押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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ホラー回です


異界の英雄

──300年前。

 

 ヴァルレッド大陸西部には、神代に"素の神"イルニスによって生み出されたとされる世界最大級の山脈、霊峰エンドアが存在する。

 その日、我はそこに鎮座するとされるとある魔物(・・・・・)へ会いに赴いた。

 

 雲を突き抜けてなお余りある標高、巻き起こる猛吹雪、数多く棲む凶暴な魔物……そのいずれも、この我の敵ではない。

 

 やがて到達した山頂、そこには雲を踏みしめるようにして古ぼけた神殿が聳え立っている。

 その崩れかけた柱の上に、少女(・・)は静かに佇んでいた。我よりも三回り程も小さな体躯、それを遥かに超えて柱に這う銀色の髪は月光を吸い込み、不気味な程に淡く輝いている。

 白磁の様な肌と生物ならざる静寂を宿した瞳は、見る者の心を凍らせ、同時に抗えぬ神秘へと誘う事だろう。

 微笑とも呪詛ともつかぬ表情を浮かべるその姿は背筋を冷やす程悍ましく、しかし同時に目が縫い付けられる程美しかった。

 

 我は彼女に向け、声をかける。

 

「──お初にお目にかかる。我は「ディスピア・ヴェル・ドム・ヴィルリッタ。半魔徴種(レヴィリアン)の男性で、魔界統一を夢見ている」……流石"罪禍の魔物"、全てお見通しという訳か」

 

 我の声を遮る様に、知る筈の無い情報をつらつらと述べていく。

 

「そして君の目的はこの私、"罪禍の魔物"を"魔王軍"の幹部として引き入れる事。答えは、ノー」

「は、ちょっ」

「さようなら、魔王の卵さん」

 

 そういうと、彼女は我を吹き飛ばした。突然の凶行に我は対応することが出来ず、気付けば山から遠く離れた平野に落ちていた。

 罪禍の魔物──この世の全ての罪を統べる、神代の魔物の一柱。戦力に引き入れる事が出来れば人間界進出への大きな糧となる……のだが、どうやらファースト・コンタクトは失敗したようだ。

 

 その後、我は何度もエンドアを登り、その度に吹き飛ばされた。

 そうするうちに我も強くなっていき、何度目か分からない邂逅の際に遂に踏みとどまることに成功する。

 そこでようやく、少女は我の前にふわりと降り立ち、ただ一言。

 

「──合格」

 

 

「いよいよだ。明日、我々は人間界へ進出する……思えば長い道のりだった」

 

 邂逅より170年程経った頃、魔王軍は遂に形となり人間界へと進出する日がやってきた。

 夜、深紅の月の下で我は隣に座る少女に訊く。

 

「アリエス……我は勝てるか?」

 

 アリエスとは罪禍の魔物の名である。元々一個体しか存在しない種族であるため名前というものは持っていなかったのだが、魔王軍に入るにあたり我が名付けた。

 そうして紆余曲折あり、現在の彼女は魔王軍四天王筆頭"罪禍の魔物"アリエス・ヴィルリッタである。

 彼女はこちらを見ると、薄く微笑み告げる。

 

「勝てる。これは私から貴方への"宣託"よ」

「そうか。ならば安心であるな」

 

 罪禍の魔物は世界中の罪を見通す。それに過去も未来も関係ない。

 即ち、彼女は事実上の未来予知が可能なのだ。そんな彼女が、我の勝利を告げている。

 

 そして実際、始まってみれば人間は拍子抜けするほど弱かった。帝国とやらも多少骨のあるやつはいたが四天王には歯が立たず、勇者の剣とやらは遂に抜かれず、征服まで秒読みかと思われた。

 

 

 そう、思っていたのだ。

 

 

「報告します!! エンドア基地消失!! 四天王アリエス様、討ち死に!!」

 

 

──"厄災の魔女(ヤツ)"が、現れるまでは。

 

 

──────

───

 

 

『ご覧下さい! こちらが世界初となる深宇宙探査船"神の焔(イルニス・グレンズ)"号となります! それでは、この船の栄えある船長として選ばれたスライム族のダン・ヒステンヴァーグ宇宙特務少佐にお話をお聞きしましょう! ダン船長、今回の探査についてどうお考えですか?』

『ダン・ヒステンヴァーグです。はい、この船には新開発の"メールリンス・リアクター"が搭載されておりまして、これにより光年単位でのテレポートも可能となっています。これまではレンズ越しにしか観測出来なかった世界を肉眼で見る事ができるのです。これ以上に興奮する事はない……まあワタクシ、眼球というものはないのですが。ガハハ』

