押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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はじまりの唄(後編)

 空間にはその時間までの"記録"が残されており、自身の魔力の波長をその空間を表す次元波と同期させることでその記録を読み取る事が可能となる。

 本来であれば残された死体から情報を読み取れば済む話なのだが、今回の現場は新たに発生したダンジョンによって死体すら残らなかった者が多く存在した。

 

 次元波と同期、と一言で表すが、それを成すためには空間の一片に至るまで浸透させられる程の莫大な魔力、通常は探知できない次元波を感知する技術、その微細な波に自らの魔力波を合わせる緻密な魔力操作、そしてそこから次元を遡り生者の情報を得る高度な時間魔術が必要となる。更にその得た情報から死者を蘇生する為に、魂を復元する技術や失われた身体を魔力で補う高度な構築術式などが必要とされる。

 そして何より、蘇生魔法は禁忌だ。神のみぞ許される"奇跡"であるからして、人の身でそれを行使しようとすれば神罰が下される。なれば、それを跳ね除けるだけの力が最終的には必須となる。

 現世の生物と神の間には隔絶した力の差がある。レインフォート史上最強の魔王、ディスピアも人間界侵攻にあたり最大の障壁は"神の介入"と位置づけ、対抗出来る程の力を得たと確信するまで侵攻には踏み切らなかった。そこまでの前準備をしたうえで、仮に本当に神が降臨した際の勝率は一割以下と試算していた。

 要するに、一人で全世界を相手にできる程の力を誇るディスピアですら、神相手には"この程度では出張ってこないだろう"という賭けをするしかなかったのだ。

 

 現世の生物は神には勝てず、ただ祈ることしか許されない。

 

 

──ただ一人、朝露咲良(フェニシア・フィレモスフィア)を除いて。

 

 

──────

 

 

 私から伸びた魔力が空間を呑み込み、続けて死体に変化が現れる。

 それはまるで時が巻き戻っているかの様な、グジュグジュと肉が沸き、骨が躍る。散らばった血液が舞い戻り、血管と神経が触手の様にうねり肉に群がる。

 やがてそれらは皮膚という外装に覆われ、元の麗しき少女の姿を形作る──

 

「──ママ!!」

 

 復活し、胸が上下を始めたその少女に涼介が飛びつく。彼は全身でその体温を感じる──今しがたまで灰であったその体は、今や意識こそ戻っていないものの脈動し、生命力を全身に送り届けていた。

 彼の母親は今、間違いなく生きていた。

 

 それだけではない。

 いつの間にか猛々しく燃え上がっていた炎は消え、そこに幾つもの人影が倒れている。

 それらは兵士であったり、少女であったりと様々だが一つだけ共通点がある──先ほどまでこの基地にいて、つい今まで死んでいたという事だ。

 

 わんわんと泣く少年をよそに、私はある場所へと歩みを進める。

 そこに倒れているのは二人の男。蘇生する際、この二人が死ぬ直前に何をしていたのかの情報もはっきりと流れ込んできていた。

 私は二人に魔力を流し込み、無理やり目覚めさせる。

 

「うっ……!?」

「ッはっ……!? お、俺生きて……ぐうッ!?」

 

 私は歳のいった方の首根っこを掴み、気道を絞めながら記憶を掘り起こす。

 それだけで全てわかった。この悲劇の下手人が誰なのか。

 

「お、おいガキ!! アニキをはなぎゃ」

 

 そうしているうちに若い方が突っかかって来ようとしたので念力で頭を一回転させる。ゴキ、と音を立てて男の頭部はあらぬ方向を向き、全身を脱力させてその場に倒れ込む。

 その様子を見た、今私が掴んでいる男が暴れたので手足を消し飛ばす。

 コイツはこの爆破事件の実行犯だ。一人は生きてもらわないと困る。私はそのまま気道を絞め、意識を落とした。自決用の毒が仕込んであったので取り除き、魂縛の楔(セレスタリア)でその場に縛り付けておく。

 

『さ、咲良……?』

 

 頭の中に少年の声が聞こえてくる。鳥高の物だ。

 彼の声は驚愕というよりも、寧ろ──

 

