押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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何気ない日常

 ピピピピ、ピピピピ。

 

 部屋の中に鳴り響くアラーム音でいつも私は目を覚ます。

 重たい瞼を何とか持ち上げ、時計を見る。時刻は午前七時三十分、起床すべき時間である。私は上半身を持ち上げ、眠い目を擦りながら凝り固まった手を伸ばす。

 ちゅんちゅん、と雀の声が陽光と共にカーテンの隙間から入ってくる。のそりとベッドから降りた私はカーテンを開き、心地良い朝日を部屋に入れる。学園は本日も快晴、学習日和。

 

 そんな光を浴びて尚起きる気配がない同室の少女に近付き、声をかける。

 

「雲雀、朝ですよ」

「うーん……あと五分……」

「はぁ……」

 

 むにゃむにゃと呟く雲雀。幸せそうに寝ているが朝礼は八時二十分から、そろそろ起きないと間に合わない。

 仕方がないので私はいつもの魔法を使う。

 

「"偽物の濁流(デアローゼ)"」

「がぼぼぼぼっ!? どわーっ!! ……あ、おはようっす」

「おはよう」

 

 何か溺れる様な声を出しながら慌てて上体を起こす雲雀。彼女は自分の顔に手をやると、それがいつもの物であると認識する。

 この魔法は相手に「水をぶっかけられたと思わせる」魔法。勿論実際に水を出している訳ではなく幻覚の一種だ。雲雀が起きていない時にはいつもこれで無理矢理起こしている。

 

 

 

「やあ咲良に雲雀、おはよう」

「紅葉寮長、おはようっす!」

「おはよう、ございます」

 

 制服に着替え、荷物を持って階下に降りる。そこにはいつもの様に(・・・・・・)入口で寮生達を見送っている紅葉の姿があった。彼女は私達を見ると変わらぬ凛々しい顔で迎えてくれる。

 彼女は先の部活対抗戦で大鬼に操られた(・・・・・・・)魔法研究倶楽部(・・・・・・・)と死闘を演じた末に負けた(・・・・・・・・・・・・)。負けた直後は少し落ち込んでいたが、こんな事でへこたれていては十華族当主は務まらない。すぐに立ち直り、次は負けない様にと鍛錬を続けているらしい。

 

 そうして彼女の横を通り抜けて食堂に入る。

 睡蓮寮に備え付けられている食堂、そこは二十四時間開いており睡蓮寮の寮生ならば無料で使用する事が出来る。

 そこで私はパンとヨーグルトのセット、雲雀は納豆定食を注文する。

 

「う……よく食べれる、ね」

「えー、美味しいっすよ、これ」

 

 彼女が嬉々として混ぜる納豆。こちらの世界に生まれて十三年になるが、どうもあれだけは受け付けない。

 だって腐った豆じゃないか。いやまあチーズも腐った乳と言われればその通りなのだが…

 

「楓さんっ! おはようございます!」

銀杏(いちょう)、朝から元気ね……」

「もっちろん! 元気があたしの取柄ですから!」

 

 横で楓が少女に絡まれている。黒みがかった青髪の少女であり、楓と顔がよく似ているので恐らく姉妹なのだろう。

 そんな彼女に話しかけられた楓は若干うんざりした様な顔をしつつも嫌という訳ではなさそうだった。

 

 今日も睡蓮寮は平和である。

 

 

 授業が始まる。まずは魔法史だ。

 これは魔法に関する歴史について学ぶ授業である。

 

「今日は『原初の十一人』についてやっていくぞー。まず原初の十一人とは何か、若草、分かるか?」

「日本で最初に魔法を使える様になった方々の事です」

「そうだ。その中の一人が当時の内親王殿下、それ以外の十人が現在の十華族の初代当主となり我が国の発展に寄与したのだな。その中の一人、菊花彩芽氏はまだ御存命だ。さて、氏は現役時代に何と呼ばれていたか……藤堂、答えてみろ」

「えっ、あー……そうだ。『貴煌(きこう)の魔女』です」

「その通り。氏の魔力が輝く事からこう呼ばれている。氏は我が国の魔法師の保護・増加に積極的に動き、この学園や各地の孤児院の増加などに……」

 

 

 また、夢想鍛錬所での実習授業も行った。

 今日は少し特殊で、将来軍人となった時に起こり得る可能性のある特殊な状況を想定した実習であった。

 

