押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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16年の罪禍

──私を産んだのは櫻島家の女で、父親は当主の夫である。

 その女は十華族の女であるというのに魔法を使えなかったのだという。十華族において、魔法が使えない女など男よりも価値がない。魔法を使えぬ因子などどこの家も入れたくないからこそ嫁の貰い手も無く、選択肢は家を出るか侍女にでもなるしかない。その女は後者だった。

 そんな彼女が当主の夫に迫られて断れる筈もない。かくして私は生まれ、物心ついた頃には蔵に閉じ込められており、傍らには腐った女の死体が転がっていた。その死体もそのうち引き摺り出され、私は独りになった。

 

 

「うわ臭っ……本当にこんな所に住んでるのね。なんで死なないの?」

「そりゃあ死なない様に加減してますからね。母親の方はくたばっちまいましたが……絵良お嬢様、今からコイツの扱い方をお教えしますよ」

 

 絵良と初めて会ったのは幾つの頃だっただろうか。

 下男に連れられてやってきた彼女は、蔵に溜まった血と糞尿の混じった悪臭に顔を顰めつつ彼が私の腹を蹴りつけるのを見ていた。激しい衝撃、痛みはもう感じない。何度目かも分からない嘔吐をし、僅かな胃液が血と共に床に零れる。

 

「コイツに対しては何をしても許されるんですよ。お嬢様もストレスが溜まったらここに来るといいですよ」

「えぇ……でも臭いわよ。態々こんな所来たくないわ」

「まあ最初はそう思うでしょうね。でもっ!!」

「ぅ……」

 

 下男が私の顔を殴りつけ、つい最近生え揃ったばかりの乳歯が数本抜ける。同い年の少女がこの様な目に遭わされているという惨状に流石の絵良も嫌悪感の方が勝っている様だった。

 

 そう、この時は。

 

 

「ああ……ムカつくムカつく‼」

 

 その日、絵良は私の元にやってきて何やら叫びながら小さな手で我武者羅に私を殴りつけていく。言葉の詳しい内容はあまり聞き取れなかったが、モミジだとかカグヤだとかそんな単語が出てきていたので比較でもされたのだろう。そうしてたまった鬱憤をどうやって晴らすかといった時、私の事を思い出したのだろう。

 かつて若干の同情を向けていた絵良はもうおらず、その日から彼女は私を執拗に虐める様になった。妹の唯奈とやらは一度来たきり来なかったが、アレも同情というよりかは蔵の悪臭に耐えられなかっただけであった。

 玩具が壊れない様に最低限の残飯が運ばれ、窓から床にばら撒かれる。豚の餌やりでももう少しマシであるだろう、そんな状態で私は何とか生きていた。私は自己治癒力が高く──今思えばアレは魔法体質である事が関係していたのだろう──ハエがたかる残飯と汚水でも何とか生きる事が出来たのだ。

 

 そうしてある程度育てば今度は男達から向けられる暴力が性を伴う物に変わる。当時の私にそんな知識などある筈もなく、ただただされるがまま横たわっていた。

 

 ある日を境目に私は妙な吐き気に襲われる様になり、食欲が増え、胸と腹が膨らんできた。通常ではあり得ない事だが、奇跡的な確率で私は妊娠してしまっていたのだ。

 だが当時の私は何の知識もなく、十カ月程経った頃に私は激痛によって意識を失い、目を覚ませば赤黒い血に塗れた"何か"が落ちているのを目にする──それが赤子の死骸であると気付いたのは、激痛の余韻が薄らになってきた頃だった。

 

 そして。

 

「何この汚いモノ。えいっ」

 

 出産の負荷で動けぬ私の目の前で、訪れた絵良によってその骸は無惨にも踏み潰された。

 

「ぁ……あ、あ、ああああああ‼」

「は? ちょっ、いきなり何よ!」

「ああああああっ‼」

「やめな、さいよっ‼」

 

 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。私は無我夢中で絵良に飛び掛かる──が、所詮は残飯喰らいの骨と皮だけの肉体である。呆気なくその場に転がされ、私はいつもよりも苛烈な虐めを受ける事となった。

 

「あ……あ……」

 

 幾ら知識がないとはいえ、私とて人間という生物だ。子供の骸を産んだのが私であるという事くらいは本能的に分かったのだろう。

 踏み砕かれた頭蓋を搔き集め、肉と骨のミンチを抱きかかえながら私はただ泣き崩れていた。

 

 

「あれ? キミ、そんな恰好してどうしたの? ち、血出てるよ! だ、大丈夫かい?」

 

 ふとした時、偶然にも下男が鍵をかけ忘れ外に出られ敷地内をさまよっていた時に私は彼女と出逢った。

 私よりも遥かに背も高く肉付きも良い青髪の少女は私を見るや否や血相を変え駆け寄ってくる。そしてポケットから取り出した上質な絹を私の脚の傷を塞ぐ様に巻き付ける。純白の布が赤と黄に染まっていく。その瞬間、私は「いけない事をした」と察しその場に土下座する。

