押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
刻は少し遡る……
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「……おお、これは……っ」
私の隣で鳥高が顔を顰める。
その視線の先には……"私"があった。正確に言えば、前世の私の死骸である。
今の私よりも少し成長したような姿の皮が、綿を詰められて台の上に立たされている。黒を基調とした服、つばの大きい黒の三角帽子、赤紫色の長髪、目のあった部分にはマゼンタ色のガラス玉が嵌め込まれている。
タイトルは……『厄災の魔女(剥製)』だ。
地球よりレインフォートに転移した私は、まずはあのガイルとかいうオーガの記憶にあったとある場所に足を運んでいた。ちなみに、鳥高はなんかついてきた。
ここはレフストメリス生誕記念エルドラ戦争博物館──かつて人類最大の"帝国"帝都があった土地に建てられた魔族の博物館である。
帝都の栄華は見る影もなく、展示品から僅かに感じ取れるのみ。
魔族が人間界に侵攻した"大進出"、その栄光を記録するここの最大の目玉は、魔族最大の敵として立ちはだかった"厄災の魔女"に関する展示であった。
それはこれまでの調査によって判明した魔女の生家や持ち物、文献、武器、そして本人の剥製……何というか、複雑だ。
因みに今私は軽く変装しているので正体はバレていない。
「……気分悪いわ。別んとこ行こか」
「そう、ですね」
次に見たのは、空っぽのガラスケース。
どうやらここには厄災の魔女の杖が展示されていたらしいが、数年前に忽然と消えてしまったのだという。まあ、私が取り寄せたのだが。
「これは?」
「勇者の剣、ですね」
次は台座に刺さった一振りのロングソード。
それは"勇者の剣"として帝国に代々伝わっていた謎の剣であり、いずれ訪れる"厄災"に対抗するための手段として用意されている、という触れ込みの代物である。
"帝国"を始めとした人類はその厄災というのが魔王の事だと考えていた。だが、魔王を倒すために送り込まれたらしい"勇者"……カケルはこの剣を抜けず、それ以外の如何なる強者も引き抜けず結果的に人類は滅びた。つまりそれは、この剣が想定する厄災が魔王ではないという事実に他ならない。
「寧ろ……ふふ」
「なにわろてんねん」
「いや……少し、皮肉な考察を、してしまって」
突然笑い出した私を彼が怪訝な表情で見つめる。
或いは──魔王ならば、この剣を抜く事が出来たかもしれない、と。
この剣が想定している厄災が私の事であるのなら、この剣はその打倒に最も近い者に力を与える筈だ。そして、恐らくこの世界で私以外で最も強い者は彼であろう。
彼でなければ……さて、誰が選ばれるのだろうか。
と、そこで鳥高が何やら貼られているプラカードを眺めている。
「何々? 『あなたも勇者になれるかも? 勇者の剣引き抜きチャレンジ!』らしいで」
「ええ……?」
権威がた落ちである。
伝説の剣も、人間無き世界ではただの観光資源でしかないらしい。
「なあ姉ちゃん、これやってみてええ?」
「はい! いいですよ!」
近くに居た学芸員らしきエルフの女性にそう訊き、まずは彼が柄を握る。
特に雷が起きる事もなく、彼はただその力を無駄にするだけで終わった。
次は私の番。
昔は右半身を焼け焦がされたが、今はどうだろうか。拒絶されるのには変わりないだろうが……
という訳で柄にそっと触れる。
バチィッ!!
「──咲良っ!?」
「お、お客様!?」
二人が悲鳴を上げる。
剣の反応は昔と変わらず、その拒絶の雷は私の右手首から上を消し飛ばす。最早安心感すら抱きながら手を治癒し、二人に微笑みかける。
「大丈夫、です。このくらい……慣れてる、ですから」
「そ、そうかもしれへんけど」
「お、お客様、じきに治癒師が参りますが」
「結構、です。ほら」
回復させた手をくねくねと動かす。別に過去未来永劫消し飛ばされた訳でもないのだ、回復魔法で簡単に治る。
だがまあ、施設側としては客が負傷した事を簡単にスルーはできないのも分かる。
「咲良、あんたああなるって分かっとったやろ……心臓止まるかと思ったわ、無茶はやめてくれ」
「別に、大した事はない、ですよ」
「あんたからしてみればそうやろうけど!」
とりあえずあのショッキングな記憶を学芸員や他の客から消し、私達は別の場所へと移動した。
それにしても、今改めて食らってみて分かったがあの力、ただの雷ではない。今の私の手を吹き飛ばす程の力──太陽だろうか。プラズマ化した炎が雷のような形で、私を拒絶するためだけに具現化したのだ。
私の生まれ故郷、ファルレッド大陸はフィレモスフィア村。或いは育ち故郷、ヴィロリア浮遊大陸。
前者は湖になっており、後者は見る影もない程開発されていた。フィレモスフィア村については、私の出生を突き止めた魔王が自ら吹き飛ばしたらしい。まあ、滅びて誰もいない場所だったので大した感傷も抱かないが……
そうして私は、とある都市にやってきた。
「ここが帝都かー……はえ~、神戸よりでかいやん」
「……人を滅ぼして、作った街、です」
「おう……」
私の言葉に彼が絶句する。
幾多もの摩天楼が雲を貫き、街路には魔力の灯が脈打つ様に流れている。空には箒や魔導車が飛び交い、路地裏では錬金術の熱が揺らめく。
そして街の中央には、摩天楼の中でもひと際目立つ巨大な城が一つ。黒と紅を基調としたそれは禍々しくも荘厳な力強さを誇っている──
ここはレインフォート統一帝都『アリエス』……地球の都市よりも遥かに発展したここは、かつて私と魔王が戦い敗れた場所である。
130年前は戦いの余波で更地になっていた様な気がするが、よくもまあここまで発展させたものである。
「……で、どうするん? 魔王倒すん?」
「……」
「なんや考えてないんかいな」
彼は呆れ、周囲をジロジロと見渡し始める。周辺の魔族たちは何やら微笑ましい表情を向けており、恐らくは田舎者の少年だと思われているのだろう。
そんな彼を傍らに、街の中央に聳え立つ城──魔王城を見つめる。レフストメリスが地球にいる今、魔王はあのディスピア。130年経ってどれだけ鍛えているのかは知らないが、まあ今の私なら勝てるだろう。
けれど……それをして一体何の意味があるのだろう。レインフォートはどうやら平和なようで、私が何かしたところでそれは単なる破壊活動でしかない。多少気は晴れるかもしれないけれど、それだけだ。
「……ふふっ」
はは、私はなんで魔族の事なんて気遣っているのだろう。
そもそも私がわざわざレインフォートに来たのは、仮に私に何かあったとしても地球が無事である為なのに。
理由がないから、私は魔王と戦わない。
なら、理由があれば……
「──きゃっ!?」
「おっと……大丈夫、です……?」
などと考えていると、ふいに駆けてきた子供がぶつかってくる。
まあ、ただの子供にぶつかられた程度で崩すようなヤワな体幹はしていない。私は子供を受け止め、そして驚いた。
何しろ、その子供は──
「あなた……人間、です?」
「……ひっ!? た、たすけて」
フードを被り、高度な隠密魔法をかけていたので安心していたのだろう。私のその言葉に子供は顔を青ざめさせ、涙目で懇願する。
そんな彼女に、私は微笑みかける。
「安心する、です……」
「私も、人間、ですから」
──どうやら、"理由"ができてしまったらしい。
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