押してダメならぶっとばせ!(旧題:バッドエンド多めの魔装ハーレム物に最つよ魔女を登場させて力尽くでハッピーエンドにしていく話)   作:デュアン

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皇居温泉

「グゥ……ッ」

 

 時は深夜、場所は東京の一角。廃墟となった中層ビルの間で一人の男が苦悶する。

 男の名はヴァリアント・デラーズ・フォン・クアラリッド。レインフォートに存在する全ての吸血鬼の始祖──即ち"真祖"である。

 そんな彼は先日謎の魔女(咲良)と戦闘し、彼女を戦闘不能にまで追い込んだものの彼自身も魂に大きなダメージを喰らってしまったのだ。加えて直前に飲んだ彼女の血はこの世の物とは思えない程に不味く、精神にもダメージを与えていた。

 

「下等生物め……!」

 

 ビキリ、と彼が掴んだビル全体にヒビが入り粉々に砕け散る。

 

「"魂癒(グリア・フィリーズ)"……チッ」

 

 彼が憎悪に満ちた顔でそう呟く。

 それは魂を治癒する魔法。真祖として数万の刻を過ごしてきた彼ならば自らの魂を知覚し治癒する事など容易い──筈なのだが、どうも回復が鈍い。

 一度の魔法では治癒しきる事が出来ない、それ程に咲良の与えた傷は深かった。恐らく完全回復までにかかる時間は、およそ六日といった所だろうか。

 

「この我にここまでの傷を……許さん、許さんぞ……!!」

 

 彼は復讐を固く誓うのだった。

 

 

──────

───

 

 

「お二人はこの部屋をお使いください。明日の朝の焚き出しは貴女方は0730から始まりますので、遅れない様にお願いします。それでは」

 

 そう言って、私達をここまで案内した自衛官は出ていった。

 ここは宮内庁舎の一角にある空き部屋。元々色々と雑多に詰め込まれていた倉庫だったらしいが、私達が来たという事でわざわざ空けてくれたらしい。

 五、六畳程度の部屋に段ボールを積み重ねただけの簡易ベッドが二つ。後は小さな古めかしいクローゼットと机があるのみ。以前のホテルと比べれば何とも地味な部屋だが、ここにはあそこになかった"安全"がある。

 

 魔女様が用意された寝間着に着替えている中、私は渡された書類を読む。

 ここでのルールや皇居内の案内図。ルールとしては犯罪行為は犯さない、夜は原則出歩かない、食事・風呂等は決められた時間内に行う、自衛隊員の指示には従うなど常識的な物。案内図は恐らくここの職員達が急造したのであろう、自衛隊の本部や仮設トイレ、風呂などの位置が記されている。

 夕飯はもう食べた、次は風呂だ。私達に割り振られたのは2330-2400の一番最後のグループ。時計は11時20分を示している。そろそろ出発してもいい頃だろう。

 

「ほら、彩芽も着替える、です」

「あ、はい」

 

 魔女様に急かされて私も着替える。

 そして支給されたタオルを持って仮設風呂へと向かう。

 

 自衛隊が保有している野外入浴セット2型、それを本丸跡に二つ設置しそれぞれ男用、女用としている。天幕が張られているのでプライバシーも安心だ。

 昔テレビで被災地で使われているのは見た事があったけれど、まさか自分が使う機会が訪れるとは思っていなかった。

 

「脱衣籠まである……意外と親切設計ですね、これ」

「そう、ですね」

 

 「皇居の湯」と書かれた暖簾をくぐり、用意された脱衣所で服を脱ぎ脱衣籠に入れていよいよ風呂とご対面だ。

 四角い枠にブルーシートを固定した様な浴槽。足元には緑色のビニールシートが敷かれ、幾つかのシャワースタンドも設置されている。ボイラーやポンプが剥き出しだが、それもまた味という物だろう。

 因みに私達の他に人はいない。未だに魔女様の手足は奇形のまま、民間人にこれが見られればどうなるか分からないとして態々配慮して最後のグループにしてくれたのだ。

 

 先に身体の汚れを落とす。魔女様の右手は指が四本になってしまっているが平然としている。使い辛くないのだろうか?

