押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
その日、私がそれを見つけたのは偶然であり必然だった。
皆も知っている通り、私の今世における行動原理の大半は『推し』である。そして今日はその推し──涼介君が現れる日であった。
だからこそ私は誰もいない様な場所を誰もいない様な時間帯に歩いており。
「いや、いやっ、いやぁ……」
「おいおい、オイオイオイ、あんまり唆らせんなよ」
……聞こえてしまったのだ、そんな声が。
アニメで聞いたそれと同じ物、そして本来このタイミングでは聞く事のない声。
見ると、そこでは一人の女子生徒が女にナイフを突き立てられている。突き立てているのは史上最悪の殺人鬼、シリエス。そして襲われているのは確か……そうだ、新聞部創設者の姫川文果だ。
恐らくは取材をしている最中にでも襲われたのだろう。つい先日原作三巻にあたる雲雀の事件が──かなり原作から乖離した形ではあるが──幕を閉じたことから推察するに、現在の時間軸は原作四巻。そこから始まる新章はこのシリエスを中心とした物なのだ。
だが、おかしい。彼女は本来であればまだ学園には来ない筈であり、文果の死因でもない。まあつまり、既に世界の流れは私が知る原作からは大きく離れているという訳だ。
今、その結果本来とは異なる形で死のうとしている一人の少女。
私の元々のスタンスは「原作に影響のない範囲で人を助ける」という物。しかし原作崩壊した今そのスタンスを律儀に守る必要はない。
でも、そこで問題が発生する。シリエスはこの章のボスであり、当然強い。今の私では勝てない可能性の方が高いのだ。この役立たずの転生特典め。まあ方法がない訳でもないが、その手段を使えるのは……
「……ああもう!」
結局、私は考えるのをやめた──無論比喩であり、何とか助かる方法を探そうと脳はフル回転させているが。
──カチリ。
世界から色が消える。
その音は、時間が止まる音。たった十秒だけ、一日に使えるのは一度だけの、転生特典としてはあまりにも物足りない『チート技』。だが今この状況で文果を救おうと思えばそれしか方法は無い。
刻々とタイムリミットが近付く中、私は素早く二人に近付くとまず文果を抱きかかえ、怯ませる為にシリエスの眼前に激流槍を二本
本当ならこのまま適当な建物か人が多く居る場所まで逃げたかったが、十秒ではたったの数メートル離れるだけで精一杯だった。
そして時は動き出す。
「──ん? ぐおっ!?」
「──え……?」
巨大な水の槍がシリエスへ向かって突き進み、呻き声を上げさせる。
それに驚いた様な声を漏らす文果。足を刺されたから大量に出血はしているが取り敢えずは大丈夫そうだ。だが安心し過ぎるのもいけない。何処かの宇宙の魔術師は足を撃たれて死んだのだから。
「間に合ってよかった……でも、ここからどうすればいいの……?」
「織主、さん……?」
「いきなり章ボスとエンカウントするなんて不幸すぎでしょ……まあ、なんとかやってみるけどさあ」
ぼやきながら私の周囲に水の槍を出現させ、固有兵装である扇を構える。
目の前に激流槍──オークは避けられなかったが、この程度で死ぬ様であれば章ボスなど務められる筈もなく。
「……オイオイ、おもしれー奴が来たなァ」
「そりゃどーも。もう少し良いシチュエーションで言われたかったわ」
「不満かァ? 俺様にとっては──」
「ッ!!」
扇とナイフがぶつかってガァン、とけたたましい音を上げる。
「──最っ高の気分だよ!!」
シリエスは狂気的に笑いながら叫んだ。
固有兵装たる私の扇は通常のそれと違って硬化も軟化も自由自在。だからこそナイフと鍔迫り合いをするという異常光景が実現になる……が、完全に押されている。やはり力勝負では勝てない様だ。何故魔装を着た魔法師が生身の人間に押されているのだろうか。
私は周囲に漂わせていた水の槍を一挙に突撃させ、その隙に再び距離をとる。無論文果も忘れずに。
「オイオイオイ、少しは楽しめそうだなァ」
「……魔装、ね」
さて、水煙が消えたそこに居たのは当然の様に無傷のシリエス。ただしその服装は変化していた。
黒く
