押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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部活対抗戦 -サブカル同好会VS魔法混合遊戯部(後編)-

 時は少し遡る。

 

『芽有ちゃん、戦闘に入りました!』

「こっちでも確認した。一回生同士の戦いとは思えないな……」

 

 見晴らしの良い高台の上、そこで一人の少女が和弓を構え鴉からの報告を受け取っている。

 彼女の名は八手鈴奈、魔法混合遊戯部の部長である。彼女が契約したのは某所の土着神であり、固有兵装は弓。魔法混合遊戯部のメンバーは遠距離攻撃が彼女、索敵が千絵、バッファーが佳奈、メインアタッカーの芽有という風にバランス良く編成されていた。

 そして今回の試合で朝露咲良が最も厄介な敵になる事は既に芽有から散々言われていた。だからこそ咲良は芽有に任せる事にし、鈴奈の役割は彼女が戦っている内に他のメンバーを倒しておく事であった。

 

「千絵、敵の位置は分かるか」

『十一時の方向、距離300の位置に一人います。部長と同じ弓使いです』

「そうか、分かった」

 

 報告を受けた方向へと彼女は目を凝らす。対象は彼女がいる場所とほぼ同じ高さの丘の上、そこで同じように弓を構えている様だった。

 だが、あちらはまだこちらに気付いていない。彼女は弓を目一杯引き絞り、放った。

 

 

 

「……うわあっ!? あぶなっ!?」

 

 丘の上で一人弓を構えて敵を探していた小冷はふとこちらに急接近する物に気付き、慌てて身を捩らせる。

 刹那、彼女が居た場所に一本の矢が突き立ち、自分が狙われている事を思い知る。

 

「ば、場所がバレてるでござるか!? 一体どこから……」

「小冷先輩! 大丈夫っすか!?」

「あ、秋空氏~!!」

「兎に角場所を移すっすよ!」

 

 そこに降り立った雲雀が小冷を抱えて飛び上がり、次の瞬間には丘に無数の矢が突き刺さった。あと少し遅れていれば串刺しになっていただろう。因みに小冷は神格との契約者でありながらとある理由で飛ぶ事が出来ない。その理由は小冷由来の物ではなく神由来なのでどうしようもないのだ。

 それは兎も角、飛び上がって空を進む。そんな彼女らの周囲を鴉が飛ぶ。

 

「こ、この鴉は……!」

 

 その鴉が相手の八咫烏との契約者の眷属である事に気付いた瞬間、それらが一気に二人へと突進してくる。

 

「っ、"ファンネル"!!」

 

 雲雀は魔装の一部である固有兵装の銃を分離させ、自律モードにし鴉を迎撃させる。

 だが彼女自身この魔装になって日が浅く精度は悪い。雲雀は銃声の響く中逃れてきた鴉を幾度となく避け、その間抱えられている小冷が弓で鴉を狙撃する。しかし、数は一向に減らない。

 

「秋空氏、これまでの試合の情報からしてこの精度と数を操るには術者も近くにいる必要がある筈でござる。そこから逆算すれば……」

「近く……あそこっすか!! "風妖(てんぐ)一扇(いっせん)"!!」

 

 小冷が分析し、指し示したのは更に上空の雲の中。雲雀は天狗としての固有兵装の扇を振るい猛烈な風を巻き起こす。

 雲が吹き飛ばされ、そこに身を隠していた黒い羽根を生やした千絵の姿が露わになる。

 

「しまっ──」

「"天羽々矢(あまのはばや)"!!」

 

 すかさず小冷が矢を放ち、それは見事に千絵の胴体に突き刺さる。彼女は力なく墜ち、その最中に泡となって消える。

 索敵役を倒した事に喜ぶ二人──だが、彼女らは忘れてしまっていた。

 

「やった──ぐふっ!?」

「いっ……!?」

 

 無音で飛来した一本の矢。それは正確に小冷の胸元を貫き、その先の雲雀すらも貫通する。

 小冷を仕留め損なった八手は狙撃ポイントを移し、二人を射抜く機会を虎視眈々と狙っていたのだ。そして千絵を倒した瞬間、二人の緊張が一瞬解け油断したその瞬間に見事射抜いた訳である。

 使ったのは極音速で飛ぶ矢。射る時にのみ魔法を使い、矢そのものには魔力を付与しないこれは感知が非常に困難な物となる。事実射抜かれるその時まで小冷も雲雀も気付かなかったのだから。

 

 力無く墜ちていく二人を背に、八手は最後の一人となった炉欄──正確には咲良も残っているがそちらは取り敢えず芽有に任せている──を探す。

 これまでの試合と事前の情報からして、炉欄は殆ど戦闘力を持たないサポーター。恐らく何処か後方に隠れているのだろうと予想した彼女は狙撃ポイントをより前に移動させようと動き出す。

 

 不意に、忘れていたとある事を思い出す。

 魔法混合遊戯部の試合メンバーは四人。今咲良と激戦を繰り広げている芽有、先程撃墜された友田千絵、狙撃手の八手、そしてバッファーの穏矢佳奈。彼女は芽有にバフをかけてから八手の元へ来る手筈ではなかったか?