「お前達は卒業後軍人になる訳だが、その際には魔法だけを使えればいいという訳ではない。実際の戦場では魔力切れで魔法が使えなくなる可能性もある。よって今日は魔法以外の攻撃手段の訓練を行う」

 

 そう言うと、教官は長机の上に置かれた拳銃(・・)を手に取る。

 

「これは七六式大型拳銃。44口径マグナム弾を八発装填出来る軍用拳銃だ。秋空、撃ってみろ」

「は、はいっす……うわあっ!?」

 

 制服のまま彼女が的に向けて撃ってみる。

 だが、その拳銃としては大型であるそれの反動は非常に大きく、引き金を引くと同時に反動で背後に倒れてしまう。

 

「普段から固有兵装で銃を扱う秋空でもこうなってしまう訳だ。しかし、お前達の主な敵となるであろう魔物相手に非魔力兵器で戦おうと思えばこれが最低ライン。死に物狂いで慣れてもらうぞ」

 

 

 

「こんにちはっす!」

「こんにちは」

「おお、咲良に雲雀。来たか」

「授業お疲れ様でござるよ」

 

 その日の授業が終わり、私達は部室へ向かう。

 扉を開けると、そこにはいつもの様に炉欄先輩と小冷先輩が出迎える──だが、その部屋は少し広くなっている。

 これは部室内のグッズ類が減っただとか、炉欄先輩の居住スペースが無くなったとかそういう訳ではない。今回の部活対抗戦で勝利した事によってより広い部屋が部室として宛がわれたのである。

 以前は八畳程度の小さな部屋だったのだが、今はその三倍程にまで大きくなっている。本棚や机も新調され、所狭しと積まれていた本やグッズは綺麗に整頓、炉欄先輩の寝具も以前は小さなソファーに丸まって寝ていたのが大きめのソファーベッドに足を伸ばして寝る事が出来る様になった。加えて炊事場も広くなり調理しやすくなった。

 

 因みに、優勝後炉欄先輩が紅葉の権限で睡蓮寮に入る案が出てきていた。それは、今回の事件によって櫻島家が事実上失脚した事によってその影響力が消滅したからだ。

 今回の事件は到底無視出来るものではなく、しかも先輩が観客の前で言い放ったが為に隠蔽も不可能であった。だからこそ警察当局が櫻島本家に捜査に入り、これを好機と見た櫻島家に敵愾心を抱いていた他の十華族も介入。

 そうして分かったのは、櫻島家が謎の反社会的勢力──通称"組織"、その"研究所"と繋がっていた事。つまり櫻島家は"研究所"陥落によって危機に陥った"博士"の指示を受け、ガイルを特殊な魔法で封入した荷物を学園に送付、絵良らを間接的に操った、という事である。

 結果としてこれに関わった多くの者が逮捕され、櫻島家には多大な罰が下される事になるだろう。また、学園に居辛くなった絵良らは自主的に退学する事となった。

 そして、今回の事件の解決に一役買った炉欄先輩はその功績を称えるという意味も込めて睡蓮寮に入れる案があった訳だが……彼女はそれを断った。どうせあと半年かそこらで卒業してしまうし、今更寮に入った所で馴染めないから、という理由かららしい。まあ、理解出来る理由である。

 

 今、棚の一角には優勝時に四人で撮った写真とトロフィーが飾られている。試合が終わった後色々とあったが、翌日に仕切り直してトロフィー授与が行われたのだ。

 

「お主ら、アレを見たか?」

「はい! 滅茶苦茶楽しみっす!」

「もうすぐ……ですね」

 

 私達に向けて炉欄先輩がウキウキしながら訊いてくる。

 アレ──学園の一角にある"アニマイト建設予定地"。白い立て板で覆われたその敷地にこれから日本最大級のアニマイトが建てられるのだ。それも、学園の潤沢な予算をつぎ込まれて最新技術を惜しみなく使われる為、完成予定は僅か一ヶ月後となっている。凄いを通り越して怖い。だが、これが"部活対抗戦で優勝する"という事なのだ。

 

「失礼しまーす」

「お? 何か用かの?」

「「あ」」

「二人共、知っておるのか?」

 

 と、そこで扉が開かれて一人の少女──今朝食堂で見た銀杏が入ってくる。

 