彼女の契約妖魔は『ファフニール』。北欧神話の邪龍であり、そして一度死んだ彼女との契約はまだ生きていた。
その固有兵装は龍のグローブであり、鋭い爪が付いている。扇との相性は微妙……そんな事を考えながら私は自らの周囲に無数の水滴を出現させる。
「"水擁連星"」
そう呟いた瞬間、それらの水滴が高速で私の周囲を回転し始める。
これは私が新たに覚えた防御魔法。高速で回転する水滴が私に近付く物を全て叩き落とす。
パシ、パシ、という音と共に小さな針が地面に落ちる。シリエスの攻撃だった。
私がそれを防いだのを確認する、その前に奴は動く。轟音が鳴り響く程の勢いで地面を蹴り飛ばしたシリエスの爪を扇で受け止め、奴が口から吐き出した針を顔を動かして避ける。
その後繰り出された爪を避け、水の槍を撃ち込む。だが奴には届かない。
不幸中の幸いと言うべきか、シリエスは戦いに夢中になり動けないでいる文果を意識の外に置いていた。もし彼女を庇いながらの戦いであればとっくの昔に私は死んでいるだろう。
その後も私は戦い続ける。細かな傷も付いてはいない、掠りもしない様にと意識して戦っていた。その様子に気付いたのか、奴がニヤリと笑う。
「オイオイ、お前……俺様の能力を知ってるなァ?」
「……ええ」
「勤勉で何よりだ、十……四年だったか? そンだけ前に死んだ奴の能力まで覚えてるんだからなァ」
実際には、シリエスが生き返ってくる事を原作知識で知っていたからである。
それはともかく、彼女の能力は『毒』だ。先程から放ってきていた針も、振るう爪も、それらに少しでも傷付けられれば体内に毒が入り、例えその場から逃げおおせたとしても苦しみ死に至る。
致死量は調節出来るのだが、彼女は大抵一撃でも喰らえば致死量が入る様に設定していた。
そんな内心も知らず、彼女は目を細める。
「このまま追いかけっこを楽しむのもいいが……」
「?……!! ちょっ──」
刹那、私は弾ける様に飛び──そして、狙われていた文果と奴の間に入り込む。
水の槍と扇で殆どの攻撃は防いだが、ただ一つ。
「っ……」
私の腕に、一筋の赤い線が走っていた。
それは紛れもなく奴の爪によって付けられた傷。
一瞬の逡巡、その後に歯を食いしばって私は扇でその腕を切り落とした。
熱い。痛い……でもこんな恐怖、初めての決闘で潰されかけた時の事を思えば大した事では……でもやっぱり痛い!
奴を見ると、その顔は今日一番の輝きを放っていた。
「ハハ、ハハハハハ!! すげぇ!! 何て俺は運が良いんだ! 起きて早々こんな逸材に出逢えるなんて!!」
「うっ……」
何やらはしゃいでいる彼女を他所に、私の意識が遠のく。痛みや出血からではない……どうやら、少し毒が回っていた様だ。
でもこの程度ならば死ぬ事はない。放置していれば話は別だが、この学園には優秀な治癒魔法師がいる。今の時間帯ならば近くでラーメン屋の屋台を開いている筈だし、運が良ければ来てくれるだろう。腕の一本や二本すぐに生える。
……だが、ではこのまま戦えるかというと話は別だ。
腕が両方揃っていた状態で既に押され気味だったのに、今の状態では分が悪いとかいうレベルではない。今の私にできる事は、逸材認定に免じてこの場は見逃してくれる事を祈るだけだ。
私は力が抜けて跪き、ただただ彼女の言葉に耳を傾ける。
「──ああ、本当にすげぇ。いつもならこのまま戦うんだが……今日は特別だ」
あれ、もしかして本当に見逃してくれるのだろうか。
「手に入れた
「ふざけ、んな……!」
淡い夢だった。
「実戦で使うのはお前が初めてだ。精々即死してくれるなよ?」
すると、彼女の目が黒く染まる。
瞬間、背筋に走る不快な悪寒。私は即座に立ち上がり逃げようと──しかし、間に合わない。
シリエスの言う『新しい力』の正体を私は知っている。彼女を蘇らせたのは『組織』だ。そして、組織はクトゥルフ神話の神々と人体を融合させる技術を持っている。
私の最推したる涼介君はニャルラトホテプ、そしてシリエスは──『シュブ=ニグラス』。千匹の仔を孕みし森の黒山羊とも呼称される神性であり、母神としての側面を持つ。クトゥルフ神話は近代に入ってから確立された新しい神話体系、そこへの畏敬から生まれた神には意思という物が希薄であり、だからこそ組織はそれを御し、融合させる事が出来たのだ。
