押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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絶対防衛線

「どうだった? あーしらの戦いっぷりは」

「凄かった、です……これなら、守り切れそう、ですね」

「えへへ、ありがと」

 

 魔物との戦いはすぐに終わった。無論私達の勝利で、だ。

 流石に専用の訓練を受けている軍人である、銃が通じるのであれば魔物に負ける道理はない。この様子ならば真祖が来たり全方位から一度に多くの魔物が襲撃したりでもしない限りは大丈夫だろう。

 

 さて、戦闘が一段落ついた所で私達は改めて姫星に皇居内を案内してもらっている。私の時代では皇居内部なんて絶対に入る事が出来ないので新鮮だ。

 しかし、この時代でも確か通常は入る事が出来なかった筈、よく避難場所として使う事が出来たなといった事を訊くと、彼女は言った。

 

「この事件が始まった時にてんのーへーかが避難場所としてかいほーする様に指示したんだって」

 

 東京に魔物が溢れ出した時、郊外の人間は東京から離れる事が出来たが都心に住む大多数の人間は混乱と魔物に阻まれて逃げ出す事が出来なかった。そして、緊急出動した自衛隊も武器が通じない相手に四方から攻められれば為す術なく倒されていく。

 そんな状況を憂いた現在の帝が皇居を避難所として開放したのである。皇居は元々江戸城であり、一応籠城する事も考えられた設計になっている。魔物は基本的に本能に沿った動きしかしないので守るのは簡単だった。

 

 今ここに居るのは民間人3000人弱と自衛隊員200人弱。皇居の建物を開放し、空き地にテントを張る事で何とか収容している状況だ。

 

「でも、食べ物とかってどうしてるんですか? 何千人もいたらすぐに無くなっちゃいそうですけど……」

「それなら大丈夫だよ。なんなら今食べる?」

「え?」

 

 彩芽がポカンとしていると、姫星は先程と同じ様にパチンと指を鳴らす。すると空中に数枚のビスケットが現れ私達の手元にポトリと落ちる。

 恐る恐る口にしてみる。パサパサで口の水分が全て消えていくしお世辞にも美味くはないが空腹の今にはありがたい。

 

「こんな風に食べ物を出せるんだ。そのビスケットはあんまり美味しくないけど自衛隊の人達が良い感じに料理してくれるからご飯の時間は楽しみにしていーよ」

「へ、へえ……魔法って凄いですね」

「全員が、こんな事を出来る訳ではない、です……」

 

 というか、モノクルやら手袋やらといった雑貨から今の様な食料品、果ては銃器まで投影できるとなるとかなり強力な部類の魔法師だろう。私もやろうと思えばできるが、こういった無から有を生み出す類の魔法はかなりの魔力を消費してしまう。

 

「何か考え込んでいるな。姫星殿の魔術についての考察か?」

「乃木さん……はい。彼女の魔力量は大丈夫、です?」

 

 そこに乃木が現れたので私は気になっていた事を訊く。

 皇居の防衛は彼女頼り、もし彼女の魔力が尽きればすぐにままならなくなってしまうだろう。

 

「大丈夫だ……とも言い切れん。現状の魔力量は当初の半分程度、しかし補充される速度が非常に少ないのだ。このままではあと数日で尽きてしまうだろう。私は神として未熟者、魔術については詳しくないのだ」

「なるほど……」

 

 どうやら彼は"肌から魔素を吸収し体内の魔力回路で魔力へと変換する"という機構を知らないらしい。鳥高が当然の様に語っていたので神ならば知っている物だと思っていたのだが……道理で姫星の魔装が露出のろの字も無い様な軍服だった訳だ。

 私は彼に魔力の効率的な補充方法を教えるが、それに彼は渋い顔をした。

 

「ううむ……しかし、年頃の乙女が無造作に肌を見せるのは……」

 

 彼は女性の社会進出が殆どなされていなかった時代の人間だ、やはりそういった事には抵抗があるのだろう。

 だが、今はそんな事を言っている場合ではない。

 

「背に腹は代えられない、でしょう。姫星、さん」

「なにー?」

「ヘソを出す、です」

「へ?」

「ヘソを出す、です」

「え、なんで?」

「あー、その魔法を発動させる為に必要な魔力を作るには肌から魔素を吸収してそれを体内で魔力に変える必要があるんですよ。で、特に吸収効率が高いのがヘソの辺りなんです。っていうか私も出さないと……」

 

 私の言いたい事を彩芽が代弁してくれた。

 いそいそと制服の一番下のポケットを外し始める彩芽を見て姫星は得心がいったような表情になる。

 

「なるほど! 分かった、あーしもヘソ出すよ」

「むう……」

「あれ? でも魔女ちは出さなくて大丈夫なん?」

 

 姫星がシャツのボタンを外していくのに顔を顰める乃木。

 その傍らで彼女は私の腹回りを見る。

 

「私は、魔力が回復しない体質、ですので」

「え、じゃあ使い切ったらどうするん?」

「彩芽から貰う、です」

「へー、そんな事出来るんだ。どうやるん?」

「それは……」

 

 彼女の無邪気な質問に私が答えようとした時、脳内に真祖戦後のアレ(キス)を思い出してしまい声が詰まる。隣を見ると彩芽の顔も紅くなっており、同じ事を思い出した様だ。

 

「そ、そんな事よりも聞きたい事があるんですけど!」

「彩ちが? いーよ、何でもきーて」

 

 その恥ずかしさを誤魔化す様に彼女が話す。

 

「き、姫星(きらら)ちゃんは何でそんなに戦えるんですか? とっても明るいし、ふとした時に諦めたくなる事とかってなかったんですか……?」

 