「あたしは睡蓮銀杏と言います! この度入部希望で来ました!」

「「「「にゅ、入部希望!!?」」」」

「え、何ですかその反応」

「いや……しかし、そうか。これが優勝するという事なのじゃな……」

 

 まさか入部希望者だとは夢にも思わず、皆で声を揃えて驚いてしまう。

 だが、よく考えてみれば特段おかしな事ではない。部活対抗戦であれだけ派手に暴れたのだ、千人以上いる学園の中に一人や二人くらい入部希望が居てもおかしくはない。

 しかし、そもそも部活への入部期限はとうに過ぎている。普通なら他の部に既に入っている筈なのだが……

 

「あたし、剣道部にも入ってるんですけど、ここの存在を知ってこっちにも入りたいなと思いまして!」

「なるほど、兼部っすか……」

 

 普通は一つの部活に集中するのだが、どうやら彼女は兼部という選択をとったらしい。校則的には問題ない行為である。

 

「で、入部はできますか!」

「そうじゃな……」

 

 貴重な部員が一人増える。本来なら即答したいのだろうが、敢えて炉欄先輩は一拍置く。

 部活対抗戦を見てここに来た──それはつまり、私や先輩の戦いを見て入部を決めたという事。だがここはあくまでも『サブカル同好会』なのだ。

 

「お主が好きなミラフィアは何じゃ?」

「ミ、ミラフィア?」

 

 それはある種の入部試験の様な物。いやまあ、態々ミラフィアである必要もないとは思うが……しかし、女児ならば大抵通ってきている道。自分が幼い頃に見ていた物を言ってくれれば及第点だろう。彼女は恐らく一回生、ならばドラフィア*1とかだろうか?

 だが、銀杏が少し考えた末に出した答えは私達の想像を凌駕する物であった。

 

「ハギュフィアですね」

「「「!!!!!???」」」

「──入部を歓迎しようぞ、銀杏。今日からワシらは仲間じゃ」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 回答を聞いた炉欄先輩は即座に彼女を部員と認め固い握手を交わす。

 ハギュフィアとは『ハギュして!ミラフィア』の略称である。そしてこれは何とシリーズ十五作目──今から135年前の作品なのである。突然振られてこれが出てくるという事は彼女は相当なミラフィア玄人という事になる。ハッキリ言ってサブカル同好会には最適な部類に入る。

 

 サブカル同好会は今、黄金期を迎えていた。

 

 

 

「あ、咲良ちゃんと雲雀ちゃん! 二人もラーメン?」

 

 夜になり、夕食を何にしようか迷っていた頃、私達は聞き覚えのある声に呼び止められる。

 見ると、『仲山らーめん』と書かれたラーメン屋の屋台に心愛達が座っていた。達、といったのは席に以前試合で戦った炎真陽流のメンバー三人も居たからである。

 

「咲良……とすると、あの時飛んできた剣の主か」

「あなたは……?」

「ああ、失礼した。私の名は黒田喜恵、炎真陽流天照学園支部の部長だ。こっちの二人は部員の雪柳梨花と鯱山桃花だ」

「「よろしく頼む」」

「よ、よろしくっす」

 

 流石は武術を学ぶ者達というべきか、皆がっしりと凛々しい印象を受ける。

 と、ふいに黒田が咲良の方を向き、心愛の頭を押さえながら言う。

 

「時に咲良殿、先日の試合では心愛と戦って頂いた事、誠に感謝する」

「ちょ、ちょっと師匠」

「……?」

「何を言っているのか、と思われるかもしれないが、咲良殿に叩きのめされるまでこの子は少し驕っていた所があった。だが不甲斐ない事に我々では心愛には勝てなくてな、だからこそ貴方が圧倒的な技量を見せつけて勝ってくれた事はこの子にとって一体これからどれ程の良い影響を与える事か」

「なるほど……」

 

 要するに、心愛の鼻っ柱をへし折ってくれてありがとう、そう彼女は言っているのだ。それに心愛は少し恥ずかしそうにするが、黒田はそんな彼女の頭を軽く小突く。

 

「武闘家の基本は力ではなく礼儀にある。努々それを忘れるでないといつも言っているだろう」

「そ、そうだった……」

 

 黒田の言葉にはっとさせられた心愛は、改めて咲良の目を見つめ、頭を深々と下げる。

 

「咲良ちゃん、ありがとう。あの時戦ってくれた事、それに……この前の事も」

「……ふふ、どういたしまして、です」

 

