押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話) 作:デュアン
──十三年前
「
「口を慎め広野曹長。これは軍令部からの直々の命令、拒否する事は許されん」
「しかし! あの
「それでもやらねばならんのだ。今も尚恐怖に震える全帝国臣民の為に……!」
帝都東京郊外、高級住宅街。その一角に今日本を恐怖させている『白い殺人姫』の拠点はあった。
元居た住人を殺して奪ったのか、或いは何らかの伝手で入手したのかは分からない。兎も角、その拠点の情報が
帝国陸軍中央軍第一二七小隊。帝都防衛を任されている精鋭、第一師団所属の部隊である。
十華族桃園家子女、桃園
彼らは付近の家に身を潜め、最終確認を行っていたのだが……
「恐らく上層部はこの作戦を"実行不能"にしたいんだろうさ」
やや諦めた様な顔をしている茂木が言う。それに広野は疑問を浮かべる。
「ど、どういう事ですか」
「"精鋭"第一師団所属の俺達が全滅すれば本部は"ここは歩兵で制圧するのは不可能"だっていう判断を下せるって事さ。そうすれば"やむを得なく"爆撃か何かでここを消し飛ばせる」
「そ、そんな!?」
「じゃ、じゃあ私達は生贄だっていうんですか!?」
「口を慎め! 茂木、勝手な想像で士気を下げるな」
茂木の言葉に広野と相原が怒気を孕ませ、それに桃園が一喝。茂木は肩を竦ませて口を閉じる。
「つまり、我々が奴に勝てば全て問題ない訳だ。安心しろ、私を誰だと思っているんだ」
「桃園隊長……」
「そろそろ出撃するぞ。いいか、誰も死ぬな。必ずや我々はシリエスを討ち取り、全員で駐屯地に帰るんだ」
──────
───
─
「チッ、どうやってここを嗅ぎつけやがった」
帝都郊外にある採石場。朝一番の爽やかな風が吹く中、ゴツゴツとしたベージュの大地に二つの白い影が向かい合う。
その影──シリエスは顔を顰めさせ、そんな彼女を心愛が真っすぐに見つめる。
「銀色の髪の子に教えてもらった」
「銀色? ……チッ、例のガキか。余計な事をしやがって……だが、お前一人か?」
「ああ。ボク一人だ」
シリエスは視線を動かして周囲を警戒する。
だが、感じる気配といえば物陰に隠れている男──共に逃亡していた"博士"のみ。
仮にここの事を他の者に伝えていたとすれば心愛が一人でノコノコと訪れるのはおかしい。どうやら本当に一人で、それも秘密裡に来たらしいという事が分かると途端に彼女は口を半月状に歪ませる。
「そうかそうか。ああ、お前は何て親孝行者なんだ!」
「……」
「何の反応もしないな。流石にこの程度は予想が付いていたか」
「……ああ。そして
「そこまで分かっているのなら話は早いな。まあその牙と角を見れば猿でも分かるか」
「ッ……」
シリエスから改めて明言され、心愛は少し顔を顰めさせる。
その様子を満足気に見つめながらシリエスは続ける。
「お前も学園で会ったろ? あの喋る大鬼。ガイルって名前なんだがアレがお前の父親だ」
「しゃべるオーガ? 何それ」
「は?」
「そんなのボク知らないけど」
「いやちょっと待てよ。クソッ、アイツめ話が違うじゃねえか……」
ポカンと首を傾げる心愛にシリエスは舌打ちをする。だが、これに関しては悪いのはガイルでもシリエスでもなくここの事を心愛に伝えた涼介である。
本来の予定であれば、女子生徒の養分を吸い切り完全復活を果たしたガイルが派手に学園で暴れる筈であったのだが、その前に涼介がここを伝えた事で心愛はガイルに会う事なくシリエスと再会する羽目になったのだ。
尤も、一日遅れていたとして目にするガイルの姿はといえば絵良の胎から無理矢理産まされた挙句咲良に一瞬で達磨にされるという無様極まりない物になっていた訳だが。
「と、兎に角だ。俺様の予測ではお前はすぐに死ぬと思ってたんだが……まさかここまで頑丈に育ってたとはな。やはり俺様の血が良かったのか」
「違うね。ボクの
「直哉か。アイツも律儀な奴だ。自分が殺した相手の子供を育てるなんてな」
ケラケラと嗤う。
十三年前、彼女を最終的に殺したのが直哉であった。彼女は死ぬ直前に当時赤子であった心愛が置かれている場所を教え、半ば託した様な形となったのだ。
「お前がパパを語るな」
「お前のパパはガイルで、ママは俺様だ。子供は親を崇める物だろ? ほら、這いつくばって鳴けよ、「ママのオッパイが欲しいです~」ってよォ」