 そうして洗い終わり、ちゃぷんと湯舟に浸かる。

 

「「はああ~……」」

 

 私達は同時に同じような息を漏らす。

 この前のホテルではシャワーのみだったし、出てくるのは冷水だった。温かい湯に浸かるのは実に四日ぶり。ダメだ、気持ちよすぎる。寝ちゃいそう。

 

「はふう……」

「寝てはダメ、ですよ」

「わ、分かってますよぉー……ふう~……」

 

 魔女様の諫言もこの状況では馬耳東風。ズルズルと意識が湯の底へと沈んでいく──

 

 

「お? 二人早いねー」

 

──聞きなれた声がした。

 

「姫星さん、と春子殿下……」

「……うぇ!? はるがぼぼぼぼ」

 

 それに対する魔女様の言葉で私の意識が一気に覚醒する。

 バシャア、と派手な音を立てて顔が水中にダイブしてしまった物だから一瞬溺れてしまい、藻掻く私を魔女様が引き上げる。

 

「だ、だいじょぶ?」

「大丈夫ですか……?」

「けほっ、けほっ、だ、大丈夫です。そんなのより何でお二人がここに?」

 

 そこに立っていたのは私を心配そうに見下ろす姫星と春子内親王殿下。

 姫星は兎も角、殿下の方は普通に専用の風呂があるのではないか、そう訊くと彼女は言う。

 

「私がお願いしたのです。戦って下さっている姫星さんと助けて下さったお二人とじっくりお話をしたいと。それに今東京で一番安全な場所はここでしょう?」

「た、確かに……」

 

 魔物に対しての一番の戦力は魔法使いであり、ここにはそれが二人も揃っているのだ。姫星と魔女様は当然の事ながら、一応私も戦えるし……うん。

 という訳で、今この仮設浴槽には私、魔女様、姫星に内親王殿下という何とも凄い面子が揃ってしまったのである。先程までのリラックスは何処へやら、一気に私の体はガチガチに強張ってしまった。

 

「二人がはるちを助けてくれたんだってねー。あーしからも言っとくよ、ありがと!」

「は、はるち……」

 

 満面の笑みで何だかとっても不遜なあだ名で呼ぶ姫星。

 殿下はといえば『はるち』と呼ばれた時からぽかんとしている。まずい。

 

「はるち……」

「あ……き、姫星ちゃん、謝った方が……」

「良い……呼び方ですね!」

「え」

 

 だが、殿下の反応は私が想像したのとは正反対であり、彼女は目を輝かせて私達へと言う。

 

「魔女さんに彩芽さん、これからは私の事を『はるち』と呼んでいただいて構いませんよ」

「い、いやあ……そんな事は」

「はるち」

「魔女様ぁ!?」

 

 私が戸惑っている隣で魔女様が事無さげに呼ぶ。畏れ知らず過ぎないか?

 そうして彼女が言ってしまったのだから殿下の目がこちらに向く。

 

「……呼んで下さらないのですか?」

「うう……は、はるち……」

「ふふふっ! 私、嬉しいです」

 

 まあ、彼女の気持ちも分からない事はない。要するに"身分の差から対等な友達が出来なかったからそういったあだ名をつけられるのが嬉しい"とかそういう所だろう。よく漫画とかで見るやつ!

 自分が読者として見ている時はじれったさを感じていたが、いざ当事者になってみると躊躇うキャラの気持ちが痛い程分かる。だって滅茶苦茶緊張するもん。取り敢えず気持ちを落ち着かせる為に魔女様の腕にしがみついておく。

 

 さて、そんな挨拶も終わった所で今度は殿下が訊いてくる。

 

「お二人はどこで魔法を身に着けたのですか?」

「確かにあーしも気になる。はるちから聞いたけど、凄い強いんだってね」

「私は逃げ回っていた所を魔女様に助けられて、それから魔力の使い方を学んだんですけど……」

 

 私はそう言うと魔女様の顔を見る。

 そういえば私も彼女が何故ここまで強いのかを知らないのだ。これまではそんな事を話す余裕もあまり無かったから気にしてこなかったが、よく考えてみれば彼女は色々と詳しすぎる。だって、この世界がおかしくなったのはほんの四日前だというのに。

 

「……これは、秘密にしておいて欲しい、ですが」

 

 彼女はそう前置きして話し始める。

 曰く、彼女はこことは違う世界──即ち、異世界の出身であるのだと。そこでは魔法は当たり前に存在し、今の日本の様に限られた人物しか扱えない技術などではない。

 そして今東京を襲っている魔物もその異世界に居た物と酷似しており、だからこそその対処法も知っているのだという。

 

 一通り聞き終えた時、私達は呆然とするしかなく、しかしどこか納得してしまう自分も居た。

 よく漫画やラノベである異世界、そこ出身ならばこれだけ強いのにも納得がいくのだ。

 

 だが、そうだとして私にはとあるモヤモヤが胸中に渦巻いていた。

 

「この事件を収める方法は知らないのですか?」

「それは……分からない、です。すみません」

「そう、ですか……」

 