 その様子を見ていた黒田は柔和な笑みを浮かべていたが、すぐにキリリとした表情に戻し野菜を切っていた美玖の元に汁まで飲み干したラーメン鉢を差し出す。

 

「仲山殿、実に美味だった。心愛、梨花、桃花、行くぞ。長々と席を占領する訳にはいかん」

「美玖ちゃん、ごちそうさま! 咲良ちゃん、雲雀ちゃん、またね!」

「「ごちそうさまでした」」

「良いのよぉ。また来てねぇ」

 

 そう言うと、四人はその場から去っていった。

 その後私達もラーメンを食べ、睡蓮寮へと帰ったのだった。

 

 

 

──────

───

 

 

「また見てる、ですか」

「うわっ……咲良、か。ええ、そうよ。ここに涼介君が来るって私の勘が告げてるの」

「勘……?」

「そう、勘」

 

 深夜、学園某所。どうしても寝られなくてふらっと繰り出したそこで、私は草むらにコソコソと隠れている芽有の姿を見つける。

 そうしていつもの様に声をかけてみる。もうあんまり驚く事はなくなっていた。

 桜井涼介を観察する事、それが芽有の趣味。あの男のどこがいいのか私にはあまりよく分からないのだが、まあ他人の趣味に口を出すのは良くないので何も言わない事にする。それはそれとして彼女が涼介の位置を把握する方法にはドン引きしてしまったが。

 

「あ、来た! 静かにね、咲良」

「はあ……」

 

 少し待っていると、彼女の言った通り涼介が現れる。

 隣で静かに興奮する彼女を他所に私は彼をじっと見つめる。何度見ても私の好みではない。

 

 

「……あれ、もう一人来た」

「この気配、は……」

 

 と、そこにもう一つの影が現れる。

 その正体はこの学園の女子生徒──ただし、私もよく知っている顔。

 

「炉欄先輩? どうして……」

 

 どういう訳か、炉欄先輩がこの場に現れたのだ。そして涼介も逃げるとか隠れる訳でもなく、寧ろ両手を広げて彼女に向かっていく。

 確かに以前難波で会った時は親しそうにしていたが、まさか学園に侵入している事まで知っていたのか。

 驚く私を他所に、涼介と先輩が固い抱擁を交わす。以前も感じたが、明らかに他人の距離感ではない。

 

「あっ、やばっ」

「どうした、です? 芽有……」

「いや、そのー……」

 

 そこで芽有が何かを察した様な表情をして慌て始める。

 これから何か始まるのか、私は彼女の顔を見て更に二人の事を凝視する。

 

 二人は抱擁を交わし終わった後、軽い会話を始める。

 内容はといえば、健康は大丈夫か、とかいじめられていないか、など。態々聞くまでもない、他愛もない話。

 そんなのが十数分続き、ようやく別れる時が来た様だった。またもや炉欄先輩が「お腹を冷やさん様にな」などと言い、それに涼介が「そっちもね」などと返している。

 そろそろ終わりか。そうして私が若干張っていた緊張を解こうとした最中の事だった。

 

 二人が別れる直前、涼介が言ったその一言は、ものの見事に私の思考をフリーズさせたのだ。

 

 

 それは──

 

 

 

 

「──じゃあまたね、母さん(・・・)

*1
八世代前のシリーズ『ドラゴニュートミラフィア!』




くぅ~疲れましたw これにて(第二章)完結です!……っていうのは置いといて、次章からはもっと後味の良い終わり方になるようにプロットをしっかり固めます。
次回から新章に入りますが、章の構成を固めるのに時間が掛かりそうなのとリアルがいよいよシャレにならないくらい忙しくなりそうなので次話投稿までには少し間を置く事になると思います。なるべく早く投稿出来る様に頑張ります。
投稿無い間は作者の別作品でも読んでいてください(ダイマ)
因みに次章は咲良がめっちゃ"主人公"らしい活躍をします。

余りにもぽっと出過ぎる銀杏ちゃんは次の次の章に備えての布石です。

という訳で作者に活力を注ぐと思って高評価お気に入り登録よろしくお願いします。
高評価が増えれば増えるだけ筆が進みます


ちなみにキャラ紹介にある炉欄先輩の立ち絵の下腹部には皺があります

本のタイトルどっちがいい?

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