押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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"真祖"

「アリシア? 誰だそれは」

「お前が殺した……私の仲間の名前だ……ッ!」

 

 ガン、ギン、と剣を打ち合わせ、その度に魔力の混じった赤紫色の火花が散る。

 先程見せた斬撃も、奴にとっては牽制の一つに過ぎない。力は圧倒的にあちらが上。それと戦う為に剣を打ち合う度にエネルギーを地面に受け流している為僅か数秒で既に地面はガタガタだ。

 

 男は私が発した言葉に暫く首を傾げていたが、やがて私の持っていた剣を見て得心がいった様に言う。

 

「なるほど! アリシアとはあの忌々しい"勇者"と戦った時に殺した女僧侶か」

 

 その言葉に剣を握る力が強くなる。

 

「ともすると貴様の素性も分かったぞ。あの時後ろで何も出来ていなかった小さき者か。その剣は勇者の物だった筈だが、奴はどうした?」

「ッ……それは」

 

 パン。

 私が言いかけた時、一つの乾いた破裂音が鳴り、男が素知らぬ顔で首を捻る。放たれた銃弾は奴の背後にあった枝に命中する。

 男は無言のまま視線を発砲した者──震えながら銃を構える彩芽に向ける。

 

「っ、あっ、貴方、だ、誰なんですか! と、突然斬りかかってきて、それにその血も……!」

「妙な服を着ていた者達が使っていた石火矢だな。だが微量ながら魔力が纏われている……この世界は魔法を持たぬ者ばかりと思っていたが、どうやら違うらしいな」

「わ、私の質問に答えてください!」

「実に不遜だな、だがよかろう」

 

 そう言うと、男は両手を広げ芝居がかった様で言う。

 

「我が名はヴァリアント・デラーズ・フォン・クアラリッド。全ての吸血鬼の始祖である。小さき者よ跪け、両の手を合わせ首を差し出せ。この"真祖"たる我に吸血される事に感謝せよ」

「きゅ、吸血鬼……!? あ……」

 

 刹那、彼女の視界からヴァリアントが消え去り彼女の背後に現れる。

 そして手を肩に沿えて白い首筋に牙を立てようとした所を私が剣を振るい手を斬り落とす。ヴァリアントが一瞬頬を引き攣らせ距離を取る。斬り落とした筈の手は、瞬きの内に再生していた。

 私はその場にへたり込んだ彩芽を庇う様に剣と杖を構え言う。

 

「逃げて、ください」

「で、でも」

「いいから逃げて! 今ここより危ない場所はない、です!」

「う……ご、ごめんなさい!」

 

 そう言うと彼女は明治神宮の奥へと逃げていく。

 彼女を一人にするのは不安だが、少なくともここに居て私達の戦闘に巻き込まれる方が遥かに危険だ。真祖は彼女を気に掛けながら戦って勝てる相手ではない。

 双方が双方を睨み付ける。

 

「よくも邪魔をしてくれたな……」

「二度も、仲間の血は……吸わせない」

 

 そう啖呵を切る。

 かつてレインフォートで戦った時、私はまだ弱かった。奴の威圧で動けなくなる程度の力しか持っておらず、カケル達が居なければ死んでいただろう。

 今の私はあの時よりも強い。でも仲間はおらず、魔力も乏しい。

 

「ならばまずは貴様から殺してやろう。我がこの手で直々にな!」

「カケル、雲雀、私を守って……ッ!!」

 

 次の瞬間、甲高い金属音が鳴り響いた。

 

 

──────

 

 

「はあっ、はあっ……」

 

 先程の斬撃の被害を免れた森の中を駆け抜ける。

 後ろを振り向く事は出来なかった。先程から数えるのも嫌になる程の金属音と爆音が鳴り響いている。一体あそこで何が行われているのか、私には想像も及ばない。

 握っている銃は未だ発砲の熱を残している。その温もりが途方もなく心細い。

 

 何分走ったか分からない、兎も角私の視線の先に開けた場所が現れた。

 私の心に僅かな安堵の灯がともる。後から思えばどうして安心していたのか分からないが、この時の私は木々の間という閉鎖空間から兎に角出たかったのだろう。

 

「ここまで、来れば…………え」

 

 そうして森から出た私はその光景(・・・・)を見て膝から崩れ落ちる。

 

 そこにあったのは死骸の山だった。

 身体を綺麗に両断された兵士、首を飛ばされた警官、首の孔以外は傷一つ無い女性。その悉くがピクリとも動かない。

 恐らくここに逃げ込んだ人々がアイツに襲われ、殺されたのだろう。その生気のない白い肌が未来の自分を予見させるようで、お腹から酸っぱい物がこみあげてくる。

 

「おえっ、うぇっ……けほっ……」

 

 びちゃびちゃと胃液を垂れ流す。

 ひとしきり吐いた後、今度は涙がぽろぽろと零れてくる。

 

「うう……どうして、こんな目に……」

 

 普通に暮らしていただけなのに、突然攫われて、乗せられた飛行機は墜落して、土地勘もない様な場所で何も分からないまま化け物だらけの街を逃げ回って……

 沢山の人が死んでいるのを見た。獰猛な怪物に食い荒らされるのを何度も見せられた。必死に私達を守ろうとしてくれた警官さんの身体が握り潰されるのを見た。目の前で人が怪鳥に連れ去られるのを見た。

 

「まま……ぱぱ……」

 

 もういやだ。もうかえりたい。

 

「まじょさま……」

 

 私は私を助けてくれた恩人の名前を呼ぶ──

 

 

「ぐっ……」

「え……そ、そんな……」

 

