押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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何故かサブタイの勝敗が読む前から分かってしまう回


魔法大会 -朝露咲良vs睡蓮楓-

「今年もこの時期がやってきた……」

 

 その日、朝礼にやってきた香里奈は不意に言い始める。

 彼女は首を傾げるクラスメート達を前にして言葉を溜めに溜め、そして言う。

 

「一回生限定の──魔法大会だ!」

 

 

 

 魔法大会。それは三巻冒頭のイベントである。

 

「芽有は出るの?」

「芽有は強いからね~、案外優勝も狙えるかもよ~」

「いやー私は……」

 

 友人達からの言葉に対し、私はある方向を向いて答える。

 

「アレが出るなら……やめておくよ」

 

 私の視線の先にいるのは雲雀達と仲良さげに喋る咲良。入学式の決闘から私も強くなったが、未だに勝てる気は微塵もしない。

 原作通りに進むのならば出場するメインキャラは快人、比奈、雲雀、レフィナ、そして睡蓮楓。このメンツ相手ならワンチャン優勝も狙えるが、そもそも私という異分子がそんな派手な真似をしてしまっては原作崩壊甚だしいのでやらない。

 そして咲良が出てきた場合。二度とあんな目には遭いたくないので出場しない。要するに、私には何があろうとも出場する理由が無いのである。

 

「千絵と佳奈は出ないの?」

 

 友田千絵(ともだちえ)穏矢佳奈(おだやかな)、友人二人の名前である。

 

「見るからに猛者達ばっかりなのに出たいなんて思わないわよ」

「芽有が勝てない相手に~、私達が勝てる訳ないよ~」

 

 らしい。向上心の欠片も感じられないコメントである……まあ咲良との勝負を避けてる私が言えた事ではないが。

 と、そんな事を話している私達に近付く一つの影──咲良があった。

 

「織主、さん……」

「げ……何ですか?」

「貴女は出る、です?」

 

 どうやら彼女は私が出場するか否かが気になるらしい。

 

「いえ、そのつもりはないですよ」

「そう、ですか……残念、です……」

 

 彼女はしゅん、と表情を曇らせる。

 

「芽有ってば、貴女に勝てそうにないからやめとくんだって」

「ちょっ、千絵!」

「そう、です……? 織主さんは、才能がある、です……そのうち私を超える、ですよ」

「ないです」

 

 何を言ってるこの魔女は?

 っていうか、これ例の決闘で中途半端に善戦しちゃったせいで目を付けられてるパターンだ。あそこで最初の一撃で蒸発してたのが正解ルートだったなんて分かるわけないだろ!

 確かに私は転生者。転生特典として数多のチートを貰っている。だがそれは初期のスタートラインが他と比べて高い、という程度の物であり野生のラスボスとタメ張れる代物ではないのだ。

 

「……所で芽有、あの二人ちょっと距離近くない?」

「いきなり下世話な話に……でも、確かに」

「これは~……"ある"んじゃないの~?」

 

 咲良が戻った所で千絵が顔を近付け、小声で言う。彼女の視線の先に居るのは、雲雀と会話する快人の姿。確かに心做しか距離は以前よりも近い気がする。

 例の「The Room Can't Without Sex(セックスしないと出られない部屋)」事件から数日。チラホラと聞こえてくる話ではあれ以降特に事件は起こっておらず安眠出来ている様だ。

 やはり咲良の張ったらしい結界が効いているのだろう。本来ならば媚薬キメセク漬けの日々で順調に支配を進めている頃なのだが。

 ただ、結局同じ部屋で寝泊まりしているのが効いているのか、あるいはあの一度だけで心の距離が縮まったのか、兎も角多少好感度は上がっている様で何よりだ。原作的に快人の強化は必須だからね。

 

 

 そんな他愛のない恋愛話はさておき、時はあっという間に過ぎて三日後。

 この日、大会の開会式が開かれた。結局出場者は先述した五人と咲良、あとは……広野心愛。

 白髪で両脚が義足の少女──本来であれば後の巻まで出番の無い筈の名前がそこにはあった。早速原作から乖離している……まあ今更の事だろう。もうこの程度では驚かんぞ。

 