 

「咲良、待って」

「……寮長」

 

 と、そこで背後から声がかけられる。

 振り返ると、そこには泣きそうな顔をした紅葉寮長が立っていた。身体は震えている。肉体は治癒されたが精神の疲労はまだ回復していない筈だ。現に先ほど助けた時にはすぐに気絶してしまっていたのだから。予想よりも目覚めるのが早く私の方が驚いた。

 

「どこに、行くつもりなんだ」

「……犯人のもとに」

「犯人っていうのは……櫻島家? だめだ、それは、そんなことしたら」

 

 彼女はその名を告げる。

 知っていた訳ではないだろう。ただ、この基地にこの規模の爆弾を仕掛けられるのは十華族くらいのもので、仕掛ける動機があるとすれば櫻島家くらいのものだ、ということくらい誰にでも予想できる。

 そしてきっと、彼女なら今から私が何をしようとしているのかも分かっているのだろう。何しろ彼女は、たった今私がこの男の首を折った場面を目にしているのだから。

 

「君は……本当に、厄災の魔女に、なってしまう……」

「……」

 

 彼女は絞り出すような声で言う。それに対し、私は何も言わなかった。

 言えることならいくらでも出せる。合理的な理由だって、何個でも。

 例えば、一度蘇生した人間はその後死を司る神に狙われる。それを防ぐ為には神を殺すか、或いは見合うだけの贄を送るか。

 もしくは、これほどの惨劇を引き起こしたのだから首謀者はどのみち縛り首だ。その刑が早まるだけ。

 

 けれども、そのどれも口には出さない。

 

 

──何を言ってもきっと、自分自身への言い訳にしかならないから。

 

 

 

 景色が変わる。

 そこは帝都一等地。一坪で庶民の生涯収入ほどもするような場所を贅沢に使った豪邸、その正門前。

 門には守衛として魔法師が一人立っている。彼女はこちらを見るやいなや敵意剥き出しで刀を向けてくる。私はそんな彼女の記憶を読み取り──

 

「……黒」

「何を言って」

 

 

「──"ショックカノン"」

 

 

──直後、彼女の上半身は消し飛んだ。私が消したのだ。身体に触れた熱はすぐに伝播し、やがて彼女の靴先まで蒸発させた。

 彼女から得た記憶は酷いものだった。炉欄先輩に対して殴る蹴るの繰り返し。先輩の一人目の子供が死んで生まれてきたのもコイツのせいだった。

 

 私はそのまま正門を蹴り飛ばす。超硬質セラミック合金製の門はサッカーボールの様にひしゃげて飛んでいき、植えてあった木々を薙ぎ倒す。

 そうして敷地内に入った所で、私は結界を発動する。櫻島家の敷地全体を覆う分厚い結界。内部にいる人間の記憶を全て読み取る。

 

「……」

「な、なんだお前!?」

 

 ああまでけたたましい音を立てれば人も集まってくる。

 二人目は中年の男。

 

「黒」

「は」

 

 臀部、右足、左腕、脇腹、頭部を覆う様に球形結界を展開し、圧縮してそれらの部位を削り取る。

 コイツは炉欄先輩を散々蹂躙していた奴の一人。容赦する理由もない。

 

「黒」

 

 三人目。先輩が二度目に流産した時の子の親。

 股から頭にかけて両断する。

 

「黒」

 

 四人目。戯れに先輩の脚を折り、気絶するまで馬乗りになって殴っていた。

 膝下を消し飛ばし、地面に落ちる前に頭を消す。

 

「黒」

 

 八人目。一番最初に先輩を嬲り始めた男。

 黒い炎で燃やし尽くす。

 

 

「お、お前……なんで、ここに、いる」

「……」

 

 十七人目。桃色の髪をした少女──櫻島絵良。

 コイツは長年に渡って自分の鬱憤を先輩で晴らし、あまつさえ先輩の初めての子供を目の前で踏み砕いた。学園に入学してからも嫌がらせを続けていた。紅葉寮長が守っていなければきっと先輩は三年生になる前に潰れてしまっていただろう。