「嫌だね。だってパパから教えてもらったもん。「知らない人の言葉を信じちゃいけません」ってね。学校で習わなかったの? 習わなかったんだろうね。もしちゃんと学校に行ってたら殺人鬼なんてやってないだろうし、そんな事をしておきながら『白い殺人姫』だなんて、自分で"姫"なんて名乗らないよね」
クスクスと笑う事すらせず、ただ目を見つめたまま言い放つ心愛。
それが純朴故の無自覚の物か、はたまた意図した煽りかは分からない。一つ言える事は、今の心愛が彼女に対して遠慮する理由は何一つないという事だ。
そしてどうやら、その煽りはシリエスの冷静さを消し飛ばすには充分であった様で。
「ッ、殺す!!」
シリエスが魔装を身に纏い心愛に向けて突進する。それに対して心愛も魔装に変え、二つの拳が激しくぶつかり合う。凄まじい衝撃波が辺りを襲い、大小の岩々が吹き飛ばされる。
その力も速度もほぼ互角。やや心愛寄りといった所だろうか、シリエスの拳に付いている固有兵装の爪が一瞬で砕け散る。
「大鬼の力で前よりも強くなったみてェだな! もう人間の力じゃねえぞ!」
「ああそうだ。ボクは強くなった。それはきっと大鬼の血のせいなのかもしれないし、自分は人間じゃないのかもしれない──」
心愛の脳裏に浮かんだのは、部活対抗戦で戦った少女の顔。
魔法戦なら兎も角肉弾戦ならば誰にも負けないと自負していた心愛は、しかし咲良の鮮やかな技によって覚醒直後に敗北した。その後もどうやら規格外の事をやったらしいし、正直アレに比べれば自分など大した存在ではないのだろうと思えてくる。
恐らく今の自分が彼女に戦いを挑んだ所で勝てる道はない。自分は人間に負ける。そんな自分に大鬼の血が混じっているなどと言われた所で一体何の意味があるのだというのだ。同級生に負ける遺伝子に自分がうじうじと悩む程の価値があるのだろうか?
自分など、少し下駄をはいているだけのただの"女子生徒"に過ぎない。
それを理解した今、自分が目指すモノはただ一つ──
「──ボクは"ヒーロー"になる為にここに来たんだ!!」
「──なら俺を殺してみろよ、"ヒーロー"さんよォ!!」
──自分の
──────
───
─
最初に入った矢坂は首を飛ばされて死んだ。
その次に相原が身体を切り裂かれ、毒で苦しみながら死んだ。
茂木は両腕を切り飛ばされた後に心臓を突かれて死んだ。
広野は蹴り飛ばされ、壁に打ち付けられて失神した。
決して舐めていた訳ではない、寧ろ最大限の警戒をしていたと言えるだろう。
ただ単に、シリエスは彼らの手に負える存在ではなかったというだけの話なのだ。
「ハハハハハ!! 良いぞ、もっと踊れ!!」
「"往生跋扈"!」
その掛け声で、桃園が固有兵装である槍に炎を纏わせてシリエスに向かっていく。
しかし彼女の姿は既にボロボロであり、身体のあちらこちらから血を流している。それは既に致命的な量の毒が流し込まれている事を意味しているが、しかし彼女は毒が回りきる前にシリエスを倒す事を選択した。毒自体は魔力操作によってある程度回りを遅らせる事が出来るからだ。
「ハハ、ギア上げてけ! ファフニールゥ!!」
「くっ……はあああっ!!」
ガン、ガン、と槍と爪が打ち合わされる。
室内は炎に包まれ、周囲に散らばる隊員の死体が焼けてジュウジュウと音を立てる。
先に限界が来たのは桃園だった。
「かっ、はっ……」
「楽しかったぜぇ? お前との勝負。だが残念だったなァ、やっぱり俺の方が強い」
「そう、か……」
桃園の胸を爪が貫く。夥しい量の血が溢れ、それにシリエスが光悦とした表情を浮かべる。
「……ん? オイオイ、まだやる気かよ」
爪を引き抜こうとしたシリエスが、桃園が両手でそれを掴んでいる事に気付く。掌から血が流れるのも厭わず、彼女はシリエスを掴んで離さない。
当初、彼女はそれを単なる悪あがきだと判断した。他の隊員は全て死んだ今、他に出来る事など何もない……
「──やれ」
それが間違いだと分かったのは桃園が小さく呟き、その直後にこれまた小さな破裂音が響いた時だった。
「──は?」
「よくやっ、た……」
桃園の体から力が抜け、ズルリと地面に崩れ落ちる。それから少し遅れ、シリエスもその場に膝をつく。
両者の胸元には、心臓の位置に正確に孔が空いており。
「ッ……隊長……!!」