 魔法大会はトーナメント形式、優勝者には特別な魔導具が与えられ、また生徒会長とのエキシビションマッチの権利が与えられる。出場者は計十六人であり、二つの夢想鍛錬所で並行して行われる事になる。

 

「Aグループ一回戦、藤堂快人対彩処藍(さいしょあい)!」

「……随分と、随分な名前ね」

 

 原作通りなのだがいざ聞くと笑ってしまう。私の名前とどっこいどっこいじゃん。

 

「いけーっ藍ーっ!」

「やっちゃえ快人くーん!」

「快人ーッ! 負けたら許さないわよーッ!」

 

 ファンがそれぞれ声援を送る中、両者が魔装に着替え口上を述べる。

 両者、とは言ったが快人には未だ魔装は無く、対戦相手の彩処ちゃんのみが薄緑のふんどしビキニと振袖を組み合わせた様な魔装を身に着けている。

 快人の魔装にはある特殊な条件が必要なのだ。それはまだ満たされておらず、原作でも初披露は三巻の最後、今回ではいつになる事やら。

 

「試合開始!」

 

 口上が終わり、審判が叫ぶ──その瞬間。

 

「"リグラ・グレンズ"、"速射(ソニック)"」

「へ? きゃあああっ!?」

 

 彼が黒い炎を出し、それが火炎弾となって高速で射出される。まさかこんな攻撃をしてくるとは想像していなかった相手はモロに直撃し、魔装諸々を焼き尽くされその場に倒れ伏す。

 かなりデジャヴを感じる展開に、審判は一瞬硬直していた。

 

「しょ、勝者、藤堂快人!」

「よっしゃあ! やったぞ比奈、師匠ー!」

 

 彼がガッツポーズをとりながらそう叫ぶ。

……多分あの速射(ソニック)とかいうの教えたの咲良だよね。因みに今彼女はここには居ない。このすぐ後に試合があるので準備をしているのだ。

 それは兎も角……嗚呼、主人公が順調に彼女に染まっていってしまっている。会場が大歓声に覆われる中、私はクソデカため息をつく。

 

 あれ、そういえば二回戦での咲良の対戦相手って確か……楓? 地味に不味くない?

 睡蓮楓。睡蓮寮の娘であり中々の実力者。そんな彼女と快人の初接触は本来この大会であり、試合で戦ったのをきっかけにして後の巻で攻略を進めるのだ……が。

 

「……頑張れ、楓」

 

 私はそう呟き、再度クソデカため息をつくのだった。

 

 

──────

 

 

「Aグループ二回戦、睡蓮楓対朝露咲良!」

 

 審判のその声と共に私はフィールドに姿を現す。向かい側の出入口から出てくるのは、同室にして対戦相手の朝露咲良。

 無口でコミュ障、それでいて魔法の才覚はピカイチ。紅葉姉様も何かと気にかけている……気に入らない。いつも物静かなのに、何かとクラスで目立っている……気に入らない。その立ち位置は、本来この私の物である筈なのに。

 

「楓様ー! 頑張って下さーい!」

「楓ー! 食い付けー!」

 

 聞こえてくる応援に私は手を振り返す。

 だが一方で咲良に対する声はあまり聞こえてこな「師匠ーッ!! 頑張ってくださいーッ!!」……よく目立つ男の声は一つ聞こえてくるが。

 確か咲良といつも喋ってる秋空?とかいう奴は次の試合だから控室に居るのだろう。だが、それでも明らかに彼女への声は少なかった……気に入らない。

 私に対する声は多い。だがそのどれもが「頑張れ」「食い付け」といった物ばかり……まるで私が負ける事前提で、どれだけ耐えられるかを見ているかの様。ああ、確かに彼女は強いのだろう、それは認める。でも、それでも……不愉快だ。

 

「両者、魔装装着」

 

 背中に大きなリボンの付きへその部分が大きく開いた黄色のレオタードに手足の籠手、そして腰の刀──それが私の魔装。

 対する相手は緑色を基調としたミニスカートの振袖。腰の直刀を使っているのは一度も見たことがなく、今回も使うつもりはない様だ。彼女はいつもの杖を握っていた。

 

 奴のやる事は分かっている。前回の織主芽有との決闘で見せていた──試合開始と同時に光線を撃ってくる。スピードも速く、見てからでは避ける事は難しいだろう。

 だから、私が取るべき戦法は一つ。

 