『そうですか。では、意気込みをお伺いしても?』

『ライミー様*1!! ワタクシの活躍、どうか全体水に焼き付けて下さい!! あ、スライムなんで焼いたら消えちゃ』

『以上、現場からでしたー! 出陣式は明日朝8時から始まります、ディスピア陛下もご参列されるとのことです! お楽しみに~』

 

 

『明日はかの"厄災の魔女"討伐より丁度130年という記念すべき日です。現在の"永弦月*2"を生み出し、レインフォートの夜を三割暗くした張本人……そこで本日は軍事の専門家としてクローネ中央導科大学からメールリンス名誉教授をお呼びしております。メールリンスさん、本日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『では早速ですが本日の議題について……"厄災の魔女の真の強さに迫る!"です。その名の通り、魔導工学の父と呼ばれるメールリンス氏によって、魔学的視点から分析していただきます。では、よろしくお願いします』

『ではまず、前提からお話ししましょうか。最初に語るべきはやはり永弦月についてでしょう。私が計算した所、あれを為すには最低でも1.2*10^29(10穣)In(イルニス)*3もの魔力が必要になります。これはレインフォートで消費される魔力の約1億年分に匹敵します』

『じゅっ……す、凄まじいですね』

『これほどの攻撃を放ったということは、厄災の魔女が無限(ヴィルリティ)持ちであることは疑いようはありません。当時齢20にも満たない人間が無限を自力で開発し、維持していたとは考えづらいので確実に神……それもかの"三制神*4"クラスの介入があった考えるのが自然でしょう……』

 

 

『アナウンサーのクレリア・フィーターです! おはこんにちわ~! 見てくださいこちら、明日の厄災討伐記念式典に向けて準備が着々と進められていますよ! 凄い量の出店に豪華な舞台! 戦勝記念式典より豪華とよく言われるだけのことはありますね! 誰かにインタビューしてみましょう! そこのオークの方! 明日へ向けて一言……』

 

 

 

 カチリ。テレビを切る。

 どのチャンネルを見ても明日に向けての話題ばかり。まあ仕方のない事だろう。()が厄災の魔女を倒してからの戦争は消化試合と言って差し支えないものであったからだ。

 

 今から丁度130年前、我──魔王ディスピア・ヴェル・ドム・ヴィルリッタは軍を率い、人間界へと侵攻を開始した。今の世で言う『大進出』である。

 神からの直接的な介入はなく、事前情報で最も脅威だとされていた"帝国"もあっさりと壊滅した。あとは消化試合であると、軍の誰しもが考えていた。

 

──まさか、そこからが真の戦争であるとは誰も予想だにしていなかったのだ。

 

 後の流れは何度も語られた通り。突如現れた厄災の魔女──フェニシア・フィレモスフィアによって四天王は全滅、軍の戦力は開戦時の二割以下にまで減少し我も右腕を永久に失った。

 

 我は勝利したのだ。その筈だというのに、心に空いた穴は未だに癒えそうもない。

 壁に掛けられている一枚の絵画をそっと見る。そこに描かれているのは三人の魔族。赤茶けた肌と深紅の瞳、二本の角を生やした巨漢──我と、その隣に立つ我とは三回りも小さく、悍ましながらも神秘的な雰囲気を纏った女性。そしてその間に立つ小さな少年……我以外はもう、この世にいない。

 四天王が一角、"罪禍の魔物"アリエス・ヴィルリッタ。先代魔王にして我の息子、アルフレッド・ティル・ディム・ヴィルリッタ。前者は魔女によって死に、後者も魔女に受けた呪いによって早逝した。

 

 魔女を倒した後も世界はその恐怖から逃れる事は出来なかった。

 奴が抉った月の破片が長きに渡り降り注ぎ、地表を焼いていったのだから。我々も必死に防衛したが、戦力がほぼ壊滅した魔王軍ではその全てを迎撃する事は叶わなかった。

 

 その恐怖から逃れる為、我は人間の殲滅を決行した。

 元々そこまでする予定はなかった。戦争に勝利した後は奴隷種族として残していくつもりであったのだ。

 だが、厄災の魔女という恐怖の権化がそうはさせてくれなかった。「奴の様な魔女が再び現れるかもしれない」──その恐怖心が人間という種族の存在そのものを拒絶したのだった。

 

 