 

「ご、めんなさい……ごめんなさい……」

「え、え?」

 

 だが、恐怖する私を他所に彼女はただ困惑するのみ。彼女から拳や蹴りが飛んでくる事はなく、私は恐る恐る顔を上げる。

 

「と、取り敢えずそこにでも座ってよ。そんな傷……立ってるだけでも辛いだろうに」

「……」

「よく見たらガリガリじゃないか! 何かあったかな……」

 

 彼女は私を座らせると、今度は私の身体を見て慌ててポケットやポーチをまさぐる。やがて彼女はポーチから銀紙に包まれた一粒のキャンディを取り出すと私に差し出した。

 

「こんな物しか無かったけれど、取り敢えず食べなよ!」

「……?」

「え、何でそのまま口に入れてるの。貸して」

 

 どうやって食べるか分からなかった私に対し、彼女は慣れた手つきで銀紙を剥がすと中にあったソフトキャンディを私の口に押し込む。

 刹那、口の中に広がるケミカルな甘み。それはこれまで一度も感じた事のない味覚であり、私は困惑しながら無心に噛み続けた。

 

「どう? 美味しい? 木賊兄さんや亮介兄さん、楓がそれ好きなんだよね。あ、楓はアタシの妹の事だよ……でもごめんよ、今はそれしかないんだ。後でまた買ってくるよ! ああ、あと人も呼んでこないと。そんな布じゃなくてもっとちゃんとした手当をしないと……ちょっと待っててね!」

「ぁ……」

 

 そう言うと、彼女はその場から駆け出していき──その日、再会する事はなかった。

 何故ならば、彼女が来る前に顔面を蒼白にした下男達が私を見つけたからだ。彼らは私を執拗に嬲った後再度蔵に押し込めた。結局、私が彼女と再会したのはそれから何年も先、魔法学園に入学してからになる。

 

 

「う、あ……」

 

 それから二年程経った頃だろうか。その子は奇跡的に生きたまま産まれ、静かな蔵の中に泣き声が響き渡る。白髪の男の子、私は彼に『リョウスケ』と名付けた。特に深い意味などはなく、ただ青髪の少女が話していた名前を覚えていたからそう呼び始めただけだ。

 この子だけは何としても隠さなければならない。私が生きているのは偏に女だからであり、男であるリョウスケなど発見されれば即殺処分されてしまうだろうから。

 

 その日から私は殆どの食料と水をリョウスケに与える様になり、私のなけなしの体重と引き換えに彼はすくすくと育っていく。過酷な日々ではあったが、彼がいるだけで私の心は不思議と満ちていた。気力は動く動力源になる。蔵の中を軽く探ってみた私は古いテレビを発見する。

 近くにあったボロボロの説明書の絵の見よう見まねで、埋もれていたプラグにコンセントを挿しボタンを押すと埃だらけの画面に灯がともる。

 

『フェアリーヒストリーミラフィア!』

「……?」

 

 偶然にもその時は日曜日の朝八時半であったらしい。画面に映し出されたのは女子中学生たちが変身して戦う女児向けアニメであり──

 

 

「……わぁ……!!」

 

 

──見事に私は魅了された。そのミラフィアは歴史を扱うシリーズであり、主人公回りの親子関係なんかも描写されていた。

 子供は一見すると純朴で騙しやすそうだが、実際にはそこらの大人よりも勘が鋭くそして飽きやすい。その為、子供向けアニメは本気で作られる事が多く、ミラフィアもその中の一つだ。緻密に練られ、しかし分かりやすいストーリーに私は見事引き込まれ、その後の人生のバイブルとなる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「──やあ、桃色の小さき母よ」

「……貴方は、誰? 鍵はどうしたの?」

「あんな物、僕にとっては児戯に過ぎないよ。この家のどの人間も、僕の前では所詮蛇に睨まれたヒヨコの様に、ただふわふわと漂っているしか出来ないのさ」

 

 その男は、ある日突然現れた。

 十三歳になってから数日経った頃、蔵の扉が開かれる。重厚な鉄の檻を解き放ったのは焦茶色のトレンチコートを肩にかけた長身の老紳士であり、柔和で不気味な笑みを浮かべた彼は妙な言い回しで炉欄に話しかける。

 明らかに不審者である彼を彼女は警戒し、ぽかんとしているリョウスケを小さな背に隠しながら言う。

 

「私達に何の用、ですか」

「ふむ……ここは単刀直入に言った方が良いだろうね。よろしい、では言おうか」

 

 彼は少し思案した後、彼女に向けて手を差し伸べる。

 

「櫻島炉欄、君の息子を預かりたい」

「──ッ!?」

 

 その言葉に彼女は顔を顰めさせる。

 

「こ、この子は渡さない! リョウスケは殺させない!!」

 