桃園の背後、炎に隠れる様にして、歯を食いしばった広野が銃を構えていた。
通常の銃では魔法師に対して有効打たり得ないが、科学技術の粋を集めて作られた七九式
「はあ、はあ……」
燃え盛る部屋の中、彼はよろよろと立ち上がる。
他の隊員と違い彼は蹴り飛ばされただけで毒は受けていなかった。それでも幾本も骨は折れているであろうが、それらは全て致命傷となり得ない。
彼は銃口を向けながらシリエスに近付く。
「……クハハ」
「!!」
刹那、声を出した彼女に彼は引き金にかけた指に力を込める。
何かしてくるのだろうと思われた彼女は、しかしただ言葉を紡ぐだけだった。
「燃えちまう前に右端の部屋に行け……後は好きにしろ」
「……」
シリエスの言葉が終わると同時に彼は引き金を引き、ほぼ同時に額に孔が空く。それから数発撃ち、彼女は完全に動かなくなった。ここに、不可能かと思われた任務は遂行されたのである──生存者は彼一人だけだったが。
そこからは、他の隊員のドッグタグを拾い上げ、館の中を軽く歩く。他の部屋に入ってみるが、そこに広がっていたのは何とも痛ましい光景であった。
骨と皮だけの様にされた裸の女性が大勢吊り下げられている部屋、腹を無理矢理裂かれている女性が並べられた部屋、肉体の破片が大量に散らばっている部屋……彼は吐き気を堪えるのに必死だった。
そして、最後の部屋──先程シリエスが指し示した右端の部屋に入る。
「──!? こ、れは……」
そこは手術室の様な場所だった。
薄暗くそれ程広くもない部屋。棚には謎の薬の様な物やメス、ハサミなどが置かれ、そして中央には手術台が設置されている。
そして、その上には血に塗れた赤子が眠っていた。生まれて間もないのであろう赤子の肌は白く、その顔立ちはどこか先程まで戦っていた女を思い出させる……
「……っ」
気付けば、彼は赤子の首に手をかけていた。
思えばおかしいのだ。これまで幾人もの魔法師が戦っては散っていったシリエスを室内とはいえたった五人で殺す事が出来た。
だがそれも──彼女が出産直後であったならば説明がつく。
目の前の子供はあの殺人鬼の子。ここで殺しておかなければ、将来人類により大きな厄災を呼び込む事になりかねない……
「ッあ、ああ……」
と、そこで赤子が眼を薄く開き泣き始める。
その声を聞いて漸く彼は我に返り、首にかけていた手を離す。
自分は一体何をしようとしていたのだろう。自分が今殺そうとしたのは一人の只の赤子なのだぞ。
たとえ母親が何千人殺していようとその子供にまで罪はない──罪とは過去であって未来ではないのだ。
そこでふと彼は脇に置かれている一冊の本に気付く。それにはシリエスがこの赤子を生むまでの経緯が書かれていた。
数年前に喋る大鬼と出会い、大鬼の特殊な生殖能力──人間と大鬼の間には大鬼しか生まれず、生まれた赤子を吸収する事で大鬼は更に強くなる──の事を知る。そこから彼女はその能力を自分にも使えないか、そして大鬼と人間の"ハーフ"に興味を持ち、実験を始める。
そこからはひたすらに残虐な出来事が綴られている。趣味の殺人を犯す合間に女性を攫い、大鬼の生殖行為に関する解析を行う。だが何度やっても何を調節しても生まれてくるのは大鬼ばかり。
そこで彼女はある一つの事に思い立つ──実験が失敗するのは、母体の強度が問題なのではないか、と。
「つまり、この子は……」
目の前の赤子は、その成功体。
"白い殺人姫"と大鬼の間に生まれたハーフ。悍ましい血筋の結晶体。
彼は暫く目を伏せた後、未だ泣きじゃくる赤子を抱き上げる。
きっとこの子供の人生は辛く苦しい物となるだろう。人間にも大鬼にも混じれない、中途半端な種族として。もしかすれば今ここで殺した方が楽なのかもしれない。
でも、それでも。この絶望の時代の終わりを象徴する光として、この絶望の中で生まれた光として、この子にはどうか幸せに生きて欲しい。
自分の血に惑わされず、絶望せず、どうか自分自身を見つけて生きて欲しい。
この子には、自分の心を愛して欲しい。
「君の名前は──」
咲良が来てなくてホッとしてる殺人姫さん
あとコメントで心愛の元ネタの元ネタキャラを当てている人がいてびっくりしました。
高評価お気に入り登録よろしくお願いします。
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