

 

 

 基地直下から溢れんばかりの魔力反応を感じた私は咄嗟に大尉を突き飛ばす。

 直後、監視櫓がある地面を突き破り飛び出て来たサンドワームに私は監視櫓ごと呑み込まれた。

 

 

   ☨

 

 

「あ、お、おい!! 輝夜!!」

 

 表情を豹変させた輝夜によって突き飛ばされた私は、直後襲い掛かったサンドワームから辛くも逃れる事に成功した。だがその代償に、輝夜は私達が立っていた簡易の監視櫓ごと呑み込まれてしまった。

 

「クソッタレ!! おい砂ミミズ野郎、輝夜を吐き出しやがれ!!」

「総員火力をサンドワームに集中!!」

 

 アタシは固有兵装である刀を抜き、水を纏わせて斬りかかる。同時に基地の兵士達が設置されている榴弾砲をサンドワームに向け、放つ。

 だが、そのどちらもそれにはまるで通じなかった。傷一つつかないのだ。明らかに普通のサンドワームではない。

 やがて奴は私を標的としたようで、こちらに向け大口を開けて飛び掛かる──

 

 

「──はあッ!!」

 

 

 直前、奴の胴体に一閃が走り、次の瞬間には両断されて崩れ落ちる。

 

「か、輝夜!! お前さん無事か」

「ええ……何とか。どうやらこの魔物は龍の魔力にあてられて強化されてるみたいです。以前の魔物燐動の際にも同じ様な現象が見られたと聞いた事があります」

 

 どうやら体内から輝夜が斬ったらしい。彼女は自らの刀についた緑色の血を振り払う。

 これまで彼女の戦う姿は訓練か雑魚相手のそれしか見ていなかった為忘れていたが──彼女は、十華族の花とも称えられた魔法師なのだ。

 

 だが。

 

「……状況は絶望的ですね」

 

 彼女は遠方を見ながら呟く。

 迫りくる数万の魔物、しかもそれらは龍によって強化されており、極め付けにはその龍本体まで控えている。

 そしていつの間にか、基地の背後も魔物に取り囲まれていた。先程の同型のサンドワームが回り込んだらしい。逃げ道は失われた。

 

「増援は来ると思いますか?」

「そもそも上の奴等はこれを知ってるかどうかすら分からないよ」

「ともすれば、あてのない籠城ですね」

 

 通信は繋がらなかった。元々確率の低い増援が来る可能性が、今となってはほぼゼロである。彼女の言う通り、希望の無い籠城をする他ないだろう。

 

 そして、そんな戯言に子供をつき合わせるつもりは毛頭ない。

 

「輝夜、お前さんは結界の外に行って状況を伝えるんだ。お前さんは飛べるだろ、最適だ」

「それは大尉も同じじゃないですか。失礼ですが、私の方が強いのでより長く持ち堪えられる筈です」

「はん、バカ言うんじゃないよ。アタシはこの基地の司令だ、部下を放って逃げられるか」

「なら私も残ります!」

「じゃあ誰が報告しに行くんだい。お前さんはあのバカ共を結界まで走らせる気かい?」

 

 アタシ達以外に魔法師はいない。そのアタシらが行かなければ、兵士達を生身で基地の外に放り出して結界まで地獄のマラソンをさせなければならなくなる。まず間違いなく死ぬ。

 アタシは輝夜の双眸を見つめて言った。

 

「いいかい? ここの事が伝わらなきゃあの化け物共が直接帝都に行く事になる。上の馬鹿共はどうだっていいけどね、お前さんみたいな子供達まで死ぬ必要はない」

「っ……紫雨大尉……!」

「短い間だったけど、お前さんといた日々、楽しかったよ──さあ行きな!! 早く!!」

 

 彼女は涙を滲ませながら飛び出していく。

 そうだ、これでいい。やっぱり子供がこんな前線に居るべきじゃない。お前さんはもっと明るい世界に居るべきだ。

 折角見えた希望だったけれど……でもまあ、最期に見る夢としては上質だったろう。

 

「──さあ、最期くらい目一杯踊ってやろうじゃな「姐さん! 本部より緊急通信!」なんだい急に!! というか回線が回復したのかい!?」

「分かりやせん、突然回復しました!」

「で、内容は!」

「はっ……『統括元帥による前線視察を行う』との事です!」

「はあ!?」

「ええ!?」

 

 その声を聞いていたのだろう、輝夜も戻ってきて同じような反応を示す。

 お前さんはさっさと行け……と言いたい所だが、まあこんな馬鹿げた通信が来たらこうなるのも分かる。

 