「試合開始!」

「"雷道(らいどう)"!」

「"ショックカノン"」

 

 審判の言葉と共に私が魔法を発動させ、直後に奴の光線が放たれる。だがそれは私が居た空間を裂くに留まり──その時には既に、私はフィールドの右側に立っていた。

 

 私が契約しているのは『岩析神(いわさくのかみ)』。剣神であると同時に雷神でもあり、その魔法の一つ"雷道"は自らの身体を一時的に稲妻にし、直線的な動きしか出来ないが別の場所に移動する事が出来る。

 その速度は正しく「光速」──この世で最も速い物質だ。現に奴の目も追いついていない。

 

 観客席がどよめき、すぐに歓声に変わる。私はにやりと笑い、またも"雷道"を使い移動する。

 この調子だ。このまま相手を翻弄し続けて──そして倒す!

 

「さあ、覚悟──」

 

 私は刀に雷を纏わせ、死角から咲良へ向かう。彼女は杖を地面に突き立て、一言。

 

「"ショックブラスト"」

 

 

 

「……?」

 

 次の瞬間、私は控室に居た。

 

「おはよう、楓」

「ねえ、さま……?」

 

 隣で声をかけてきたのは澄んだ青髪と瞳を持つボーイッシュ美女──紅葉姉様。

 私は全く状況が理解出来ず、彼女に問う。

 

「え……どうして、何で、ですか?」

「やっぱり、気付いてないんだね……」

 

 彼女は困り眉の笑みを浮かべながら言葉を濁す。

 ああ、やめてください。そんな表情、そんな顔。私はただ、姉様に心から喜んで欲しいのに。心から笑って欲しいし、褒めて欲しいのに。

 私は縋る様に手を差し出し、呟いた。

 

「……負けたん、ですか?」

「……」

 

 姉様は何も言わない。

 

「そ、そんな訳……一体どうやって」

 

 私は光の速度で動き回っていた。それを的確に捉えて迎撃するなんて人間には不可能だ。

 そんな私に、姉様は言う。

 

「楓が突撃しようとした瞬間に咲良が全方位に向けて攻撃をしたんだ。ショックブラスト、だっけ。以前魔法適性試験で使ったらしいね」

「ショック、ブラスト……!」

 

 思い出したのは、入学式当日に行われた魔法適性試験での一幕。

 試験は様々な位置に設置された的を全て破壊しろ、という物。そこで奴はその魔法を使い、自分を中心とした球状の前半分へ凄まじい衝撃波を放ち、一撃で全て破壊したのである。

 という事は、今回は自分を中心として全方位に向け衝撃波を放ち、私はそれに巻き込まれて負けた、という事なのだろうか。

 

「そんな、そんな一撃で」

「試合見てたけど、楓も十分強いと思うよ? でも……」

 

 ああ、やめて。

 

「……まあ、彼女は色々と規格外だから仕方ないよ」

 

──そんな、憐れみの言葉、視線、表情。そんなの欲しくない、求めてない。私が欲しいのは、ただ……

 

「……っ!!」

「あ、楓!」

 

 たまらず、私はその場から駆け出していた。姉様の制止も聞かずに夢想鍛錬所から飛び出し学園内を駆けていく。

 

「ううっ、うあぁっ」

 

 気付けば私の両目からはポロポロと涙が零れ落ちていた。

 通りすがる人々はぎょっとした目を向けるが気にする余裕なんてない。涙の軌跡を残しながら私はただ走り続ける。

 

「朝露、咲良……!」

 

 そして、わなわなと震える手を広げ、未だ届かぬその幻影を掴む。

 

 その日、私は人生で初めて──絶望した。

 

 

 因みに後に人伝で聞いた話だが、どうやら奴はあくまでも"足止め"でショックブラストを放ったらしい。事実それを放った直後にショックカノンを撃つ体勢に入っていたのだという。私は再び泣いた。




原作では光速で動き回る楓に快人も苦戦しつつ辛勝します。
辛勝なので割と心象も良くその後の巻で快人君が一番身近な十華族として相談したりする美味しいポジションにつく事になります。なお

本のタイトルどっちがいい?

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