 殿下が顔を曇らせる。

 

「魔女ちって異世界でも強い方だったん?」

 

 一瞬の沈んだ雰囲気を消す為に姫星が訊く。

 それに魔女様は少し声を詰まらせ、答える。

 

「……ええ、まあ」

「凄いですね……その異世界の事をもっとよく教えていただけませんか?」

「いい、ですよ」

 

 そこからの彼女の話は驚く物ばかりだった。

 異世界の名は『レインフォート』というらしい。そもそも世界の名前ってどういう事だとも思ったが、どうやら世界神という存在がいるらしく、その名前がレインフォートである為にそう呼ばれている様だ。

 そこには人間と魔族と神が居て、魔族の王──魔王を倒す為に神から選ばれた人間、勇者が居る。海底に佇むリゾート都市、高層ビルを優に超える高さの木々が生い茂る森、空に浮かぶ大陸……普通なら物語だと一蹴してしまうだろうが、魔女様の持つ力と今の状況が信憑性を深めていた。

 そういえば、真祖と戦った時に奴は魔女様が持つ剣を『勇者の物』だと言っていた。彼女自身が勇者だったのか、それともその仲間で受け継いだだけなのか……まあ、それはそのうち聞く事にしよう。

 

 そうして風呂から上がり、私達は二人と別れて部屋への帰路につく。

 空は未だ分厚い雲が覆い、薄紅い霧が空気中を漂っている。吹く風は痛い程冷たく、火照る身体を容赦なく冷やしてくる。

 

 部屋に戻ると、彼女はすぐにベッドに倒れ込み寝息を立て始めた。

 彼女は私と出会ってからずっと緊張感を保ってきた。結局昨日だって眠れていないのだしこうなるのも仕方がない。

 

「……? 何、この音……」

 

 ズン、ズン。僅かだが腹に響く様な重低音がする。

 私は眠っている魔女様を起こさない様にそっと部屋を出て音のする方向が見える窓の元へ行く。

 

「ううん、見えない……そうだ」

 

 今は夜で月明りも人工灯も無く、しかも霧で大気が澱んでいる。そんな状態で遠方を見ろというのも無理な話だ。だが、私はそれを可能とする手段を持っている。

 私は目元に魔力を集中させるイメージを浮かべる。するとこれまでほぼ何も見えなかった視界にぼんやりと物の輪郭が浮かび上がってくる。

 

「……海?」

 

 音がする方向は、海。東京湾の方で僅かだが光が見える。何かが飛び交っている様にも見える。

 東京湾で何かが起きている。私は一階に行き、そこに居た自衛官にその事を伝える。自衛官は「この事は中隊長に伝えておく」とだけ言った。私の言葉はあまり信じてなさそうだった。恐らくあれが聞こえたのは私の身体能力が魔力で向上しているからなのだろう。

 こればかりはもう言っても仕方がない。姫星ちゃんなら分かるかもしれないが、生憎夜は基本許可なく出歩いてはならないのだ。目の前の自衛官にも「もう寝なさい」と言われてしまったし、私は渋々部屋に戻りベッドに寝転がった。

 何やかんやで今日も疲れていたようで、布団に包まれると途端に眠気が襲ってくる。瞼の重量に逆らわず意識を沈めていく最中、私は風呂で抱いた違和感について考えていた。

 

 魔女様が異世界出身であるというは事実だろう。作り話にしては実感がこもりすぎていたし、何より真祖の事もある。彼女が奴と一度戦ったのは確実に本当なのだ。

 だが、それはそれとして彼女は何かを隠している。

 私が京都の家族や友人を心配していた時、彼女は「京都なら大丈夫。この災害は東京、群馬、北海道、熊本で起きている」と言っていた。また、彼女は銃の使い方も知っていた。風呂での話を聞く限り、レインフォートに銃など存在しない筈なのに。

 極め付けは、姫星に「誰と契約しているのか」と訊かれた時の回答。彼女は「関西の山の神」と答えていた。でもそんな話は一切していなかったし、誤魔化すにしても随分と具体的だ。

 

 これらから考えられるのは、彼女は──

 

 

「……まあ、何にせよ魔女様は私の恩人に違いないですから」

 

 そう呟き、私の意識は闇に沈んだ。




時代が時代なら不敬罪で斬首ゾ

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1/19にてインテックス大阪で行われる関西コミティアにて本作の一章部分を再構成し本にした物を出します。
サークル名は『近畿大学漫画研究会Nuclear!』でスペースはC-36です。
表紙はこれです。よろしくお願いします。

【挿絵表示】


5…10秒で終わるので高評価お気に入り登録よろしくお願いします。

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