 私の元に何か柔らかい物が飛んできたかと思えば、それはボロボロになった魔女様だった。

 ここまで私に圧倒的な強さを見せつけてきた安堵の結晶が、今や生傷塗れ、右腕に至っては斬り落とされてドクドクと血が零れ落ちている。

 

「ただの無徴種がここまで粘った事は誉めてやろう。だが所詮はこの程度か」

 

 コツ、コツ、と真祖が歩いてくる。

 その身体に傷はないが服には幾つもの破れた痕が残っている。恐らく魔女様も相手に同じくらい傷を与えたのだろうが回復されてしまったのだろう。

 

 ああ、もう駄目だ。私よりも遥かに強い魔女様が勝てない相手に私が勝てる筈がない。相手はただの斬撃で森とビルを斬り落とし、意識外からの銃撃も容易く避けてしまうような化け物なのだ。

 私は地面に置き、両手を合わせて首を差し出す。

 

「お願い、します……私の血はどれだけ吸っても構いませんから、魔女様だけは助けて下さい……」

「あ、やめ……」

「ほう。その童と違って殊勝な心掛けであるな」

 

 もうこうするしかない。

 そもそも元々はあの書店で消えていた命。彼女に助けられたからこうして生きながらえただけで、その恩は何処かで返さなければならない。

 それに東京がここまで滅茶苦茶になっているのだ。仮にこの窮地を乗り越えられたとしてもこれまで通りの生活を送る事など出来ない。ならばいっその事ここで死んでしまった方がいいのではないだろうか?

 

 そんな破滅的思考で私は彼に首を差し出した。

 

「だが少し遅かったな。お前は逃げ出す前にそうしておくべきだった」

「うぇ……?」

「我は決めたのだ。この忌々しくも技量のある無徴種を我が眷属に加えるとな」

 

 そんな言葉に顔を上げるともうそこに彼はおらず、慌てて振り返るとそこではぐったりした魔女様を抱えている彼の姿があった。

 彼は彼女のケープを取り払い、その白い首筋を露わにする。彼がこれから何をしようとしているのかは明白だった。

 

「そ、そんな、やめて」

「名も知らぬ無徴種よ、誇るといい。貴様はこの世界で初の我が眷属となるのだ……!」

「やめて!!」

 

 パン、パン、と銃を乱射する。それは半数が明後日の方向に飛んでいき、残りは命中するも表皮に弾かれる。

 きちんと魔力は通している筈なのに、それでも奴には通じない。やがて銃弾が切れ、私はやむなく近付いて引き剥がそうとする。だがピクリとも動かない。

 

 そうして彼が首筋に牙を突き立て、血を吸う──

 

「──ぐえッ!? うっ、な、なんだこの血は!?」

 

 だが、一秒も経たないうちに彼は顔を顰めて首から口を離す。

 

「きッ、貴様! 一体自らに何を混ぜ──ッ!?」

 

 彼がその血の不味さに思わず彼女の顔に目を向け、その右目に紅い魔法陣が浮かび上がっているのに気付いた時にはもう遅かった。

 

「"ヘヴィー・ターボショックレーザー"」

「かッ」

 

 彼女のその呟きと共に右目から青白いレーザーが放たれ彼の首を一閃する。

 滑り落ちていく首、燃え尽きる右目。それで緩んだ拘束から逃れた彼女は左手に握ったままだった剣を逆手に持ち替え腰に構える。

 切断された首が接合するまで僅か1秒にも満たない。だが、今の彼女にはそれだけで充分だ。

 

 刹那、目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し彼の身体を背後にあった木々ごと賽の目状に分解する。 

 これで回復への時間が伸びた。彼女はそのまま自身の長い髪を切り落とし、それは紫色の炎となって消え発生した火花が彼女の手元に集まり、どす黒いナイフを模る。

 

「"破魂の渦(グリア・レウ・ディラーズ)"」

 

 彼女は賽の目の肉体の中から心臓を発見し、その黒いナイフを突き立てる。

 次に自らの左足を斬り落とし、再び紫色の炎に変える。そして刀を収納、放心状態の私を抱き寄せて呟いた。

 

 

「──"テレポート"」




【今回咲良が使った技解説】
ヘヴィー・ターボショックレーザー
・以前紹介した使い魔のスズメが装備している魔法。無論咲良も使える。
自らの瞳に魔法陣を刻んでおり、いざという時にそれを発動させる事で瞳そのものを魔力へと変換し高威力のレーザーを発射出来る。一度切りの初見殺し魔法。

突然の賽の目切り
・咲良は意図的に身体のリミッターを外し身体能力を120%まで引き上げる事が出来る。無論代償も大きい為そうそう使う技ではない。試合で使ったら心愛も芽有も一撃で死んでいた。

斬り落とした身体が紫色の炎になった
・自身の身体の一部を切り離し、それを魔力へと変換する苦肉の策。魔力が尽きた時にしかやらない。これを想定しているので咲良の髪はやたら長い。

破魂の渦(グリア・レウ・ディラーズ)
・闇属性魔法。魂を破壊する。無限に回復してくる様な相手にはこういう魔法がよく効く。無限があるならわざわざこんな事をしなくてもショックカノンで蒸発させれば死ぬので滅多に使わない。

テレポート
・普段自転車感覚で使っているので分かり辛いが非常に高等な魔法であり、消費魔力も馬鹿みたいに多い。咲良が普段から貯めている全ての魔力を消費しても東京を出る事すら叶わない。


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1/19にてインテックス大阪で行われる関西コミティアにて本作の一章部分を再構成し本にした物を出します。
サークル名は『近畿大学漫画研究会Nuclear!』でスペースはC-36です。
表紙はこれです。よろしくお願いします。

【挿絵表示】

本のタイトルどっちがいい?

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