 だが試合が始まって以降、彼女は佳奈の姿を見ていない。そして芽有の元にも居ないとすれば。

 

 彼女は今、何処にいる?

 

 

 チャン。

 

──ふと、何か楽器を奏でる様な音がした。

 

 

──────

 

 

 結界が崩壊し、咲良から魔法が奪われる。そんな絶体絶命の窮地に立たされながらも──彼女は満面の笑みを浮かべている。

 彼女自身、私が何をしようとしているのか気付いた段階で止めようと思えば止められた筈だ。それをしなかったのは偏に初見の攻撃への興味関心による物だろう。

 まあ、魔法に対しては妥協が無さそうな彼女の事だ。この世界において本来はまだ存在しない技術を目の当たりにしてしまったのなら、それを受けないという選択肢は無かったのだろう。

 

 神域を相手の神域に被せる様にして展開し、浸透させる事で一時的に処理能力を飽和させる裏技──私が考えた訳ではなく、これは原作において登場した物である。原作ではかなり未来に楓が披露していた。

 処理能力が飽和させられた者は如何なる魔法も使えなくなる。無論永久ではなく、咲良ならば僅かな時間で回復してしまう──

 

「"叢雨簪(むらさめかんざし)"、"水擁連星(すいようれんせい)"!!」

 

──その僅かな隙で充分。厄災の魔女から魔法を取り払える機会なんて二度と訪れないだろうから。

 無数の水の槍、発動者を守護する水の弾。それらを携えて私は刀を構えて彼女に突っ込んでいく。それに対して咲良はこれまで持っていた剣に加えて固有兵装の刀まで抜いてくる。

 そして一度腕を脱力させ、剣先を地面に滑らせて火花を上げさせながら私へと向かってくる。

 

 ガアン、という甲高い音を立ててお互いの刃がぶつかり合う。

 こちらの刀と打ち合う刃を右、左と交互に変え、そうでない方で私の放つ水刃を斬り裂いていく。その動きは非常に洗練されており、明らかに何度も実戦をやってきた者のそれであった。

 

「なんでっ、魔法を使わなくても強いのよっ!!」

「魔法が使えない事を、想定しておくのは、魔法使い(・・)の常識……です!!」

 

 そう話す彼女の目が狂気的に輝いていて怖い。若干饒舌にもなってるし。

 一合、二合、五合、十合と斬り結ぶ。本来であれば魔法師相手に生身の人間が剣だけで互角の戦いを演じるなど有り得ない話なのだが、そんな常識ですらも彼女(厄災の魔女)には通じないらしい。

 

 でも。

 

「うらァ!!」

「っ……」

 

 斬り結んでいる最中、敢えて左手に持っていた鉄扇を離して囮にし、一瞬彼女の意識がそちらに向いた隙に空いた拳をウォータージェットで加速させて勢いよく殴りつける。

 殴られる直前に背後に跳んで多少威力は殺した様だが、それでも大きな隙が生まれた事には変わりない。

 

「"激流そ"──ッ!?」

 

 そこにすかさず水の槍を撃ち込もうとした瞬間、彼女から紫色に妖しく輝く風の様な物が放出される。

 否、それは風でも、ましてや魔法でもない──可視化される程の魔力(・・・・・・・・・・)、それを放出する事で私の魔力回路を麻痺させたのだ。

 モロに受けてしまった私は一瞬硬直してしまい、その間に体勢を立て直した咲良は私の右手を斬り飛ばす。だが私の魔力回路は転生者特典で特段強靭に作られている。すぐに回復した私は刀を握ったまま宙を舞う右手を左手で握り、咲良の右肩から左脇腹にかけてバッサリと斬る。

 彼女の身体から血が迸る。そこに更に追撃を加えようとして──

 

 

「──"神域『鳥高山』"」

「──クソッ」

 

 

 上部から落ちてきた鳥居に呑み込まれ、周囲の景色が再び森に変わる。

 

