押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
「ん……」
目を覚ます。目の前にあるのはようやく見慣れてきた魔導混合セラミック張りの天井、窓から月光は射さず、ただ赤黒い空が映るだけ。
ここは群馬コロニー外縁第二監視基地。コロニーを囲む壁の出入り口として作られたこの基地は、今女学生達の修学旅行先になっていた。
つい最近まで張りつめていた緊張感は最早ない。美里駐屯地にて彩芽が陣頭指揮を執る様になってから、この基地まで辿り着く魔物はほぼ存在していない。それほどまでに、今の彼女は隔絶した実力を持っていた。
「……」
私は胸元から一つのペンダントを取り出し、開く。中に入っているのは小さな骨片。それはかつて自身が産み落とし、無惨にも砕かれた赤子の欠片。
名前すら付けてあげられなかった子。生まれた時点で死んでいたとはいえ、その尊厳を踏み躙った
けれど、少なくとも今はそんな事に費やす時間的余裕などない。私は同じ部屋で熟睡する少女の緑色の髪を優しく撫でる。
彼女や咲良、雲雀……最近では銀杏や彩芽。私が寂しさを紛らわせる為の集まりにこれだけの者が来てくれたし、涼介は相変わらず元気そうにやっている。それが何よりも嬉しいし、自己満足であるだけの復讐にかまけている暇などないのだから。
なんだか目が覚めてしまった。明日も早いけれど、少しだけ外の空気を吸っておこうかな。
そう思い、簡単な上着を着て扉のノブに手をかけ、開く──
ピシュッ。
「──ぁ?」
刹那、胸部に鋭い痛みは走る。
それが何なのかを察するよりも早く、同じような風切り音が二度耳に入る。額と喉に軽い衝撃が走り、全身の力が抜ける。
後ろに倒れようとした直後、扉の開いた隙間から伸びてきた手に髪を掴まれる。引き上げるのかとも思ったが、その手は私をゆっくりと床におろすだけだった。
徐々に暗くなっていく視界の隅で、部屋に静かに押し入ってきた男達が眠っている小冷に向け発砲しているのを見る。小さな風切り音が二度鳴り、彼女の足が小さく跳ね上がる。声は出ず、指一本動かせない。
見ていることしかできない。あの時と、同じ、ように……
今更になって後悔の念が沸々と湧き上がってくる。まさか奴等がここまで直接的な手段をとってくるとは予想できなかった。
自分などどうなってもいい、でも……
もし自分がなりふり構わず咲良の力を頼りにしていたら、もしあの時差し伸べられた手を取っていれば。
だが、もう。
「ご、めん……こ、れ……」
──────
「目標の処理完了」
「あーあ、勿体ねえ」
「静かにしろ。速やかに帰投し依頼主に報告だ」
炉欄と小冷を殺害したのは櫻島家に雇われた傭兵の集団である。
彼女らの部屋を襲撃したのは二人の男。リーダーのベテラン兵と部下の新人。彼らは櫻島家の手引きでこの基地の職員になりすまし、ターゲット殺害の時を待っていたのだ。
リーダーは淡々と仕事をこなすが、新人はそうもいかない。とはいえそれは被害者への憐憫ではなく下劣な欲望からくるものだ。
「ここまでも遭った奴──」
と、新人が言いかけた時だった。
キイ、と音を立てて別の扉が開き、そこから目を擦りながら一人の少女がのろのろと歩き出てくる。
「ふわあ……トイレ……へ?」
彼女とリーダーの目が合う。
幾ら将来の軍人として教育を受けている魔法師の卵とはいえ、目覚めの無防備かつ判断力の落ちている状況で見知らぬ男と目が合えば硬直してしまうのも無理ないだろう。
そして、その一瞬の隙が命取りだった。
「だ、ぐぎゃ」
背後に回っていた新人が少女の頭に手をかけ、そのまま回す。ゴキン、と音が鳴り少女の頭部があらぬ方向に回る。
身体が一度ビクン、と跳ね、直後脱力しその場に崩れ落ち、ちょろちょろと床に黄色い染みが広がっていく。ここに来るまでの間、彼らは目撃者を一人残らず排除していた。
「おっ、この子かわい~。一つくらい持って帰ってもバレないでしょ」
「馬鹿な事を言うな。スイッチを押すぞ」
そういうとリーダーは一つのスイッチを取り出す。それは証拠隠滅の為の時限爆弾の起爆装置であると教えられていた。
目標を殺した後、弾薬庫の事故であると見せかける為の爆弾。没落したといっても十華族であることには変わりなく、柊家程の社会的ダメージを負った訳でもない。基地に爆薬を仕掛けるくらいは容易であった。
「爆発まで一分しかない。余計な荷物は持つな」
「はいはーい」
「ふん……じゃあ押すぞ」
そうして、彼は親指を押し込み──
刹那、その視界は光に包まれた。
──────
「はー、平和だねぇ……」
「ふふ、そうですね」
時は少し遡り、基地内の監視塔にて。
レーダー類が使えない龍の籠内部において、周辺警戒は依然として人の目、それも魔法師の役割となる。そして今日、その任に就いているのは睡蓮紅葉と魔法剣道部副部長の草野摘香であった。
二人はいつ敵が来てもいいように、そして少しでも感覚を上げる様に魔装を身に着けていた……が、ここよりも前線に菊花彩芽が出張っている以上、その緊張は無駄になりそうだった。
その、はずだったのだ。
「──────みか、摘香! ああよかった……」
「う……も、みじさま……」
「余り動かない方がいい……と言いたいところだけど、どうやらそうも言っていられないみたいだ」
