押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
「はぁ……」
赤黒い魔の霧はとうに晴れ、空には煌々と輝く巨大な月と負けじと光る大三角。
眼下に広がるは無数の砲身を備えた巨大な鉄の城とそれを取り囲む無数の砦──ここは海の上、第一親衛艦隊旗艦、紀伊。その見張り台の屋根に私は腰かけていた。
どうやらここの司令官は私に軍人としての心構えを叩き込みたいらしく、夜間の見張り員としての任務を与えたのだ。龍の籠内部ではレーダー類が利かない為、現代艦にはほぼ必ず高い見張り台が設置されている。魔法師がいない、或いは少ない小型艦であれば視力の高い兵士が、魔法師の多く戦略的に重要な大型艦であれば魔法師が担当する。
紀伊は無論後者であり、戦闘魔法師の下っ端が交代制で務めることになっている。現状私は少尉待遇、艦内の魔法師では最も下っ端だった。
──因みに咲良は知らないが、茉莉のこの采配は賛否両論だった。
賛成派としては、彼女程の魔法師が見張るのであれば艦隊は如何なるシステムをも上回る警戒態勢を敷く事ができるだろう、というもの。
反対派としては、彼女程の魔法師を見張りに使うのは勿体ない。いざという時の切り札として休息をとらせるべきだ、というもの。
結果としては、司令官権限によって厄災の魔女が見張りをする宇宙一豪華な戦艦の完成である。
「先輩……大丈夫、かな」
私は遠く昏い森に赴いている先輩に思いを馳せる。
ここに派遣されてから一週間。四日前に炉欄先輩含む三回生と一部の二回生は群馬コロニー付近の駐屯地にて前線演習を行っている。
彼女らがいるのはコロニーを取り囲む壁の門としての役割を果たしている桜沢駐屯地。そこで生徒達はコロニー外縁部の比較的弱い魔物を相手に、正規兵の監督下で戦うのだ。
駐屯地のさらに内側には彩芽がいる美里駐屯地があり、私も念の為にと偵察用のスズメを放っているので万が一にも危険なことはないとは思うが……それでもやっぱり心配である。
彼女が出発する前、私は以前雲雀に渡した物と同系統の「自らに敵愾心を持つ者が近づいたら反応するペンダント」を渡そうとしたのだが……
『ワシに悪意を持つ者など幾らでもおるからの。そんな奴等に一々反応していては咲良もワシも気が休まらんじゃろうて』
などと言って断られてしまった。
どうも先輩は私が干渉しすぎるのを避けている様だった。自分なんかに構わず自分自身の人生を歩め──そんな思惑があるようだがそれは私を舐めすぎである。別に私なら全人類の一挙手一投足を監視しながらスイーツを頬張る事だってできるのだから。
とはいえ先輩の意思は尊重したい。なんでもできるからこそ、一線を保つ必要がある。
苦肉の策として使い魔で駐屯地周辺を監視し、危険度の高い魔物がいたら適度に間引いている。
前線演習の期間は約二週間。何とかそれまでにこのつまらない任務を終えたいのだが、現状終わりが一切見えない。
魔物燐動を私が消し飛ばした時点でこの艦隊の役割は日本防衛から前線警戒へと移っている。いつ来るかもわからない、そもそも来ない可能性の方が高い敵に備えているのだ。
それならいっその事ハワイを消し飛ばしてしまえばいいのではないかと思い立ち司令官に提案してみたが、国際問題になるといって却下されてしまった。面倒な事である。
「はあ……」
私は今日何度目かも分からない溜息をつき、屋根に寝転がる。別に寝ていたところで私の探知魔法はハワイの羽虫の羽ばたきに至るまで捕捉している……
「──やあ、咲良。何を見てるのかな?」
「……少なくとも、あなたじゃない、ですよ」
「冷たいなあ」
──だから、その白髪の少年が張り付けた様な笑みで私の顔を覗き込んでくるのもわかっていた。
私が塩対応していると、彼──桜井涼介はわざとらしく困り眉にさせながらおもむろに隣に座ってくる。これがよく知らない奴であれば軽く殴り倒してやる所だが、生憎彼は先輩の息子。全力で嫌な顔だけしておく。
「……そこまで嫌がらなくてもいいんじゃないかな」