「あんだけやったのに、回復早過ぎでしょ……」

「中々面白い技、でした……新たな知見が得られた、ですよ」

 

 はあ、はあ、と互いに肩で息をする。咲良は小さな蔦、私は水で血を止めているが、出血度合からすれば不利なのは私。

 そして私の作戦はその全てが先程までの「咲良が魔法を使えない時間」に賭けていた。その間に仕留められなかった時点で私の負けだ。

 

「さっきの魔力放出は何よ」

「本当にただ、放出しただけ、ですよ」

 

 放出しただけとはいうが、私の魔力回路を一瞬でも麻痺させる程の量の魔力というとこの世界にある魔力を全て使うレベル。間違っても一個人が出して良い量ではない。

 

「はあ……もう私の負け。さっさと決めてくれないかしら」

「面白い物を見せてくれた、お礼です……こちらも一つ、試したい事があった……」

「試したい、こと」

 

 もう嫌な予感しかしない。

 だがそんな私を他所に、彼女はふわりと浮かび上がって刀を天に向ける。すると結界が崩壊していき、遥か空の彼方へとその破片が集まっていく。

 

 いつの間にか、会場内の歓声は消えていた。代わりにあるのはどよめきと困惑、恐怖。

 天岩戸に天照大御神が隠れた時、地上は闇に包まれたという。それを彷彿とさせる様に会場内は闇に包まれた。それは皆既日食が起きた訳でもなければ夜になった訳でもない──

 

 

『……神域の、完全顕現……それもあのタイプの神域を……?』

「完全顕現……って事は、まさか、あれ──」

 

 

──今、私の上空には"山"があった。

 鳥高山は標高328メートルの比較的小さい山、それでもその質量は約一億五千万トンにも及ぶ。そんな代物が今、会場上空に浮いているのだ。

 以前彼女は月を生み出した事があった。あの時は何だか現実感が薄くてよく分かっていなかったが、今こうして至近でやられるとその絶望感は余りにも大きい。

 

 

「──『鳥高山』"落下(メテオ)"」

「ちょっ」

 

 直後、山が落下し始める。

 あんな代物を落としたら核の冬が来てしまうだろうがここは夢想鍛錬所、ここで起きた事は全て寝ている間の夢となる。安心だ。どこがだよふざけんな。

 しかし、あんな馬鹿げた行為を見せつけられてしまうと逆に何だか奮起してきてしまった。圧倒的な命の危機に瀕してアドレナリンが溢れ出しているのかもしれない。

 

 まあつまり、私はまだ諦めてはいない。

 これによって助かるかは分からない。そもそも単なる試合なのだからここで素直に負けてもいいのかもしれない。

 

 でも──やってみる価値はあるだろう。

 

 

──────

───

 

 

「……終わり、ですか」

 

 "鳥高山落とし"を行った咲良は地上に降り立ちそう呟く。

 フィールドは今、更地となっている。元からあった地形は衝突の衝撃で全て消え去り、その上から山の残骸が全体に広がって今は僅かな樹木と花崗岩と土と砂利が一面を覆い尽くしている。当然そこに動くものは何もない。

 

 彼女の身体には痛々しい傷が幾つも走っているが、しかしその心はとても満足していた。

 何しろ何のリスクもなく、ハンデはあれども魔法を存分に使って戦い合う事が出来たのだ。前世ではこんな体験なんて出来なかった。

 それに相手も良い。当初から目を付けていた織主芽有。最初に決闘で戦った時から遥かに強くなり、自分にも臆さず立ち向かい、あまつさえ自分すらも思いつかなかった方法で魔法を封じてみせたのだ。彼女は酷く上機嫌だった。

 

 

──ドスリ。

 

 

「……ハハ」

 

 だからなのだろう。

 土の中に身を潜めていたボロボロの少女が刀を突きだすのを、彼女は止める事が出来なかった。

 全身を土埃で染め上げ、顔の半分は酷く爛れ、右手や腹の一部までも失った芽有は、しかし咲良の背後から正確に彼女の心臓を貫いてみせたのだ。

 一瞬驚いた様な顔をした咲良はしかしすぐに笑顔に戻り、芽有は残った力で突き刺さった刀を横薙ぎに払う。咲良の上半身は半ば断ち切られ、彼女はその場に膝をつく。おぞましい量の血と臓物の一部が地面に零れる。それでも尚蔦は身体の修復を始めるが最早手遅れだろう。

 

「はあ、はあ……」

「……私の負け、ですね……どうやって耐えた、です?」

 