摘香が目を覚ますと、目の前には安堵した様子の紅葉の顔があった。
その綺麗な肌には煤が付き、額からは血が流れ出ている。一体何が起きたのか、彼女が慌てて尋ねようとした刹那自らの右腕に焼けるような痛みが走る。
「簡潔に説明するよ。何の前触れもなく突然基地が爆発したんだ。原因は分からないけれど、アタシが見る限り基地の能力は完全に消滅した。音も熱も凄いし、どうやら爆発物に魔力が混ぜられていたみたいで今ここには莫大な場力が立ち込めてるからすぐに魔物が寄ってくるだろう。君は基地内の生き残りを集めて結界の外に行き増援を呼ぶんだ」
「え、え……?」
その情報の濁流に彼女は困惑する。
未知の爆発、それも魔力が込められていた。即ち下手人は魔法に精通した人物であるという事。ただ、これだけの魔力を込めるとなるとそこらの魔法師では不可能だ。
いいや、或いはその場で込めたのではなく兵器開発局で試作段階だった新型爆弾かもしれない。そんな物を引っ張り出してこれるとなると、それこそ十華族レベルの権力が必要だろう……まあ、今は考えていても仕方がない。
と、そこで彼女は気付く。
「……え、わ、私の」
「見ないで。見ちゃだめだ……止血は済ませたし、欠損を治せる魔法師も外にはいる。だから今は堪えるんだ、いいね?」
彼女の顔をぐい、と自分に向ける。その視界から彼女の無くなった左脚を消す。
確かに普段から夢想鍛錬所で殺し合いをしている彼女達だが、それはあくまでもシミュレーションであり本物ではない。いざ現実で自らの脚を失う事態に直面してしまったら冷静さを保つのは難しかった。
そこで彼女は目にする──紅葉の左腕も、消えていた。
「ああ、これかい? 大丈夫、止血はしてるから。刀は握れるしね」
紅葉は立ち上がり、右手に刀を握る。
「安心して。魔物が寄ってくるって言っても前線にはあの"貴煌の魔女"がいるんだ、ここまで辿り着く奴なんて大したものじゃ──」
その時だった。
「──がッ!?」
「ッ、紅葉様!?」
地面から突如生えてきた棘が紅葉の胸元を貫く。棘と口から血が迸り、摘香は悲痛な声を上げる。
「っ、行け!! 摘香!!」
だが、紅葉とてただやられているだけではなかった。彼女は突き刺されながらも摘香に向け叫ぶ。
摘香は一瞬逡巡したが、現状がどれだけの異常事態かを察しその場から飛んでいく。爆発で気絶していたというのに魔装が解除されていないのは幸運であった。足を失っていても飛んで移動することが出来たのだから。
さて、摘香がその場から離れた所で紅葉が力を振り絞り刀を振るう。地面から伸びていた棘を両断し地面から離れる。
胸に刺さった棘は抜かない。抜いてしまえば出血多量ですぐに死んでしまうだろう。
「これは……嘘だろう……?」
尤も、目の前の光景が本物なのだとしたら遅かれ早かれ死ぬのは確定しているのだろうが。
謎の爆発によって基地は壊滅した。
敷地内にあったあらゆる施設は全壊し、足の踏み場もないほどに燃え盛っている。恐らく通常の兵士は全滅、魔法師とて両手で数えられる程度しか生き残っていないだろう。魔装を装着している状態でもこれだけの傷を負ったのだから。
だが、それよりも更に問題であるのは。
「新たな、ダンジョン……!?」
基地跡地がぽろ、ぽろ、と崩れ始め、そこに大きな穴が出来上がる。
先ほど彼女を突き刺したのは斥候の魔物であったのだろう。入り口を開ける為の偵察兵──本隊はこちらだ。
その穴からは次々と大小様々な魔物が溢れ出てくる。ここは結界の境界に建てられた基地であり、それが破壊された今魔物が結界の外に出るのも容易だろう。しかも新たなダンジョンが生まれた今では猶更だ。
誰かが、止めなければならない。戦略級の魔法師が来るまでの間、誰かが。
「ッ、あああああああ!!!」
それができるのは、今ここには彼女しかいない。
彼女は刀を握りしめ魔物の群れに突っ込んでいく。辺りを飛び回る魔物を斬り殺しながら彼女は考える。
「(どうしてダンジョンが!? そんな兆候なんて何も無かったのに!)」
もう出血など気にしている暇もない。動くのに邪魔なので胸の棘を抜き、炎の呪符で強引に血を止める。
「(さっきの爆発の衝撃で? でもそれなら彩芽様の砲撃でも生まれてないとおかしい。だとしたら人為的な……でも、そんな技術聞いた事もない)うっ!?」
魔物の一体が彼女の右脚を噛み千切る。
それでも戦い続けるが、既に彼女の身体は限界を迎えようとしていた。
右脚を噛み千切られた事により生まれた僅かな隙に魔物が彼女に群がる。残った力で刀を振り回すが、足りない。
左脚が、右腕が、耳が、目が、腹が。彼女のあらゆる物が蹂躙されていく。
魔物にとってそこまで彼女には惹き付けるものがあるのか、或いは魔物にも仇討ちの概念があるのか。だがそんな事、死にゆく彼女には何の関係もなかった。
やがて、彼女の意識は遠のき──
「……っ」
──刹那、暖かな光が包み込んだ。
そうして回復した視界が、最初に映し出したのは。
「さく、ら……」
悲痛な面持ちをした、紫髪の小さき魔女の姿だった。
本のタイトルどっちがいい?
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