すると彼の本音が少しだけ漏れ出してくる。
私は視線を彼の"奥"へと移しながら言う。
「学園を襲ったり……戦艦を、爆破する奴等に……好く要素がある、とでも?」
「まあ君から見れば変わらないんだろうけれどさ、少し言い訳をさせてくれないか?」
そういうと彼は自らの立場を説明する。
色々と語ってはいたが、要するにこれまで悪さをしてきた奴等とは別の派閥であり、自分は無関係であると言いたいらしい。それは少々無責任ではなかろうか。
「私がいなかったら、どうなっていた、と……思ってる、ですか」
「それに関しては本当に感謝してるよ。何分僕だけじゃどうしようもできない事ばかりなのさ。それに──"組織"が掲げる理念だけはこの世界にとって必ず必要になるものだと信じてるよ」
彼は立ち上がり、月に背を向けて両手を広げて言う。
「──この世界にやがて訪れる"厄災"を倒す」
「厄災の魔女、ですか」
「お、知ってるのか。なら話は早いね」
ああ、私は何度この流れをしなければならないのだろう。
「知ってるも、何も……厄災の魔女は、私です」
「は……」
私がそう言うと彼はその大仰なポーズのまま固まる。私ははあ、とため息をつく。
「だから、もう解散すればいい、です。別に私を、殺したいのなら……勝手にすればいい、ですが」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……いや、そんなはずがないだろう。厄災の魔女は……」
彼は頭を押さえる。
「……否定できる材料がない。それに今のところわかってるのは、君が僕らじゃ敵わない相手だって事だけだ」
「そう、ですか」
「そ……そんな君を見込んで頼みがある」
「?」
彼は冷や汗を流しながらもこちらを見据える。珍しい反応だった。
「君に守ってほしい人がいる」
自らが恐れる相手に縋る──そうまでして守りたい人物が彼にもいるらしい。そしてこれまでの記憶から、それが誰なのか何となくわかった。
「炉欄先輩、ですか」
「……そこまで知ってるのか。記憶でも読んだのかい?」
「いえ……前、二人で話してる所、見た、です」
「見られてたのか……全然気付かなかったよ」
まあ私だって芽有がいなければ関係性を知る事もなかったのだが、彼女自身はどこか彼に認知される事を極端に恐れている様に見えるので伏せておく。
……そういえば。
「どうしたんだ、いきなり携帯なんて取り出して」
「いえ……少し、動画を撮らせる、です」
「動画? いや、ちょっと困るけどそれは」
「個人的に残しておくだけ、ですから」
そういえば芽有に動画撮ってくれとか言われていたんだった。ここまで完全に忘れてしまっていたな。
私が携帯を向けると彼はプライベートのアイドルみたいに顔を隠してくる。
「と、とにかくだ! 話を戻すよ、そこまで知ってるのなら僕と彼女の関係だって知ってるんだろ?」
「ええ……親子、ですよね」
「そうだよ。そもそも僕がこの身体になったのも組織で働いてるのも厄災の魔女を倒そうとしてるのも全部母さんを守る為なんだ。でも魔女が君でその君が善良な存在なのなら──」
そこまで言いかけて彼は止める。
「失礼、まだ君の意思を聞いてなかったよ」
「……別に貴方に言われなくても、私は先輩を守る、ですよ」
「──それは彼女の意思を尊重した上で、だろう?」
そして直後投げつけられたその言葉に私は顔を顰める。
「……どういう事、です」
「僕はこれまで君を見てきた。君は強い、だからこそ他者とは一歩引いた位置で接してる様に見える」
「……」
彼のその言葉に私は閉口してしまう。それは先ほど私がぼんやりと考えていた事そのものだった。
「けれど、それじゃダメなんだ。それじゃ母さんは守り切れない」
「……」
「君なら知ってもいい。いいや、寧ろ知るべきだろうね」
そういうと彼はぐい、と近寄る。
「僕の記憶を──いや、僕から辿って、母さんの記憶を読め。君ならそのくらいできるだろう?」
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