 誤魔化しと本音が半分ずつ、そんな雰囲気の感じる問いだった。

 そういえば彼女は真祖との戦いの終盤でも諦めている様子があった。いやまあアレ相手に魔力覚えたての人間が抵抗しろと言うのも酷な話ではあるのだが。

 それに対して姫星はあっけらかんと言う。

 

「あーしには家族もダチもいるからね。戦わなきゃ守れないじゃん」

「それは……そうですけど」

「丁度いいし、あーしの家族紹介するよ。ついてきて」

 

 彩芽が何か言う前に姫星は足早に歩きだす。

 彼女の家族は京都に居ると言っていた。そして関西にダンジョンは無く、彩芽が諦めても死ぬのは自分だけ。それに対してここに家族の居る姫星は自分が諦めればここに居る全員が死ぬのだ。背負う責任が違い過ぎるのだから戦いへの価値観に差があってもおかしくはない。それに気付いた彩芽は口を閉ざして彼女の後を追う。

 それにしても、姫星は幸運な人間だ。こんな地獄の渦中に居て家族も友人も生きているのだから──

 

 

「紹介するね、あーしの家族とダチ! なんかずっと寝てるんだけど、そのうち起きると思うよ」

 

──結果から言えば、彼女の言った人物は確かに生きていた。

 

「の、乃木さん……これって……」

「ご両人、何も言わないでもらいたい。今姫星殿が戦えなくなればどうなるか理解出来る筈だ……戦場ではよくある話なのだ、こういった物は」

 

 生きているだけ(・・)

 案内されたのは『重傷者治療室』という札が下げられた部屋。だが治療室とは名ばかりで実際には『最早治療の施しようがない人間を集めている』だけの空間だ。

 下半身が丸ごと嚙み千切られている者、四肢が捥がれている者、身体に巨大な裂傷が走っている者──どれもこれも、死んでいないだけでいつ死んでもおかしくない者ばかり。巻き付けられた包帯は深紅に染まり、床には足の踏み場もない程に血がたまっている。

 

「私の権能では医療器具を出す事が出来ない。限りある治療資源を効果的に使うにはこの様な者達を見捨てる他ないのだ」

 

 それは将官らしい考え方だった。否、医療現場だってそうだ。

 トリアージ──手の施しようがない人間よりもまず生き残る可能性の高い人間を治療する。ここに集められた者達は前者だというだけの事だ。

 

「この人がママ、こっちがパパ、こっちが弟の琥珀で……」

 

 私達が絶句している中、姫星はその中の数人に近付いて"紹介"してくる。事無さげにしているのは演技ではなく、そう思い込んでいるだけだろう。

 乃木が先程言った様に、これは兵士によく見られる症状──PTSDだ。行き過ぎた現実逃避によって彼女はまだ戦う事が出来ている。もし現実を知れば彼女は……考えない様にしておこう。

 

「魔女様……魔女様なら何とか、ならないんですか……!?」

「……」

 

 縋る様な目を彩芽が向けてくる。

 手段がない訳ではない。でもそれをすれば私の魔力は完全に尽きてしまうだろう。彩芽の魔力だってそうすぐに回復する訳でもないし、この先の事を考えれば──

 

 

──いや、何をウジウジと言っているのだ、私は。今は考えている暇などないだろう……!!

 

「"ラージヒール"」

 

 私がそう言うと、部屋全体が淡い光に包まれる。

 かつて学園で使った程の効果はない。あのレベルの事をしようと思えば私と彩芽、姫星の魔力を全てかき集めても不可能だ。

 

「これは……!?」

 

 乃木が目を見開く。

 部屋の中に居た負傷者の傷が塞がっていく。失われていた血色が元に戻り、止まっていた肺が動き出す。

 傷をある程度塞ぎ、血を作り出す。ただそれだけの事で応急処置に過ぎない。でもこれで少なくともすぐに死ぬ、なんて事はなくなるだろう。あと一週間は持つ筈であり、それだけ持てば充分だ。

 

「っ……」

「魔女様!」

 

 そして、たったそれだけの事で私に残っていた魔力は全て消え去った。ふらふらと倒れる私を彩芽が抱えてくれる。

 

「なんかあったかい……魔女ち、何したの? って、だいじょぶ?」

「ちょっとしたおまじない、です……彩芽、魔力をお願いする、です……」

「分かりました! ん!」

「ん!?」

 

 私の言葉で彼女が私の両手と繋ぎ、同時に唇も重ねる。なんで?

 

「えっ……な、なにしてるん」

「なっ、なんだぁっ」

 

 それに姫星と乃木が驚愕する。当然だ、唐突に女二人がキスしだしたのだから。

 両手と口、三方向から魔力が流れ込んでくる。以前手を繋いで行った魔力供給よりも確かに供給速度は早い。それを狙ったのだろうが……いや、本当に狙ったのだろうか……?

 

 そんな私達を見て、乃木が呟く。

 

「こ、これも一種の衆道なのか……?」

 

 違う、いや違わないのか?

 どうでもいいけど彩芽、恥ずかしいからやめてくれ。せめて誰も居ないところで……




本の現物が届きました。普通に良い出来だったので当日をお楽しみに

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1/19にてインテックス大阪で行われる関西コミティアにて本作の一章部分を再構成し本にした物を出します。
サークル名は『近畿大学漫画研究会Nuclear!』でスペースはC-36です。
表紙はこれです。よろしくお願いします。

【挿絵表示】


5…10秒で終わるので高評価お気に入り登録よろしくお願いします。

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