「思い出に耽っている所でしたかな、魔王様」

「……いつもの事だ。其方との晩酌の方が余程価値がある」

「それは嬉しいお言葉ですな」

 

 と、そこでオークの老紳士がワインを持って入ってくる。

 彼はザイロン・ローゼラー・タラン。我の秘書官であり、魔王軍創設から付き従ってくれている貴重な古株だ。戦闘能力は皆無だが事務能力に優れており、厄災の魔女襲撃時には戦おうとするのを無理やり後方に押し込めたおかげで生き延びた。

 

「……随分と世界も変わった。かつては単なる背景でしかなかった宇宙も、我々は今や太陽の重力すら抜け出そうとしている……あの時にも、これほどの技術力があれば、な」

「陛下、後悔を意義あるものとできるのは刻神のみですぞ。厄災の魔女は死に、世界は平和となった。今はそれでよいのです。姫様の行く先にもようやく見当がついたのですから」

「そうだな……」

 

 姫様──我が孫、レフストメリスの事である。

 アルフレッドの跡を継ぎ若くして魔王となった彼女は、十数年前忽然と姿を消した。それ以降遅々として捜索は進んでいなかったが、つい最近ようやく進展が見えたのである。

 どうも彼女は別の世界にいるらしい。空間航跡を辿り、その世界の座標も既に特定している。あとは世界間の移動を実用化するだけだ。なので、この件については時間が解決してくれる段階になった。

 

「……ザイロンよ」

「どうかされましたか?」

「魔女の事だ」

 

 酒を呷りながら我は呟き、彼はその単語に息をのむ。

 

「厄災の魔女への研究が進むにつれて、我はなぜあの時勝てたのか分からなくなってくる……もしや魔女は今もどこかで生きていて、我々を斃す機会をうかがっているのではないかと思えて仕方がないのだ」

「陛下。滅多なことをいうものではありませんぞ。貴方様は厄災の魔女に勝利したのです。その事実にもっと誇りを抱くべきです」

「……そうだな。すまなかった、さあ飲もう。記念すべき明日に備えて」

 

 そうして、我らは仕切り直し再度グラスを打ち鳴らす。

 

 

 

 

「──へえ、何を記念する、ですか?」

*1
四天王の一人でスライム族

*2
フェニシアのせいで永久に抉れたままになってしまったのでこんな名がつけられた

*3
レインフォートで使われている魔力量の単位。由来は素の神『イルニス』から。

*4
最高神レインフォートの下、世界を統治する三柱の神。全ての物質を司る"素の神"、全ての命を司る"命の神"、そして全ての時を司る"刻の神"である




レインフォート編ようやく突入です。
魔王様実に124話ぶりの発声です。



【唐突な登場人物紹介コーナー(DC版)】
・ディスピア・ヴェル・ドム・ヴィルリッタ
レインフォート現魔王。年齢は数百歳以上。種族は『半魔徴種(レヴィリアン)
厄災の魔女を殺した二人のうち一人(もう一人は芽有)であり、魔族から英雄と称えられている。
だが、本人には未だ魔女の影がつき纏い、一度は魔王を引退したものの鍛錬は欠かした日はない。そのため、決戦よりも遥かに強くなっている。

・アリエス・ヴィルリッタ
魔王軍四天王筆頭にして"罪禍の魔物"と呼ばれる神代の遺物。現在は故人。
この世の全ての罪を見通し、それを介して間接的に過去や未来をも見通す事が出来る。
見た目はあどけない人間の少女であり、ディスピアと並ぶと完全に事案。しかし彼女の方が圧倒的に年上である。
ディスピアとの間にアルフレッドという子をもうけた。
厄災の魔女と戦い死亡。

・ザイロン・ローゼラー・タラン
魔王軍筆頭政務官にして魔王筆頭書記官。種族はオーク。
ディスピアの最初の仲間であり、強くはないもののその事務処理能力をもってして魔王軍の結成に大きく貢献する。
厄災の魔女襲来時には非力ながらも戦おうとしたもののディスピアに止められ、避難させられたお陰で生き残る。

・レフストメリス・ヴェル・ヴィルリッタ
ディスピアの孫にしてアルフレッドの娘。
十数年前突如消息を絶った。今は地球で快人と乳繰り合っている。
立場上本来であれば咲良に泣きついてでも帰ってやらなければならないのだが、厄災の魔女に頼るという行為そのものへの生理的嫌悪感が凄まじく選択肢にも挙がらなかった。

本のタイトルどっちがいい?

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