 自身が死にかけているにも関わらず、未だに彼女は笑顔のまま。

 そんな彼女を不気味に思う余裕すら、今の芽有には存在しない。ただこうして、最後の会話を紡ぐだけ。

 

「神域の集中展開、水擁連星(すいようれんせい)深月海壁(みつきかいへき)の多重発動……はあ、はあ……後は、部分的な時間停止……」

「なるほど……ハハ、それでこそ……私の見込んだ……芽有、です」

 

 その短い説明だけで、咲良は芽有がどうやってあの窮地を乗り越えたのかを把握する。

 まず神域を発動、その結界範囲を限りなく小さくする事によって結界強度を向上させる。次に水擁連星と深月海壁──薄黒い水を大量に生み出す魔法──を多重発動させる事で水の防壁を構築。更に芽有の結界内部のみに限定して時間停止を使用する事で短時間での防壁強度向上を行ったのだ。

 これ程の対策を講じても尚瀕死にまで追い込まれた訳だが、果たして勝利の女神は彼女に微笑んだ。

 

 咲良は微笑みを浮かべると、ガクリと項垂れてそのまま泡に変わる。

 それは即ち、芽有が朝露咲良に勝利した事の証明であった。

 

「……はは、はははははは!! やった、私、私、咲良に勝ったんだ!! ハンデありだけど……でも、あの、あの──」

 

 この時、芽有は厄災の魔女に勝利したという事実で果てしない高揚感に満ちていた。

 実を言えば咲良は勝とうと思えば勝てた場面は幾らでもあった。芽有が咲良の処理能力を飽和させようとした時だって止めようと思えば止められたし、何より佳奈によるバフがかかる前、試合開始直後に山落としが決行されていれば彼女は為す術もなく死んでいた。

 今回の勝利は偏に咲良の「試合を楽しみたい」という欲──悪く言えば舐めプ──による物。だがそれでも、絶対に勝てないと思っていた相手から曲がりなりにも"勝利"をもぎ取ったのだ。周囲が見えなくなる程喜ぶのも仕方がない事だろう。

 

 

 だが、彼女は気付くべきだったのだ。

 

 

 

「──は?」

 

 

 

──まだ、試合終了の鐘は鳴っていない事に。

 

 ごろり。彼女は地面に横たわる……否、身体は立ったままだ。

 一体、何が起きた?

 

 

「試合はチーム戦じゃぞ。努々(ゆめゆめ)油断せぬ事じゃな」

 

 上から声が聞こえてくる。だが、彼女は目以外を動かす事が出来ない。首を回す事が一切出来ない。

 よく見ると、立ったままの身体には頭が無い(・・・・)。綺麗に断ち切られた首の断面からは鼓動に合わせて血が吹き出し、やがてバランスを崩してぐしゃりと倒れ込む。

 

 桃色の髪をした糸目の少女が彼女の顔を覗き込む。その顔には見覚えがあった。

 

「櫻島、炉欄」

 

 そこで漸く、芽有は自分が何をされたのかを理解する。

 要するに、大声を上げて喜んでいた私は背後から迫りくる彼女に気付かず、彼女が右手に持つ血塗れの刀によって首を断ち切られた訳だ。

 だが、どうやってあの山落としから生き延びたんだ? そんな彼女の疑問に気付いたのだろう、炉欄は言う。

 

「あの山落としの時、ワシは地面から出てきた蔦に守られておったんじゃよ。そうして全てが終わった後、生き延びておるお主を見たから首を斬ったまでの事。ワシは魔力隠匿だけは自信があるからのう」

 

 つまり彼女はあの大技の裏で、会場内の味方の配置を完全に把握しあまつさえ防御していたという訳だ。もう意味が分からない。

 笑いたいが、既に意識は朦朧としている。声も息も出来ない。

 

 

「ああ、あと櫻島という姓は嫌いなのでな。これからはワシの事は炉欄先輩と呼んどくれ」

 

 

 その言葉を最後に、私は意識を失った。

 

 

 かくして、稀代の激戦となったAブロック決勝戦は、サブカル同好会というダークホース中のダークホースが制したのである。




ハンデ あり
バフ あり
闘志──あり

舐めプして散々楽しんだ末に満足死する咲良さんさあ……もっと厄災の魔女としての自覚を持ってくれない?

ちなみに舐めプしない場合咲良がハンデの元でどうやって戦うのかについては近いうちにお見せできると思います。

5秒で終わらなかったので高評価お気に入り登録よろしくお願いします。

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