それは兎も角、要するにシリエスは『神の力を得た』。つまり、神性との契約者のみが使用できる奥義──『神域』を使う事が出来る。
それから逃れられる方法は幾つかあるが、今の私に取れる手段はそう多くはない。というか、一つだけだ。しかも、これまで一度も使った事がない、一か八か、失敗すれば終わりの一発勝負。
私が
「ハハ! お前、分かってんのかよ! じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜぇ!」
「っ、豊姫様、お願いします……っ!」
神頼み、しかし大して効果はない。
神から貸し与えられた力を使えるかどうかは結局の所契約者の身体に依存する。身体が追い付いていれば使えるし、未熟ならば失敗する。ただそれだけだ。
そうして、私と奴はほぼ同時に叫んだ。
「──
「──神域『月華龍宮』!」
次の瞬間、私と文果の周囲を黒い空間が覆い、少し遅れてそれよりも二回り程小さく水の膜が私達を覆い隠す。
神域への対処法──それは、自分を自身の神域で覆う事。神域内に発生する効果はあくまでも『神域』という空間に発生している物であり、その中に別の空間を作ってしまえばその中にはその効果は届かないという訳だ。
そして今回、私はこれまで一度も成功した事のなかった神域を成功させた。火事場の馬鹿力という物だろうか。
だが、ほんの一瞬。本当に瞬きする程の時間、私達は相手の神域の効果を受けた。受けてしまった。
「ギャアアアアアアアア!!!!」
私の傍で倒れる文果が金切り声を上げ、気絶する。
クトゥルフ神話の神域にはデフォルトで発狂させる効果が付与されている。要するに神域内に居る時間だけSAN値が削れてしまうという訳だ。
TRPG風に言えば、SAN値が一度に五以上失われ、アイデアロールに成功してしまった場合一時的発狂という状態になる。まあそういう事だ。そしてどうやら、失敗したのは彼女だけではないようで。
「……」
目の前に現れたのは一組の壮年の男女。二人は涙を流しこちらに何かを訴えかけてきて──それはすぐに掻き消される。
「……ありがとう、ございます……っ」
『礼なんて言ってる暇があったら結界の維持に集中しなさい!』
「ぐ……ぅ」
それは豊姫様の声。
目の前に現れた──前世の両親の幻覚を消したのは彼女であった。神と契約しているからこそ出来る裏技である。
さて、発狂から解き放たれた私は改めて神域の維持に力を注ぐ。
だが、厳しい。片や熟練の殺人魔法師、片や一般転生未熟魔法学生である。それに加えて、私はたった今初めて神域を完成させたのだ。
ゴリゴリと削られていく竜宮城、無駄に多い様で少ない、でもやっぱり多い魔力を全力でそちらに回して無理矢理神域の結界を維持させる。視界が赤黒くなり、ポタリポタリと地面に赤い染みが出来る。
そもそも、この状況は完全に計算外だったのだ。この神域はシリエスにとっての奥の手の一つ。まさかこんな所で木っ端学生如きに使うとは思っていなかったし、適当に戦っていればそのうち人が集まってきて撤退していく、そんな想定でいた。
だが、どうやら私は善戦しすぎた様だった。学生にあるまじき善戦っぷりをシリエスへ見せてしまい、完全に戦闘モードに入れてしまったのだ。クソが、厄災の魔女といいシリエスといい、私の相手こんなのばっかりじゃないか。
私の魔力も多いが無限ではなく、それに脳への負荷や腕の切断面からの出血もあり、もういつ気絶してもおかしくはない。
それでも何とか耐え続け、しかしもう限界──視界が黒く染まりかけた頃だった。
「……?」
突如、私を襲っていた負荷が消える。気付けばシリエスの神域が崩壊していた。
私はそこで限界を迎え、その場にバタリと倒れる。そうして意識を失う直前に見たのは──
「私、参上!!」
──純白の長髪をなびかせて、手足の鎧以外には眼帯ビキニと前張りだけというバカみたいな魔装をした、ヒーロー志望の少女の姿だった。
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次回、咲良帰還
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