 リョウスケを抱きかかえながら叫ぶのにも構わず彼は近付いていく。ずる、ずる、と彼女は後ずさるが、彼は余裕の表情を崩さない。

 

「君だって理解しているのだろう? 今ここでせずとも、いずれ君は決断を下さねばならなくなる事に。何故ならば君は──魔法師なのだから」

 

 その声で、私の手の震えが止まる。恐怖が消えたのではない、寧ろその逆だ──目の前の男には自分の全てを知っている。私に選択肢を与えている様に見えて、その実私には何一つ権利など与えられていないのだ。

 

「……この子に何をするつもり?」

 

 ならば、あと私が出来るのはリョウスケの危険を認識する事だけ。この子の未来を、直視する事だけ。

 

 だが、次に彼が発した言葉は私が全く予想していない物だった。

 

 

「──近い未来、この世界に"厄災"が降り注ぐ。」

 

 

 そんな衝撃的な言葉を引き金として、彼は言葉を紡ぎ続ける。

 曰く、その"厄災"とやらはこの世の全てを破壊し無に帰す存在らしい。私も、彼も、リョウスケだってその厄災の前には吹いて飛んでしまう様な塵芥でしかない、と。何故そんな事が分かるのかと訊けば、彼はただ"既にそう決まっている"としか答えなかった。誰が何をしようが"彼女"はこの世界に赴くのだと。

 しかし、彼も座して見ている訳ではない。彼は厄災に対抗する為に"組織"を立ち上げ、厄災に対抗する為の手段を探し始めた。今回リョウスケの身を欲しているのはその一環──

 

「──"人工魔法師計画"?」

「存在が不確定な神を人間に融合させ、その力を自らの物とする……それを施すには、神秘の高い若い少年少女が相応しい。全てに見捨てられた少女がそれでもなお産み落とし育てた禁忌の少年……これ以上ない程の適材だ」

「っ……」

 

 要するにリョウスケは実験体にされる訳だ。一世代に数百人しか輩出されない魔法師を作れるというのだから魅力的な実験ではあるのだろうが、明らかに碌な結果にならないのが目に見える。

 

「君の不安を解消できるかは分からないが……」

 

 そんな思考を読み取ったのだろう。彼は私に手をかざすとそこから黒いヘドロの様な物を零す。それは一瞬のうちに私に近付くと、私の身体にある傷口に入り込みジュクジュクという音を立ててそれらを修復する……これは、魔法だ。本来少女にしか使えない筈の、神秘。

 

「被験体一号はこの僕自身だ。これでどうかな?」

「……でも、でも……!!」

 

 彼が魔法師であったとしても実験の安全性が担保される訳ではない。彼一人の裏に数え切れないほどの犠牲があるとして、それを彼が言う筈がないのだ。

 

「……ママ。ぼく、いくよ」

「!? リョ、リョウスケ……」

 

 だが、そんな私の逡巡を他所に他でもないリョウスケが彼の提案を承諾する。

 

「実に聡い子だ……良い母親に恵まれたらしい」

 

 男がそう言い、リョウスケは私の手の中から抜け出して彼の元へと覚束ない足取りで歩いていく。

 行かないで。私は手を伸ばしながらも声は出ない。酸素を求める魚の様にただ口をぱくぱくと動かすだけ。私だって頭の片隅では理解していたのだ。彼を守る為にはこうするしかない事くらい。私の手は空を掴み、一度床に視線を落とす。

 

 そして。

 

「……二つ、条件がある」

「ふむ、という事は僕の事を信頼してくれるという事でいいのかな」

「貴方を信頼する訳じゃない……貴方を信頼した、リョウスケを信頼しているのよ」

 

 その答えに男は口角を上げる。

 

「それでいいよ。僕にとっても君にとっても、その少年にとってもね。さて、では条件を聞こうか」

「リョウスケの命と自由」

「ほう、それだけでいいのかね? 正直な所もう少し……いや、そこまで"理解"しているのか」

 

 きっと彼は、私が私自身も解放する様にだとか、あるいは櫻島家を潰す様になど言うと思っていたのだろう。

 だが、そんな物は必要ない。何故なら私は──

 

「よろしい、ここに取引は成立だ。天と地に誓ってこの少年の身の安全と自由を保証しよう」

「貴方の事は何と呼べばいいの?」

「僕か……ネモ、とでも呼んでくれたまえ」

「ならネモ、一つ気になっていた事があるのだけれど」

 

 私は彼に訊く。

 先程彼は"厄災"の事を"彼女"と言っていた。最初厄災が降り注ぐと聞いた時には隕石でも降ってくるのかと思っていたのだが、この言い方では厄災とは人間、それも女である様に思える。

 そう言うと、彼は少し考えた後に"その名前"を言い放つ。

 

 

「その厄災の名は──」




◇炉欄先輩に悲しき過去……

劇場版レズ レズ編を観たので初投稿です。
アニメから入ったけど思ったよりもれな子が悪かった。

本のタイトルどっちがいい?

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