「統括元帥って……あの老衰寸前の死にかけババアだろ? クソッ、このクソ忙しい時に!! それよりも回復したのならさっさと状況を伝えな!!」

「それが……通信は一方通行になってるみたいでして」

「これ……膨大な魔力で無理矢理通信を流してますね。凄い、こんな事出来るんだ」

「なんだいそれは……」

 

 輝夜が言う。

 意味が分からない。そんな事をしてまで伝えたいのが143歳のババアの来訪を告げる事だという事がより理解出来ない。もっと伝えるべき事は幾らでもあるだろうし、何より通信が通じないのならそれの確認が先だろう。

 

「そ、それで姐さん……」

「なんだい」

「視察時期なんですが……今です」

「は?」

「今、来るらしいです」

 

 通信士の言葉に、私は言葉を失った。

 今? どうやって? というかこんな戦場に視察? 沸々と怒りが湧いてくる。

 

「……馬鹿共ばっかりだ! やっぱり上の奴等はクソだ! 何が元勲だ、クソッタレ、どうせ来るならさっさときてアタシらと一緒に死ね!」

「死ぬ気なんてありませんよ」

「いーや死んでもらうね! こんなば……誰?」

 

 アタシが悪態をついていると、不意に知らない声が聞こえてくる。

 隣を見ると、そこには見知らぬ少女が立っていた。菊の髪飾りをあしらった黒い髪に金と藤の混じった神秘的な印象すら受ける瞳……どこか、見覚えがある気がする。でもどこで見たかは分からない。

 

「ふふ、通信がちゃんと届いたみたいで良かったです」

「え、いや、そんな事きいてるわけじゃ……輝夜? どうしたんだ」

 

 見当違いな言葉ばかり吐く謎の少女を前にしてアタシが困惑している中、隣の輝夜は目を丸くして口をパクパクさせていた。

 彼女の知り合いなのだろうか──その思って改めて少女を見ると、ある事に気付く。

 その少女は軍服を着ていた。魔法師特有の腹回りが大きく開いた軍服で、その色は黒。海軍特有の濃藍色でも、陸軍特有のくすんだ緑色でもなく、胸元には夥しい数の勲章が付いている。そして肩にあるべき階級章は無く、代わりに腰には通常の軍刀とは違う、毛抜形太刀を模し鞘や金具に菊花紋章が施された豪華絢爛な刀が提げられている。

 そして、この国でその刀を提げる事を許されているのはたったの三人だけ──その中でも、黒い軍服を着ているのは帝国軍創立以来一人しか居ない。

 

「この姿では初めまして、紫雨司令に柊伍長。予備役総監を務めている菊花彩芽統括元帥と申します」

「えっ、えっ、えっ」

 

 いみが、わからない。というかワンチャンさっきまでの暴言聞かれてたんじゃないのか。あ、終わった。

 いやおかしいだろ!! 昔遠目から見た事あるけど十何年前でもう死にかけの老人だったじゃないか!! なんでこんな輝夜よりも年下みたいな見た目になってるんだよ!?

 というかこの姿教科書で見た事あるわ!! 魔法事変とか一ヶ月戦争の頃の姿じゃないか!? 道理で見覚えがある筈だよ!!

 

「ここであまり長話をしている暇はなさそうですね。取り敢えず──」

 

 そう言うと彼女は魔装を身に着け、光り輝く粒子が舞ったかと思えば周囲から爆発音の様なけたたましい音が鳴り響く。

 かと思えば、それが収まった後には先程まで嫌と言う程聞こえていた魔物の唸り声がさっぱり消えてしまう。まさか──アタシの足は自然と基地の外まで動いていき、そこに広がる光景に唖然とした。

 

 何しろ──そこには生物の姿はなく、あるのは地面から伸びた無数の柱とそれに貫かれた肉塊だけだったのだから。

 

「一旦基地周辺の魔物は片付けました。後は王山龍とその周辺の奴等ですね」

 

 それをやったらしい彼女は、まるで何てことない様に言う。

 

「ど、どうなったんだ……?」

「お、俺達、助かって……?」

 

 これから死ぬ覚悟を決めていたのだろう兵士達も呆然とし、やがて浮かび上がった少女の姿を見て誰がこれをやったのかを本能的に理解する。

 軍服を模した幻惑的な魔装をはためかせた彼女は龍の籠特有の魔力を塗り潰す程の濃密な魔力を放出し、場の雰囲気を一瞬で塗り替える。

 そうして視線を自身に集めた彼女は刀を振り上げる。

 

「皆さん、よく頑張ってくれました。あとはこの私──菊花彩芽に任せなさい」

 