 また、今回の爆破事件にも噛んでいた。

 

「答えろ、なんで、ここにいるのよ。何をしてるのよ……!?」

「……」

「答えろって言ってるのよ!!」

 

 魔装を展開し、殺意剥き出しで刀をこちらに向ける。

 

「……黒」

「なに、を」

 

 右手を斬り飛ばす。続けて左手、右足、左足、耳。

 

「あ、あ、あ」

 

──首。

 どさり、と首なし達磨が崩れ落ちる。どす黒い血がまき散らされ、私の頬や手を濡らす。

 

 

「こ、こんなことをして許されると思っているのか……」

 

 三十二人目。櫻島家当代当主。

 先輩を蔵に閉じ込めた張本人であり、今回の爆破事件の首謀者。

 炉欄先輩、小冷先輩、竹園寮長や生徒会長、その他大勢を殺した殺人鬼。それ以外にもこれまで学園に侵入してきた者達を手引きしてきた。

 彼女は怯えた顔で後ずさる。刀を向ける素ぶりすら見せない。

 

「全てが敵になるぞ……この国の全てが、お前を敵と認識するぞ!」

「……」

「朝露咲良、いくら貴様が強かろうと──ぐべっ」

 

 喚く顎を小突き、伸びていた舌を噛み千切らせる。口から血が溢れ出しごぼごぼと藻掻く。

 

「黒」

「ーーーッ!!?」

 

 その足を踏み砕く。

 

『……ら』

 

 念力で指を何節にも折る。

 その度に声にならない叫びが木霊する。

 

『……くら』

 

 片目を抉り取り、耳を引きちぎる。

 心臓に死なない程度に棘を刺し、爪を剥ぐ。

 骨を砕き、手足を先端から削り取っていく──

 

 

「──咲良!!」

 

「──っ……」

 

 

 そこまでして、私の手は止められた。

 

「そこまで痛めつける必要ないやろ。殺すならさっさと殺し……」

「……」

「アンタがここまで怒る理由も分かる。こいつらには同情の余地がないのも分かる。けどな……」

 

 一人の少年──鳥高が悲痛な面持ちで私の両手を握りしめる。

 

「こんなんしとったら……アンタの心がもたんて」

「……この程度、慣れてる、ですから」

「んな訳ないやろ!! それやったらなんで今──」

 

 彼の手が私の頬に触れる。

 

 

「──笑っとんねん……」

 

 

 そう告げた彼の瞳に映った私の(かお)は、確かに醜く歪んでいた。

 まるでこの状況を──愉しんでいるみたいに。

 

「……ふふ、あはは」

 

 ずるずると逃げようとしていた当主の頭を消し飛ばす。

 

 ああ、どうやら。

 

「アンタは優しい子や。そんなアンタがこの状況で笑っとる。そんなん「違う」

 

 彼の言葉を遮る。

 

「私は、違う……優しくなんて、ない」

「そんなことない」

 

 違う。

 何故なら私はこの状況を──楽しんでしまっているのだろうから。

 ああ、そうだった。

 

 柊家は、輝夜会長は何を恐れていたのか。

 雲雀は一体、何の為にあんな身体にされていたのか。

 心愛はなぜ、あんな試練を受けることになったのか。

 

 

 この世界は──何に対して恐怖していたのか。

 

 

「私は、結局……」

「違う」

「結局……世界を滅ぼす、"厄災の魔女"、なんだから」

「違う!!」

 

 

 彼はぐい、と顔を近づける。

 

 

「アンタは"魔女"なんかやない!!」

 

 

 その真っ直ぐな目が、今となっては恨めしい程に苦しいだけだ。

 いつか訪れる厄災。それに対抗するために生まれた男性魔法師。対抗すべく創り出された"組織"。

 それら全ては──今、この時をもって意味を持った。

 

 その意味を、無くさなければ。

 

「……」

「咲良……」

「私、は……」

 

 このまま消えないと。

 日本に、地球にいてはいけない。この宇宙にいてはいけない。どこにいても私はいずれここに戻り、滅ぼしてしまう。

 

 ならば──




なにわろてんねん

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