 その声は決して大きい筈もないのに、どういう訳か耳に直に聞こえてくる。恐らく自らの魔力に音を乗せているのだろうが、そんな事情を知る由もない兵達は皆一斉に歓喜する。

 士気が上がったのを見ると、次に彼女の切っ先は未だ迫りくる王山龍へと向けられる。

 

「……これまでこのコロニーは日本に多くの恵みと、更に多くの厄災を放ってきた」

 

 切っ先に莫大な量の魔力が集まっていき、眩いまでの光を放つ。

 一体どんな大技を放とうとしているのか、アタシには想像すら出来なかった。

 

 だが、輝夜にとっては違ったらしい。

 

「そんな……あの、魔力は……!?」

 

 彼女はあの光を見て安堵と絶望が入り交じった様な顔をしていた。前者は分かるが後者はどういう事なのだろうか。

 

 そんな輝夜を他所に少女が放つその光は強まっていく。

 

「今ここにその軛を断つ。今の私ならそれが出来る──」

 

 そして。

 

 

「──"ショックカノン"!!」

 

 

 刹那、爆発の様な音が鳴り響き切っ先から白がかった緑色の光線が三本同時に放たれる。

 それらは空間を貫く間に結びつくかの様に捻じれ収束し、王山龍に直撃。巨大な岩山は内部から木端微塵に砕け散り、それを遥かに超える程の爆発が起こり周辺の魔物を軒並み消し飛ばす。

 立ち上ったキノコ雲は頂点が見えない程の高さまで伸びていた。

 

「は、はは……滅茶苦茶だ……」

 

 そんな光景を見てアタシはただ笑う事しか出来なかった。

 絶対に倒す事が出来ないと言われていた龍をたったの一撃で吹き飛ばしてしまったのだ。これが"元勲を超えた元勲"なんて呼ばれていた女の力だというのか。

 何故若返っているのかは全く分からない。でも一つだけ分かる──彼女は、本物だ。

 

 ならば。

 

「お、おい……いや、閣下!」

「はい、何でしょう」

 

 降りて来た彼女にアタシは駆け寄る。

 

「貴女が本物の統括元帥閣下だというのであれば、この基地の……いや、前線の状況を変えてもらいたい!! 確かにここに居る者達は軍でもシャバでも居場所を失った爪弾き者達ばかりです、でも、それでも」

「ああ、その事ですか」

 

 アタシの言葉に彼女は柔和な笑みを浮かべ、周囲を軽く見回す。

 

「創設の時に見た物からすっかりボロボロになってしまいましたね……ええ、安心してください。その為に私が来たのですから」

「──っ!!」

 

 言葉が出なかった。

 ああ、ようやくアタシ達は──

 

 

   ☨

 

 

「柊伍長、何か言いたげですね」

「……貴女は、本当に菊花彩芽なのですか」

 

 全てが終わり、皆が歓喜に沸く中私は彼女に問いかける。

 その姿は教科書やドキュメンタリーで散々見た物に酷似している。魔装にも魔力にも差異はない。余りにも完璧な、若かりし菊花彩芽である。

 

「ああ、若返った事ですか? それは「違います!」

 

 ただ、一つだけ。

 

「あの魔法は──"ショックカノン"は、厄災の魔女の魔法でしょう……!!」

「それは……ん? 厄災の魔女? 何の事ですか?」

「とぼけないでください! その魔法を軽々と使いこなせるのは厄災の魔女──朝露咲良しかいません!」

 

 私が言うと、彼女は暫く考え込んだ後に何かに納得した様だった。

 

「ふふ、そういう事ですか、はは」

「何がおかしいんですか……!」

「いえ、いえ、何も。ただ少し自分の滑稽さを思い出していただけです……伍長、安心してください。貴女が思っている様な事はないですよ。私は間違いなく本物の菊花彩芽です」

 

 そう言いながら妖艶な笑みを向けてくる彼女に、私は疑いの目を向けるのをやめられなかった。そんな私に彼女は言う。

 

「それはそうと伍長、貴女の事はま……咲良から聞いていますよ。頑張っているみたいですね」

「っ……何を」

「何かあったら私に連絡してくださいね、出来る限り力になりますよ」

 

 分かった様な口をきく。まあここでムキになっても仕方ないので私は彼女に頭を下げる。

 

「なら……朧を頼みます」

「朧……貴女の妹さんですね。分かりました、とりなしましょう」

「ありがとうございます……」

 

 私にとってはそれだけでいい。

 結局の所これは禊なのだ。ここで彼女の力を借りれば全てが容易く解決してしまうのかもしれないが、それでは意味がないのだ……或いはそう思う事すらも魔女の呪いなのかもしれないが。




次回は海です


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